「ふふっ、マナったら頑張るわねぇ。頑張り過ぎているその姿、見ていてとっても痛々しいわぁ」
「……うる、さい!」
襲撃者であるミアの間延びを感じさせる声を聞いたマナは、彼女を睨みつけ叫ぶ。
右肩を左手で、苦しそうに抑えながら。
儀式を行っていた部屋は、凄惨と言って差し支えない状況になっている。
作戦の要の道具であった宝石は全て粉々に砕け散り、床の至る所に散乱し。
壁や床、棚に置かれていた様々な道具も壊れ散らばり。
霧が部屋に充満し始め、視界を狭めてしまっている。
だが、何よりも凄惨なのはマナの姿。
部屋が襲撃された際、咄嗟にライアを含む他のギルド員達を守る為の結界を張ったまでは良かった。
だが、そこに気を向け過ぎたばかりに自身の防御を疎かにした結果……ミアにより肩を切り裂かれたのだ。
そこから少しの間しか時間は経っていないが。
彼女は肩を切り裂かれたばかりか、脚や腹部にも傷を付けられている。
切り裂かれた白いローブには血が滲み、息を荒くさせて今にも倒れ伏しそうなマナ。
だが、ギルド員達を守る為の結界は解除されていない。
怪物、引いてはミアから守る為に意地でも解除しない様にマナは意識を保っている。
そんな彼女を見たミアは、自身の長い黒髪をかきあげながら煽る様に口を開いた。
「頑張っても、もう意味はない。宝石を通じて貴方の力をサーペン君に送り込む事は、その宝石が壊された事により不可能。サーペン君は……諦めるしかないよね?」
現状の実態、それらを把握させる様に話すミアに対し、マナは表情を歪めながらも反論を挟む。
「諦めるなんて、絶対にしない! 貴女にも……屈しない!」
気丈に、真っ向から叫ぶマナ。
そんな彼女の姿を、舐め回すように見つめたミアは。
頬に手を当てながら、恍惚とした笑みを浮かべて喋り続けていく。
「イィ顔だよぉ? 凄いねぇ、頑張って演じちゃうんだねぇ? 本当は怖い癖に、必死になって自分を奮い立たせちゃうんだ? かぁわいぃねぇ……興奮しちゃう!」
自身の体を腕で抱きしめるミア。
強く、強く、強く、骨が折れるのではないかという程に強く抱きしめていく。
興奮を抑えきれずに、はしたなく口を開き涎を垂らす彼女の悦は。
快楽の最高潮に達する。
だが、その昂りが永遠に続く事は無い。
「気持ち悪いね、君」
冷静に、淡々と。
そうミアに向けて発する存在が現れたからだ。
単純な罵倒、されど心を乱すには充分な口撃。
彼女はゆっくりと、声のした方へ顔を向けていく。
そこにいたのは、薄く煌めく様な金色の長髪を持つ人族の女性……ライア。
結界内から出てきていた彼女に対し、ミアは抑揚の無い声色を発していく。
「空気、読めない人なのかしら」
ミアの声色と視線は、どこまでも冷たく。
眼を瞬かせる事なく見開いてライアを凝視する。
しかし、彼女は体を固まらせるのではないかと錯覚する程の冷たい視線を受けているにも関わらず、意に介していない。
寧ろ、どこまでも惹き込まれるような焦茶色の瞳でミアに力強い視線を返しながら、皮肉交じりに返答をしていく。
「ははっ、確かに私は空気を読めていないかもしれないね。他者の目を気にする事も無く、自分の気持ちの赴くままに楽しそうに笑える素敵な人に、罵倒を浴びせてしまったのだから」
「……性格も悪いわね。そんなに早く死にたい?」
圧をかけながら、ミアは問う。
その問いに、ライアは満面の笑みで。
「やってみるかい? 私を、殺せるかどうか」
煽る。
いつ自身に危害が及んでも可笑しくない状況下で、不敵に笑い立つライア。
傍から見れば、一触即発であり。
自ら危機に飛び込んでしまっている。
何をやっているんだ。
逃げろ、死ぬぞ。
結界内にいるギルド員が冷や汗を流しながら、ライアをどうにか結界の中へ戻せないかと様子を伺っている。
一方、ミアは。
すぐに、ライアへと手を出していない。
マナへ嬉々として攻撃を加えていた彼女が、未だ変わらぬ無表情な顔でライアを観察している。
彼女は特別な構えをしていない。
無防備と捉えて差し支えない自然体な状態だ。
しかし、ミアは手を出さない。
少なからず人には、“恐怖“という感情が存在する。
その感情は様々な要因で起こるものだが……大抵、自身が害されそうになった際に発生する事柄である。
ミアはそれを理解していた。
理解しているからこそ、目の前にいる存在が今どんな感情でそこに立っているのか。
理解したい。
いつ殺されてもおかしくないこの状況で。
何故、平然としていられるのか。
恐怖を感じずに、真っ向から立ち向かえるのか。
だから、ミアはまだ手を出さない。
平気そうに振る舞う演技をする者がいるのを、ミアは知っている。
高潔で、真っ向から理不尽に立ち向かう
幾度となく学び潰してきた、その存在を。
しかし、目の前にいる彼女の雰囲気から分かるのは、演技ではない。
それは、目の前の彼女に恐怖が発生していない事に他ならない。
だからこそ、ミアは観察する。
自身の理解し得ない事柄を、理解する為に。
そして彼女は、実行する。
観察し、導き出した答えが正しいのかどうかを確かめる為に。
自身に新たな知識を加える為に。
ライアへと、声高らかに。
口角を最大限に釣り上げて。
握り締めている剣を振るう動作と共に、斬撃を。
「『
――――勢いよく放つ!
