「……なる、ほど。サイトさん達のこと、やはり心配ですね。それにしても、オウソンですか」
話を続けている最中、話はサイトとアリスのことに。
その中で、ホリィは少し悩ましげに眉根を寄せていく。
ソウジはその反応に、同じような反応を見せる。
「オウソン……俺も、名前だけは聞いたことがある。
「……私も、アヴァルの図書館で読み聞いた事しか知らないのですが。何でもタカノマハラに迷い込んだ者をからかう癖があるらしいですね? そして妖達の纏め役でもあり、非常に残忍な性質も併せ持つ、と」
「そう。……だからなんか、不安っつーか」
そうして話をする中で、ホムラがソウジへと声をかける。
「ソウジ。ちょいと話があるから、ここに残っててくれるか?」
恐らく例の話で引き留めたのだろうと察したソウジは、そのままホムラとヒカルの両名と話をしていくことに。その過程で、ホリィとも別れる。
「では、私はこれで失礼しますね。……サイトさん達と無事に出会えることを、願っています」
にこやかな笑みを浮かべながら、ホリィはそう言って会議室を後にした。
そうして、会議室に残った面々。最初に切り出したのは、ホムラだ。
「さて、と。聞きたいことは、サイトとアリスについてだったよな?」
「あぁ、そうだ。二人は結局無事、なんだよな?」
「それに関して……ヒカル、お前から話してやってくれ。久しぶりの再会でもあるし、丁度いいだろう?」
言われ、ヒカルは気まずそうに視線を泳がせた。ソウジも、どこか居た堪れなくなってちゃんとヒカルの方を見れない。
しかし、意を決してソウジはヒカルの方へと顔を向けると……しっかりと、言葉を交わしていく。
「ヒカル、お前も久しぶりだな。……かなり大きくなってて、ビックリしたよ。
明るく、優しげに振る舞うソウジ。
そんな彼の言葉に、ヒカルは。プルプルと身体を震わせていくと、そのまま溜まったものを解放するかのように言葉を吐き出していった。
「…………えぇ、えぇ。元気ですとも、元気ですよ! 僕も、サクヤも! ずっと、貴方が帰ってくるのを待ってたんですよ……ソウジ兄様!」
「おっおぉ……なんかすげぇ慕ってくれてっけどよ。俺、家出した奔放野郎だぜ? そんな畏まらなくても……」
「何を仰いますか! 僕は兄様のお陰でここまで成長できたのですよ! 忘れもしません、兄様が僕に言った『お前は臆病なんかじゃない』……この言葉がどれほどの救いになったか!」
鼻息荒く、ヒカルはソウジへと詰め寄っていく。
そんな彼に対し、ソウジは目を丸くさせた後……にへっと顔を緩ませた。
そのままヒカルの頭を撫でていき、優し気な視線を送っていく。
「ははっ……そんな昔も昔の事を覚えてるなんて、お前は相変わらず真面目な奴だな。ありがとよ」
「~~~っ! もったいなきお言葉です!!!!!」
部屋に響き渡る程に大きな声を出したヒカルに、ソウジは耳を少し畳む。ホムラはにやにやと笑ってそんな様子を眺めていた。
そうして。一通り落ち着いてきたヒカルは、眼鏡を片手でクイッと上げながら改めて説明に入った。
「それで、サイトとアリスの両名に関してですね。この二人は現在、タカノマハラにいます。そして、体調も比較的安定しているようです。ですが……その、何と言いますか」
「なんだ? 何かあったのか?」
「……オウソン様が連絡を取ってきた時、こう言っていました。『馬鹿で活きの良い兎の坊主と、人の良い
ソウジの目が、見開かれる。
途轍もない剣幕を放ちながら、彼はヒカルの肩に掴みかかっていった。
「お前、それ……サイトに何かしでかしますって言ってるようなもんじゃねぇか!? なんで何も言わなかったんだよ!」
「いえ、その、それは……。オウソン様は昔から我々と協力関係にありますので、そこまでの心配をする必要はないと————」
「馬鹿野郎! 今のサイトは……アイツは、心を酷く痛めてんだよ! 余裕を失くしちまって、まるで迷子みたいにフラフラ彷徨ってて……そんなアイツが今何かされたら、心が壊れちまうかもしんねぇんだ! そんなことに、俺はなってほしくない!」
肩を力強く握っていくソウジ。力強く握られたその手の震えからして、相当な心配を抱えているのは目に見えて分かった。
彼は今にも射抜かんとする眼光でヒカルを見つめ、あることを訊ねていく。
「なぁ、作戦のメンバーを変えられないか? 俺をタカノマハラに行かせてくれ。二人が……特にサイトが、心配だからよ」
それは、作戦へ向かう者の変更を求めるものであった。
未だ力強く手によって握られるその肩。そこに手を置いたヒカルは、横でずっと二人の様子を見ていたホムラへと視線を向けると、一つ息を吐き出していく。
「……ふぅ。もういいでしょう? ホムラ様、
「ははっ! いやぁ、そうだな。これならある程度納得は出来るし、してくれそうだ。なぁ、オウソン?」
『かっかっかっ! そうじゃなぁ、何とも気概のある奴じゃわぁ! きちんと仲間のことを慮り、案じ、そして自身の身を持ってして助けようと試みる! 何とも気の良い奴じゃのぉ!』
ホムラと、もう一人。ヒカルの服の懐辺りから陽気な笑い声が響き渡った。
何が起きているのかと困惑するソウジ。ヒカルの肩から手を離さないままに、その困惑を口に出していく。
「はっ? おい、ちょっと待て。話が一切見えねぇんだが……?」
「……要するに、ソウジ兄様は試されていたのですよ。主にオウソン様によって、ね」
