マナの作戦概要を聞いた後、サイト達は一度部屋へと戻った。
作戦の中身は極めて
厄者を倒して封印する、たったそれだけ。
しかし、ただそれだけの作戦でも危険度は高い。下手をすれば命を落とす危険性もある。
厄者はそれだけ、恐ろしい存在なのだから。
その為のメンバー分けも既に決められ、現在彼らは休息を取っている。
「しっかし、こうも静かだと気を張りすぎちまうなぁ。こうして体を少しでも動かしとかないと、変に色々考えちまうぜ」
「そうだねぇ。けど、そうやって思考すること自体は悪いことじゃない。危機的予測を立てるのは大事なことだからね。まぁ、それはそれとしてソウジ君なんかは、結構勘に頼ったりもしてるんじゃないかな? 君は変な所で適当な気がするから、ね」
「……だから、新聞読んでなかったのは悪かったって。仕方ねぇだろぉ? 普段から読んでねぇんだから」
ソウジは軽いストレッチをこなしながら、ベッドに寝転ぶライアと談笑をしてリラックス状態。
「…………」
片やゼーエンは座っているが、相変わらず周囲を警戒している為か眉間にシワを寄せながら目を閉じ、腕を組んでいる。
その姿はさながら、獲物を待ち構える肉食獣のようである。
彼は『兎』である筈なのだが。
そんな中で一人、耳を忙しなく動かしていたサイトはベッドから立ち上がる。
そのまま、廊下側に続く扉へ手をかけているとソウジから声がかかった為、返事として何をしに行くのかを話した。
「ちょっと、夜風に当たってくる」
サイトとしては、気晴らしになればと思っていただけなのだが。
ソウジは少し鼻に皺を寄せながら、ストレッチを中断して待ったを掛ける。
「止めとけ。外の霧が何を起こすか分からない上に、幻覚の件もある。明日の作戦、お前は特に危ないんだから、今日はこのまま部屋で休んどけ。もしゼーエンが嫌だってんなら、ベッドの距離は離しておいてやる」
「待て、何故俺の話題がそこで出る?」
突然自身の名を出され、不服そうに物申すゼーエンに対し、ソウジは鼻に寄せた皺を戻さぬままに彼に指摘していく。
「そんな子どもがビビるような顔であんたが気を張ってるからだよ! 俺も若干居心地悪いからな!? ……マナギルド長が結界を張ってくれてるんだから、少しは気を緩めとけよ。気を張りすぎたら、いざとなった時に疲れて動けなくなるかもしれねぇぜ?」
半ば呆れたようなソウジの言葉に、ゼーエンが思案する様に顎に指を添える。
少しして、彼は小さく頷くと警戒を少しだけだが緩めていく。
これで、ソウジは問題が解決したと密かに安堵した。
サイトが外に出て気を紛らわそうとした原因が、恐らく何かと関わりがあるゼーエンのあの態度によるものだと踏んでいたからだ。
しかしどうしてだろうか、サイトの顔は晴れない。
そんな様子のサイトを見たソウジは頭をガシガシと掻きながら耳を下げ、どうしたものかと悩む。
その時、ライアが寝ころびながらとある提案を口にした。
「ふむ、ならこの家の中だけを散策するのはどうだい?
彼女の案に、ソウジも渋々ながら納得を見せる。
了承を得たサイトは短めの外套を羽織りフードを被ると、ランタンを持ち扉を開けて部屋を後にしようとしたその時。
「あー待て待て! 俺もついて行くぞ。お前一人だけじゃ心配だ」
ソウジがそう言って、ニッカリと笑みを向けてくる。
そんな彼に、サイトは目を丸くして驚いたが……すぐに気を取り直して、困った様に返答した。
「分かった。一緒に来てくれる?」
その言葉に、ソウジは尻尾をブンブンと振りながら答えるのだった――――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
静まり返る屋内。
その中を、サイトとソウジの足音が響いている。
コツ、コツ。
コツ、コツ。
そうして歩いている間、ソウジがサイトに話を振っている。
「なぁ、サイト。こういう暗いところって、なーんか不気味だよな。幽霊とか出てきそうな感じがしてよ」
「……急になんの話? 灯りがあるんだから、そこまで怖くもないでしょ」
「おっ、お前あんまし暗い場所にビビらない
なんてことのない日常会話を繰り広げるソウジに対し、サイトは疑問を抱いていた。
どうしてそこまで、自分に構おうとするのか。
会ったばかりであり、それほど交友関係が良いと思っているわけでもない。
ましてや自分なんて、隠し事の多い人物であることは周知の事実だ。
そんな自分に、何故?
