第六十四話 帰還と再会と
雪景色も過ぎ去り、馬車に乗り換えて長い道のりを越えて、サイト達はアストラへと戻ってきていた。
祭りなども開催していない為に、普段通りの街並みであるアストラ。
その街道を歩きながら、肩をほぐす為に背伸びをするアリス。「んぅ〜……!」と気の抜けるような声を出していく彼女に、ソウジがにへっと笑いかけながら話しかける。
「アリス、長旅で疲れたか? 背伸びすると気持ちいいもんなぁ」
「うん! ……けど、流石にそうマジマジと見られると恥ずかしいかな」
「あっ、すまん。デリカシーがなかったわ」
平和と言っても過言ではない日常会話を繰り広げる二人。そんな彼女達を、残りの一人……サイトは苦笑いをして見つめていく。
そんな彼の心の中で、ハヤテがあることを訊ねていく。
『サイト、お前も会話に混ざればよいだろう。何故一人だけ大人の様な立ち位置で見守っているのだ。お前もまだ子供であろうに』
『子供とか関係あるか、それ? っていうか寧ろ、あれだけの出来事があったのにいつも通りな会話を出来る二人が凄すぎるだけだから。俺にはそんな余裕、無いし』
『はぁ。お前はまたそうやって……その視野の狭さ、いい加減に見直さんと取り返しのつかないことになるぞ? 現に今回の件で、痛い目にもあっているしな』
ハヤテの言葉に、ぐうの音も出ないと唇を噛みしめるサイト。
ラヴィーネでの一件。メーディアとの戦闘の際、我を忘れかけて芯技を放とうとした瞬間に受けた手酷い攻撃。その件は、サイトにとっての明確な反省点である。
落ち込み、あからさまに体ごと沈んでいくサイト。その姿を見たアリスとソウジはぎょっとして、兎の少年に話しかけていく。
「サ、サイト君? 何だか凄く落ち込んでるけど、大丈夫?」
「お前、フード被ってその体勢はなんか……落ち込みの具合が逆に分かりやすいな。何を悩んでんだ? 相談なら乗るぜ?」
二人の眩しいぐらいの優しさに当てられたサイトは、慌てて顔を上げながら手を振って彼女らの言葉に返答していく。
「い、いやいや何でもないよ! 何でも。そう、これは……ちょっとした、ひとり反省会ってやつだから。うん」
「そ、そうなんだ。でも、本当に何かあったら相談してね? 私、サイト君の助けになれるならなんだってするから!」
「俺も、アリスと同じ気持ちだ。まぁ、悩んじまうのは仕方ねぇし? その悩みをパーッと晴らせるような気分転換も、またやっていこうぜ?」
各々の励ましに、サイトはフードの中の顔を気まずそうに歪ませていくのみ。
そんなやり取りを繰り広げていると、不意に彼らへと快活で大きな声がかけられていく。
「おーいサイトー! ソウジー!」
話しかけてきたのは、橙色の短髪に黒の武道着が特徴的な少年……レオン。
思わぬ人物との邂逅に、サイトとソウジは驚きながらも彼を迎えていく。
「いやーあんたらと出会えて良かったぜ! ギルドで話を聞いたら、ラヴィーネで仕事してたって言うからさ。もしかしたら出会えないかもって思ってたから」
「僕こそ、会えて嬉しい。久しぶりだね、レオン」
「ははっ、相変わらず元気だなぁ。にしても、ここに来てるのは何か仕事なのか?」
ソウジの問いに、レオンはその太陽のような笑みを浮かべたままに答え返す。
「そう! 今回はボーデン周辺の食材を色々と持ってきてんだよ。マナフルキノコとか、スクスクイモとかを。アストランチさんからの注文が殆どで、今は出張の店として一般の人に食材を売ってる所だぜ!」
「あぁなるほど。アストランチの食材って、ボーデンからのやつもあったんだ。意外ではないけど、繋がりとかあるもんだね」
「そうなんだよ! 元々懇意にしてはもらってて、最近は厄者のせいで全然出荷出来てなかったけど……今は解決して収穫や調達も出来るようになったから、それで!」
話が弾む、弾んでいく。久方ぶりの再会でテンションのあがっていく三人は、もう嬉しさ爆発で会話を繰り広げていく。
が、少しして。レオンが気付いた。会話に混じれていない少女がいることに。
気になったレオンは、手を挙げながらサイト達に訊ねていく。
「あのー。そっちの女の子は一体誰なんだ?」
「あっ! そういえばレオンは会ってなかったよね? えっと、この子はアリス! 僕らの仲間で、僕と同じ新人のギルド員なんだ!」
「は、初めまして! 私、アリス・フィーリアって言います。
勢いよくお辞儀をしながら挨拶をするアリス。周囲が多少目を向けていく中で、レオンが慌てて彼女の頭を上げさせる。
「ちょいちょいちょい!? アリス、だっけ? 顔上げなって! 別に覚醒石に目覚めてようがなんだろうが、気にしないから!」
「そ、そうです、か?」
「あぁ、
カラカラと笑いあげるレオン。そうした彼の雰囲気に当てられたのか、アリスは思わず「ぷっ」と吹き出してしまう。
そのまま笑い合った後、アリスは目尻に少し溜まった涙を拭っていくと、にこやかな笑みを浮かべて改めての挨拶をした。
「じゃあ改めてよろしく、レオン!」
「おぉ! こちらこそよろしくな、アリス!」
握手を交わしていく二人。そんな彼女達を、これまた晴れやかな笑顔をしながら見つめていくソウジ。
