フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

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第七十話 破壊の強襲

「んで、何であんな喧嘩したんだよお前らは。珍しいからびっくりしたぜ?」

 

 船の隅っこで縮こまった状態のサイトの横にどかりと雑に座りながら、ソウジは気軽な調子でそのように問いかける。

 実際のところ、ソウジは気になっていた。普段は温厚だと言える両者があのような喧嘩をするなんて、思ってもみなかったからだ。

 不思議がるソウジに、サイトはそっぽを向いたまま答えていく。

 

「……別に、喧嘩するつもりはなかったんだよ。ただ、なんか今日のアリスは妙にしつこかったから、僕も意固地になってあぁやって怒っちゃってさ」

「なるほど? お互いに色々と考えすぎた結果、気持ちがすれ違っちまったっつー感じか」

 

 ソウジの言葉に、サイトは何も返さない。

 へそを曲げ、あからさまに不機嫌だというのをフードの中の顔に出しているその姿を見たソウジは、思わず————ふっと少し吹き出して笑ってしまった。

 唐突に笑われた事に驚き、次いで更にムッとしていくサイト。

 そんな彼に対し、ソウジは「すまんすまん」と謝罪を口にした後、あることを話していく。

 

「なんつーか、昔の俺を見てるみたいでよ。そうやって意地張って拗ねちまうところなんか、特に似てる」

「…………馬鹿にしてるの?」

「してねぇよ。ただ、なんかちょっと和んだっつーか。……そうだよな。お前もアリスも、一生懸命に考えて、藻掻いてんだ。俺も精一杯、頑張んねぇと」

 

 一つ、決意したようにソウジは言う。

 その言葉の意味が分からず、首を傾げるサイト。

 そんな兎の少年に、ソウジはカラカラと笑って頭をポンポンと叩いていく。

 

「まっ、どっちが原因にせよなんにせよ、仲直りはしとけよー? このまま喧嘩しっぱなしは嫌だろ?」

「それは……嫌、だけど。でも、どう切り出せばいいか、分かんないよ」

「そうだなぁ。そういう時は、素直な気持ちを伝えるこったな! 自分が想う相手への気持ちをきちんと伝えれば、きっと————」

 

 ソウジがアドバイスをしていた、その時に。

 

 強大な船の揺れと、同時に。

 悍ましい、感覚が————二人を襲った。

 

「っ、これは!?」

「……この、感覚。厄者だよ、ソウジ!」

 

 厄者の、気配。

 それを感じ取った二人は、すぐさま甲板の方へと戻っていく。

 すると、そこでは。

 

 弾幕を周囲に展開し打ち出そうとしている厄者……サベージらしき存在の姿が、空中に視認出来た。

 

 咄嗟に、サイトは動く。

 

風剣飛翔(エアライド)!!!」

 

『柔風の剣』を足元に出現させ飛び乗り、そのまま勢いよく厄者へと突撃していく。

 手にも風の剣を出現させて、斬り裂かんと。

 しかし。

 

「はっ! 甘ぇよぉ!」

 

 サベージはその腕でもって、サイトの一撃を防いだのだ。

 けたたましい轟音が、宙空から響き渡っていく。

 衝撃波も業風と共に広まり、下にある大海を揺らして大きな波を作りだした。

 目を見開くサイト。そんな彼を、サベージは興奮の入り混じる声色と吐息で迎え入れていく。

 

「兎野郎じゃあねぇかぁ!!! ひっさしぶりだなぁ、会いたかったぜぇ!!!」

 

 サベージのその言葉に、サイトは呆れながら言葉を返そうとした。

 が、その時。

 

        ズ   ズ ズズ

 

 空間の歪む音が、サイトの耳に聞こえた。同時に、彼の中で最大級の警鐘が鳴らされる。

 この感覚を、知っている。

 この、無機質で悍ましい感覚を知っている。

 アストラでも感じた、そして————過去に、兄をこの世から消し去った、あの。

 

「………………」

 

 無言のまま現れたのは、女性の人族(ヒューマノス)型の厄者。

 

 黒いロングヘアに、白のメッシュ。

 瞳の色は()()がごちゃ混ぜになったような、何を捉えているか分からないような無機質なもの。

 特殊な形状の眼鏡に、服装は黒のロングスカート。両袖には小さいフリルが付いており。

 ブーツにも黒に白の挿し色が入り、その見た目はモノクロな雰囲気を醸し出している。

 

 兎の少年(サイトと名乗る者)の意識は、そんな現れた厄者へと注がれることになる。

 

 ————忘れる筈がない。忘れて、なるものか。兄さんの仇、その厄者! ()()()……!

 

 女性型の厄者も、サイトの方を見つめていく。

 何の感慨も、驚きもない。

 ただただ、見下し呆れ果てた……その様な視線を、厄者は向けていた。

 

「————っ! お前、お前ぇ!!!!!」

 

 サイトは怒りに身を任せ、そっちへと突撃しようとする。

 が、しかし。

  

「おいおい無視してんじゃあねぇよ兎野郎! この弾幕共を防がねぇと————てめぇら全員お陀仏なんだぜぇ!!!!!」

 

 サイトが気を取られている間に、叫びと共に弾幕を船へ目掛けて一斉に射出していくサベージ。

 

「っ、くそがっ!!!」

 

 サイトはそれらの弾幕を防ごうと、『風剣飛翔』用いながら空中を駆けていく。

 しかし弾幕の勢いは凄まじく……切り裂いていくものの、弾幕の雨あられを防ぎようもなく。サイトを巻き込みながらそれらは船へと振り注いでいった。

 

