フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

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第三十一話 君に誇れる自分に

 祭りから数日が経った、ある日の昼下がり。

 天気の良い晴天、サイトは祭りの時に集合場所としていた広場の像前でアリスを待っていた。

 

 【話したい事があるんだ。詳しい事はまたその日に話すから……その。とにかく、アリス。君と話がしたい。場所はある所の料理店なんだけど、どうかな?】

 

 そう言ってアリスを誘ったサイト。

 この言葉を口から発した際、心臓はバクバクと鳴り響いていた。

 それに対し彼女は。

 

【うん、いいよ! 料理店なんだねー、楽しみ! あっ、勿論サイト君。貴方とのお話もだよ! じゃ、また後日にー!】

 

 朗らかにウキウキしながら、笑顔でそう返答した。

 その言葉に、サイトは安心するのと同時に……凄く意気込んでいた。

 この当日になるまでの間に、話すべき事を苦手ながらも紙に書き起こして復習した程だ。

 そして現在、そんな彼は人生の中で最大級に緊張している。

 心臓がこの上なく激しい、変な汗が出て体毛に染みる。フードを被っているが、それでも何となく動揺が伝わってしまう程には緊張している。

 そんなサイトに半ば呆れながら、ハヤテは彼の中から突っ込んでいく。

 

『お前、そのガチガチ具合をどうにかしろ。またアリスに要らぬ心配をかけさせるつもりか?』

「そ、そうは言ったってなぁ。何でか分からないけど滅茶苦茶に緊張しっぱなしで、自分でもどうすれば治まるか分かんないんだよぉ」

『……深呼吸しろ。後、お前が紙に書き起こしていたあのメモの数々も忘れてしまえ。お前が喋りたいと思う事を、思うままに喋ればいいんだ』

 

 思わずハヤテはそう言って助言を繰り出した。

 普段、何だかんだと自分なりに決断をするサイトの姿を見ていた彼からすれば、今回のこの姿は少しばかり目に余る状況だったのだろう。

 サイトは言われた通りに深呼吸を行う。

 まだ完全に緊張は解けていない。けれど、先ほどよりも幾分かマシになった。

 苦笑いを浮かべながら、彼はハヤテへと礼を言う。

 

「助かったよハヤテ。悪い、ちょっと焦りすぎてた」

『冷静になれたのなら、それでいい。それと彼女も来たようだ』

「あっ、ほんとだ! おーいアリス、こっちこっち!」

 

 自身に近づいてくるアリスに手を振ってサイトは迎える。

 そんな彼にアリスも手を振り返し、彼らは無事に合流を果たした。

 彼女はにこやかな表情で、サイトへと挨拶をしていく。

 

「こんにちは、サイト君! 今日は誘ってくれてありがとう!」

「僕の方こそ、誘いに乗ってくれてありがとうだよ。じゃあ、とりあえず店に向かおっか。丁度昼時にもなったし」

「そうだね。じゃあ、早速行こう!」

 

 そうして彼らは、目的地へと向かう。

 向かう最中、サイトはアリスを横目でちらりと見る。

 ワクワクと楽しげな、笑顔のアリス。

 それを見ていると、なんだか自分が緊張をしていることが馬鹿らしくなってしまった。

 思わず、小さな笑い声を漏らす。

 

「? サイト君、何か面白いことでもあったの?」

「ん。いや、別に。何でもないよ、何でも」

「そう? ならいいけど」

 

 その場を誤魔化し、気持ちを切り替えたサイト。

 落ち着いてきた気持ちのままに、そういえばと彼は道すがら気になっていた事を尋ねた。

 

「あのさ、アリス。僕がボーデンに行ってる間に、何か僕の事を考えたりしてた?」

「えっ? 何でそんな事を?」

「いや、その……あっちで戦ってた時に、アリスっぽい声が聴こえたからさ。聞き間違いだったら、それでいいんだけど」

 

 そんなサイトの質問に、アリスはそういえばと前置きを置いて答えていく。

 

