闇深い世界で…悪化させた日々   作:不良品の主人公

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無人島試験最終

 

 

そして……試験六日目の夜。

 

無人島に滞在する最後の夜、漆黒の闇に包まれた林の奥深くで、二人の指導者が人知れず対峙していた。

 

Aクラスの葛城康平と、Cクラスの龍園翔。周囲にはそれぞれの側近すらおらず、完全なサシでの密会だった。

 

 

「なるほどな……。リタイア、か……」

 

 

葛城は、月明かりに照らされた顔を苦渋に歪め、完全に龍園にしてやられたという表情を浮かべていた。龍園から明かされた、他クラスの「リーダー当て」を完全に無力化するハメ技――カードリーダーを熱中症による自主リタイア扱いにして強制変更するという裏技を、今まさに聞かされたからだ。

 

それを見た龍園は、肩を揺らして低く笑った。

 

 

「くくくっ……、てめえのそのカタブツな頭じゃあ、逆立ちしたって思い浮かばなかったろ? ま、学年が始まって早々、坂柳の奴と不毛な派閥争いなんかやってる余裕のなさじゃ、仕方がねえけどな」

 

「ふん、言わせておけば……。要するに、戸塚がリーダーだとお前たちにバレていようが、契約を盾にされずとも、お前たちにはリーダー当ての失点を回避する術が最初からあった、ということだな」

 

 

葛城は重い溜め息を一つ吐き出した。だが、彼はすぐに毅然とした態度を取り戻し、冷徹に現状の損益を計算し直す。

 

 

「……だが、それでも我々Aクラスがこの6日間で得た恩恵は、支払う対償(ポイント)以上だ。食料と水を不自由なく分けてもらっただけでなく、DクラスとBクラスの正確なリーダー情報まで手土産にくれるとはな。おかげで我がクラスは、誰一人として脱落することなく無事に試験を突破できた」

 

 

葛城の言葉に、龍園はポケットに手を突っ込んだまま、不敵な笑みを崩さずに返した。

 

 

「ふん、勘違いすんなよ葛城。俺とて最初からAクラスを敵に回して、全面戦争をするつもりはねえ。互いに利のある、対等な契約をしたまでさ」

 

 

交渉の成立を確信した葛城は、ずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。

 

 

「……一つ、聞いておきたい。お前は一体どうやって、あのDクラスの水野月を軍門に下らせたのだ? 奴の能力は、この6日間の兵站を見れば一目瞭然だ。お前を相手にしても、そう簡単に屈する器とは思えんが」

 

「あぁ? 水野月の奴か。くくっ、大した方法じゃねえよ。Dクラスの馬鹿どもがな、大勢でルール違反のやらかしをしやがったのさ。そこで水野月の奴が、クラスの失格を取り消してもらうために、自分から『身を売る』って交渉を俺に持ちかけてきやがったんだよ」

 

「……何だと? クラスのために、自らを差し出したというのか」

 

 

葛城の目が、驚愕にわずかに見開かれる。龍園は吐き捨てるように鼻で笑った。

 

 

「そうだ。だが笑えるのはその先よ。Dクラスの無能どもはな、水野月が泥をかぶって繋いだ恩すら綺麗さっぱり忘れて、過酷な砂浜から逃げるようにさっさと船へ戻っちまった。水野月の奴も、ハナから報われねえ不良品共を背負わされて、とんだ大ハズレくじだぜ」

 

「……哀れな男だな。己の能力に見合わぬ環境に身を置いたのが、奴の不幸か」

 

「だからよ、俺はあいつに、何とは言わないが『助け舟』を与えるつもりだ。あいつほどの極上の駒を、あの泥溜めに放置しておくのは勿体ねえからな」

 

 

龍園の言葉の意図を察したのか、葛城はふっと表情を和らげ、わずかに口元を緩めた。

 

 

「ふん。お前のような男が率いるCクラスも、そう捨てたものではないな。……時間は十分だ、俺はもう行くぞ。互いに、明日の最終日にはいい結果が出ると良いな、龍園」

 

「ああ。てめえのクラスの勝利を願ってるぜ、葛城」

 

 

短い言葉を交わし、二人は闇の中に溶け込むように別々の方向へと歩き出した。

 

一人、拠点へと戻る道すがら、龍園は夜空を見上げて小さく呟いた。実のところ、龍園自身、今回の無人島特別試験がここまで完璧に、自分の掌の上で上手く行くとは予想していなかったのだ。

 

 

「くくくっ……。Dクラスにまともなリーダーさえいれば、もっとあいつとの化かし合いも楽しめたかもしれねえのによ。クラスが底辺のあれな上に、中学からの女まで抱えてるんじゃ、動きが縛られるのも仕方ねえか」