空間を斬り裂く無の斬撃が、霧を裂き。
身体を両断せんとライアへ迫る。
「っ、ライアさん!」
叫び、結界を発動しようとマナは手を伸ばすが。
ミアによって傷つけられた肩から生じる痛みが、その行動を阻害する。
ライアへの凶刃は容赦なく迫り。
彼女の命が刈り取られてしまうと、誰もがそう思っていた。
しかしライアは。
冷静に、微笑みを絶やさず。
――――解き放つ。
「『
光が溢れ。
ライアを中心とした周囲の空間がブレて霧は散り。
彼女の服装は変化していく。
簡素という言葉が似合うくらいにはラフであった格好が、華やかに。
純白の生地に美しい黒の装飾が施された、短めのドレス。
前側の腰辺りからは紺色のスカートが確認でき、その下には黒のロングブーツ。
体や服には金色に光る線が走っており、その厳かしさが増している。
そして何より目を奪うのは、その髪であろうか。
薄い金色の色、その清廉さがより際立つかの如く輝いており。
菱型の髪飾りで後ろに束ねた長髪が解かれ、柔らかく流れる様に靡いている。
儚くも、存在感を示すその姿に。
マナは驚き、ギルド員達は見惚れている。
そして、そんな彼女へと到達する筈だった斬撃は――――歪んだ空間から出現した複数の金色の鎖により阻まれた。
鎖に衝突した余波が辺りに広がり、ライアとミア以外の身体を身構えさせる。
しかし、それ程の威力を有した衝撃を受けた鎖には傷一つ付いていない。
一切の輝きを損なわず、悠然とライアを護る様にその形を保っていた。
そんな彼女に、ミアは。
興奮を隠しきれないと全身で表すかの如く。
体をブルブルと震え、震え、震えさせて。
喉を絞るようにして、声を出した。
「あっっっっっはぁ!!!!! 貴女、私が今まで見てきたどのヒト達よりもイカれてるわ!」
冷めやまぬ興奮を活力に、大袈裟な身振り手振りを交えながらライアへの評価を下していくミア。
黒々とした瞳はライアを見続け、新たな
そして、彼女は。
興奮のままに動き出す。
「楽しませて! もっと、もっと、もっともっともっともっともっとぉ!!!!!」
叫び出すのと同時に、力を行使し。
剣を振るう事により発動した複数の斬撃が、霧をかき分けてライアへと襲い掛かる。
だが、彼女は冷静に手を動かすと。
また歪みから黄金の鎖を出現させ、使役するように操って斬撃を防御する。
そして、ライアは微笑みを絶やさぬままに口を開く。
「君がどうしてこのような事をしているのか、何故私達の作戦を邪魔しているのか。分からない事だらけだけど……君に言えることはあるよ」
「あははっ! 何かしらぁ!?」
「私は、諦める事が嫌いでね。それこそ、自分の命を投げ捨てた後でも足掻きたくなるぐらいには、諦めが悪い」
攻撃を防御し続けていても、その笑みは絶やさず。
彼女は言葉を続けていく。
「だから今回の作戦も諦めるつもりはないよ。絶対に、私達は――――」
胸を張り、声高らかに。
誰かを鼓舞する様な熱情を込めつつ、宣言した。
「必ず、サーペン君を助けるのさ!」
叫びが、部屋中に響き渡り。
ライアの想いが染み渡る。
マナやギルド員は目を丸くさせて、その瞳に光が宿っていく。
心が疼く、
だが、影響を受けたのは彼女達だけではない。
鋭く、歪に、
濁り、澱んで、醜悪に。
黒々とした瞳が渦を巻き、狂気が混ざり合って。
心が疼く、
苛烈に攻撃を続けるミアは、その猛攻を中断すると。
剣を消して、手元に出現させたのは。
彼女の瞳に非類する、光を吸い込まんとする程の黒い色味を持った、大剣。
剣から感じられる迫力と、重苦しい圧は。
人々を自然と底冷えさせるだろう。
ミアは笑みを濃くすると、その大剣を上部に構えた。
そして、大剣に黒々とした靄が集まりだす。
集まっているのは、呪い。
彼女の負の感情を起点とした、ドロドロに混じり合う嫌忌されし邪気の塊。
ライアやマナの顔が嫌悪に歪むほどの力。
それらを集約するミアの表情は――――笑顔であり。
彼女の異常性が、際立っている。
