フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

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第四十二話 王家の歴史、龍族の歴史

王家の歴史、龍族の歴史

 路地裏での出来事から、数十分が経った頃。

 サイト達はラヴィーネの中でも有数の市場へと足を運んでいた。

 ゲルダの要望通りに、薬の現状や市民の様子を知りたいからだ。

 季節的にも、丁度今のラヴィーネでは龍魂祭(りゅうこんさい)を催している為に、情報収集という意味でも適切。

 そうした目的があった中で、今の彼らは何をしているのかというと。

 

「いっくよーゲルダ様ー! それー!」

「わぁ! やりましたねー、(わたくし)もいきますよー! えいっ!」

「ひゃあ! やったなー! えいっえいっ、えーいっ!」

「フードの兄ちゃんも行くよー? おりゃ!」

「わぶっ!? ちょっ、顔に当たったんだけど!? わわっ、待って待ってってば!」

 

 子供達と、雪合戦をしていた。

 和気あいあいと、人の目もある中で堂々と。

 その横でランスは、他の子供達と雪だるまをちまちまと作っていた。

 

 無論、理由なくこの様な流れになったわけではない。

 少し時は遡り、市場に来た直後の事。

 何やら市民の人々がガヤガヤと集まり、ちょっとした騒ぎが起きていたのだ。

 事情を尋ねたところ、どうやら薬の影響で暴れ回った人々が、祭りの際に作った様々な作品である雪像を破壊してしまったのだという。

 

 そこで、ゲルダが動いた。

 

 どこからともなく杖を出現させたかと思えば、その杖を大きく回すように振るったのだ。

 そして、振るってから瞬きをする間もなく――――周りに積もっていた雪が動き出したかと思うと、徐々に雪像の設置されていた所に集まっていき……その形を、形成させていく。

 それはまるで、絵本の中に出てくるような魔法のような光景で。

 白くきらきらと光る銀花を自由自在に操るその姿は、正に魔法使いとも言えるだろう。

 実際には、覚醒石(デザイアギット)の力によるものであるそうなのだが。 

 サイトはマジマジとその光景を眺めていた。

 

 記憶に残る、雪が舞う幻想的なその景色を。

 

 そうして、雪像は綺麗に完成した。

 市民達からは歓声があがる。

 はしゃぐ子供達はゲルダに近づいて、凄い凄いと彼女を褒め称える言葉を口にしていく。

 そうした中で、一人の少女がゲルダのフードの中の顔を見て「王女様だー!?」と大きな声で言った為に、正体がバレてしまった。

 ざわつく市民達に対し、ランスが事情を懇切丁寧に説明した結果どうにか収まり……そして現在の雪合戦の所に戻るのである。

 どうせ正体がバレたのなら、いっそのこと民達と親睦を深めましょうとはゲルダの言葉である。

 ランスも、少しだけならと許しを出していた。

 

 そこから暫くして、雪合戦から抜けてランスの下にやって来たサイト。

 その顔には少なからずの高揚感が滲み出ており、『楽しい』が前面に押し出ているようで。

 ランスは小さく笑うと、そんなサイトに話しかけた。

 

「楽しかったのか、サイト」

「うん! 雪で遊ぶこと自体が滅多にないからさ、もう楽しいのなんのって! あっ、後で雪だるまとかも作ってみたいかも。ランスさん、作り方のコツとか教えてよ!」

「ふっ、いいぞ。……しかし、こうして平和な時間が生まれるのを見ていると、先程まで起きていた嫌な出来事が嘘のようになるな」

 

 会話の中で、ランスはそんな事を口にする。

 嫌な出来事とは、薬によって暴れた人が雪像を破壊した事だろうとサイトは思案する。

 元の目的、薬の出処を暴いて出品・売買の取引を停止させる事。

 その目的の為に自分は来たのだと、サイトは改めて気を引き締めた。

 が、そんなサイトの姿を見たランスが申し訳なさそうに視線を兎の少年に向けて口を開く。

 

「あぁ、すまない。何もお前がはしゃいでいるから釘を刺しておこう、と思ったわけではないんだ。ただ単純に、嫌な出来事も嬉しい事が起きたら上書きされて、心が善く満たされるものなのだな、と。そう感じただけだから」

「……あの、ランスさん。気になってた事を聞いても、いいですか? 貴方とゲルダさん、そして貴方のお兄さんであるハスタ。今はダハーカと名乗っていた、あの人との関係について」

「その事、か。いいぞ、この際少しだけ語っておこうか。俺の事やゲルダ達フィデーリス家の事、それからハスタ兄さん。これらの関係性や、その過去についてを」

 

 そこから、ランスはゆっくりと語り始めていく。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 蒼く寒々しい洞窟。

 獣龍種を生み出す為に使用する場所である神聖な霊域。

 名を、『魂命の渦』

 そこで沢山の龍族(ドラコノス)魔女(マガ)エルフ族(ナチュラノス)に囲まれた中で俺は生まれた。

 

 お前には話した事があるが、俺は魂を視ることが出来るだろう?

