フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

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第七話 秘密

 

「ギルドに()れる、ですか?」

 

 アリスのその言葉に、イニティウムは頷く。

 少なからず混乱を見せる彼女と意見を同じくするサイトも、黒い鼻をふすふすと鳴らしながら質問を挟んでいく。

 

「それって、大丈夫なんですか? 急に僕らを入れるってなると、ギルドの人達へ負担をかける事になるんじゃ……」

「あぁ、その辺りは気にするな。ギルドの者達は(みな)、細かい所は気にしない性質(たち)の者が殆どでな。君達が加入しても負担になる様な事はない」

「そう、なんですか? ……けど、やっぱり納得が出来ないですよ。理由を説明してください」

 

 それに応える様に、イニティウムは軽く咳ばらいをして話し始めた。

 

「俺が君達を引き入れようと思った理由は二つ。一つ目が、保護。これはアリスに向けての側面が強いんだが、厄者から狙われてた上に故郷も滅んじまってる現状、身寄りのない状態だろう? そうなった被災者は、基本的にギルドが保護するようにしてるんだ」

「……なるほどな。では、俺たちを引き入れる理由は?」

「サイトとハヤテに関しては、二つ目の理由である戦力の確保になるな。世界中にギルドがあるとはいえ、味方は多い方がいい。何よりは」

 

 一区切りおいて、イニティウムは自身の左目辺りを指さして言った。

 

「君はこの赤痣を持っている」

 

 指されたその赤痣に関して、アリスも気になる所があったようで。

 イニティウムへと質問を挟んでいく。

 

「あの、その赤痣ってどういう意味があるんですか?」

「これはな、勇者の中でもひときわ強い力を持つ者に宿ると言われている痣なんだ。俺を含めて、六人しか持っていない」

 

 イニティウムの話した説明に、アリスは何度目かの驚いた表情を見せる。

 更に説明に補足する形で、ガッツも話に混ざっていく。

 

アストラ(うち)の教会に置いてある本の中に、こんな予言が記されててな。『赤痣を持つ八人の勇者が彼方の楽園に集うとき、世界に救世の光が降り注ぐ』。これを俺達は、災厄を倒すことの出来る時代の訪れなんじゃねぇかって考えてんだ。だから、赤痣持ちは勇者の中でも特別視されてんだな」

「そう、だったんだ。サイト君、凄い人だっんだなぁ」

「ま、とにかく。兎の坊主は俺達ギルドの者にとっちゃ、魅力たっぷりな奴ってわけだ」

 

 説明がひと段落し、少しばかり部屋が静かになる。

 誰かが紅茶を啜る音が響き、カップを皿に置いたタイミングでサイトが頭を擦りつつ口火を切った。

 

「……よし、決めた。ハヤテ、お前から何か意見はあるか?」

「無いな。寧ろ、賛成寄りの考えだ」

「そっか。じゃあ、イニティウムさん。僕とハヤテを、ギルド『不滅の物語(ペルペトゥス・ファーブラ)』に入れてください」

 

 サイトはイニティウムへと手を差し出す。

 ハヤテも同様に翼を前に差し出して、握手をしようとした。

 それにイニティウムは応え、握手を交わす。

 一連の流れを見たガッツは、嬉しそうに笑顔を見せた。

 

「サイト、そしてハヤテ。ひとまず口約束だが、加入を歓迎する。改まった挨拶は、ギルドでさせてもらおう」

 

 そうして、二人と一匹は手を握り合った。

 しかし、和やかな雰囲気の中で。

 アリスだけが顔を曇らせていた。

 その様子に気付いたサイトは、心配する様に声をかける。

 

「アリス?」

 

 目をギュッと瞑り、何かを考え込むアリスを全員が見守る。

 やがて。

 目をゆっくりと開いた彼女は、イニティウムとガッツの両者を見つめながら。

 ゆっくりと、口を開いた。

 

「ギルドに保護された場合は、例えば何をするんですか?」

「被災者として手厚く対応されるから、しなければならない事はないよ。戦いに駆り出されることもないし、自分で生活が確立出来るまでの衣食住も補助する様になっている」

「そうなんですね。じゃあ、聞かせてください。私のような被災者でも――――厄者と戦えるようになれますか?」

 

 彼女の透き通る水色の瞳には、先に持ち合わせていた怯えや戸惑いの色は無く。

 決意を持った声色で、そう訊ねる。

 その発言に各々は驚いていた。

 中でも、サイトは。

 この場の誰よりも、その目を見開いてアリスを見つめている。

 イニティウムはそんな彼女の眼をしっかりと見つめながら、答えていく。

 

「なれるかどうかで言えば……難しい。だが、君の様な被災者が今も勇者として活動している例は、ある」

「だったら、私を鍛えてくれませんか! 可能性が少しでもあるのなら、私は――――」

「待て。まず、どうしてそう考えたんだ? 理由を聞かせてくれ」

 

 諭すようなイニティウムの返答に、アリスは想いを話していく。

 

「私、思ったんです。このまま被災者として、ただ安全に過ごさせてもらうだけでいいのかって。他の、私と同じような被害にあっている人たちを()()()()()もいいのかって」

