フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

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第五十六話 貴方の在り方って何なの? 後編

 骸骨(スケルトン)に首を掴まれ、命を握られているにも関わらず。彼の視線は力強く、恐れはない。

 そんなコトノハの視線を受けたミアは、興味深そうに視線を彼へと移し、鼻を鳴らしながら言葉を返していく。

 

「随分と、強く言い返してくれるじゃない。私の語りが不快、しかも全て私の主観でしかないですって? なら、目の前の蒼い狼の彼の反応はどう説明するの? 図星、ってやつなんじゃないのかしら?」

 

 ソウジをだしにして、自身を正当化しようとするミア。

 しかしそんなミアの言葉に、コトノハは真っ向からはっきりと物申していく。

 

「実際問題、不快だろう? 人をおちょくるような言動に仕草を取っていれば、誰だって嫌な気持ちになるし……今ソウジが戸惑っているのも、そうした不愉快な言動に翻弄させられてしまい、辟易しているからさ。だから、悪いのは全て君だ。ソウジに非は一切ない。それに、ソウジはしっかりと向き合える人だからねぇ。真面目なのも善き特色さ。それを君が馬鹿にするような資格は無いと、俺は思うがね?」

 

 ピシャリ、と。迷うことなくコトノハは言い放った。

 その言葉に、ミアは無表情。観察する様なじっとりとした視線を、コトノハに向けていく。

 そして、ソウジはというと。ハッと、目を丸くしてコトノハの方を見ていた。

 

 ――――俺を、励ました、のか?

 

 どういう意図で、どうして自分の事を庇ったのかは分からない。

 けれど、そんな風に励まされてしまえば。もう、悩んでいる事自体が馬鹿馬鹿しい。

 そもそも、既に決めているのだ。サイトにも話した、あの言葉通り。

 

「あぁ、そうだ。俺は……自分で勝手に人を助けるんだよ! 困ってる奴を放っておけないから、だから! 支えられるような奴になりたいって、決めてんだ!」

 

 ソウジは声高らかに、改めてそう宣言する。

 その彼の発言に、ミアは眉根を寄せながらまた煽るような口調で口を開く。

 

「ふーん? いいのかしら、そんな調子で頑張って。貴方の身勝手な行いに、迷惑する人もいるかもしれないわよ?」

「あぁ、もしかしたらそう思う人もいるかもな。でも、そうやって自分から線を引いて、助けられたかもしれない人を助けられないんなら……助けたほうが良いに決まってんだろ!」

 

 もう、ミアの言葉には惑わされない。

 ソウジは力一杯の笑顔と言葉で、狂喜の魔女に反論していく。

 そんな彼に、ミアは無表情から一転して笑みを浮かべると、煽る仕草をとって再度挑発していく。

 

「あらあら? そんな反抗的な行動をとっていいのかしら? 私の気が済むまで話を聞いてくれない限り、そこの壮年の方は解放しな――――」

「ソウジ! もういいぞ! 俺の事は気にせず、存分に暴れてやれぇい!」

「はっ?」

 

 間の抜けた声を出すミア。

 それもそうだろう、人質になっている筈のコトノハからその様な突飛な発言が飛び出したのだから。

 何かをしでかされる前に、息の根を止める。そう行動しようとする前に――――既にコトノハを捕らえていた骸骨は胴体が切断されて塵になりかけていた。

 

「なっ! 嘘、いつの間に――――」

「はっはぁ! ナイスだ()()()()! その手際は相変わらずの腕前だなぁ!」

「あんった危ないんすよぉ!? でも、やるだけやってやったっす!」

 

 コトノハの()から現れた、狐の獣族(ヴィシオ)の姿をミアは視認する。

 驚愕とも、()()とも取れる笑顔を浮かべて彼女は少しだけ隙を晒した。 

 その一瞬の隙を、ソウジは見逃さない。

 覚醒石を発動させ、足を踏み込んで瞬時にミアの懐へと迫る。

 どうにかして爆弾を展開するミア。しかしそれは全て、頭上から突如として振り注がれた落雷によって消し飛ばされる。

 またも、ミアは目を見開いた。その視線の先には、弦楽器(リュート)を厳かに奏でているコトノハの姿。

 

「『神の雷霆轟くは 地下の霊脈這いし墓所 我らに仇なす闇の者 この雷霆に裁かれて その身を震わす事だろう』」

 

 唄が紡がれ、それに伴って落雷は激しく振り注いで、ミアの身体にも衝突し麻痺させる。

 身体は動かなくなり、逃げることも叶わない。

 

 そこを――――ソウジは斬り裂く。

 

「神薙流抜刀術・蒼、四の型! 水平千刃(すいへいせんじん)!」

 

    ―――― 一 刀 両 断 ――――

 

 真横に斬り伏せ、鎮圧する。

 ミアはその場で膝をつき、斬られた箇所を押さえて呻き声をあげていく。

 その間に、ソウジはフロスティアの下へと駆け寄った。呼吸をしている所から、無事な事を確認したソウジは安堵の息を吐き出す。

 そして、ソウジは立ち上がってミアへと近寄ると、刀を首元へと突き立てた。

 

「終わりだ、ミア。抵抗せずにいろよ。そうすりゃ、命までは取らねぇから」

「……ふふっ、くふっ、アハハッ、アッハハハハハハハハハハハハハハァァァァァ!!!!!」

「な、何で笑ってんだよお前。何がおかしい!」

 

