フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

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絆を紡いで、友を救え


第三章 ヒノモト編 絆の糸を紡ぐ時 〜想いを意志に変えて〜
第六十九話 焔照らす島国、ヒノモトへ


 その招集は、突如としてかけられた。

 訓練場の広場には、サイト、アリス、ソウジを含む多くのギルド員が集められている。

 何事かと半ばざわざわとしている空間に、集められたギルド員の前方から威厳ある声が降りかかった。

 

「お前達、本日は集まってくれて誠に感謝する。今回ここに呼び寄せたのは、ある任務についてもらいたいからだ。ここにいる人員は全て、その任務先に向かってもらおうと思っている」

 

 話しているのはギルド『不滅の物語(ペルペトゥス・ファーブラ)』のギルド長、イニティウム。隣にはガッツ。

 いつにも増して真剣に、赤い瞳でギルド員達を見つめていく彼やガッツの様子に、サイト達は思わず姿勢を正してしまう。

 そんな中で、イニティウムは続きの言葉を口にする。

 

「向かってもらうのは、ヒノモト。そこで向こうのギルド『久遠の夜明け(くおんのよあけ)』の人員と合流し、『ヒノモト組』として手助けをしてもらいたいんだ。敵対している『アンギョウ組』という組織を打ち倒す為に」

 

 話された内容に、大小様々な反応がギルド員達から漏れ出した。その中には当然サイト達もおり、特にソウジの表情が一層引き締まる。

 そうしたざわざわとする空気感の中で、イニティウムは更に続けて話していく。

 

「『アンギョウ組』に関しての情報も、話しておく。そいつらは数年前からヒノモトの君主であり『天火中(あまのほなか)』に拠点を構える『ホムラ・カンナギ』に反感を抱いていた勢力でな。それまでもそのホムラ氏を狙った犯行や、『天火中』の住民を何度も襲撃している」

 

 話を聞いているソウジの瞳が揺れ動き、耳がピクピクと反応する。

 その様子をチラリと見るイニティウム。しかし、話は続けていく。

  

「それらをホムラ氏は(ことごと)く撃退していて、それ程問題にはしていなかったんだが……ここ最近になって、ホムラ氏の軍勢が押される事態が生まれてしまったらしくてな。謎の勢力が手を貸していて、軍が次々と殺されてしまっているうえに、住民も行方知れずになったり負傷するという事態が出てしまっている。だから被害がこれ以上出る前に喰いとめたいと要請が入った、という事だ」

 

 その内容は、ヒノモトの現状。サイトとアリスは共に怒りを滲ませる。

 友であるソウジの故郷、そしてその兄を襲い混乱に陥れているアンギョウ組に対して。

 

 ちらりと、二人はソウジの方を見た。心配————ソウジが思い詰め過ぎていないだろうかという気持ちからである。

 当のソウジは、やはり頭にきているのだろう。普段の明るげな表情から一転して、眉間や鼻先にシワを生むほど怒りを顕わにしていた。

 そんな彼に何か言葉をかけようとするサイトとアリスであったが、上手く言葉が出てこない。

 

 そうしている間にも、イニティウムの話は続いていく。

 

「向かう先では、お前達には当然手助けを行ってもらう。また、ヒノモトには船で向かうが、その際の人員も二つのグループに分ける。それに関しては、ガッツから伝える。頼むぞ、ガッツ」

「おう。んで、そのグループに関しては先行組と後続組で分ける。先行組で諸々の安全を確認してから、後続組が向かうっつー流れだ。先行組は俺、ガッツがリーダーとなって纏める。後続組はルシオラがリーダーだ。んじゃ、早速発表するぞ。まず先行組は————」

 

 そこから、徐々に人が呼ばれていき……最終的にサイト、アリス、ソウジは後続組のグループに選ばれた。

 そして、グループ分けが完了した後。イニティウムが再度前に出て口を開いていく。

 

「では、このまま先行組は港町『ガストロポダ』の船着き場へと向かい、ヒノモトへと発つ。後続組は先行組が無事にヒノモトへと着いたという報告が挙がってから出発だ。以上だが、何か聞きたい事はあるか?」

 

 イニティウムの言葉に返答する者はいない。皆一様に決意を固めているようだった。それを確認した彼は、改めて目の前に集まるギルド員達へと言葉をかけていく。

 

「今回の任務も、例に漏れず危険性が大いにある。だが、お前達なら必ずヒノモトの助けとなり、救えるであろうと信じているぞ。では、解散だ!」

 

