『俺は、強いからな』
尊大、大げさ、過剰とも取れるその言葉は、通常のヒトが発してしまえばただ恥をかくだけだろう……と、ソウジは考える。
そう、そのように考えるのだ。通常のヒトがそれを言った場合なら、と。
即ち、ソウジは先の発言を大言壮語ではなく、純然たる事実であると認識している。その言葉に相違なく、何も間違っていないのだと。
故にソウジは、非常に。非常に微妙な顔つきでホムラに視線を送ってしまう。
————くっそ! やっぱなんか苦手だこの人!
尻尾と耳が垂れ下がる。
過去に天火中でホムラと暮らしていた日々が、ソウジの中で思い起こされていく。
何かと自信満々に行動を起こし、様々な技術を習得していったのをつど見てきていたソウジ。
天性の才を用いて行った数々の偉業、魔獣退治に関しても敵無しである彼。
そんな順風満帆とも言える人生を送る彼は————全く自身の才に驕ることなく邁進し続けている人物でもある。
それをソウジは知っている。だからこそ、苦手意識を持ってもいた。
しかし、もうそんな子供染みた言い訳を言ってもいられない。
ゆっくりと深呼吸をしていき……意を決したソウジは、その突き出された口吻を開いていった。
「兄貴。久しぶり、だな。そんで、その……色々、心配かけたよ。ごめん」
久方ぶりに
心配そうに目を細くしながら観察をするアヤメ。そして、ホムラの方はというと……ニカッと、これまた眩しいぐらいの笑みを浮かべてソウジに近づくと、彼の肩に腕を回していった。
「はっはっはっ! 何のことだかさっぱりだなぁ!」
「うぉ!? ち、近ぇってば!」
「まっ、肩ひじ張り過ぎんなよぉ? お前は結構緊張しいなところがあるからなぁ。それに加えて心配性だ! 昔の時も、お前は一人で頑張れるんだって大量の荷物を抱えて————」
ぺちゃくちゃと話を続けていくホムラ。それを振り払えずに何とも形容しがたい顔で聞いているソウジ。そんな彼を助けようと、アヤメがため息を吐き出しながら近づこうとしたそのタイミングで————また別の人物の声が、彼らのもとへと聞こえてくる。
「いたわぁ~! もう、ホムラちゃん! 急にいなくなったと思ったらこんなところにいるなんて!」
女性らしい口調。お転婆で、元気な様子を醸し出しそうな話し方。しかしてその声の主は————毛深く彫りの深い顔たちをした、筋骨隆々な体つきに独特な民族衣装を纏った猿種の
その猿種の人物はホムラの近くまで来ると、かなり茶目っ気のある女性らしい仕草を取りながら、野太い声でもって軽快に話を続けていく。
「オウソンとの話の途中で抜け出しちゃっても〜! ほら、早く会議室に戻りましょ……って、あら? アヤメちゃんもいたのぉ〜!? それにこっちの獣族! ん〜見た感じぃ……分かった! ホムラちゃんの弟さんねぇ? きゃ〜! やっだぁ! 目の感じとかソックリ〜!」
テンションを高めに高めた声色と話し方を繰り広げながら、猿種の人物はソウジの体をベタベタと無遠慮に触っていく。
その撫でるような手触りに、ソウジは獣毛がゾワゾワと逆立つような感覚に陥り、思わず仰け反ってしまった。
あちゃ〜、と呆れた視線を送るアヤメ。面白がってニヤニヤとその様子を眺めるホムラ。
そんな二人を知ってか知らずか、ソウジは警戒心を露わにしながらその謎の人物に吠えるようにして話しかけていく。
「あ、あんたナニモンだよ!? ってうぉあぁぁ!? やめろ尻尾まで触りに来んな! 艶めかしいんだよ一々!」
「うふふ。アタシ、強そうなヒトを見ると思わず確認したくなっちゃうのよぉ……しっかしイイ鍛えられ方をしてるわねぇ〜。あっちのトレーニングも中々に素晴らしい……わね!」
「おう理由は分かったから瞬時に詰めよんな怖ぇんだよ!!! おいアヤメ! 黙ってないで助けてくれよぉ!」
触診されまくるソウジに、ノンストップで好き勝手に話しまくる猿種の人物。
このまま収集がつかなくなりかけてしまう、その前に。アヤメが猿種の人物をソウジから引き剥がして、事態はやっと収まった。
息を荒げながらアヤメの後ろに隠れ、警戒の色を強めたままのソウジ。
そんな狼の彼に、猿種の人物は手を合わせながら謝罪の言葉を口にしていく。
「ごめんなさいねぇ、ついつい盛り上がっちゃったわぁ。アタシの名前は
「お、おぉ……よろしくだ。俺の名はソウジ。つーかあんた、楽ノ勾一座の座長なのか? じゃあ、アゲハもここに?」
「えぇ、勿論いるわよぉ? 天火中の住民の避難誘導とかをしてもらってるわ。後で会えそうだったら会ってあげて! きっと喜ぶから!」
手のひら同士を合わせる、女性らしい仕草を取りながらソンはその様に話した。
そうして挨拶も済んだところで、ホムラが口を開いていく。
「うっし、インパクトのある挨拶も済んだところでだ。テンちゃん、
「そうそう。で、兎の
「なっ、サイト達が見つかったのか!? どこでだ!? すぐに合流しねぇと!」
ソンの話した内容は、ソウジにとってあまりにも重大なことでしかなく。
彼は焦り、先ほど初見で警戒心を最大まで引き上げたソンの腕にお構いなしに掴みかかっていく。
掴みかかられ、多少驚くソンであったが……すぐにソウジの手を自身の手で握り返すと、安心させるような声色で話していった。
「落ち着いて。まだ口頭でしか伝えられてないから、姿までは確認出来てないの。というか、オウソンも取り敢えず伝えとくわ〜とか急に連絡よこすもんだから、もうびっくりで」
「なる、ほど? ……でも、そっか。無事ではある、のか」
「えぇ、オウソンから聞いた特徴も二人と一致してたからね。さて、それじゃあ会議室に向かいましょうか! 今から会議を始めようって時にオウソンからの連絡が入っちゃって、実のところまだ作戦を練られていないのよね〜」
優しく囁くようなその言葉に、ソウジは徐々に落ち着きを取り戻していく。
その様子を見て、アヤメもほっと一息をついて。
そんな中で、ホムラが音頭を取るように声を張り上げていった。
「テンちゃんの言う通り! それじゃあ、会議室に向かおうか!」
頼もしい声で、ホムラはグングンと通路を進んでいってしまった。
呆れた視線を向けるアヤメ、微笑ましい視線を向けるソン。
そんな中で、ソウジはある気になったことをソンに訊ねた。
「なぁ、テン。兄貴はなんで会議室を急に抜け出したんだ?」
「えっとねぇ。ホムラちゃんが、『弟の気配がする……!』って突然言い出してね? そのまますっ飛んでったのよ。で、アタシが追いかける役をしたんだけど……そこにいたのが、アヤメとアナタだったってわけ」
「……何やってんだよ、兄貴」
そんな荒唐無稽とも言えるような彼に続くようにして、ソウジ達も歩いていく。その中で、ソウジは少しの安心とまだ拭えない不安感を抱えながら思考していった。
————サイト、アリス。お前らの顔を、早く見たいぜ……!