サイトはその浮かんだ疑問に導かれるように、ソウジへと尋ねていく。
「ねぇ、ソウジ」
「あん?」
「何で、僕に構ってくれるの? ……ちょっと、疑問でさ」
単純な質問。何故構うのか、その意図が知りたかった。
それに対し、ソウジはポカンと小さく口を開けた後、立ち止まる。
釣られてサイトも立ち止まると、ソウジの顔を見あげた。
その顔には、心底……マジかコイツ、という呆れた顔が浮かび上がっていて。
ソウジはサイトの頭を掴むと、ワシワシと撫でていく。フードの上からでも分かる荒いその動作に、サイトの髪の毛はグチャグチャとなっていった。
「ちょっ、ソウジ何を……!?」
「あ・の・なぁ! 何を!? ってなったのはこっちの方なんだわ! お前、自分の事ちゃんと見れてねぇじゃねぇかよ!」
「はっ、はぁ!? 見れてないって、何を……?」
本当に分からない。
自分の中では、他人に心配されるような振る舞いはしていない筈だ。
酔った時とかは別として、自身の事を勘繰られるような素振りを見せた事はない。
サイトはそう思っていた。
だが、目の前のソウジにはそう見えていなかったようで。
プンスコと怒りを露わにしながら彼はサイトへと言葉をかけていく。
「お前な、気が付いてないなら言っておくが……フード取った時に見える顔、すっげぇ眉間にシワ寄ってることが多いんだぞ? いつも切羽詰まってるみてぇな顔してさ。見てて心配だぜ」
「そん、な事は……」
「いーや、あるね! 多分ライアやゼーエンに聞いても同じ事を言う! アリスに至っては絶対、確実にそう言うさ!」
出された名前。アリス。その名に対し、サイトは目に見えて動揺を示した。
そこで彼女の名前を出すのか。自分の事を、謎を、今一番知っている唯一の存在を。
それを出されてしまっては、最早反論は意味を成さない。
サイトは顔を俯かせて、黙りこくってしまう。
そんな彼の様子に、ソウジはわたわたと慌てだし言葉をかけていった。
「あーすまん! 別にお前の事を責めるとかそういう意味で言ったんじゃねぇんだ! ただ、お前の心が心配で……お前、一人で何でもかんでも抱え込もうとしてるからさ。突っ込みすぎたんなら、謝る」
ソウジも目に見えて落ち込み、尻尾や耳をへたらせてしまう。
そんな彼の姿に、サイトは思う。
勇者として活動する人は、やっぱり凄い。
こうやって、無意識的に他人の心を救おうと行動出来るんだから。
――――俺にも、出来ているだろうか。出来ているのか、分からない。
もし出来ていないなら……出来るように、なりたい。
お互いに黙ってしまい、沈黙が辺りを覆う中……ふと、前方から足音が聞こえる。
早足。どこか焦っている様子すら感じ取れるその音に、サイトとソウジは各々が反応を示して警戒した。
が、すぐに手持ちランタンの灯りで見えた姿には見覚えがあり。
「レオン、さん?」
そう、レオンが歩いていたのだ。
その表情には、目に見えて翳りが生まれていた。
ソウジはそんな彼に対し、先程の落ち込んだ調子を見せないように声を掛ける。
「レオン! お前どうした? 見回りとかか?」
「あっ……ソウジ。まぁ、そんな所かな。二人は、散歩?」
「あっ、はい。えっと、その。あんまり散歩とかは駄目、ですかね?」
恐る恐るサイトが尋ねると、レオンは軽く首を振っていく。
「いや、ギルド内を歩くだけなら別に問題ないよ。後、サイトだったよな? 別にタメ口でも問題ないぜ。多分同い年くらいだろうしさ、気楽に話そう」
「そ、そう? じゃあ、そうさせてもらうよ」
「ははっ、お前ら仲良くていいなぁ。……んで、レオン。お前さん、なーんか焦ってんな? 何かあったのかよ?」
ソウジが踏み込む。
彼の表情を察して、歩み寄っていく。
言われたレオンは、一瞬目を丸くしたかと思うとすぐに顔を俯かせた。
次いで、小さく言葉を吐き出していく。
「ソウジにはバレバレか……実は、サーペンと気まずくなっちゃっててさ。と言っても、お互いがお互いに貶し合ったりとかは無くて。自然と距離が離れてるっていう感じ」
「サーペン……あの青い髪の人か。何でそんな事になっちまってるんだ?」
「……それは。分からないんだ、俺にも。心当たりに関しても、アイツが話してくれないから俺の思ってることが正しいとも限らないし。ははっ、こんな話お前らにしても困らせるだけだよな」
わざとらしく、乾いた笑い声をあげながらレオンは後頭部をかいていく。
その瞳は、少しばかり澱んでいた。
