「まずは小手調べ」
一番に行動したのは、メーディア。
彼女は浮遊させた桃色の珠を勢いよくサイト達に射出させた。
向かってくる珠をサイト達は躱していく。
と。
――――後方から、爆発音が鳴り響いた。
やはり、とサイトはそこで顔を顰めていく。
あの桃色の珠は十中八九、爆弾の類のものであるのだと確信を得る。
であれば、あの桃色の珠には触れないようにするのが無難だろう。ついさっきにも爆発を受けているから分かるのだ。
あれは何度も喰らっていいものではない、と。
空中を飛んでいたあの時、もし体に密着した状態で爆発していたら……想像しただけで、サイトの体はゾクリと身震いする。
油断なき様に、目の前のメーディアを睨みつけていく。
が、敵はそれだけではない。
もう一人、ダハーカが足を勢いよく踏みしめると、そこから氷結が無尽蔵に生み出され、サイト達に襲い掛かる。
「っ! 洞窟の時よりも多い――――」
「ぜあっ!」
サイトが行動に遅れるのを援護するように、ランスが槍を振るって氷を砕いていく。
そんな彼を、メーディアの桃色の爆弾が追撃していく。
「ランスさん!」
サイトは素早く剣を振るう。
それにより生み出された風の刃によって、襲い掛かる爆弾は全て爆破されていき、爆風が辺りに轟々と吹き荒れていく。
サイトはそのまま、ダハーカの動きを止めようと接近。
斬りかかりどうにか氷結を止めようとした。
しかし。
「させるわけないでしょう?」
メーディアはニヤリと笑みを浮かべると、サイトに向けて多くの爆弾を射出させ爆発させる。
サイトはすんでの所でその爆発を後ろへと飛んで躱した。
――――くそっ、近寄れない!
そうして歯痒く思っていると、メーディアは妖美に笑い上げていく。
サイトの悔しさが滲む顔を、心底面白いとでも言うように。
その挑発ともとれる笑い声に、サイトは眉をピクリと動かして反応した。
「何が可笑しいんだ!」
サイトの怒りを含んだ言葉に、メーディアはこれまた愉快そうに口の端を吊り上げていく。
その狂気にも似た顔つきを保ったままで、彼女はサイトの言葉に答えた。
「ふふっ……だって貴方、
「なっ! お前……何を、言って!」
「自覚があるでしょう? 貴方はそれ程強くはない。えぇ、それこそ一人では何も成し得ない程に。脆弱で浅ましく、無謀で愚かしい。本当は誰よりも、貴方は貴方の事をそう思っている」
ズン、と。
心に重く圧しかかる、メーディアの言葉。
自分自身で感じている、自分に対しての不平不満を言い当てられたサイトの心は酷く荒れてしまった。
嵐の様に乱れてしまう心は、その勢いのままにメーディアの言葉に釣られてしまう。
即ち、煽りに乗っかるということ。
本来ならば耳を通り過ぎる様な言の葉である筈なのに、今の焦るサイトには十分過ぎる乱しであった。
「お前に、何が分かる」
「分かるわよ? 私は貴方みたいな弱々しい人類を沢山見て、聞いて、触れてきたのだから。その考え方の傾向も、癖も、全て分かってしまう。うふふ、そうして私の煽りに無様に乗っかってしまう事も含めて、ね」
「黙れ! お前に言われなくても、僕はちゃんと自覚しているさ! 自覚しているからこそ、ここにいる! だから、お前なんかに罵倒される謂れはない!」
その気迫は鬼気迫るものがあり、常人であれば怯えてしまいそうになるほどのもの。
しかし、メーディアはそんな圧を受けても怯えることはない。
それどころか、より笑みを濃くしていくばかりだ。
そんなメーディアの様子を訝しがる冷静さを欠いたまま、サイトは剣を構えていく。
力が、集まる。
「『猛き風よ。果敢に進み、命を繋ぎ――――」
『待て、サイト! 奴の様子がおかしい、何かを考えている筈だ! 心を落ち着かせろ!』
「落ち着けるわけないだろうが! 『我が行く道を切り開け! 威風永劫――――』」
ハヤテの制止を無視して、芯技を放とうとするサイトであったが。
「あがっ!?」
突如として背中にあり得ない程の衝撃が走り、防がれる。
拒む事の出来ない常人ならざる痛みと共に、サイトは床へと倒れ伏してしまった。
背中側のケープには爆破跡。
メーディアがこっそりと背後から爆弾を浮遊させ、爆発させたのだ。
「サイト! ぐぅ……!?」
心配するランスだが、その余裕は与えられない。
複数の爆弾が、彼を襲う。
「邪魔がいなくなっちゃったわね? ほら、足掻きなさいな!」
愉しげに爆弾を射出させるメーディア。
その爆弾の数は夥しい程に多く、ダハーカの氷に手を割かれていた為に防ぐ事が出来なかった。
爆発の威力は想像を絶した。過剰な程の熱と、焼き付くような痛みをランスに与え――――声なき悲鳴をあげさせる。
「〜〜〜〜――――!!!」
際限なくランスの体を傷つけていく爆弾は、絶え間なく連鎖爆発する。
それは、ランスの苦痛や怒りの感情に呼応するかのように威力を増していき、最早ランスの身体は見るも無残な姿となってしまっている。
しかし、ランスは歯を食いしばって耐える。
耐えながらダハーカからの氷を砕いていき、反撃のタイミングを伺うのだ。