 そうして、次の任務が開始された。

 ぞろぞろと動き出す他のギルド員達。そんな中で、サイトとアリスは焦るようにして共にソウジへと話しかける。

 

「「ソウジ! 大丈夫!?」」

 

 突然大きな声で話しかけられた為、ソウジは少々驚いて耳と尻尾をピンと立たせながら彼らに応じていく。

 

「うぉ!? ど、どうしたんだよお前ら、そんな悲痛そうな顔してよ。なんかあったか?」

「なんかあったかって……さっきのソウジの表情、滅茶苦茶怒ってたじゃんか! それで『なんかあったか?』は違うだろ!」

「サイト君の言う通りだよ! 普段のソウジからは想像もつかないほど顔に皺が寄ってたんだもん! そりゃ心配するって!」

 

 二人の言葉にソウジは目を丸くした後、自身の眉間をさわってみる。その後、深く溜め息。

 そんな彼の様子にまた二人は慌てだす。が、すぐにソウジが二人の肩にポンと手を置いて、ニカッと快活な笑みを二人に向けていった。

 

「悪い。流石に今回はちっと自分事すぎてな、考えすぎちまった。心配してくれてありがとなー? でも、お前らが気負いすぎなくていいからな! いつもの調子で任務に臨むんだぜー?」

 

 サイトとアリスの頭をガシガシと撫でていくソウジ。

 そんな彼の態度に対し、二人はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 明るく振舞うソウジ。本人は至って普通そうに取り繕っていたのだが……それが二人にとっては、より重く受け止めてしまう事態となってしまう。

 

 ————俺は……やっぱり頼りない、のかな。もっと、もっと頼れる奴でないと。兄さんみたく、強く気高い人で、いないと。

 ————私が手助けできること……何か、してあげなきゃ。じゃないと、仲間として情けないもんね。

 

 二人はそれぞれ、想いを募らせていく。

 それが軋みとなり、仲間としての和が少しずつズレていくのを自覚しないまま、考え込んでしまって。

 

 そんな二人の様子を知ってか知らずか、ソウジは一つ大きな伸びをした後にサイトとアリスの背後に回り、背中をバシバシと叩いて訓練場の出口へと向かおうとする。

 

「つーかサイト、お前がそうやって心配すんのかよ! 俺ら皆の気持ち、分かったかー?」

「っ、それは今関係ないだろ……!」 

「ほらほら、俺らは後続組なんだし今は英気を養っておこうぜ! アストランチに行こうそうしよう!」

「ちょ、ソウジ……!」

「わっ、わっ、押さないでってば!」

 

 三人の空気感が、少しだけ。ほんの少しだけずれ始めて、しばらくの時間が過ぎていく————。

 

 ——————————————————————

 

 先行組が向かってから、更におよそ一ヶ月程が経った頃、ようやく報告が挙がった。

 航路のルートの安全も確保できたらしく、先行組の何名かが戻ってきて案内するそうだ。

 そして、サイトたち後続組は既に港町『ガストロポダ』に着いており、船へと乗り込んで出港していた。

 船旅も一ヵ月が過ぎて順調そのもの。風向きも海流も安定している状態だ。ヒノモトにもあと少しで着く頃合いであり、ギルド員達は思い思いに過ごしていた。

 

 そんな中で甲板の柵に手をかけ、海を眺めるサイト。フードの中のその顔は、険しい。

 これからの戦いや、ソウジのこと。そして何よりは、自分のことを考えている彼の心には————余裕など、無い。

 そんな彼の中から、ハヤテが声をかけていく。

 

『サイト、そう焦るな。これまでの件、お前にそこまでの非はない。無鉄砲過ぎたのは少し説教したいが……寧ろ、よくやっている方だと俺は思っている』

「……兄さんなら、さ。もっと上手くやってると思うんだよな。ハヤテだって、そう思う時はあるだろ?」

『サイト。それは、関係ないだろう? 全くお前は、どうしてそんなにも……ふぅ。とにかく、焦るんじゃない。お前らしく、在れば良いんだ』

 

 ハヤテがどれだけ励まそうとしても、サイトの気はまるで晴れない。

 聞いてはいる、しかしそれらは全て心に届いてはいない。

 気休め程度にしかならないと悟ったハヤテも、それ以上は何も言わずにただ黙って見守るだけだった。

 重苦しい空気が、彼の周りを覆っていく。

 