 それは赤子の時点からそうでな、他者の魂を視ることが出来た。

 しかし、赤子の段階で魂を知覚するような事が出来てしまうと、脳にも自身の魂にも多大な負荷がかかるようでな。

 俺は発狂しかけた。

 赤子が発する泣き声の限界を極めた様な、そんな金切り声をずっと発し続けて助けを求めて。

 そんな中で、俺を助けてくれたのは……兄さん。ハスタだった。

 赤子の俺を優しく抱きかかえながら、ハスタ兄さんは俺の目を手で覆ってこう言ったんだよ。

 

 『ゆっくり眠れ。今のお主がする事は、ただ暖かな安らぎを求めることだけなのだから』

 

 ハスタ兄さんは俺より二百年ほど先に生まれていた一人目の獣龍種(ドラコティアノス)で、ラヴィーネの脅威であった厄者『メーディア』を退けた英雄的存在。

 その功績から龍族はフィデーリス家との縁が出来て、今の時代まで続く関係になっていった。

 そんなハスタ兄さんに、俺は育てられた。

 基本的な生きていく為の知恵や知識、戦う(すべ)、世の不思議な出来事や昔話に、魂とは何なのか……そういった事を、教えてもらった。

 ハスタ兄さんは、こんな事を話してもくれたよ。

 

『お主は魂を視れてしまう。その(まなこ)で、人の考える事や過去までもを見通す事が出来てしまうことだろう。だがな、ランス。それだけでは、人を完全に理解することは出来ないぞ。中には自身の魂を欺かせてまで生きようとする者もいるからな。そんな者もいる中でどうすればいいか、お主は分かるか?』

  

 俺はその問いに、小さく首を振った。

 そんな俺に優しく微笑みかけて、ハスタ兄さんは答えを教えてくれたよ。

 

『対話をする事だ。話して、何を思っているかを更に事細かく知っていく。その中に眠る感情の重なりを紐解いていくことで、初めて人を理解する事が出来る。相手も、話を聞いてくれたり理解を示してもらえると、最初は警戒の色をしていた魂も朗らかで落ち着いた色の魂になる。そうやって、人を視るんだ。……難しいだろうが、お主ならきっと出来るぞ、ランス』

 

 人を知る為には、対話をしなければならない。

 対話をして、その中に眠る感情の重なりを紐解いていけば、人を理解する事が出来る。

 頭を撫でられながら話されたその内容は、とても説得力があった。

 かなりの難問だとも思ってしまったが……良い指針になっている。

 

 ここまで話して、次に話すのはフィデーリス家の事だ。

 フィデーリス家とは、遥か昔。

 およそ五百年前程から存在している由緒正しい家柄だそうでな。

 スノウステイトの発展に貢献したり、他所の国との交易も盛んに行っていたそうで……交友関係も広く、力があったんだ。

 けど、龍族との関係はまだその頃は特に親しくなく、お互いに一定の線を引いていたそうなんだ。

 龍族は自分達の古式ゆかしい伝統を穢されたくないと思っていたから、フィデーリス家はそんな龍族の閉鎖的な状況を怖がっていたから。

 

 そんなフィデーリス家と龍族が親しくなった原因は、災厄と厄者。

 あの怪物達がここラヴィーネやスノウステイト全域を脅かした時に、協力関係を持ったんだよ。

 フィデーリス家のその時の当主の方から、今は力を合わせなければならないときだと交渉しに行ってな。

 龍族もそれに同意し、早速行動を開始した。

 その際に、フィデーリス家が様々なツテを使って魔女やエルフ族を結集させてとある儀式を行うことになったんだ。

 

 それは、獣龍種という種族を生み出す事。

 

 生命力と身体能力に秀でた獣族(ベスティアノス)と、魂に関する能力と強固な身体を有した龍族との異種混合体(ハイブリッド)を戦力に加え入れれば、災厄や厄者に対抗できると思ったんだろうな。

 そして、その思惑も見事に成功したわけだ。

 ハスタ兄さんが生まれ、厄者も退けられた。

 これにより、フィデーリス家と龍族は一時的な協力関係から正式な同盟を結び、今に至る。

 

 それで、ここからが本題。

 そんなフィデーリス家と俺たち獣龍種との間に、何があったのか。

 それは――――。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 話をしようとした、その途中で。

 ゲルダが雪合戦から抜け出して、サイト達に歩み寄ってきた。

 爽やかな笑顔をする彼女は、その表情のままサイト達に話しかける。

 

「いやぁ、とても有意義な時間でした! 子供達も元気いっぱいで、ひとまず良かったです! ……もしかして、何かお話していましたか?」

 

 彼女の言葉に、ランスが顔を上げて返答する。

 

「丁度いい。ゲルダ、お前からも話をしてくれ。俺やハスタ兄さんとフィデーリス家。この関係についてを」

「あぁ、なるほど。その件でしたら、確かに私が話さなければならない事ですね。分かりました、では話しましょう。……私達フィデーリス家がした事は、ひと言で言えば、重罪なのです」

