フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

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第八話 動き出す運命

 

 白く広がる空間に、寝具がポツンと置かれている。

 そんな寝具の上で寝そべるのは、兎の少年。

 もぞもぞと体を動かして、何かを呟いている。

 

「兄さん、ごめん……」

 

 魘される様に眠る兎の少年の傍に、人間の男性が立っていた。

 

 穏やかで優し気な顔に、深く濃い橙色の目。

 鮮やかな明るめの橙色をした、もみあげを刈りそろえた短髪。

 きちんと整えられた特殊な飾り付けがなされた服装は、彼が特別な立場にあることを思わせる。

 

 彼は兎の少年の頭を撫でる、姿を消して。

 

 後に残るのは、兎の少年のみ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 窓から射し込む朝日に顔が照らされ、瞼を動かす。

 ゆっくりと目を開いて布団をのけ、上体を起こして伸びをし欠伸を一つ。

 そのまま寝具から降りて立ち上がり、ある程度毛並みを整えた後いつもの服装に着替えていく。

 最後にフードを被り終えて準備を終えるのと同時に、外からノック音が聞こえる。

 ドアを開けると、そこにはアリスの姿が。

 外套を羽織っておらず、素顔が露わになっている。

 美しく滑らかで、先の方にグラデーションがかかっている短めの白髪と可愛らしい顔が現れているのに加えて、その服装にも目を向ける。

 

 スカートと一体化した胴衣、その胸元から腰辺りまでは瞳の色と同様の水色に染まり、スカート部分は清廉さを感じる白で染め上げられている。

 腕の関節辺りまである袖の色も水色でこれまた美しさを強調しており、使われている布も上質さを感じさせ気品さが伝わってくる。

 脚はクルーのソックスを履いており、その模様は蒼と黄色の螺旋。

 膝辺りまでのブーツは、アリスの清廉な一面を伺わせるような白のデザインである。

 

 そんなアリスの外套を羽織っていない姿に、サイトは触れていく。

 

「アリス、もう外套は羽織らないの?」

「うん。貴方に頼られるぐらい強くなるって決めたからね。自分から姿を隠さない様にしようって思ったの」

「……そっか」

 

 二人の間に、微妙な空気が流れる。

 その空気を裂くためなのか、サイトの中からハヤテが唐突に姿を現して言葉を挟んだ。

 

「とりあえず朝食を食べに行くぞ。腹が減ってきた」

「そうだね! じゃあサイト君、先に行ってるから!」

「う、うん」

 

 そう言って早足に一階へと降りていったアリスを、サイトは目で追っていく。

 その様子を見たハヤテが、からかうような口調で一言。

 

「惚れたのか?」

「いや、そんな事は……」

「顔や体に関しては、整っている部類に入るだろう。将来的にも美人な顔つきに……やめろ腹部辺りを無作為に揉むな」

 

 黙らせる為に、ハヤテの腹部を揉んでいくサイト。

 ため息を吐き、肩を落として落ち込むが。

 頭をぶんぶんと振って気持ちを切り替えると、自身も一階へと降りるために足早に廊下を進んでいった。

 

 テーブルへと座り朝食を済ませた二人は、受付を済まし。

 二人は宿屋を出ると、ギルド『不滅の物語(ペルペトゥス・ファーブラ)』へと向かう。

 

 道中、ハヤテはサイトの中からある質問をする。

 

『そういえばお前たち、ギルドの場所は分かっているのか?』

「分かってるよ、ハヤテ。調べたら、看板に狼と拳が重なり合う様なデザインが施されてるんだって。だからすぐに分かると思う」

「狼と拳を? なんだか厳ついデザインだね」

 

 そんな談笑をして数分歩いていると、それらしき看板と建物が見えてきた。

 近くまで向かい看板に刻まれた名前を確認すると、不滅の物語(ペルペトゥス・ファーブラ)と記されている。

 問題なく目的地に辿り着いた二人と一匹は、玄関の扉を開けようと銀色のレバーに手をかけようとした、その時。

 後ろから、低く唸る様な声がかかる。

 

「そこのフード被ってる奴、ちょっといいか?」

 

 振り返ると、そこにいたのは。

 

 鋭い緑色の三白眼に蒼く生えた髪。体躯は鍛えられているが、がっちりと言うよりは細い部類で引き締まっているのが服の上からでも分かる。

 そんな服装も、サイト達とはまた違った異国の物を改造したかのような印象を与えて目を引き、後ろにチラチラと見える腰に下げた一本の小刀も目を引く代物。

 しかし何より目が行くのは、その長く白いマズルと三角の耳にでかい尻尾だろう。

 

