『魂命の渦』、その奥地の開けた空間にミア達はいた。
凍り付けにされた身体を解凍させられた、メーディアは。
「あァ……がっ、ヒゅっ、く、ひ、ひヒ……!」
『
しかし、漏れ出した声色からは恐怖の色はない。それどころか、興奮しきった状態で今の状況を受け入れている節さえ感じられる。
そんなメーディアに対し、ミアはニッコリと微笑みながら問いかける。
「さぁ、メーディア。貴女をこのまま吸収していくわけだけれども……最期に私から質問させて頂戴。貴女自身、貴女の愛は本物だったと思ってる?」
それは、純粋な興味からだった。あれ程の混乱を巻き起こし、他者の人生を滅茶苦茶にしたこの厄者の愛はどれほどのものなのだろう、と。
小さく、途切れ途切れの不気味な笑い声をあげ続けるメーディアは……ねっとりとした口調でミアへと答え返した。
「あ、はハ……そウ、ね。わた、シの、ハス、タに対す、る、想イ、ハ。歪んデた、け、ド。愛、ダった、と、ダ、け……」
放たれた言葉に、ミアは目を細めていく。その黒い瞳は、何を思っているのだろうか。
そして。
「あ、ガっ、ヒゅ、ぎ、ぃいぃいいぃぃ――――」
静かに、一切の抵抗すら行わずメーディアはミアへと吸収された。
靄から全身に、メーディアの力が染み渡っていくのを感じ取りながら、ミアは目を閉じる。
数秒、間が空いた後。虚空に向かって、彼女は話しかけていった。
「メモリ、見てるんでしょう? 私に何か言いたいことがあるようね?」
ミアの言葉に反応して、虚空に揺らぎが生じる。そこから伝播して、この洞窟内に声が響き渡っていく。
『……何故、最期の瞬間にメーディアへと問いを投げかけたのですか? アンチの時は、有無も言わさずに吸収したというのに』
「その事? まぁ、それに関しては私が興味を持ったからだけで済む話なんだけれど……それじゃあ貴女、納得しないでしょ?」
『えぇ、理由としては不十分です』
淡々とした言葉づかいのメモリに、ミアは少しだけ悩んだ素振りを見せる。
少しの間の後、彼女は髪の毛をくるくると弄りながらメモリの疑問に返答していく。
「メーディアは、歪んだ形とはいえダハーカのことを愛していたわよね? だから、厄者が恋をする理由に興味を持った。それが問いを投げかけた理由ね。それに貴女たち厄者って、人類の敵なんでしょう? そのうえ破壊衝動も持ち合わせてるのに、どうしてそうなったのかしらーって、ね」
ミアの疑問に、メモリはしばらく黙っていた。言えない訳があるのか、はたまた詳しくは知らないのか。
メモリに限って詳しく知らないことはないだろうから、前者であろうとミアは考える。
そうして体感的に三分の間が空いた後に、メモリが虚空から声を届かせる。
『厄者は、とある一人の人物によって生み出された、役割を与えられた存在です。自我らしい自我は、殆どその人物に作られたと言っても過言ではないでしょう。ですので、
「それじゃあ、厄者に性格や破壊衝動を植え付ける存在がいるってこと? それは、災厄ではなくて?」
『災厄様は眠っておられるので、そこに介入は致しません。破壊衝動や性格の傾向を植え付ける役目を負っているのは……デミウルゴスという厄者ですね。始まりの厄者であり、災厄様が封じられた際に最後の力を振り絞って生み出された、特別な厄者です』
メモリから出された情報に、ミアは目を見開く。破壊衝動は後付けであり、その後付けを行なっているデミウルゴスという厄者。しかもそのデミウルゴスは、始めに生まれた特別な厄者なのだという。
しかし、そこで新たな疑問も生まれる。そこを、ミアは投げかけていく。
「じゃあ、貴女には性格や破壊衝動が備わっていないの? 冷静に振る舞っているし、こうして理性的に会話も出来ているけれども」
『……私にも、備わってはいます。人類への殺意は絶え間なく滲み出ていますし、嫌悪もある。貴女へも、それは変わりません。利用価値があるから、殺すことは致しませんがね』
「ふーん……けど、最初にそうあれと植え付けられた仮初の感情が、やがて本物に変わるっていうのはあると思うんだけどなぁ。メーディアのあの恐ろしいまでの個人への愛の執着は、単純に与えられたからだけで保てる熱量じゃない筈だしさぁ。うーーーん、なんか話せば話すほど興味深くなっちゃうなぁ〜!」
ワクワクとした様子のミアに、メモリは不思議がった声色で問いかけていく。
『何故、そうまでして知識をつけたがるのです? 貴女は
「……そうねぇ。強いて言うなら、私の欲を満たしたいから、かしら? 言ったでしょう? 私がただ知りたいだけだって。そーいうことなのよ♡」
『……そうですか。分かりました、今回はこの辺りで話を終えることとします。そして、最後に一つ。貴女の持つ
メモリからの最後の質問に、ミアはピタリとその喧しい動きを止めた。
ジッと虚空を見つめて、しばしの思考の後……彼女はニッコリと、その質問に答える。
「えぇ、当然よ。貴女にとって最高に、素晴らしい利益をもたらしてあげる」
『……その言葉、忘れぬように。では、次の作戦についてですが……場所はヒノモトです。あそこはかなり厄介ですので、
「えぇ、分かったわ。それじゃ、その時はよろしくね?」
そうして、虚空の揺らぎは消え失せた。
洞窟に滴る水音が地面に落ち、静かに反響していく。
大きな伸びをするミアは、そのまま後ろに向かって声を出していった。
「マガツ、貴方もそろそろ休んでいいわよ? 今回、特に働いていたのは貴方だと思うから、ね」
魔女の呼びかけに応じるように、背後の空間が歪む。すると、そこから現れたのは……全身に黒い忍び装束を纏った、長身の人物。
その人物は、ミアを真正面から鋭く見据えながら口を開いていく。
「何故、殺しの命令を与えなかった。危険因子は排除すべきだろう」
低く、無機質とも取れるような淡々とした声色に、ミアはニッコリと微笑みながら返答する。
「まだ彼らには
「……お前は、そうやっていつもはぐらかす。そのうえ、敵にも塩を送るような真似をしている。何がしたい」
「アハッ、そんなに殺意マシマシで怒んないでよ。大丈夫、貴方の望みである世界の崩壊はちゃんと成し遂げるわ。その為の準備期間なのよ、今は。だから、もう少しだけ私に協力してちょうだい?」
その様に話されたマガツは、黒い瞳でジッとミアを見つめていった後……一つ小さなため息を吐き出し、姿を消した。
また、辺りは静寂に包まれる。
その中で、ミアはゆっくりと目を閉じていくと……ポツリと言葉を呟いた。
「ダハーカ……ハスタ・フォーティス・レゾナント。復讐に燃え奔走したけれど裏切られ、最期は罪滅ぼしに弟の命を救って消え失せた。なんて、呆気ない最期なのだろう。かつてラヴィーネを危機から救った英雄だからこそなのか……それとも、
呟くのは、ハスタのこと。
興味深そうに、彼の行動についてを分析していく。
そうして考え終わると、今度は目をゆっくりと開いて。
「でも、私は彼のように道半ばで途絶えるようなことはしないわ。絶対に、私の
そう、彼女は呟いた。
その真意は、果たして————。