「で、結局あんたはタカノマハラの警護に配属されたわけね? まーったく、お人好しねぇ」
「まぁまぁ良いじゃないアヤメちゃん。私はソウジちゃんのその献身さ、魅力的だと思うわよ〜」
「お前ぇ……昔に比べて、めっちゃ頼もしくなりやがってよぉ〜! 感動だぜぇ!」
「サイトさんの調子も、かなり危ういということですね。……心配です」
あれから、作戦までの少しの時間の間にソウジはアヤメ達と再会して適当なギルド内のテーブル席に座って話していた。
四人の様々な反応を見せられたソウジは、頭の後ろを手でポリポリと掻きながら言葉を返していく。
「まぁ、そういうわけでだ。ホリィ、お前とは一緒に行けなくなっちまった。わりぃな」
「いえ! 寧ろ、アラマガ・アンギョウ、並びに
「おう、よろしく頼むぜ。んで、アヤメ。お前とは、一緒ってことになるな。何かと、頼りにしてる」
アヤメへと信頼の視線を向けていくソウジ。そんな彼に対し、アヤメは小さなため息を一つ漏らしていく。
「えぇ、まぁ、あたしもあんたは頼りにしてるわよ。作戦の時は、頑張りましょうね」
「あぁ! ……にしても、テンちゃんは兄貴の護衛に加わるんだよな。『楽ノ勾一座』って、なんかすげー武術を伝授してるとかそういうのがあるのかよ? 戦いに参加するってことは、そこら辺の実力は認められてるってことだよな?」
「あら、そういえばソウジちゃんはそこら辺詳しく知らないんだっけ? まぁ、そうねぇ。確かにウチの子達には色々と教えたりしてるわよ? 戦闘技術は大事だからねぇ。何よりアタシが教えてるんだから、生半可な技術じゃないことの証明にもなる」
話題を向けられたソンは、自信満々にそう話した。
その言葉に、ソウジは未だ疑問符を浮かべたままだったが……そこに、アヤメがこそっと耳打ちして補足していく。
「テンちゃんはね、オウソンと並ぶほどに強い
「マジかよ。……だったら、この自信満々な感じも頷けるわな」
「俺も噂で聞いたことがあるぞ……ソン・セイテン。その昔、ある一人の法師と共にヒノモト中を行脚した伝説の存在。よもや妖だったとはなぁ」
そうして耳打ちしている彼らの様子をニコニコと眺めながら、ソンは続けて話していく。
「そうやって戦闘技術を教えてる中でも一番やる気に満ち溢れているのは……アゲハちゃんかしら。あの娘は一座の中でも並々ならぬ想いを抱いてるから、その分頑張ってるわ」
「アゲハか……今は、避難誘導をしてたりするんだっけか?」
「えぇ、そうよ。ただ、そろそろ落ち着いてきた頃だと思うんだけど……あっ、噂をすればね!」
ソンが通路の先へ手を振ると、そこにいたのはアゲハだった。
蝶を連想させる踊り子の衣装を身に着けた彼女はソウジ達に気がつくと手を振り返した。
そのままソウジ達の元へと近づいていく。
「わぁ〜! 皆いるじゃ〜ん! ていうかソウジ君久しぶり! ホリィちゃんもちゃんと話したことないよね? そっちの筋骨隆々な人も初めて〜! ん〜話したいこと沢山あって迷っちゃうなぁ〜!」
「んもう、アゲハちゃんったら。でも、気持ちは分かるわよ〜? 大切な友人と出会えたら、ついついテンション上がっちゃうわよね♡」
「うんうん! テンちゃんの言う通り! それで、皆は何を話してたの〜?」
アゲハの乱入により騒がしくなったこの場の雰囲気に、ソウジは耳を畳んで若干の苦笑い。アヤメも同様に口の端をヒクヒクと動かして尻尾をだらんと下げている。
ガッツはニッカリと快活な笑みを見せて出迎え、ホリィは少々面食らったように目をパチパチとさせていた。
そんな反応もありつつ、アゲハに話していた内容を伝えていくソウジ達。
それを聞いたアゲハは、驚嘆の眼差しでソウジのことを見つめていった。
「ソウジ君、凄いなぁ……でも、なんか納得。貴方、人へ気を配ることに関しては一段と長けてる感じするもの。何よりは、仲間の絆ってやつなのかな」
「……絆、か。まぁ、そう言えるものかもしんねぇな。気恥ずかしくはあるけどよ」
「何で? 他者に気を配るって、言う事自体は簡単だけど実践するのはかなり苦労するし……それを出来てるソウジ君は恥ずかしくなんかないよ! ちゃんと偉い! 褒めてしんぜよ〜!」
テンションを上げながら、アゲハはその様に言いながらソウジの顔を撫でくり回す。
撫でくり回されたソウジの顔は、満更でもなさそうだ。そんな様子を、アヤメは嫌悪感を隠そうともせずにアゲハのことを何とも言えない表情で見つめていく。
「おっ、アゲハちゃん分かってるぅ! 俺も撫でさせてもらうぜ〜!」
便乗して、ガッツもソウジを撫で回していく。
もみくちゃにされていくソウジの顔は、満更でもなさそうだ。
この場の空気が混沌と仕掛けたタイミングで、ソンが手を叩いて自身に注目を集めた。