 そんな彼の姿を、アリスは目撃した。

 丁度探していた所に、そんな澱んだ空気を纏っている姿を見てしまったら……話しかけてしまうのは、彼女からして仕方のないことだろう。

 心配そうに、声をかけていく。

 

「サイト君! どうしたの? 何だか落ち込んでるようだけど……」

「……別に、何でもないよ。少し、潮風に当たってただけだからさ」

「本当に? ……貴方も、ソウジもだけどさ。あんまり溜め込んじゃ駄目だよ? 何かあったら、私に相談してもいいしさ」

 

 励まそうと、アリスは努めて明るい声を出しながらそのように話していく。

 普段のサイトであれば、これを聞けば笑い返して談笑をしていたことだろう。

 しかし————今回は、そうはいかなかった。

 

「————溜め込んでない! ……アリスには関係ないし、本当に大丈夫だからさ。放っておいて、くれ」

 

 ほんの少し、大きな声を出して。アリスを拒絶するサイト。

 その姿はあまりに頼りなく、幼さを感じ取らせてしまう。

 故に、アリスも引き下がる事をせずに喉から言葉を絞り出していく。

 

「放っておけないよ! そんな、あからさまに苦しそうにしてるのに……今の貴方、何も大丈夫だとは思えない!」

 

 互いに譲れない部分が出てきてしまう。

 気心が知れてきた間柄であるからか、遠慮も容赦もなくなってきて語気も強まっていく。

 

「っ! 何が、大丈夫じゃないんだよ! ラヴィ―ネで戦えもしなかったのに、自分から危ない目にあった君にそんなこと、言われたくない!」

「そ、れは……子供が、エイラちゃんがあのままだと殺されかねなかったから! それに人を助けようとするのに、戦えるかどうかなんて関係ないじゃない! 今だって————」

「う、るさい! とにかく放っておいてくれって言ってるだろ!? 何でそんなに構ってくるんだよ!」

 

 半ば子供染みた癇癪を起こしているサイトと、それに反発して同じように感情を露わにしながら口を出してしまうアリス。

 お互い、熱が高まっていって口論の波が絶えないでいる。

 そんな騒ぎが大きくなっていき、周りのギルド員がざわざわとする。

 そうすれば、自然とソウジの獣耳にも騒ぎの音は入ってくる。

 彼はルシオラと共にサイト達の元へとやってきて、口論をする二人の間にそれぞれ割って入って仲裁していく。

 

「こらこらお前ら何やってんだ! ほらそんなにかっかしてんじゃねぇ落ち着けって!」

「そうだよ二人とも。もうすぐヒノモトにも着くし、ここで皆の士気を下げかねない事をしちゃいけないよ?」

 

 二人の言葉に、ハッとさせられたのか。サイトとアリスは徐々に落ち着きを取り戻していく。

 そして、少しした後で。

 

「あ、あの、サイト君。その……」

「……すみません。僕、ちょっと隅にいますね」

「あっ、おいサイト!」

 

 アリスが何かを言いかける前に、サイトはそう言い残して駆けだしてしまった。

 ソウジが引き留めようとするものの、間に合わず。

 

「だぁーったくぅ! ルシオラ、アリスは任せるわ。俺はあいつ(サイト)を追いかけるからよ」

 

 後頭部を忙しなく掻きながらも、ソウジはそのようにルシオラへと頼んで自身はサイトを追いかけていく。

 彼がいなくなった後、ルシオラは顔を俯かせて落ち込むアリスの背中を優しく叩いていくと、言葉をかけていった。

 

「取り合えず、向こうの椅子に座って話そっか! 潮風も気持ちいいしさ」

 

 ルシオラの言葉に従い、アリスは船に備え付けられた椅子に座っていく。

 そして、俯いたままアリスは、ルシオラに対して謝罪の言葉を口にする。

 

「す、すみません、ルシオラさん。迷惑かけちゃいましたね……」

「そーねー。迷惑をかけちゃったのは事実。でもまぁ、悪気があったわけじゃないようだし? これ以上何か言うのはやめたげるー。それで、結局喧嘩の原因は何だったの?」

「……それが、ですね————」

 

 喧嘩の原因を話していくアリス。

 それらを全て聞いたルシオラは————盛大に吹き出し、腹を抱えて笑っていった。

 ポカン、とするアリス。そのすぐ後に、ムッとして頬を膨らませながらルシオラに顔を向けていく。

 そんな彼女に対し、ルシオラは目尻に溜まった涙を拭いながら口を開いた。

 