「重、罪? それって、何かの罪を犯したって事だよね? 一体、何を?」

 

 サイトの問いに、ゲルダは目を逸らさずにはっきりと答えた。

 

「その罪というのは……彼ら獣龍種に様々な仕事を押し付けて過剰な労働を強いた挙句、関わりを持っていた貴族の企みに気づかずに彼らを死に追いやりかけた事、です」

 

 サイトは、固まる。

 冷たく、肌を刺す風の感触がやけに鮮明に感じるのが良くわかる気がして、サイトは自身の腕を思わず擦った。

 聞いた内容の意味を、頭で咀嚼する。

 つまり、それは。

 フィデーリス家……ゲルダがあのハスタという人物に、下手をすればランスにさえ恨まれる理由を明確に持ち合わせているかもしれないということだ。

 どう話せばよいのか、サイトは口からそれとない「えー」とか「あー」といった言葉しか出せなくなっていた。

 そんな中で、ランスが補足するように口を開いていく。

 

「誤解がないように訂正しておくが、その時は魔獣の被害が頻繁に起きていた為にやむなく駆り出されていたんだよ。貴族の件に関しても……あれはどう考えても奴らが悪い。少なくともゲルダが責任を感じる件ではない、とだけサイトに言っておくぞ」

「あっ、えっ、と……うん、分かった。色々と受け止めなきゃいけない事が多すぎて、キャパオーバーしてた」

 

 後頭部をかくサイトは、にへらと崩した笑みを浮かべてランスとゲルダを交互に見やる。

 少し気まずい空気が流れる中で、ゲルダは更に言葉を続けていく。

 

「ランスがそう言っても、やはりあの件は父上や母上、それに他の従者達もどうにか出来た問題なのではないかと思ってならないのです。何故、あんな悪意が野放しになっていたのかと思うとそれだけで……!」

「だから、それはお前の責任じゃない。更に言えば、お前の父や母に関係者、その全てにも責任はないんだよ。現れた悪意が偶然、俺達に向けられた。それだけの話だ。世の中を生きていれば、起きうる話。それで済む」

「……貴方がそこまで言うのなら、もうここではこれ以上話しません。納得は、していませんけど」

 

 ランスに諭された結果、あからさまに眉間に少しシワが寄った表情をしながらも、ゲルダは話を打ち切った。

 沈黙が彼らを包む中で、サイトは考える。

 この状況で何を話せばよいか、自分はこれらの話を聞いてどう思ったのか。

 腕を組み、うーんと唸りながら考えに考えて……やがて一つの結論が彼の中に浮かんだ。

 自身の考え出した気持ちを話す為に、サイトはその閃きのままに話をしていく。

 

「えっとさ。僕はランスさん達の昔の状況を話からでしか想像できないから、詳しい事は言えない。その時の気持ちとか、後悔とかは……ランスさんやゲルダさん、それにハスタさんにしか分からないことだと思うしね」

 

 サイトの言葉に、ランスやゲルダが耳を傾けていく。

 真剣な表情で、彼の言葉の続きを待つ。

 

「でも、これだけは言えると思うんだ。ゲルダさんは少なくとも、ランスさんやハスタさんを貶めようとする人なんかじゃないってさ。子供たちと無邪気にはしゃいで遊ぶ、そんな純心な人。それに……あの時ハスタさんに槍を向けられても、物怖じしなかった。それは貴女に、芯があるからだよ。目の前の脅威に立ち向かえる、高潔な心。それがあると、僕は思う」

 

 言われたゲルダは、目を丸くして驚いた。

 自身の為そうとする事は、王家としての責任を全うして民に尽くす事。

 それを信条とする彼女からしたら、その時の行動も責任を取ろうとしただけに過ぎないと思っていた。

 何気ない当たり前の行動、当然の行いであると。

 しかし、民や貴族、両親や従者からはこう言われていた。

 

 【貴女はお転婆が過ぎる。もっと控えめになり、危険な事に身を冒す様な真似は止めてほしいと】

 

 だからこそ。

 こうしてストレートに褒められたことが、ただただ驚きでいっぱいなのだ。

 そうした彼女の様子を見たランスは、その真顔な表情のままに、真剣な声色で彼女へと声をかけていく。

 

「ゲルダ。サイトは本心からそう言っているぞ。魂を視れる俺からのお墨付きだ。コイツは、他者へ思った事を素直に吐き出せるタイプなんだよ」

「……そう、なのですね。いえ、とても嬉しいですよ。その様に言ってもらえることは、非常に。ふふっ、ありがとうございます。サイトさん」

「………………何でそんなに僕の事を、微笑ましい奴みたいな目で見るんだよ二人とも!」

 

 サイトが抗議するような視線を向けるも、ランスとゲルダは微笑ましく笑うのみ。

 そうして、彼らの時間は過ぎていく――――。

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