そんな彼に対し、サイトは……思わず、口を出してしまう。
「困ら、ないよ」
「サイト……?」
「あっ、えぇと。レオンは困ってるんだろ? 困ってる時に誰かに助けを求めるのは、当たり前だと思うからさ。何もおかしくないよ。寧ろレオンは、そうやってその親友の人の事を大切に想ってる。それは必ず、親友さんに伝わると思うな」
などと、言ってみる。彼自身、人に助けを求める事が苦手であるというのに何を言っているのか。
真似事、勇者の擬態。そんな負の想いが彼の中に湧き出てくる。
しかし、言われたレオンは目をパチパチと瞬かせると、小さく微笑む。
「あんた……
「えっ?」
「見ず知らずの……会ったばかりの俺にそうやって言葉をかけられるんだからよ。優しい人だよ、あんたは」
今度は、サイトが目を瞬かせた。
そんな事を言われるなんて、思っても見なかった。
サイトは自分の事を優しいだなんて思っていない。やれる事をやっているだけ。そこには、特別な意味なんてない。
だからこそ……こうして面と向かってそう言われるのは、何だか分からない。
「あぁ、俺もなんかそんな気がするな。サイトは優しい奴だって思うぜ?」
しかし、そんな気持ちのサイトとは裏腹に、ソウジもその言葉に乗っかってくる。
両者共にその意見なのであれば……そうなのだろうかと、サイトは渋々ながら心の中で頷いた。
と、その時。
『ふむ。君達、その話をもう少し詳しく聞かせてくれないか』
そう、サイトの中から喋り出したのはハヤテ。
喋った勢いのまま、彼はサイトの中から光を発しながら現れてサイトの肩に乗っかった。
突然の出来事に、サイトは勿論の事ソウジやレオンも目を丸くする。
「えっ、そいつ、なんだ? 急にサイトから現れて……なんなんだぁ!?」
「サイト、その鳥って……?」
「………………ハヤテお前ぇ!」
そこから、暫くの説明が入る。
ハヤテの事についてをサイトが話し、ソウジとレオンは納得を示すとハヤテの質問に答えていった。
「そのまんまの意味っすよ。サイトは優しい。人の気持ちに寄り添える奴だって俺は思ってるっす」
「何でソウジは変な敬語なんだよ。……まぁ、俺も似たような意見だな。サイトは他者に寄り添える奴だと思うよ」
「なるほど。いや、ありがとう二人とも。サイトについてをより深く知るいい機会になった。感謝感激だ」
ハヤテは羽根を器用に動かして、お辞儀をしていく。
その光景に、ソウジとレオンは不思議な気持ちを抱きながらも会釈を返した。
そして、
端的に言うと、恥ずかしい。顔は少しだけ真っ赤になってしまう。
そんな彼の姿を知ってか知らずか、ハヤテが更にソウジ達へと話し続ける。
「こいつは常に考え続ける癖がある。その際に行き詰まってしまったりもあるだろうが……その時は何卒、支えてやってくれると助かる」
「はっ!? ちょっとハヤテ、勝手にそういう事――――」
「俺は勿論、そのつもりだぜ?」
ハヤテの言葉に、ソウジは真っ先に反応を返した。
サイトは驚く。
この人は、どこまで善の塊なんだと。他者に寄り添える優しさを持っているのは、あんたの方なんじゃないかと心の中で突っ込んでいく。
何となくサイトの雰囲気が変わったのを察したソウジは、困ったように頬をかきながら話を始めた。
「俺はさ、そう決めてんだよ。困ってる誰かを、自分なりに手助けする。助けたいから、助ける。そういう信条を自分に掲げてる。それが俺の、
ソウジの言葉には、今まで生きてきた経験から来る重みが乗せられているように感じられた。
それを思ったのはサイトだけではないようで。
レオンも、どこか苦しい表情を垣間見せていた。
重苦しい空気が流れる。
そんな流れも、ソウジがバサリと断ち切っていく。
「まっ、要するに。俺はこれからもお前らを手助けするぜって話だ! ハヤテさんも、それでいいだろ?」
「むっ。あぁ、そうだな。そうしてくれると非常に助かる」
「んじゃ、今日はもうこれ以上考えるのは止めにしてゆっくり休もうぜ! なっ?」
ニカッと笑みを浮かべるソウジ。
邪気が見えない、屈託のない笑顔を見せる彼にサイト達の陰鬱とした気持ちも自然と晴れていく。
「そう……だな。考えすぎても仕方ねぇし。俺は俺で出来ることをするよ。ありがとう、ソウジ」
「いいってことよぉ! じゃ、一旦お別れだな。帰るぞ、サイト。ハヤテさんも一緒に」
「えっあっ、うん。じゃあ、レオン。また明日」
そうして、彼らはそれぞれの部屋へと戻り休んでいく。
明日への作戦に向けて、英気を養う為に――――。