「貴女達が希望を捨てずに諦めないというのなら、この一撃を耐えてみなさいな――――」
興奮と共に、言葉を出し。
期待、歓喜、加虐、執着。
それぞれの想いを、爆発させる様にして。
ミアは、踊りだした。
踊る、踊る、踊り回る。
演目は続き、やがて彼女の興奮が最高潮に達すると。
彼女は、大剣をライア達に振りかぶり叫ぶ。
「『
邪気の塊がライア達へと放たれる。
先程までの無の斬撃とは比べ物にならない、怨嗟の一撃。
浴びればひとたまりもない事は、明らかであるが。
ライアは怯まず、鎖を出現させていく。
しかし。
それに待ったをかけるかのように。
彼女の前に立つのは、マナ。
傷だらけな身体、その中でも一際痛々しい肩の辺りを押さえもせずに。
迫りくる呪いへと立ち向かうべく、腕を突き出して構えている。
彼女の服に、光る粒子が集まり出すと。
身に付けている服に装飾が彩られ、変化する。
紫色に光る線、靡くドレス。
未知に満ち、神秘を象るその姿。
強き意志を瞳に込めた彼女は――――言の葉を口にする。
「ℳy heart purge the sordes and eliminate the evil――――芯技、解放」
文字が記された光り輝く円が、マナの周囲に展開されていく。
「数多の邪悪、数多の怨恨を浄化する我が言の葉。災は蔓延る事無かれ、厄は静まり目覚めるな!」
円は収束し、やがて。
魔を排する神聖清廉たる壁と化す。
「光を、ここに――――
叫びと共に放たれるは、光。
舌に刻まれた赤痣の証が、その輝きを一層増して。
聖なる界域、命を証明する世界。
輝きは害を為す存在を通す事のない、煌々たる大結界。
呪いの一撃は結界に衝突する。
怨嗟や憎悪の想いが、マナへと伝播し心を蝕む。
だがしかし、マナの結界は揺るがない。
彼女は地に足を踏ん張って、全く怯む事なく。
後衛にいるライアやギルド員達に傷一つ付けさせずにいた。
「はぁぁぁぁぁ!!!!!」
気を抜かぬ様に出していくその雄叫びは、マナの勇猛さを際立たせ。
呪いに負けぬ様に、抗い立ち向かう。
――――やがて。
ミアの放った一撃は霧散する。
浄化されるかの如く消え失せて。
辺りには静寂が波紋を為して広がっていく。
マナの荒れた息遣い、ギルド員達の息を呑む音。
それらは、先の攻防の苛烈さを物語っていた。
ふらつくマナへとライアは近づき、支える。
そして
興奮し紅潮した面持ちと、疲れが見える体を上下させながらも。
気分を高揚させ、はしゃぐ。
「もうっ、本当にさいっこう!!!!! コレだから、未知って素晴らしいのよぉ!!!!! あーっ、たっのしいぃぃぃぃ……!」
自身を抱き締め震えながら興奮を続けているミアであったが。
不意に、彼女の表情は一変する。
背筋が震え警鐘を示し、冷や汗が頬を伝う。
慌て、背後を振り向くも。
空を切る音と共に、ソレは既に彼女の至近距離。
錯覚。
獲物を捉え屠る獣だと認識を誤らせてしまう程の怒気。
そして、彼女は視認する。
獅子の如き獰猛な、その少年を。
「だぁらぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
振り向いたミアの顔面に拳がめり込む。
彼女の体は宙を舞い、勢いよく壁へと吹き飛んでいった。
けたたましい衝撃音が部屋に響く中、レオンはすぐさまマナ達に駆け寄っていく。
「皆、無事か!」
「ん……レオ、ン?」
「マナ、お前!? ……すまねぇ、迷惑をかけちまった」
マナの状態を見て表情を歪める彼に、彼女は首を横に振ると。
「私なら、大丈夫。それよりも……貴方がまた立ち上がってくれたのが、凄く嬉しい」
心からの笑顔を見せて、そう返答した。
場の空気が少しだけ温まっていく。
が、しかし。
「――――――スゥーーーーーーー……んふっ、んふふっ、あぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁ!!!!!!!!!!!!」
邪悪な意志は途絶えていない。