和やかな空気が彼らを包む中で、ふとサイトが思いついたことを訊ねていく。
「そういえばレオン、
「今のボーデン? まぁ、前みたいな明るい環境には戻ってきてるよ。まだ他人に対して半信半疑な人もいるから、そこは個別に相談を受けたりもしてる。マナなんかも、
「そっか……でも、戻ってはきてるんだね。何か少し安心した」
にへっと緩い笑みをサイトは浮かべる。隣で聞いていたソウジも、ひとまず安心した様に「良かったぜ」と言葉を零す。
サイト達からボーデンのことを聞いていたアリスも、当事者ではないが我が事のように安心したのか胸を撫で下ろす動作をとる。
そんな彼らの姿を見たレオンは、気恥ずかしそうに頬をかいていく。
「皆、心配してくれてありがとな。その話が出たから、続けて話していくけど……実はあれから少しして、サーペンから手紙が届いたんだよな」
「えっ、サーペンさんから!? アヴァルに連れられてからどうなってるのか、気になってたけど……手紙には、なんて?」
「……まず、改めての謝罪の言葉。迷惑をかけてごめんってのと、自分をアンチから解放してくれてありがとうって。そこからは、色々と――――」
レオンは話していく。サーペンから送られた手紙の内容を、一つ一つ大切に言葉にする。
アヴァルに連れられた後、審判にかけられ有罪だった。しかし死刑ではなく普通の刑罰であり、サーペンの行なってきた活動履歴や厄者アンチの性質を鑑みての判決であったそうだ。
そこから、サーペンはアヴァルにて罪を償う活動をしているという。受刑者用の特別な刑務らしく、厳しいには厳しいと書かれていたという。
しかし、その文面からは真面目に取り組んでいる姿がありありと思い起こされたと、レオンは微笑みながら言った。
そんな彼に、サイトはニッカリとした笑みで口を開いていった。
「サーペンさん、頑張ってるんだね」
「あぁ。んで、そんなサーペンに手紙を送り返す為に俺も手紙を書いてるんだが……難しいよなぁ、文章を書くのって。何書けばいいかとか考えるのもだし、文字を書くのも大変だ。サーペンはこういうのも卒なくこなしてたから、本当にアイツの凄さが改めて身に染みるよ」
「……きっと、また一緒に活動出来る日が来るよ。だからその時に、色々と話をしたら良いと思う」
そうして、サーペンの話題が終わり。少ししてから、レオンは手をポンと叩いて思い出す仕草を取った。そのまま話をしていく。
「そうそう。手紙は他にも届いてて、アゲハからも来てたんだよな。文面から分かるテンション高めな雰囲気は、流石アゲハって感じだったなぁ」
「へー、アゲハさんからも来てたんだ。あっ、アリスに説明しておくとね、アゲハさんっていう
「そうなんだ! もし機会があれば、会ってみたいなぁ」
和やかな雰囲気で話が続く、そんな中で。レオンは少しだけ眉根を寄せながら、不安気にあることをポツリと零す。
「けど、何か今そのヒノモトが危険っつーか、ピリピリしてるんだって手紙には書いてあったな。『楽ノ勾一座』もそのせいで、現在休業中なんだそうだ。これ、ソウジには伝えておいた方がいいと思うから伝えるけど……二つの勢力が睨み合ってるっぽくて、ヒノモトに来るなら気を付けたほうがいいっつー感じだった」
その言葉に、ソウジがピクリと耳を動かして反応する。
「それ、本当なのか? 二つの勢力って、何なんだよ?」
「確か……そう、『カンナギ組』と『アンギョウ組』だ。その二つの組が争ってるらしい。今は少し収まってるっぽいけど、またいつ動き始めるか分かんないって」
「……そっか。わりぃな、レオン。ちょっと圧強めに問いただしちまった」
一瞬だけ剣呑な空気を纏ったソウジであったが、すぐにその空気は鳴りを潜めてカラッとした笑顔を見せていく。
そんな彼に、レオンは申し訳なさそうに首を横に振っていく。
「いや、俺もちょっと伝えるタイミングを間違えたかも。ごめんな、ソウジ。帰ってきたばっかで疲れてるのに」
「問題ない。……今の俺からしても、その状況なら帰る口実として丁度いいだろうし」
最後にボソッと呟かれたソウジの言葉に、サイトだけは小さく反応した。
が、その場では問わずに流していく。
そうして話が一段落ついた所で、レオンは笑顔を浮かべて別れの言葉を口にしていく。
「んじゃ、俺は出店の方に戻るよ。そろそろボーデンにも帰らないといけないしさ」
「そっか。じゃあ、またねレオン。次また会う時は、美味しいものでも食べながら話をしよう!」
「おう! サイト達の方こそ、笑顔を忘れずに元気でいろよな!」
そのまま、レオンは軽く小走りでその場を離れていった。手を振りながら距離が遠のいていくのを見送るサイト達。
姿が見えなくなると、手を振るのをやめる。そして、サイトから口を開いていった。
「じゃあ、ギルドに戻ろっか。……ソウジ、大丈夫? ぼーっとしてたけど」
「ん。あぁ、大丈夫だよ。んじゃあ戻るとしようかねぇ。足早に行こうぜ!」
「あっ、ソウジ! サイト君、私たちも行こう!」
そうして、彼らはギルドへと戻っていく。
しばしの休息を、味わう為に――――。