「はいはい! 取り敢えずここいらで解散としましょうか! 作戦までの間、身体を休めておかないといけないから、ね?」
「あぁ、それもそうね! ごめんねソウジ君、あんまりにも撫で回したくなっちゃってさ!」
「俺も、すまん! つい、テンション上がっちまってよ」
「……いや、問題ない。じゃあまぁ、作戦本番の時はよろしく頼むぜ?」
そうして、場は解散されていく。
ソウジも用意された自分の部屋へと戻ろうとしたが……そのタイミングで、アヤメから声がかかった。
「ねぇ、ソウジ。ちょっとだけ、いいかしら?」
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アヤメに呼び止められ、ソウジはある所へと連れられていた。
そこは、ギルドの裏手に備え付けられた中庭。一面には、儚げに透き通る白い花。それらが、夜を照らす月の光を受けながら咲き誇っていた。
ソウジはその場所を見て、懐かしそうに目を細めていく。
「おぉ……ここ、懐かしいな。それに儚祈草もいい感じに咲いてらぁ。綺麗だよなぁ、この花」
「えぇ、そうね。今はヒノモトのみにしか咲いていないと言われる花。祈るように手折ると、儚くも淡い光を放つことからその名で呼ばれている……美しい花よ、本当に」
「ふーん、由来はそんな感じだったのかぁ。さっすがアヤメ! 勉強家だもんなぁ、色々物知りだ!」
ニッカリとした笑顔でアヤメのことを褒めていくソウジ。
そんな彼にアヤメはゆっくりと近づいていき……目と鼻の先程の距離まで縮まると、その狼の顔を真剣にその蒼色の瞳で見つめながら口を開いていった。
「そう、あたしは物知りだよ。でもね、分からないことだって当然ある」
「分かんねぇこと? それって、何だよ?」
「……色々よ。けど、一つこれだけは言っておくわ。あんたは、あたしが支えてあげる」
力強く、はっきりと。白猫の彼女はそう言い放った。
その言葉に、ソウジは目を丸くする。幼馴染として、アヤメのことは子供の頃から知っている。聡明であるが勝ち気、そのうえで他者とあまり馴れ合おうとは思わない
基本的に初対面相手であれば威嚇、反りが合わなければツンとした態度を崩さない。
ソウジはそんな性格である彼女から、その様な発言が飛び出たことに驚いた。そして同時に、嬉しくもあり。
彼はワナワナと身体を震えさせ、尻尾をぶん回しながら耳をピコピコと動かしていく。
「おっ、おぉ……おぉ!? アヤメ、お前からそんなこと言ってくれるなんて……ははっ、なんかすんげぇ嬉しいなぁ! なんだよー! お前もすんげぇ成長してるじゃんか!」
ニカーっと満面の笑みを浮かべるソウジ。心から嬉しいという感情を全身で表現する狼の彼に、アヤメはそっぽを向きながらも言葉を返す。
「別に、あたしは何も変わってないわよ。こんなこと言うのも、あんたにだけ」
「そーなのかぁ? ……何にせよ、俺にとっちゃ嬉しいことに変わりはないよ。うっし! お前が俺を支えるんなら、俺もお前を支えてやる! お互いに支え合って、頑張っていこうぜ!」
「ちょっ、そうしちゃったら意味無いでしょうが!? あんたがあんまりにも危なっかしいから、あたしが支えるって言ってるのに!」
アヤメの言葉に、ソウジは目を点にしていく。一瞬訳がわからないといった顔をしていたが……すぐに言われた言葉の意味を理解したのか、罰が悪そうに視線を逸らしていく。
そんな彼の様子に、アヤメは深い溜め息を吐き出した後、ジトーっと責めるような視線を向けていく。
「あんた……はぁ。薄々気付いてはいたけど、あんたの見つけた在り方がそれなのね。何というか、あんたらしいっちゃらしいというか」
「……もう怒んねぇのか?」
「怒ったところで、あんたはもうその在り方を変えるつもりはないんでしょう? だったら、あたしから何か言っても焼け石に水っていうか……こうなりゃとことん、あたしも支え返してやるって思うことにする」
ジトーっとした視線から、優しげな視線に変わったアヤメは、続けてこうも話していく。
「あ、あと手紙とかも寄越しなさいよ? あっちに行ってからとんと音沙汰なくて、心配だったんだからね?」
軽い調子で話すアヤメから、気遣いの匂いを感じ取ったソウジは申し訳なさそうに視線を送った後……きちんと顔を向けて、彼女の言葉に返事をする。
「おう。あっちに帰った後も、手紙とか書くよ。だからまぁ……本当に、今回の作戦はよろしく頼むな」
「えぇ、よろしく。んじゃあ、もうそろそろ戻りましょうか。再三言われてるけど、作戦までに身体は休めとかないとね」
「……ありがとな、アヤメ」
ボソリと、最後にソウジが呟いた言葉は、夜の空気に流されて消えていく。アヤメは耳をピルっと動かして、中庭からギルド内部へと戻っていった。
作戦本番は、すぐそこだ————。