身体中に流れる痛みをものともせずに、彼女は笑いあげていた。
口の端から滴り落ちる血を愛おしそうに舐めあげ、殴られた頬を優しく撫であげて。
そのまま、うっとりとした双眸をレオン達へと向ける。
そんなミアの様子に警戒を露わにして構えるレオン、ないしはライアであったが。
彼女は笑みを保ち続けたまま、声をかけていく。
「素晴らしいわねぇ貴方達! 紛い物の
「……テメェ」
「んっふふふふふ。レオン・エールデムート君、私は貴方の事を侮りすぎていたようだわぁ。その目、その力、どれをとっても素敵よ」
レオンが放つ怒気を浴びれば浴びるほど、ミアの笑みはその濃さを増していく。
その笑みを、心の底から遊びを楽しむ子供みたいに無邪気だと感じたライアは、顔を顰めながらそんな彼女を観察していた。
そんな、楽しげな様子を露わにしていたミアであったが。
彼女は口惜しそうな声色で。
「本当なら、貴方達とまだまだ遊んでいたいのだけれど……まだ殺られるわけにはいかないの。だから、そろそろお暇させて頂くわね?」
唐突に、そう彼らに告げた。
あまりにも急な展開に、困惑を表すレオン達。
しかしレオンだけはすぐに気を持ち直すと、怒りを露わにしたまま叫ぶ。
「ふざけんじゃねぇぞ……! このままテメェを逃がすと思うのか!」
「えぇ、逃がすと思ってるわよ? 周りを見てご覧なさいな」
「周り……?」
ミアの言葉を聞き、レオンが周囲を見渡せば。
結界を叩いてギルド員達を襲おうとしている
驚き、即座に助けにへと向かうレオンを眺めながら、ミアはその姿を揺らめかせ。
「ふふっ、アンチのこの力、便利ねぇ。じゃあ、また会いましょう?」
そう言い残して、完全に姿を消した。
――――――――――――――――――――――――――
あれから、数分経ち。
怪物も倒し終え、ギルド員達の安全を確保したレオン達。
ミアの残した言葉を頭の隅に置きつつも、彼らは現在サーペンからどうやってアンチを引き剥がすべきかを話し合っていた。
「今から結界の力を叩き込むにしても、その力を溜める為の宝石がねぇ。どうすりゃいいんだ……!」
「ふむ。それに加えて、家の中に入ってきた霧の濃さもどんどんと増していっている。今はまだ大丈夫だけれど……このままだと、私達も幻覚に呑まれて再起不能にされてしまうかもしれないね」
案を考えようにも、その案を実行する為の道具が軒並み無くなっている現状は絶望的。
更に安全地帯であった家屋内に霧が侵入している関係上、ギルド員や勇者であるレオン達が幻覚に精神を蝕まれるのも時間の問題。
レオンとライアは必死に頭を動かして考えていく。
この現状を打破するための方法を。
全員が助かる方法を。
しかし、時間は短くとも過ぎていく。
そんな中で、マナは。
座っていた状態から立ち上がり、包帯で応急処置を施した肩の傷口を押さえながらレオン達に近づく。
その姿を見たレオンは、慌てて声をかけた。
「マナ、体は大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、少し休めば動けるから。それよりも、力を溜め込む為の宝石の件をどうにかしないとでしょ? ……実の所、その宝石はまだあるよ。正確には、既に持ってるって言ったほうが正しいけど」
「それ、本当か!? なら教えてくれよ、その宝石の場所をよ!」
マナからの言葉に驚き、彼女へと急かす様に居場所を聞き出そうとするレオン。
そして、そんな彼と同様に隣にいたライアも驚いていたが。
マナの言葉に勘づき、彼女の言わんとすることを代弁するべく声を出した。
「マナギルド長、その宝石はもしかして『覚醒石』の事を指しているのではないですか?」
「その通り。私の魔女としての能力と覚醒石の力を使って、覚醒石へと力を込める。それが、今出来る最善の手」
「覚醒石に力を……よしっ、なら今すぐそれを実行しようぜ!」
ライアの問いにマナは頷いて答え、レオンがその方法に即座に賛同し実行しようとする。