 そんな狼種の獣族(ベスティアノス)な男性は鋭そうな爪が目立つ手でサイトを指さしてそう引き留めた。

 サイトは振り向くと気さくに声を返す。

 

「はい、何でしょうか?」

「何の用でここに来たのか気になってな。言っちゃ悪いが、身なりもかなーり怪しいし」

「疑う気持ちは、分かります。けど、僕らは正式にギルドへ加入するためにここへ来たんです。イニティウムさんに用があるんですけど」

 

 狼獣族の男性はイニティウムの名を出されると同時に何かに気付いたのか。

 目にも留まらぬ速さで、頭を下げた。

 突然の行動に、二人は驚き慌てて声をかける。

 

「ちょちょちょっとどうしたんですか!? 頭を上げてください!」

「いや、これは俺が未熟だったがために起こった事だ。フードで顔を隠していた程度で疑いをかけちまうなんて、心が狭すぎる……すまない!」

「いやいや、さっきも言ったけど気持ち分かりますって! ここでこうしてたら目立っちゃいますから、顔上げて!」

 

 サイト達の説得が実り彼は顔をゆっくりと上げると後頭部を手で搔きながら、申し訳なさそうな顔で話し始める。

 

「本当に迷惑かけちまった。ティムさんの名前を出された時にあんたらの匂いを嗅いだら、ちゃんとティムさんの匂いがしたからよ。本当だって分かったぜ」

「イニティウムさんを知ってて、愛称で呼んでるって事は……貴方はギルドの?」

「おう、俺もここの所属だ。名前はソウジ・カンナギってんだ、よろしくな! とりあえず中に入れよ。俺が色々と案内してやる」

 

 彼はギルドの玄関扉を開け、尻尾を振りながら中へと入っていった。

 顔を見合わせ、二人も続いて中へと足を踏み入れた。

 

 三階建てなのは外から見ても分かってはいたが、実際の内部を見ると広さの感じ方が段違いでそれだけで圧倒されてしまう。

 更には装飾の数々も綺麗に手入れが行き届いており、清潔感もばっちりに思える。

 人の数も多いが、受付の人々はそれらを慌ただしくもきちんと捌いており、歴戦の猛者を思わせる働きぶり。

 もちろん中には戦闘に長けていそうな者もおり、肌で感じ取れるオーラは毛並みを逆立たせてびりびりとした感覚を味合わせてくる。

 

 そんな様子を呆けた顔で眺める二人を、先ほどの狼獣族が横から声をかける。

 

「どうだい、うちのギルドは?  賑やかだろ!」

「う、うん。想像以上だった。強そうな人もたくさんいるね」

「受付の人たちも大変そう。それにしても、イニティウムさんとガッツさんはどこにいるんだろう?」

 

 アリスの言葉に、狼獣族の男性は尻尾を振りつつ答えていく。

 

「ガッツは分からないが、ティムさんなら大抵自分の部屋で仕事してると思うぜ? ほら、こっちだ」

「ありがとう、ソウジ」

「いいってことよ!」

 

 そのままソウジは先導して人混みを分けながら、やがて目的地へと辿り着いた。

 

 部屋の扉をノックすると、中から昨日話した厳格な人物の声が聞こえた。

 入る許可をもらい、サイト達は中へと入っていく。

 部屋に入り目についたのは、様々な書類が机の上に置かれている光景。

 右左を見れば戸棚があり、何かの道具らしきものが中に多数置かれている。

 そして、目的の人物であるイニティウムは、机に置かれてある書類を捌きながらサイト達を視認すると笑顔を向けながら応対する。

 

「サイト、お早う。アリスも、よく眠れたか?」

「あっはい! 快眠でした!」

「ははっ、それは良かった! しかし……何故ソウジと一緒に?」

 

 イニティウムの疑問に、ソウジが少々申し訳なさそうな声を出しながら答える。

 

「それは、俺が迷惑をかけたせいなんだ。だからお詫びも含めて、この部屋に案内する事になったわけ」

「そうだったのか。丁度いい、とりあえず座れ。昨日言った通り、正式な手続きを済ますとしよう」

「はい、分かりました。じゃあ失礼します」

 

 促され、ソファに座るサイト達。

 イニティウムも用紙を二枚持ってサイト達の前に座り、手続きを済ませようとする。

 そんな中、ソウジがそろりと部屋を出ようとしたのをイニティウムが引き留めた。

 

「あぁソウジ。お前にも話があるから、部屋に残っていてくれ」

「えっ? ……分かりました。それじゃ、横に座らせてもらうぜ?」

「あぁ、どうぞ」

 