「ぐぅ!?」

 

 アストラの頃よりも更に増した弾幕の威力は衰えることなく————そのままサイトを船の甲板へと撃ち落としてしまった。

 空を切りながら落ちてきたサイト。その衝撃で船に傷がついてしまう事態となっていく。

 

「サイト!? 大丈夫か!」

「うっぐぐ……だい、じょうぶ! でも、船が……!」

 

 ソウジがサイトへと駆け寄る間にも、厄者は次の一手を構えている。

 慌てるギルド員達に、ルシオラが喝を入れるようにして指示を出す。

 

「あんた達落ち着いて! 幸いまだ船は無事よ! 結界石(ゲニウス)の出力を更に引き上げて、攻撃を防いで!」

 

 指示に従い、ギルド員は船に備え付けられた結界石の効力を高める操作を施す。

 すると、船の周囲に特殊な障壁が展開されていった。

 その行動を見たサベージは……恍惚とした表情を浮かべながら、もう一人の厄者へと視線を向けていく。

 

「なぁ、メモリ! お前も混じんねぇのかぁ!? これから起こる破壊と殺戮のパレードによぉ!」

「……お一人で、お好きにどうぞ」

「はっ! じゃあ俺一人だけいただくぜ! ————かぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 興奮からの咆哮をあげ、サベージの手の平から禍々しい光線が放たれる。

 それを結界石の障壁が受け止めていく————が、しかし。

 

「っ! まずいですルシオラさん! 障壁にヒビが!」

 

 ギルド員が叫ぶ。

 確かに障壁には、徐々にヒビが入っていくのが目に見えた。

 皆が何か手を尽くそうと動き出すが、意味はない。

 無情にも————障壁は粉々に砕け散り、光線は船へと直撃した。

 船の中央辺りが、弾け飛んだ。  

 そして、その影響によって。

 

「きゃあ!?」

 

 アリスが、衝撃によって体を吹き飛ばされ船から落ちてしまったのだ。

 

「っ! アリス!」

 

 咄嗟に。いの一番に体が反応したのは、サイトだった。

 フードが捲れるのも、体の痛みもお構いなしに彼は走り出して————自身も船から飛び降りて、アリスを抱き抱えて荒れる海へと落ちていった。

 

「サイト!?」

 

 叫ぶソウジ。

 しかしサベージは待ってくれない。更に追撃をかまそうと、腕を前に突きだしていった。

 その時。

 

「っ!? なん————」

 

 サベージ達へと、極太の赤く揺らめいた斬撃が襲いかかったのだ。

 体勢を崩すサベージ。謎の黒い靄へと身を隠すメモリ。

 ソウジも驚いて飛んできた斬撃の方角を見る。

 その目線の先は……ヒノモトからで、あった。

 そして、ソウジはあの斬撃から感じられる力の出処に、覚えがあった。

 

 ————あの、力強さ。神に近しいと言われる炎の力。まさか……兄さん!?

 

 そうソウジが思い当たったのと、同時に。

 サベージの方から、上機嫌な笑い声が響き渡った。

 見れば、彼は腹を抱えている。

 

「マッジかよぉ!? あんな一撃繰り出せる奴がいるとかよぉ! なぁメモリ。俺はあっちに行くぜ? 止めんな————」

「勝手な行動をしないでください。私達の目的は別にあります。それに……避けねば本当に再起不能にされますよ?」

「あぁ? ————ってうぉ!?」

 

 厄者達が話している間にも、次の斬撃が飛んでくる。

 それを回避する為に、サベージとメモリは黒い靄へと入り込んでいき————そのまま姿を消してしまった。

 

 後に残された面々は、呆けるのみ。

 が、すぐに気を取り直したルシオラが指示を出す。

 

「皆聞いて! 船は壊れたけど、救命艇がある! そこに乗って、脱出するわよ!」

「ルシオラ! サイトとアリスはどうすんだ! 海に落ちまったんだぞ!」

「探す! けどその前に、他の皆の安全を確保したい!」

 

 慌ただしく事態は動いていく。

 生き延びた全員が迅速に行動をしていき、どうにか救命艇に乗り込むことは出来た。

 が、そこから捜索をしてもサイトとアリスの姿は見当たらなかった。

 焦るソウジ。自身も海へと飛び込んで探そうとした、そのタイミングで。

 

「おーーーい! あんた達ぶじぃ!?」

 

 前方から、何隻かの船が向かってくるのを目撃する。

 その先頭から発せられた声の主を見て、ソウジは目を見開いた。

 猫の顔を持った、白い毛並みと尻尾。白い髪は二つに纏められてツインテールとなっており、白と朱を基調とした巫女服の様な物を纏った、背の小さな女性。

 そのまま船は近くへと止まり、声の主である猫種の獣族(ベスティアノス)の女性は指示を出していく。

 

「無事ね! なら早く乗って! んでとっととヒノモト行くわよ! もう色々大変だから、すぐに————」

 

 白猫の女性も、ソウジに気が付いた。その蒼色の瞳は、何度も彼の姿を視認する度に瞬きしていく。

 他の、白猫の女性と共にやって来た人々が救助活動をする中で、二人はお互いに言葉を漏らしていった。

 

「……アヤ、メ?」

「————ソウ、ジ?」

 

 こうして、ヒノモトでの活動の幕が……あがっていく————。

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