フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

58 / 63
第五十八話 決着と混乱の先に

「そ、そんな。やっ、ぱり……やっぱりあの目は、そういう事、だったのかよ……!」

「っ! あぁっ、嘘だろう!? 兄さん、ハスタ兄さん!」

 

 驚愕で動けずにいるサイトと、そんな彼よりも更に動揺しながら急いで立ち上がり、ハスタへと駆け寄るランス。

 透けて消えかかるハスタの身体をどうにか抱き締めようとするが、すり抜けてしまう。

 膝から、崩れ落ちるランス。そんな彼の下にハスタは近づいて、しゃがみ込んでいく。

 

「ほら、ランス。顔を上げてくれ。最期に大好きなお主の顔を、よーく見させておくれ」

「いや、だ。そんな、最期だなんて言わないでくれよ、兄さん! せっかく会えたのに、これからだって時なのに! 何で、どうしてこんな……!」

「……洞窟でも言ったが、お主は何も悪くないよ。それだけは、断言出来る。それに、こうして我が消えるのだって我が自分で選んだ道さ。お主を助けられるのなら悔いはない。寧ろ、本望さ」

 

 触れられないが、ランスの頭を撫でる仕草をするハスタ。

 そんなハスタの仕草に、ランスは反応して顔を上げていく。

 緑色の眼が、交わされていく。ハスタは柔和な笑みを浮かべ、そのままランスの額に自身の額を当てる仕草を取って、言葉を続けた。

 

「お主が生まれてきてくれて、共に過ごしてきた毎日はキラキラしていた。この寒冷の地において、我が暖かで柔らかな感情を抱けたのも……全てお主のお陰だ、ランス」

「っ、俺だって……兄さんのお陰で、色々、出来るようになって。人の魂を視るのだって、兄さんが教えてくれたから視れるようになったんだ! 全部、兄さんのお陰だ! だから頼むよ兄さん! 死なないで、くれぇ……!」

 

 慟哭。吐き出された想いはハスタへとぶつけられる。それは、心の底からの願望そのもの。

 そんなランスの叫びにハスタは困ったような笑みを浮かべると、静かに抱き締める仕草を取った後、(ランス)の頭を撫でていく。

 

「ありがとう、ランス。お主がいてくれて、我は幸せだった。それと、ここからは我儘だ。我がいなくなった後も……気高く、強く、誇らしく在れ。他者との対話を忘れるな。我とも対話を諦めなかったお主なら、きっと、やっていける、さ――――」

 

 ハスタは、光の粒子となって散っていった。

 後に残るのは、倒れているゲルダや王様達に、凍りついたメーディア。項垂れて地面に手をつくランスと……それを悔しそうに、悲しげな目で見つめるサイト。

 

「ランス、さん……」

「兄、さん……! くそっ、くそぉっ! 俺は、俺、は……」 

 

 兄を失ったショックからか、生き返ってすぐであるからか。ランスは力なく床へと倒れ込んでしまった。

 駆け寄るサイト。呼吸を見て、眠っているだけなのを確認する。

 そのまま兎の少年は、辺りを見回した。

 暗く重く、まるで時が止まったかのように錯覚してしまいそうな空間。

 所々で破損した柱や床に壁は、激戦の跡を思わせる。

 そんな場に――――似つかわしくない、大きな拍手の音が響き渡った。

 

「っ、誰だ!」

 

 立ち上がり、辛うじて振り絞った覚醒石(デザイアギット)の力で武装するサイト。

 警戒を向けた先にいたのは、ミア。彼女は微笑をその顔に宿しながら、優雅にゆっくりと拍手を繰り広げていき……やがてその拍手を止めると、大仰な仕草を取りながら挨拶を交わしていく。

 

「いやー、とても素敵な行いだったわぁ。そしてどうもこんにちは。貴方達とはここで初めましてだったわねぇ。私の名はミア。狂喜の魔女、と言えば聞こえはいいかしらね」

「お前が、狂喜の魔女。何しに来た! まさか、僕達を殺しにここに……?」

「アハッ、違う違う。私がここに来た目的は、そこのメーディアを回収する為。貴方達を殺すのなんて、いつでも出来るし」

 

 会話を交わしながら、ミアは靴音を鳴らしながらメーディアの下へと歩んでいく。

 そんな魔女の進行を食い止めようと、サイトが立ちはだかる。

 鋭く睨みつけ、風の剣を構えて臨戦態勢の状態。そんな兎の少年に、ミアは微笑を絶やさずに話しかけていく。

 

退()いてくれるかしら? メーディアを回収出来ないのだけれど」

退()くわけないだろ! 急に現れて、厄者を回収するなんて聞いて黙ってられるか! お前もここで倒してやる……!」

「勇ましいわねぇ。けど、そんなボロボロの状態で何が出来ると言うのかしら? ――――マガツ」

 

