フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

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第九話 闇に潜む者

 

 深く、深く広がる闇の中に漂う一人の角と翼が生えた下半身の無い男。

 眉間に皺を寄せ目を瞑り、怒りを滲ませながら宙に漂うその男は、自身が不愉快だと分からせるように何もない空間で声を張り上げる。

 

「ざぁっけんじゃねぇよババア! いい所だったのに水差しやがってよぉー!」

 

 叫んだ声は闇に飲み込まれ、応答もなく静寂だけが包み込む。

 つまらなさそうに口元を歪めしばらく宙に浮いていると、脳内に声が響く。

 体の芯が凍ってしまいそうな程に冷たく無機質で、淡々とした女性の声が。

 

「あの場で、最善の選択を取っただけです。有用な駒を壊されてしまうのは災厄様にとっても不都合ですから」

「あぁ? そういやてめぇ、俺の事を力不足だっつったよな? 村一つ滅ぼした俺の何が力不足だっつーんだあぁ!?」

「滅ぼせたのは単に覚醒石(デザイアギット)の所有者がいなかったからです。力不足に関しても貴方は厄者(われわれ)の中で新たに生み出された七体目。弱いのは当たり前でしょう」

 

 事実のみを並べられたその男は不快感を更に募らせて声の主に食って掛かるように罵詈雑言を浴びせかける。

 しかし一切トーンを変えることなく女性はその男に命令を下した。

 

「サベージ。数ヵ月の間は回復に専念しなさい。力も注ぎますので」

「ちっ、クソがよぉ」

 

 殺伐とした空間に、更に乱れを与える爆弾が一つ現れる。

 

「おや、サベージではないですか。……あぁ、可哀想に、敗走しましたか?」

 

 闇の中、サベージと呼ばれた男とは別に。

 飄々と煽るような声が響く。

 その声の主はサベージから睨まれているのを全く気にする事なく、気さくに彼に話しかけていく。

 

「そんなに睨まずともよろしいではないですかぁサベージ。私達は()()でございましょう?」

「微塵も思ってない事を言ってんじゃねぇよ狸野郎が。何しにきやがった」

「相変わらず口が悪い。そうですねぇ……顔を碌に見せないシャイな方が貴方を気にかけているようでしたので、ご挨拶をと」

 

 含みを持ってそう言うと、その人物は手を腹部に当てながら軽い礼をする。

 

「ご機嫌麗しゅう、()()()。相も変わらず姿を見せぬその慎重さに冷徹な視線。素晴らしく、美しく。可憐で聡明な貴女を、私は大変誇らしく思いますよ」

()()()()()()。貴方は、他の厄者と違ってやはり異質ですね。なにせ、その様な()()()()を吐けるのですから」

「はっはっはっ。何をおっしゃいますかメモリ。私の言葉は全て、そう、全て本心からのお言葉ですよ? 誤解を招く発言はやめていただきたいものだ。サベージもいるのですよ?」

 

 心底の殺意を向けつつ、サベージはデミウルゴスと呼ばれた男らしき存在に問う。

 

「本当に何しに来た? 煽る為だけに来るほど、テメェは腑抜けてねぇだろ?」

「サベージはせっかちですねぇ。いえね、貴方様が交戦した勇者について訊ねたく思った次第なのですよ。厄者を退けられる程の人物を警戒するのは、自然な事で御座いましょう?」

 

 その視線は粘っこく相手を補足し、絡みつく。

 気持ちの悪さを感じたサベージはぶっきらぼうに、デミウルゴスへ相対した者の特徴を話していく。

 

「明るい麻色の毛と茶色い髪に、右目の周りに赤痣を持った獣族(ベスティアノス)で、兎のガキだったよ。名前は頑なに答えなかったから知らねぇ」

「ふむ、なるほど。メモリも同じ感想ですか?」

「そうですね。相違なく同じ感想を持ちました」

 

 デミウルゴスは含みのある笑いを零す。

 

「なら、その姿で合っているのでしょうね。感謝しますよお二人とも」

「おいなんでババアにも確認取った?」

 

 睨みつけるサベージを無視し、デミウルゴスは更に含み笑いを零していく。

 その張り詰めた空気を遮るように、闇の中でメモリの抑揚のない声が二人の頭に響いていく。

 

「双方、そこまでにしておきなさい。無様ですよ」

 

 酷く冷えた言葉に、デミウルゴスは高笑いを返す。

 

「はっはっはっ! やはり貴女は素敵だメモリぃ! 今度、共にディナーをしましょう! サベージもどうですか?」

 

 向けられた粘ついてくる視線に、サベージは射殺すように視線を返す。

 

「その気持ち悪い目で見んじゃねぇよ。消えろ、カス共」

 

 彼がそう言うと、ふっと一つの気配が消えた。

 次いでもう一人、軽薄そうなその人物も軽く笑うように息を吐きながら、気配を消そうとする。

 しかし、その存在は消える前に言葉を残していった。

 

「それではサヨウナラ。サベージ、貴方の特性と役目をゆめゆめ忘れることのなきよう」

 

 悪意を残して彼は闇へと身を浸していった。

 はぁとため息を零し、サベージは目を閉じて思案する。

 己を倒したあの兎の事を。

 

 あの身のこなしに殺意を滲ませた黄色の瞳。

 どれをとっても、面白い。

 次に会ったら、どのように戦おう?

 あいつのように剣を使って殺り合うか?

 いやあえて体術で殴り合うのも一興だ。弾を飛ばしてそれらをどう捌くかも見てみたいし、他の武器だとどう対処するか。

 考えただけでゾクゾクする。

 

「兎野郎……次に会うのが楽しみだぜ」

 

 にやりと笑みを浮かべ。

 闇に漂うその者は。

 人と変わらぬ意志を持ち。

 世界を貶め朽ちさせる。

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