「私、なにか嫌な予感がしたの。サイト君が深い闇の中に沈んでいっちゃうような、そんな嫌な感じ。だから私、サイト君の無事を祈ったんだ。もしかしたら、それが関係してるのかも」

「なる、ほど。……まぁとにかく、言いたいことはさ。ありがとう、アリス。お陰で助かったよ」

「そ、そんな。私はただ祈っただけだよ。でも、それで貴方が救われたって言うのなら……良かった」

 

 そうして彼らは笑い合い、道を進んでいく。 

 そのまま辿り着いたのは、とある小さな料理店。

 そこでは通常の料理の他に甘味(デザート)も用意されているそうで、アリスが行きたがっていたのを聞いていたサイトはこれ幸いとその店を利用する形にしたのだ。

 本人的にも、少しだけ楽しみではあるのだが。

 ともかく、彼らはそんな料理店の前までやってきた。

 店名である『アストランチ』の看板が掲げられたその店の入り口扉を開け、入店する。

 

 店内はレトロチックながら清潔感が保たれており、埃が舞うこともなく居心地の良さそうな空間。

 パンや肉を焼く音、スプーンが皿を鳴らす金属音が辺りから聞こえてくる。

 人が何名か椅子へと座っており、テーブルに乗せられた料理を美味しそうに食べている姿は食欲を増進させ、期待を膨らませていく。

 そんな彼らを出迎える人物が、一人やって来た。

 

「あらいらっしゃい! あたしはパクス。ここアストランチの店長さ! さっ、空いてる席についてついて。注文が決まったら呼んどくれ!」

 

 短めの銀髪に笑い皺が特徴的な、エプロン姿の人族(ヒューマノス)の老齢の女性。

 パクスと名乗った彼女は、勢い良くサイト達をテーブルに案内し席につかせた。

 気の良さそうな店主に内心ほっこりする彼ら。

 しかしサイトはすぐに気を取り直すと、アリスへある事を話し始めていく。

 

「アリス。今日君を誘ったのは……()の昔話を聞いてもらいたいっていう想いがあったんだ」

 

 アリスはそれを聞いて、顔を自然と引き締まらせる。

 サイトの過去についてを、アリスはまだ詳しく知らない。

 前に聞いたのは、自身が兄の名を名乗りかつそのまま兄として行動し世の人々に名を広めようとしている。即ち、兄そのものとして生きていること。

 それ以降は話を聞き出せていなかったが、本人から昔の話をしたいとの申し出に、アリスは驚きを隠せない。

 

「話ってそれだったんだね……でも、何でそう思ったの?」

 

 驚きのままに聞き返す彼女に対し、サイトは少しばかりフードの中の目を泳がせる。

 が、すぐに視線を定めてアリスを見つめ返すと質問に答えていく。

 

「俺、さ。ボーデンに行った時に、自分の未熟さを痛感したんだ。その時に、ソウジの他にも色んな人に世話になって……自分ってまだまだ弱いんだなって気付いたんだ。だから――――」

 

『立ち止まってはいられないぞ』

 

 ゼーエンの言葉が、思い起こされながらも。

 しっかりと彼は、アリスの目を見つめて。

 

「君に……誇れる様な自分になりたいと思ったから。少なくとも俺は、君には誰よりも誇らしい自分でいたい。そう、思ったんだ」

 

 そう、言葉を出した。

 彼の想いに、嘘は無い。

 それを常々感じているアリスは、その言葉を聞いた時に心がどこかホワホワとした気分になってしまう。

 

 ――――何だろう、この感情は?

 

「胸の奥が、優しい気持ちで一杯に……」

「……? アリス、大丈夫?」

「うぅん、何でもない。でも、そっか。それなら私は、貴方の話を受け止めるよ。何でも話して」

 

 そうアリスは答える。

 (サイト)が一歩、前に進もうとするのなら。

 私はそんな彼に追いつけるように、動いていくのみなのだから。

 そんな彼女の気持ちを感じ取り、言葉を受け取ったサイトは。

 

 ゆっくりと口を開いて、語りだしていく――――。

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