 ボソリ、と。最後にミアが呟いた言葉と同時に、突如として悍ましい殺気が場を覆った。

 ゾクリ、と。サイトは冷や汗を毛に湿らせながらその場で固まってしまう。

 今までに味わってきた敵意、殺意。それらを軽く凌駕する、この世全てを呪うかのような形容しがたい(プレッシャー)に、サイトは押し潰されそうになる。

 が、それでもサイトは立ち向かった。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 震える身体を誤魔化すようにして叫びながら、足を踏み抜いてミアへと突貫していく兎の少年。

 剣を構え、距離を詰めて斬り裂く。

 そんな彼の勇気ある行動は――――いとも容易く、止められてしまった。

 ミアに辿り着くまでに、剣が何者かに阻まれてしまったのだ。

 

「っ!? 剣が、受け止められて――――」

 

 そう認識したのと、同時に。サイトの腹に鋭い一撃が放たれる。

 貫通してしまったと錯覚してしまいそうな、重々しい蹴り。

 それを受けたサイトは、力無く床へと倒れてしまった。

 

「お疲れ様、マガツ。殺さなかったのも満点よ」

 

 その間にも、ミアは軽く笑いながらメーディアへと辿り着いていた。

 そして、手をゆっくりと振り払い背後に黒い靄を生み出していき……ミアはメーディア諸共、靄の中へと沈んでいく。

 倒れ伏す兎の少年を見たミアは、小馬鹿にするように息を吐き出して、言い放つ。 

 

「弱いわね、貴方」

「っ!」

「命を賭してメーディアを氷漬けにし封じたランス。命を捧げて弟を救ったダハーカ。そんな彼ら誇り高き獣龍種に比べて、貴方はどう? 胸を張って頑張れたって、言える?」

 

 ミアからの言葉に、サイトは否定が出来ない。現に今、床へと倒れて敗北しているのは自分なのだから。

 顔を下に向けていくサイトに対し、ミアは別れ際に一言。

 

「今のままの貴方じゃあ……惨めに死んでいくだけね。まっ、せいぜい頑張れば? じゃあね〜」

 

 そうして、ミアは消えていった。

 静かになった空間の中で、サイトはただ一人。

 

「…………」

 

 呆然と、顔を俯けていく。 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 それから、ラヴィーネでの一件は緩やかに収束していった。

 街中の骸骨達は全て崩れ去って塵になり、空へと流れ消えていき。

 (アモール)も中身の液体の色が急速に黒ずんで、無くなっていった。

 街の人々の被害も、ヴィシオ達が尽力したお陰で最小限に抑えられ。

 表面上は、甚大な被害もなく事態は沈静化された――――の、だが。

 

「そう、か。メーディアは連れられて、ランスの兄貴も……くそっ、悔しいぜ」

「そんな……! せっかく会えたのに、仲直りも出来そうだったのに! 何でそんな……こんなのって、ないよ!」

「……僕が、力不足だったから悪いんだ。もっと力があれば、こんな結末にはならなかった」

 

 ギルド『凍える龍の理想郷(アルゲオドラコ・アルカディア)』に備え付けられた、ソウジの部屋。

 そこで、ソウジとアリスはサイトから事のあらましを聞いていた。

 あらましを話すサイトの表情は、今までとは比べ物にならない程に沈み込んでいる。

 

 そうなってしまっても仕方のないことが起きてしまった。それは、この場の誰しもに共通する心境で。

 

 沈黙。いつもならここで、ソウジが何かを言うタイミングであるのに。当のソウジも深く落ち込んでいるのか、何も言えずに黙ったまま。

 事態は深刻さを増すばかり。そんな中で――――アリスはパンッと、手と手を打ち合わす。

 その音にびっくりしたサイトとソウジは、音を鳴らしたアリスを見つめる。

 アリスの表情は、真剣そのもの。彼らの視線を受けて、彼女はゆっくりと口を開いていく。

 

「二人とも。今は、私達に出来る事をしていこうよ。都の人達の心のケアとか、復興のお手伝いとか」

「アリス……」

「落ち込むのも仕方ない。私だって、悔しくて悔しくて堪らない。でも、今出来る事をやっていかなくちゃ、何にもならないんだよ。そうしないと……それこそ、敵の思う壺になっちゃうと思うから」

 

 アリスの言葉に、ソウジは驚いた表情を見せる。

 そんな風に諭されるとは思っていなかった。その表情から垣間見える意志の強さから……何かを、感じ取っていくソウジ。

 その小さな気づきに、彼は息を吹き出して笑い上げていく。

 

「ハハハッ! あぁ、そうだな。俺達に出来る事を、やっていくしかねぇよな」

 

 ソウジの言葉に、アリスは後になって気恥ずかしくなったのだろう、後頭部をかいて控えめに笑う。

 そんな彼女を、サイトは何とも言えない表情で見つめていく。

 

 そうして、彼らはラヴィーネの街中へと出る為に、部屋から出ていく――――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。