 危機的状況、絶体絶命とも言える状況下であるにも関わらず、ミアは口元から血を零しながらも声高らかに笑い上げる。

 あからさまに、喜んでいる。ソウジは不気味な感覚を覚えながらも、刀を当てることを緩めない。

 そうしてひとしきり笑い上げた後、ミアは大きな大きな息を吐き出すと――――ポツリ、ポツリと語り出す。

 

「はぁ〜〜〜〜〜……そうだった、そうだったね。いたね、そんな人達も。闇に生きる暗殺者の家系、()()()()()()()の末裔かぁ。おまけに神域の吟遊詩人? ははっ、ほんっとうに貴方達みたいな勇者って、縁が強いよねぇ?」

「あー? 何かボソボソ言ってるっすよあの女。つーか俺の家の事も把握してるって、マジなんなんすかこの魔女、こっわ」

「でもねぇ? 貴方達程じゃあないけれども。私にだって“縁“って呼べるものは、あるんだよ?」

 

 ニマリ、と。ミアはこれまで見たこともない不気味な笑顔を浮かべる。

 狂喜……その言葉の通りの、狂った喜びを表す笑顔を。

 その狂った感情に当てられたのか、ソウジとヴィシオは怖気が全身に行き渡って動けなくなってしまう。

 その中で、コトノハは。

 

「っ、ソウジ! トドメを刺すんだ、早く!」

 

 とてつもなく恐ろしい予感を感じ、ソウジに指示を飛ばす。

 だが、時すでに遅し。

 

「あっはぁ! 出番よ、()()()! この人達をちょっぴり脅してちょうだいな!」

 

 ミアの放った言葉と共に、墓所内に立ち込めるのは――――殺気。

 混じりっ気のない、純然たる害を為すだけに存在する感情が、この場のミアに敵対する者全てに向けられていた。

 そして、それに気付くのと同時に。

 

 ソウジは、自身の首が刀に刎ねられる想像を想起する。

 

「っ!?」

 

 それはもう、紙一重であっただろうか。

 野生の本能に近しいもので、ソウジは首元に迫っていた真っ黒な刀身を持った刀らしき武器を自身の刀で防いだのだ。

 ぎりぎりと鍔迫り合いをする中で、ソウジはこの一刀に込められた技に覚えがあった。

 

 ――――この剣技、神薙流抜刀術(かんなぎりゅうばっとうじゅつ)に似てる……!?

 

 困惑する中で、押し負けそうになるソウジ。どうにか踏ん張るが、時間の問題だ。

 そこを、ヴィシオが突貫する。

 覚醒石を発動させ、首に黒のスカーフが付き衣装が変わる。

 そして両手に出現させた二振りの短刀を構え、ソウジを強襲した姿の見えない存在に攻撃を仕掛けようとする。

 ソウジの手前辺りに向かって、短刀を投げつけた。すると――――短刀は弾かれた。ソウジを斬りつけるのとは別の小刀で、簡単に。

 

「なっ!?」

 

 驚く間に、次の展開は巻き起こる。

 鍔迫り合いが解除され、ソウジは何者かに腹を蹴られ吹き飛ばされる形で壁へと激突していったのだ。

 戸惑うヴィシオだったが、そんな彼にも危機が訪れる。

 殺気が今度はヴィシオ目掛けて迫り、そして首を狙ったのだ。

 ヴィシオはそれをどうにか手元に戻した二振りの短刀で軌道を逸らす。

 しかし、その逸らした際の隙を狙われ――――ヴィシオもまるで回し蹴りを食らったかのように側頭部を蹴られ、そのまま壁へと吹き飛ばされた。

 一気に、形勢が逆転した。

 最後に残ったコトノハに対しても、謎の存在は殺気を向けて襲いかかろうとするが――――。

 

「はいはい、そこまででいいわぁ。お疲れ様ね、マガツ。そろそろあっちも終わりそうだし、回収した後に撤収しましょ?」

 

 ミアが手拍子をしつつ、それを止めた。

 どういう事かと、コトノハはミアを睨んでいく。

 が、ミアは指を何度か振ったかと思えば、戯けた調子で話し出す。

 

「約束。私のお話に付き合えば、貴方(コトノハ)には手を出さない。まぁ、貴方達から約束は破ってるんだけど……その方が、印象は良くなるでしょう?」

「……寧ろ、より悪辣な者だという印象になったがね。本当に君達は、何者なんだ。厄者に協力して世界を崩壊させようなどと」

「あら、必死になってきたわね? でも、そこはまだ語らないわ。来たるべき時が来たら、語る。それだけよ。それじゃ、バイバーイ♪ 今度会う時は、もっと刺激的なコトをしましょう!」

 

 ミアの言葉が終わるのと同時に、彼女を黒い靄が包んでいく。

 どうにかして立ち上がろうとするソウジとヴィシオだったが、コトノハが手で制してその動きを止めた。

 ミアを守るようにして、謎の存在が殺気を常に放ち続けているからだ。

 手出しをすれば、今度こそは確実に殺られる。それを理解するから、コトノハは止める。

 そして、悔しげに拳を握りしめながらコトノハは、狂喜の魔女が消えていくのを見送った。

 あれだけの戦闘があったにも関わらず、辺りには静寂が染み込んでいる。

 その中で、ソウジは座り込みながらも、拳を地面へと振り下ろし。

 

「ちっきしょぉ……!」

 

 唸り、歯を噛み締めるのであった。

 

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