 

 

水野月という男の境遇を少しだけ惜しむように、そして明日訪れるであろう完全勝利の瞬間を思い描きながら、独裁者は暗闇の中で不気味な愉悦の笑みを深めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無人島特別試験、最終日。

 

長かった一週間の戦いが、ついに終わりの時を迎えた。

 

撤収作業の片付けを終えて浜辺に戻ってきた俺――水野月陽哉は、長谷部、そして椎名ひよりと共に、教員たちが用意した簡易テントの影で冷たい水を口に含み、結果発表の瞬間を待っていた。

 

浜辺に集まってきた一之瀬クラスの面々は、俺と波瑠加が未だにピンピンした様子で島に残っているのを見て、一様に驚きの表情を浮かべていた。

 

 

「……ねえ、あの二人、嘘でしょ? Dクラスってほとんどリタイアしたはずじゃ……」

 

 

そんな彼女たちの視線を横目に受けながら、俺はふと、すでに船上でぬくぬくと過ごしているであろうDクラスの残党どもの顔を思い浮かべていた。

 

 

(あの無能ども、この結果を聞いて一体何を思うかね……)

 

 

同時に、脳裏をよぎったのは、先ほどリーダー投票の用紙を提出した際の茶柱先生の顔だ。俺がBクラスのカードリーダーとして『白波千尋』の名前を書き込んだ瞬間、彼女の目は僅かに見開かれ、驚きを隠せていなかった。これでDクラスとして最低限の仕事はしたつもりだったが、彼女は書類を受け取ると、冷徹な声音のまま小さく呟いたのだ。

 

 

『ふん……。何もしていないわけではなさそうだな』

 

 

褒めるでもなく、ただ事実を確認するようなその一言。茶柱に執拗に脅迫され続けた日々への決別のカウントダウンは、もう始まっている。

 

 

「陽哉、あっちで龍園くんたちが一之瀬さんたちと言い合ってるよ……?」

 

 

波瑠加が服の袖を小さく引き、顎で指し示した。少し離れた位置から、龍園のあの不敵な声が聞こえてくる。

 

 

「くくくっ……。随分と体力がねえ女をリーダーにしたもんだなぁ、一之瀬?」

 

「っ……何の事かな、龍園君。私には君が何を言っているのか分からないよ」

 

 

一之瀬が白波の前に立ちはだかるようにして、鋭い視線を返す。だが、龍園は鼻で笑い、髪を乱暴にかき上げた。

 

 

「はっ、ここまで来てまだ隠すかよ。まぁいいさ、せいぜい結果を見て、そのおめでたい頭でビビり散らかすんだな」

 

 

その時、教員の持つメガホンから、静寂を切り裂くような大音量が響き渡った。

 

 

「そのままで構わない、試験は既に終わっている。では、これより1年生最初の特別試験、結果を発表する!」

 

 

この音声は、スピーカーを通じて豪華客船の中の生徒たちにもリアルタイムで届いているはずだ。船内の松下や須藤たちの顔が脳裏をよぎる。

 

一之瀬や神崎の目に、張り詰めた緊張が走る。しかし、それは何もBクラスだけではなかった。俺たちの指示に従って必死にスポットを守り抜いたCクラスの面々も、同じように不安げな表情でじっと教員を見つめ、固唾を呑んで発表を待っていた。

 

 

「……まず、最下位。Dクラス、0ポイント」

 

 

これは誰もが知っている確定事項だ。砂浜を血の海に変えて自滅した不良品どもの当然の結末。問題は、ここからだった。

 

 

「続いて、第3位……Bクラス、30ポイント」

 

「え……っ!?」

 

「嘘だろ!? なんで30……!?」

 

 

ざわり、と一之瀬のクラスが一瞬にして動揺に包まれた。自分たちのリーダーが完全に看破され、龍園のハメ技によって他クラスへのリーダー投票が不発に終わったことを、彼女たちはこの瞬間に理解したのだろう。

 

 

「第2位……Cクラス、472ポイント!」

 

「ま、マジかよ……っ!?」

 

「やった、やったぞおおお!!」

 

「うおおおお!! 龍園さん!!」

 

 

石崎や小宮たちが、狂喜乱舞して叫び声をあげる。スポット十カ所以上の占有ボーナスに加え、Bクラスのリーダーを的中させたことによる莫大な加算。Dクラスを裏から崩壊させ、Aクラスと結託した俺たちの完全なる作戦勝ちだった。そして、教員の最後の声が響く。

 

 

「第1位……Aクラス、473ポイント! 以上で特別試験の結果発表を終了する!」

 

「「「うおおおおおおおおおっ!!」」」

 

 

浜辺の一角が、地鳴りのような歓声に包まれた。Aクラスの勝利だ。

 