 

 彼女の声にはまだ、震えがある。

 戸惑いも、弱さも、全てを抱きしめながら。

 そこにあるのは、意志の強さだ。

 

「無力なままで災厄達に怯えてるだけ。そんなの嫌。私は故郷の皆の仇を取りたいし、誰かを救けたいし、守りたい。何をしたいかを考えた時に私は……私がやらなきゃって、動かなきゃって思ったの!」

 

 話し終えたアリスは、震える手をギュッと握りしめながらも顔を前に向けて、イニティウムとガッツ(二人)を見つめる。

 彼女の想い、その意志を聞き。

 最初に口を開いたのは、ガッツだった。

 

「ビビッてばかりの奴かと思ったら、案外度胸ある奴じゃねぇか! いいねぇ俺は歓迎するぜ!」

「ほ、本当ですか!?」

 

 しかしイニティウムは、静かに厳かに口を開いた。

 

 

「俺としては、肯定できない。例があるとは言ったが、それは特例だ。何より、ギルド長として君を危険な目に合わせるわけにはいかない」

 

 彼の嗜める様な声色に、アリスは悲し気に顔を歪ませる。

 ガッツはイニティウムに抗議する様に視線を向けるが、彼はアリスへと目を向け続けている。

 そして、再度口を開き。

 

「だが、先ほどまで怯えていた君の()()を俺は見てしまった。その気持ちに応えない訳には、いかないからな」

 

 その内容の真意を、隣で聞いていたサイトが訊ねた。

 

「と、いう事は?」

「君は被災者ではあるが、同時にギルド員としても加入してもらう。雑用、訓練、その他諸々……覚悟は出来ているか?」

 

 イニティウムの鋭い視線を、アリスは真っ向から受け止めて返答する。

 

「本音を言えば、まだ怖いです。けど……()()()()()()は出来ますから」

 

 イニティウムとガッツは、アリスの言葉を受けて笑みを浮かべる。

 サイトは、不安げな表情で耳を垂れさせているが。

 

 アリスは、イニティウム達へと手を差し出す。

 それに彼らは応え、握手を交わし。

 やり取りを終えた後、イニティウムは話を再開した。

 

「正式な手続きは先ほどサイトにも言った通り、ギルドでさせてもらう。時間も遅いし、君達は宿に泊まって休め」

「ふむ、そうさせてもらうとしよう。ではサイト……どうした、何をボーっとしている」

「えっ。あぁ、うん聞いてたよ。じゃあハヤテ、アリス、行こっか」

 

 半ば、ハヤテの追求を避けるようにして、サイトはフードを被り立ち上がると。

 そのまま足早に扉へと向かってしまった。

 慌ててアリスは、ハヤテと共にそんな彼を追いかけていく。

 二人と一匹を見送った後、ガッツがイニティウムに笑いかけながら喋りかけた。

 

「なかなか面白い奴らだったなぁ。アリスなんかは、弱気に見えて芯がある。サイトも、よく鍛えられてて理知そうだし」

「そうだな。だが、うむ」

「どうした、何か気になんのか?」

 

 考えるそぶりを見せたイニティウムを、ガッツは不思議そうに訊ねる。

 すると、イニティウムは自身の思う疑問を口にしていった。

 

「サイトについて、少し気になってな。アリスのような状況ならともかく、厄者を退けられる力があるアイツが何故顔を隠す必要がある?」

「うーん……実は悪いことをしてる? いやでも、アイツが悪い事する様な奴に見えるかぁ? 俺は見えねぇな」

「それも、そうだが。ふむ、明日聞いてみるとするか。じゃあガッツ、これらの食器を片付けていくからお前も手伝え」

 

 一旦の結論をつけて食器を片付け始めたイニティウム。

 ガッツはうへぇと嫌そうな声を漏らしながら抗議する。

 

「俺も手伝わなきゃならんかー?」

「嫌なら、お前にこれら全部の料理の額を請求するようにホーセズに伝えておくぞ?」

「あっ、てめぇそれは止めろ! 分かったわーかったよ手伝うから!」

 

 そうして二人の大人はいそいそと食器を片付けていく――――。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 空気も程よく冷えた夜の街並みを、サイトとアリスは歩いている。

 ハヤテはサイトの中に戻って休息をとっており、特にこれといった会話を取ることもなく人のいない静かな街道を進んでいた。

 そんな静かな状況で、アリスがそういえばとサイトに話しかける。

 

「気になってたことがあるんだけど、サイト君はどうして顔をフードで隠してるの? 私みたいな状況ってわけじゃなさそうだけど」

「……」

「あっ、ごめん! 聞かれたくないことだったなら、話さなくても大丈夫!」

 

 返答がなかったために、何かデリケートな部分へ触れたのではないかと謝るアリス。

 しかし、サイトはすぐさま明るく返事をした。

 

「いや、大丈夫! ……そうだね、うん。きちんと説明しておくよ」

「えっ?」

 

 先程まで纏っていた、温和な空気が切り替わるように。

 彼は真剣な面持ちで、アリスを見つめると。

 ゆっくりと口を開いた。

 