『そういうことじゃ! ……おいヒカル! 鏡を見せい鏡を! 儂の姿が見えておらんじゃろうが!』
言われ、ヒカルは懐から手鏡を取り出した。すると、その鏡の中に映っていたのは鴉の頭を持った存在。
それが妖『オウソン』であると、ソウジはすぐに勘づいた。睨みを利かせて、手鏡に映るオウソンへと視線を向けていく。
そんな威圧感に対し、オウソンはニヤニヤと嘴の端を吊り上げていくのみ。
『かっかっ! そう睨むでないわ若造よ。安心せい、兎の坊主に何かするつもりはないわ。じゃが、観察は続けさせてもらうがの』
「観察、だと?」
『あぁ。あ奴の心は誰がどう見てもボロボロじゃ。己を己自身の手で追い込んどることに自覚すらしておらず、ひたすらに何かの影を追い求めておる』
ふざけた様子は鳴りを潜め、真剣な口調で語るオウソンにソウジは目を見開く。そしてそのまま、悔しげに唇を噛み締めた。
サイトのその状況に気が付いていたのにも関わらず、きちんと話す時間を取れていなかった己の不甲斐なさに腹が立ったからであろう。
そんなソウジの様子を見たオウソンは、スッと目を細めて彼を見つめた。
『儂のやっすい挑発一つでブレる精神状態じゃ。まぁ、若いからこそ起きる心のブレなのかもしれんが……あ奴、あれじゃろ? 大人ぶろうとする癖、あったりしたんじゃないか? 責任感強そうじゃし』
「……当たってる。アイツ、一人で何でも抱え込みがちでよ。ボーデンでも、俺がちょっと無理に気持ちを吐き出させたこともある」
『かかっ、そうか。ともかく、そんな感じなんでな。よーく見ておかんと、何をしでかすか分からん。じゃから、観察。それに、今のあ奴が厄者と戦ったところで……大したことも出来ずに、死ぬだけじゃろうて』
冷厳とも言えるその物言いの中には、様々な感情が込められている様にソウジは思えた。
呆れや、憐れみ。しかし、ただサイトの行いに呆れて見放しているわけでもなく、寄り添うように憐れんでいるわけでもない。
————この、妖は。かなり達観して物事を見てんのか……? あくまで乗り越えることが出来るのはアイツ自身。そういう考えだからこその、こういう見方なのか。
冷静にそう考えつつ、その視点に立つことは恐らく一生ないだろうともソウジは思った。
己のなりたい自分は、そことは別にあるから。
だからこそ、ソウジはオウソンに温和な調子で返答した。
「今のアイツがそんな調子なんだったら……俺が、アイツを支えてやるだけだ。達観して遠巻きに見守るなんて選択肢を、取りたくないからな」
『ほほぉう? じゃがそれは、修羅の道。お主自身の身すら滅ぼしかねないが……それでも?』
「やってやるさ。俺のなりたい自分は、人の役に立って助ける自分だからな! 勝手に助けるし、支える」
自信満々に答えたソウジ。その言葉に迷いはない。
更に彼は言葉を続けていく。
「それに、俺はアイツの兄貴分だから。背中を見せて、引っ張ってやりたい。勿論、アリスや他の奴らも同じだぜ? 俺は困ってる奴ら全員を助けてやれたらいいなって。そう、思ってる」
精悍な顔つきで、ソウジはそう締めくくった。
聞いていた一同の反応は、様々で。
ヒカルは恭敬の意を示すようにしてソウジに熱烈な視線を向け、オウソンは感心するようにソウジのことを鏡から見つめながら「かっかっかっ!」と笑い声をあげている。
そして、ホムラは……嬉々とした調子でソウジのことを見つめていた。
そのまま、オウソンが愉快そうに口を開いていく。
『そこまで覚悟を決めとるんなら、良いじゃろう! タカノマハラに来るといい。そんで、あ奴をどうにかしてやるとせぇ』
「っ、ほんとか!? ……ヒカルや兄貴は、問題ないのか?」
ソウジの問いに、ヒカルとホムラは各々笑いかけながら返答する。
「僕は一向に構いませんよ。ソウジ兄様の実力も疑っていませんしね」
「俺も問題ないぞ? そもそも、ソウジは必ずそう決断するって確信はあったし……何より、ソウジの意志の強さを目の当たりにしたからな! 覆しはしないさ」
二人からの言葉に、ソウジはパァッと顔を明るくさせていく。
「そうか! なら、ありがたく向かわせてもらうとするぜ!」
そうして、ソウジの配置はタカノマハラとなった。
彼は決意を秘めた表情で、上を向いていくと。
————サイト。お前を絶対に、支えてやるからな。
そう、心に誓うのであった。
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「……ふん。何が兄貴分か。くだらない志を掲げる愚者が偉そうに」
静かになった、暗闇が覆う会議室。その壁の一部が、徐々に隆起していく。
そこから姿を現したのは、一人の
ソウジの放った言葉の全てが、空虚な偽り事であるとでも言うかのように。
額に身に付けた黒いバンダナの下にある、鋭く昏い黒の
そのまま、彼は誰にも悟られる事無くギルドを抜け出し、天火中も飛び出して夜闇を駆け抜けていく。
「先代のカンナギ家の当主……ソイツや母方が行ってきた悪行を受け止めようともしない。浅ましい、愚鈍すぎる。亡くなった者の出来事が全て武勇伝として受け継がれているのも、腹立たしい」
恨み言は、口からスルスルと零れ出ていく。
夜の闇に吐き出す度に、自身の中に宿る
「だからこそ……俺の為すべきことを為す為に、全てを利用するのみだ」
その怨嗟の混じる声を聞く者は……誰も、いない————。