 サイトの隣にソウジが座りそのまま手続きは順調に進んでいったが……イニティウムが何気なしにサイトへと質問をする。

 

「そういえばなんだが、何故サイトは顔を隠しているんだ? 少々気になってしまってな」

「えっ? あぁ、そのことなら……僕も厄者に狙われてるんですよ。だから顔を隠してます」

「……そうなのか。すまないな、不躾な質問だった」

 

 その会話を、アリスは何とも言い難い微妙な表情で聞いている。

 そんな表情の変化に気付くイニティウム、そしてソウジであるが。

 特にその場で言及する事もなく、滞りなく手続きは済んでいく。

 二人の用紙が書き終わるのと同時に、イニティウムが口を開く。

 

 

「さて、これで手続きは終了だ。何か気になる事はあるか?」

「いえ、特にないです」

「私もないです。精一杯頑張ります!」

 

 ふんっと鼻を鳴らしながら腕を構えるアリスに、イニティウムは微笑む。

 と、慌ただしい足音が廊下を鳴らすのが外から聞こえ、サイトとソウジの耳がピコピコと動く。

 しかしその場の全員が慌てる様子はない。

 サイトは昨日に同じような(もの)を聞いているため、ソウジはうへぇと呆れ顔。

 アリスもなんとなく予想はついており、イニティウムはふぅとため息を一つ零す。

 うるさいぐらいの音を響かせながら扉を開け放った人物は、開口一番大きな声で挨拶をかましていく。

 

「よーうサイトにアリスぅ! 元気してたかぁ?」

 

 その人物は、ガッツ。

 巨体に見合う程のデカデカとした声は、部屋に音を響かせていく。

 

「やっぱりガッツさん! でも、どうしてここに?」

「知らない人が来てるって受付の奴らが言ってたんでな。ティムに報告がてら、お前らの様子を見にここへ来たんだよ」

 

 腰に両手を当てながら快活に笑うガッツ。

 そんな彼に、イニティウムは話を促していく。

 

「……で、報告って事は例の案件か?」

「おう、そうだ! んで、その案件はソウジとサイト。お前らに関係してる」

「ん、俺も? つー事は、ティムさんが俺を部屋に残したのはそれか?」

 

 ソウジの言葉に答え合わせをする様に、ガッツが手に持った用紙の内の一つをイニティウムに手渡す。

 それに一通り目を通し、ふぅむと悩まし気な吐息を漏らす彼を不思議そうに見るサイトとアリスにソウジ。

 その視線にイニティウムは真剣な目で返しつつ、口を開いていく。

 

「ソウジの読み通りでな。この用紙に書かれた内容は、()()()()で現在起こっている村の住人の異変に関してだ」

「異変? 一体何があったんだよ」

「……挙がっている事例を一つ言えば、『些細ないざこざから殺し合いに発展し、死にはせずとも重傷者が出ている』だな」

 

 イニティウムの発言に、サイトにアリス。

 そして、ソウジの三人は表情を引き締め。

 彼はそのまま話を続けていく。

 

「この件には、厄者が関わっている。調査は以前からボーデン側で行ってはいたそうだが……自分達だけでは危険だと判断し、俺達や別のギルドにも要請がかかった」

「そのメンバーに、ソウジさんと僕が選ばれてるって事ですか?」

「そうだ。お前たち二人に向かってもらいたい。頼めるか?」

 

 イニティウムからの頼みに耳を動かしながらサイト達は力強く返事をしていく。

 

「勿論です! 災厄に繋がる事なら、なおさら!」

「俺も、当然向かう。厄者を野放しなんて出来ねぇからな」

「感謝する。五日後の馬車を手配してあるから、それまで各々準備を済ませておいてくれ」

 

 イニティウムの言葉に頷く二人。

 そんな中、どこか悩まし気な顔を覗かせるアリスに気付いたガッツがなんとなしに声を出し始めた。

 

「そういやぁティム。次の全体訓練はいつだったっけな?」

「ん? ……あぁ、次の訓練は二日後だ。ガッツ、頼んだぞ」

「任せろよ! アリスも来いよ? みっちり面倒見てやるから」

 

 その話題にアリスは目を輝かせながら鼻を鳴らして腕を構える。

 

「はい、精一杯頑張ります!」

 

 和やかになった状態で、イニティウムが手を鳴らして話を纏める。

 

「それじゃあ、サイトとソウジは各々準備を進めておいてくれ。アリスには色々とやってもらう事があるから、後で受付の奴に手取り足取り教えてもらえ」

 

 そうして、時間は過ぎていく――――――。

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