そんな彼の姿を見た、ダハーカは――――氷の柱を生み出すのを止めた。
突然の行動にランスのみならず、メーディアも驚いてダハーカの様子を伺っていく。
そんな彼らの視線を受ける中で、ダハーカはランスに向けて問うていく。
「何故、諦めない。ここまで十分に苦しんできた人生だっただろう? 悲しかっただろう、恐ろしかっただろう? なのに……何故だ! 何故、自分から苦しみ続ける選択を取る!? お主の中で、何がそうさせるんだ!?」
問いを重ね続ける内に、気持ちが昂ぶっていくのか声はどんどんと大きくなっていった。
魂からの叫び。喉が張り裂けんばかりの怒声をダハーカは吐き出していくが、収まらないようで。
自身から極寒を感じさせる程の冷気を放出させながら、足りないとばかりに心情を吐露し続ける。
「巫山戯るな! 巫山戯るな! 巫山戯るな! お主が苦しむ必要はないと、こんなにも言っているというのに……何故、それを理解しない!? 我の気持ちを否定してまで、お主は苦しみたいというのか!?」
「……苦しみたい、か。それは、違う。俺はな、ただ
「大切な人、だと? お主にとっての大切な人とは、誰だ? よもや、あのフィデーリス家の王女の事を指しているのではあるまいな?」
鼻筋に皺を寄せ、苛立ちを隠さずにそう問いただすダハーカ。
それに対し、ランスは――――しっかりと前を向いて、答えた。
「ゲルダもそうだが……俺が信じる大切な人の中には、あんただっているんだよ。ハスタ、兄さん」
「はっ……? 気でも狂ったのか、貴様は。我を信じて何になる! 我を信じた結果お前は、炎の中に閉じ込められた挙句にトラウマとなるほどの重傷を負ったのだぞ!? そんな我の事を信じるなど……無垢であるのにも限度があるだろう!」
「違う! そうじゃ、ない! 無垢なんかじゃない、この心はもう既に、沢山の事を知ってしまっている。人の営みの愚かさや醜さ、その中に確かにある喜びや尊い感情。様々な感情を叩き込まれてきたさ! けど、その全てが善くないことだったなんて、俺は言えない!」
問答が続く中で――――爆弾が飛来する。
それはランスにぶつかる直前で爆発し、ランスを吹き飛ばすには十分な威力だった。
床を転がり悶えるランスをよそに、メーディアは戸惑いを見せ続けるダハーカへと猫撫で声で話しかけていく。
「ねーぇ、ダハーカ? 何も悩むことなんてないでしょう? 貴方は素敵な目標を達成する為に、目の前の敵を尽く粉砕する。その為には、最愛の存在であっても手をかけなければならないし、誘惑に負けては駄目。そうじゃないの?」
「……分かっ、ている! 言われなくとも、我は我の為すことをするのみだ!」
「きゃっ♡ 勇ましいコト。だったら、早くトドメを刺すことをオススメしておくわよ? でないと、ほら」
メーディアの指さす先では、ランスが必死に力を振り絞りながら立ち上がっていた。
ボロボロになりながら、満身創痍に近くなっていても諦めない。その姿は、まるで過去の自分にそっくりで――――とても、見ていられない。
ダハーカは、顔を逸らす。
そんな彼の行動に、口を開く存在が一人。
「あん、たは……そうやって、全部から目を逸らすつもり、かよ!」
立ち上がる。
ケープの背中側に付いた爆発跡が痛々しくも、懸命に震える足を支えながら。
ダハーカへと怒りを露わにする兎の少年は、息を荒く吐き出しながらも続けて叫ぶ。
「あんたの方が、よっぽどふざけてる、だろうが! 何が悲しかっただ、恐ろしかっただ! 何が……理解しないだ! あんたは! そうやってランスさんに、全部押し付けて! 何も
その、言葉に。感情のままに言い放たれたそれに、ダハーカは――――殺気を。これまでに見せたこともない、純然たる殺意をサイトに浴びせかけた。
圧倒される。その殺気に、サイトは気圧されて生唾を飲み込む。
ダハーカは、重々しく口を開く。
「貴様に……何が分かるというのだ」
語り口は緩やか、しかしてその声は底冷えするかのように低く暗く、おどろおどろしい。
ポツリ、ポツリと呪詛のように言葉は吐かれていく。
「我らはずっと、都合よく扱われてきた。いつだって矢面に立たされ、傷つくことを強制され、あまつさえそれ程の重荷を背負わされたというのに……結局待ち受けていたのは、見当違いな嫉妬と疎みから生じた悪意の塊によるあの仕打ちだ」
「…………」
「貴様は、我らに何の文句も零さずに使い潰され、そして死ねと言いたいのか? その方が、よっぽど巫山戯ているだろうが。だからこそ我は抗う。抗って、そして人類共に刻みつけてやるのだ。自分達が自発的に動かねば、世は乱れ壊れ、朽ちていくだけなのだとな――――」
ダハーカの周囲が、吹雪いていく。
サイトの獣毛に、冷や汗が滴る。
気温も体温も、一瞬にして低下していく。本能からの恐怖が、サイトを襲っている。
そして、ダハーカはその目隠しで見えない目を向けて――――宣言、する。
「『
その、言葉。それだけで、王広間は一瞬にして銀幕の世界に包まれる。そして――――。
「芯技、解放――――『
ダハーカの芯技が、発動した。