 

()は、サイトじゃないんだ。サイトのフリをしている、誰か」

 

 

 アリスは間の抜けた声を出して立ち止まる。

 話された内容は、彼女が受け止めきるには少々難解なモノで。

 言葉の意味を頭の中で何度か反芻させた後、おそるおそると聞き返していく。

 

「それって、その。それは、貴方がサイトって名前の人に成り代わってるって意味なの?」

「うん。成り代わって、顔を隠して活動してる」

「なんで、そんな事を?」

 

 困惑を隠せないアリスの問い。

 それに対しサイトは、爛々と輝く橙色の瞳に確かな怒りをにじませながらも静かに答える。

 

「サイトは、俺の兄さんの名前なんだ。厄者によって皆の記憶から消え去ってしまった、俺のね。俺はその(かたき)の厄者を探しながら旅をしていて、その途中でアリスと出会ったわけ」

「お兄、さんに敵? で、でもなんでわざわざ顔を隠して成り代わるの?」

「……俺は、兄さん(サイト)がこの世にいた事実を残したいんだ。そういう存在がいたぞ! ってね。だから、俺の顔も名前も知られる必要は無い。まぁ、アリスやイニティウムさん達にはもう顔を見られちゃってるけど」

 

 声に潜むのは、憎悪と悲哀。

 確かな覚悟の中にある、底知れない苦痛。

 混ぜ合わさった感情を敏感に感じ取ったアリスは、思わず言葉を零してしまう。

 

「貴方が貴方自身を押し殺す必要なんて、ないよ……!」

 

 口をついて出たのは、目の前で無理をしていると感じられる彼への心配。

 実の兄の為に、自身の名を偽ってでもそのような行動をするなど。

 それではまるで、自分の事など()()()()()()と言っているようなものだ。

 そう考えていたアリスに、兎の少年(サイトと名乗る者)は。

 

「それが俺に出来る唯一の()()で、()()()()()()()()

 

 はっきりと、そう言った。

 アリスは押し黙る。

 彼の表情には様々な感情が混ざりすぎていて。

 自分が口を出すことに、躊躇いを生んでしまっていた。

 その様子を見た彼は、アリスに静かに告げる。

 

「ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだ。でも、さっき言った事は本当だよ」

「……貴方が嘘を吐く人じゃないのは、今日で充分伝わってるよ。けど、そうじゃない。私は貴方の考えに、納得出来ないの」

「アリス、それってどういう意味?」

 

 疑問と少しの怒りを含めた言葉を出した彼に、アリスは。

 先ほど躊躇った自身の気持ちをぶつけていく。

 

「私は、貴方のお兄さんを知らない。私が知ってるのは、私を救ってくれたのは。目の前にいる、兎の男の子だから」

「アリス、それは()であって()じゃない」

「違う。私は兎の少年(貴方)に救けられたの。これだけは譲れない。それに悪いのは厄者だよ。絶対に、貴方がそこまでの責任を負う必要なんて無い!!!!!」

 

 アリスは、叫ぶ。

 今まで生きてきた人生の中で、一番というぐらいに。

 彼に想いをぶつけていった。

 そしてその想いは。

 少なからず彼の心を揺さぶった様で。

 顔を背けながら、ポツリと。

 

「凄いなぁ、アリスは」

 

 そう言葉を零した。

 以降、声を出せずに沈黙する2人。

 夜の静けさに混じって吹いた夜風が、どちらともの頬を刺す。

 

 そんな中で、アリスは。

 意を決したかのように顔を兎の少年に向けると。

 また、大きな声を張り上げた。

 

「私、決めたから! 貴方に頼られるくらいに私は強くなる! そして、その時は――――貴方の()()()()()を、教えて!」

 

 張り上げられた声は、夜の街並みに溶けていく。

 それは消えゆく咆哮であったが、目の前の少年にとっては。

 驚きの内容で、心に残るモノだったのだろうか。

 フードの中で目を丸くさせ、パチパチと瞬きを繰り返している。

 少しして、アリスは自身の放った言葉を自覚したのか。

 頬を赤らめさせ、腕をバタバタと珍妙に動かす。

 

「ご、ごごごごめん! 勢い余ってとんでもない事を!」

 

 そんなアリスに対し、兎の少年は顔を背けつつも言葉を返す。

 

「い、いや。確かに驚いたけど、別に嫌な気分じゃないから。寧ろ、その……嬉しい、よ」

「そ、そう? ……でも、さっき言った事は()()だから。私は絶対に、貴方の支えになる。必ず、きっと」

 

 優しく信念の籠もる声と共に、アリスは兎の少年に近づくと手を握る。

 しかし、兎の少年はその手を握り返す事をしなかった。

 アリスの手に力を籠める事をせず、すぐに彼女の手を放すと。

 力ない声で、返事をして。

 

「ありがとう、アリス。それと……ごめん」

 

 そう言った彼を、アリスは。

 悲痛な面持ちで見つめるのと共に。

 自分の意志をより固めていく事となる。

 

 そうして、一夜が過ぎていく――――。

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