そのまた一方、ソウジはというと。
力仕事の大半を済ませ、今は木陰に身を寄せて休憩している最中だった。
フーっと一つ大きな息を吹き出して尻尾を揺らし、空を仰ぐ狼の彼。そんな彼に、軽快な調子で声をかける者がいた。
「ソウジー! やー、傷の方はどうだい? だいぶん癒えたかな?」
「コトノハ。あぁ、あらかた癒えてるよ。そっちはどうだ? ヴィシオも結構派手にやられてたし」
「問題ないさぁ! ……俺に関しては、特に何もされていないからね。寧ろ、君やヴィシオを危険な目に晒してしまった。俺が軟弱だったばかりに。すまないね、ソウジ」
最初に話しかけた軽快な調子は何だったのか、しょぼくれながらソウジに謝罪をするコトノハ。
そんなコトノハに、ソウジはわたわたと慌てた調子で返事をしていく。
「だぁー! いいっていいって! 別にあんたが軟弱だったわけじゃねぇよ。俺がまだまだ未熟だった、そんだけだ。付け加えて言い訳するなら……あんな殺意に満ちた奴相手に、こうして五体満足で生き残れてるだけ良かっただろ」
気遣うソウジの言葉に、コトノハは微笑んで答える。
「ふっ、そうだな。それに、厄者の行っていた凶行も食い止められたんだ。今はそこを喜ぶとしようか。これからのラヴィーネも、援助していかないといけないしね」
コトノハの話した内容に、ソウジは憂色を示す。
メーディアが機能を停止したことによって、確かに薬の中身はその全てが消え失せ、無力化された。しかし、既に薬を飲んで精神がおかしくなった者、そして薬の原料としてその身を使われ珠となった者はそのままだ。
犠牲者も少なくない。城の兵士や侍女も何名か亡くなり、都の建物や生活にだって傷をつけられている。
そんなラヴィーネのこれからを、ソウジは憂う。自分に出来ることを、とアリスに諭され動いてはいるが、それでも不安は拭えない。
しかし、ソウジがその様な不安感を抱えているのは、それだけが理由ではなかった。
そこに気がついているコトノハは、しれっとさりげなく、ソウジに話題を投げかける。
「ソウジ。君さぁ、なんか色々と悩んでるんじゃないかい? ミアに言われた事はある程度吹っ切れたとはいえ、心には染み込んでしまっているだろうし」
「……あー、まぁ、そうだな。確かに、気にはしてるよ。ヒノモトにいる兄貴と、出会うかどうかは」
「ふーむ。カンナギ家の今の当主と言えば、ホムラ・カンナギだよね? そんなに嫌なのかい? 噂では、人望厚く戦闘技術も凄まじい、
コトノハの疑問に対し、ソウジは「あーっ」と気まずそうに視線をそらしていく。
少しの間が空いたのち、小さなため息を吐いたソウジはゆっくりと口を開く。
「その通り、の人物ではあるんだよ。けど、なんつーかな。穢れを知らないというか、疑うことを全然しないみたいな……そういう世間知らずな所もある人なんだよ、あの人。自分に対する悪い評価も豪快に笑い飛ばして、全く気にする素振りも見せないし」
「ほほぉ。なら、良い人なんじゃないのかい?」
「良い人
苦笑いを浮かべて、ソウジは話していく。
身内だからこそ分かることがあるのだろう、とコトノハは思った。そして、ソウジが作り上げている壁のようなものも、また難解なものであるだろうと考える。
そこで、コトノハは
突然の行動に戸惑うソウジだったが、爪弾かれた弦の音色を聞いた途端にその戸惑いもなくなる。
軽やかに響く音色と共に、コトノハは
「『これは ある狼の 苦難と希望を 記す詩 蒼の毛並みを持つ彼は 兄の威光を身に浴びて 己の未熟を知ったという そこから彼は ひたすらに なりたい自分を 探してた そして気付いた その自分 人の為に動く自分 人の笑顔を見た彼は 自然と力が湧き上がる ならば もう やるべきことは 決まっている筈さ』」
そうして、コトノハの短くも熱のこもった演奏は終わった。
ソウジはすぐに気づく。これは、自分のことを題材にした詩なのだろうと。
思わず、照れ臭そうに頬をかいて視線をそらす狼の彼。励まされている、と理解してしまえば、そうしてもらっている自分が恥ずかしくなる。
が、ずっとそうして恥ずかしがっている訳にもいかないと、彼はコトノハの顔をしっかりと見つめて感想を話していく。
「凄く、良かったぜ。その、想いが伝わってきたっつーか、なんつーか……あー駄目だ! 月並みの感想しか言えねぇ!」
「ははっ! いいさいいさ。たどたどしくても、そうやって感想を言ってくれるだけで、俺は嬉しいからね!」
「……まぁ、うん。本当に、ありがとな。色々と、決意も固まった気がするわ」
礼を述べた後、ソウジは空を見上げていく。
雪がちらつき始め、雲が一面に広がった景色を眺めながら、彼は告げた。
「俺、ヒノモトに帰るよ。そんで、兄貴ときちんと話して……全部スッキリさせてくる」
その言葉は空に放たれ消えていく。
しかし、コトノハはしっかりとその言葉を聞いており。
二カッと晴れやかな笑みを浮かべて、ソウジのことを見守っていくと。
「俺も。また別の場所に行って、頑張るとするかね。サイトやアリスにも、よろしく伝えといてくれたまえ」
その様に、話していくのだった――――。