「あっはは、ごめんごめん! いやー、なんていうか……子どもらしいぶつかり合いだと思ってさぁ〜。すっごく青春って感じすぎて、思わず笑っちゃった!」

「…………馬鹿にしてます?」

「してないしてない。ただ、ひたむきだなぁって。そういう真っすぐな心根を持ってる子、私大好き!」

 

 ルシオラの邪気のない笑顔に、アリスもそこで拗ねるのをやめた。

 次いで、アリスはあることをルシオラへと訊ねていく。

 

「ルシオラさん。例えば、思い詰めて、悩んで、どうしょうもなくなっちゃってる人がいたとしたら……どう、しますか?」

 

 真剣な眼差しで、アリスはルシオラの顔を見つめていく。

 その問いは、自分なりの方法では上手くいかなかったからこその、不安からきたもの。

 そんな彼女の眼を見たルシオラは、自身の顔からにこやかな笑みを潜めさせ、同じく真剣な表情を浮かべさせながら答えていく。

 

「私なら、何も言わないかな。その悩みとか、苦しみとかはさ、全部その人本人が片付けなきゃならない部分だろうから。私からその事をなにもかも解決してあげるねーってやっちゃったら、本人の為にならないだろうし」

「……その人本人が、片付ける部分」

「そっ。まぁ、それを解決する為の手助けをしてくれってその人から頼んできたなら、また話は変わってくるけど。何よりさ、本人が誰の手助けも望んでいないのに手助けしちゃったら、それは余計なお節介になりかねないじゃない?」

 

 ルシオラの話す内容に、アリスは顔を俯かせて思考を巡らせていく。

 言っていることは、分かる。分かるし、正しくもあるのだとは、思う。

 しかし、アリスの中でルシオラの話はどこか引っかかる部分があるのか、眉間に皺を寄せて「ぐぬぬぬぬぬ」と唸ってしまう。

 そんな彼女の悩む姿を見たルシオラは、そこでまたニッコリと人の良い笑みを浮かべながら、その背中をパシンと叩いていった。

 

「いひぃ!?」

「まっ、これらは全て()()()()。私が考える、私の在り方としての話。だから、アリス。()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あっ……」

 

 その、言葉に。心の中の引っかかりがなくなったのをアリスは感じ取った。

 

 ————そう、そうだよ! 私は私でいい! 私の信じるやり方を、やっていけばいいんだ!

 

 みるみる内に笑顔となっていくアリスの姿に、ルシオラも笑顔を保ったまま更に何かを言おうとした————その、時。

 

 

 

    ———— ズ   ン ————

 

 

 目の前で穏やかだった大海が、突如として異常な破裂音と共に割れた。

 船の甲板へ大量の水飛沫が飛び散り、船自身も大きく揺れ動いてしまう。

 アリスを庇う様に抱き寄せるルシオラ。そして、辺りでは警戒の色を強めるギルド員達。

 そんな彼らの視線は、ある一点に集中した。

 

「何で……! この航路は安全な筈じゃあ!?」

「そんな、まさか! あの禍々しい気は……くそっ、まずいぞ!」

 

 空中。

 そこに浮かぶのは、一人の人型の存在。

 

 アリスは見た。それは、よく知る存在。

 紫色の肌と短髪に、上半身は何も着ていない筋肉が見える、下半身は更にパンクな刺々しいズボンと靴が履かれ。

 背中に悪魔のような翼を生やし、特徴的な朱色の角を携えている、真っ赤に染まりきった不気味な目を持つ————サベージ。

 

 そしてサベージを見た誰もが、ある一つの感情を抱いてしまう。

 それは————恐怖。

 悍ましい程の殺意がその存在から放たれている為に、自然と身が強張ってしまうのだ。

 そして、そんな視線を一身に浴びているサベージはというと。

 船の上にいるギルド員達を一瞥した後、一つ大きな大きなため息を吐き出していき。

 

「あー、つまんねぇ。雑魚しかいねぇじゃねぇかよぉ」

 

 呆れ声を発した、後。

 

「つまんねぇから、全員ぶっ壊すわ! 軽く死んでいって————くれやぁ!!!!!」

 

 更に言葉を紡ぎ、そして。大きく、かつ数のある弾幕を生み出していく————。

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