だが、マナの表情は曇っている。
最善手であると言った本人のその曇り顔に、ライアは不思議がるように問いをまた挟んでいく。
「どうしてそんなにも表情を渋らせているんです? 何か問題でもあるんですか?」
その問いに、マナは渋い表情のまま答えていく。
「覚醒石に力を込める事自体は、問題無い。けど、その後が心配なの。覚醒石の所有者がサーペンに力をぶつけてアンチを引き剥がそうとすれば、必然的にアンチは抗おうとする。その時に起きる危険性が、ね」
「……えっと、よくわかんねぇんだが」
「マナギルド長の言いたいことは、要するにこういうことだね。覚醒石は心の象徴、それに害を加えられれば……所有者の心が傷付けられる。そうなれば最悪、廃人になる可能性があるという事、ですよね?」
ライアの言った内容に、マナは頷いた。
辺りに沈黙が染み渡る。
それは、大きすぎるリスク。
込められる覚醒石の所有者にかかる多大な危険性へ、ライアも顔を顰めていく。
どうすれば良いのか。
リスクをかけずに、どうにかして助けに行く事は出来ないかと考えるマナとライアであったが。
「俺が、その役をやる」
その一言に、彼女達は声のした方に顔を向ける。
言ったのは、レオン。
橙色の双眸を真っ直ぐに二人に向けながら、彼は力強く言葉を続けていく。
「どのみち、アンチは一発ぶん殴っておきたかったからな。丁度いいさ」
「まっ、待ってよ。さっきの話聞いてたよね? 廃人になるかもしれないんだよ? もうちょっと慎重に考えても――――」
「最善手、なんだろ? だったらやってやろうじゃねぇか。それに……ここで動けないで、
彼の意志は、本気そのもの。
自身の身がどうなろうとも構わずに、親友を助け出そうとしている。
それを感じ取ったライアは小さく笑みを浮かべ、レオンに向けて言葉をかけていく。
「ふふっ、その調子が本来の君なんだねレオン君。いいよ、君を信じて私も力を貸そう。洞窟への道は、私が作る」
「ちょっとライアさん、何を!?」
「これ程までに覚悟を決めているのだと、関わりの浅い私でさえ思うんだ。マナギルド長なら尚の事、彼を理解出来ているのではないですか?」
ライアの言葉にマナは目を見開いた後、視線を逸らしていく。
が、少しして。
大きく溜め息を吐き、次いでレオンに向き直ると。
真剣な面持ちで、重く言葉を出していった。
「レオン・エールデムート。貴方のその意志の強さを信じ、私の力を託します。……頼んだわよ」
その言葉に、レオンは頷き返事をする。
「任せとけ!」
そしてすぐさま、彼らは厄者への新たな有効打を実行に移すべく行動を開始する。
魔法陣を他のギルド員と共に床へと描き、レオンとマナは位置につく。
魔法陣の上に乗り、彼らは向かい合った状況。
静まり返る空間。
誰も彼もが、見守る中。
数音の呼吸が混じったのちに。
――――マナは詠唱を開始する。
「ℬravely fight fo℟ survive …… ℱortune ℒight。芯技、解放。我が舌に宿りし
静かに、然してその言葉は揺るぎない信念を印象付けられる程に厳格。
舌に刻まれた光り輝く痣、そこから鳴らされる音に呼応して、魔法陣は輝き出していく。
「言の葉は紡ぐ。我が想いと、悪を討ち滅ぼす意志を。言の葉は告げる。我が前に立つ勇者へ、清廉たる力を授けんと! ここに、その証明を示す――――『
マナの高らかな宣言と共に、魔法陣の光は最高潮に達する。
彼女から白銀の光が鮮やかに瞬き、それらがレオンの胸元へと収束していく。
そして、白銀の光は全て彼の中へと満ちて浸透し、彼の体は仄かな白き光を纏い輝く。
滞りなく儀式は完了した。
そして、ライアも。
「
自身の能力により、歪曲した緑に光る丸い穴を出現させる。
「はぁ……っはぁ……! さぁ、行ってレオン!」
「君なら必ず救えるとも。他ならぬ私がそういうんだからね」
「……よしっ。行ってくるぜ、二人とも!」
そう言って、レオンは胸に宿るマナの意志を感じながら光る穴へと入っていった。
大切な