葛城が、自分の派閥の生徒たちからこれでもかと絶賛され、揉みくちゃにされている。さらに、普段は葛城派閥と激しく対立しているはずの坂柳派閥の人間までもが、葛城の圧倒的な結果を前に、今までとは明らかに違う「畏怖」の混じった目で彼を見つめていた。

 

その一方で、Bクラスの陣営では、白波千尋が精神的な限界を迎えてその場に崩れ落ち、一之瀬が涙目を浮かべながら必死にその身体を支えていた。

 

 

「くくくっ……、約束通り、最高の景色が見られたなぁ葛城?」

 

「ああ。お前との契約は、我がAクラスにとっても最良の選択だった。感謝する、龍園」

 

 

大歓声の中、龍園と葛城が固い握手を交わしている。

 

俺はその光景を静かに見届けた後、隣に立つ長谷部の肩をポン、と軽く叩いた。

 

 

「よし、行こうか、波瑠加。俺たちの仕事は終わった」

 

「うん、そうだね陽哉。……本当にお疲れ様」

 

 

椎名も「水野月くん、行きましょう」と微笑み、俺たちは教員たちの用意した帰還用の船へと歩き出す。

 

後ろを振り返れば、石崎たちが肩を組み合って、狂ったように騒ぎ立てている声が聞こえてきた。

 

 

「おい聞いたかよ! 来月から俺たち、Bクラスに昇格だぜ!!」

 

「ざまぁみろDクラス! 一之瀬たちも引きずり下ろしてやったわ!」

 

 

勝者たちの凱歌を背中で聞きながら、俺は一歩一歩、豪華客船へと続くタラップを登っていく。

 

船に戻ったらすぐに、あの砂浜で泥をすすってでも生き残ろうとした、Dクラスの「マシな連中」を呼び出す算段を始めなければならなかった。

 

 

 

 

 

豪華客船の通路を進み、ようやく冷房の効いた船内へと戻ってきた俺と長谷部、そして椎名。

 

そこには、重苦しい表情を浮かべた松下、須藤、三宅、佐倉、そして櫛田の5人が、俺たちの帰還を今か今かと待ち構えていた。

 

彼らの姿を認めると、椎名は上品に一礼し、どこか含みを持たせた笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

「私の付き添いは、ここまでのようですね。――Dクラスの皆さん。約束通り、水野月君たちはCクラスのために本当によく頑張ってくれました。ですから、明日にでも龍園君から、ここにいる皆さんへ『1人当たり5万プライベートポイント』が確実に振り込まれます。どうぞ、お楽しみに」

 

「え……? ポイントを、本当にくれるのか……?」

 

 

須藤が呆然と呟くのを背中で聞きながら、椎名は「それでは、失礼しますね」と、軽やかな足取りでCクラスのエリアへと去っていった。残されたのは、俺たちと、絶望のどん底にいるDクラスの仲間たちだけだった。

 

 

「水野月君……っ! 大、大丈夫……!? どこか痛いところとか、ない……?」

 

 

椎名が去った瞬間、佐倉が真っ先に俺の元へ駆け寄ってきた。おどおどした様子は消え失せ、今にも泣き出しそうな目で俺の身体を隅々まで心配そうに見つめてくる。

 

 

「ああ、大丈夫だ。この通り、ピンピンして生きてるよ」

 

「よ、良かった……本当に、良かった……っ」

 

 

佐倉は心底安堵したように、俺の手をぎゅっと両手で握りしめてきた。その手の震えから、彼女がどれだけ俺を心配していたかが痛いほど伝わってくる。

 

そんな俺たちの様子を見て、櫛田桔梗がいつもの「聖女の仮面」を貼り付けたまま、申し訳なさそうな顔で近づいてきた。

 

 

「本当にごめんね、水野月君……。私が、みんなをもっと強く止められれば、水野月君がこんな泥をかぶるような真似、させずに済んだのに……っ」

 

 

悲劇のヒロインのように俯く櫛田。

 

だが俺は彼女の本性を知り尽くしているため、感情を一切動かさず、冷淡に言葉を返した。

 

 

「仕方が無いさ。終わったことを悔やんでも意味はない」

 

 

俺がそれだけ言うと、一同は自然と歩を勧め、静まり返った船内の廊下を進み始めた。周囲を歩く他のDクラスの無能どもは、結果発表の衝撃から未だに立ち直れず、お通夜のような空気を晒している。

 

 

「……水野月君。私たち、これからどうしよう」

 

 

隣を歩く松下が、声を潜めて聞いてきた。彼女の目は、ただ絶望している周りの奴らとは違い、冷徹に「クラスの完全な崩壊」を見据えていた。

 

 

「他クラスから、絶望的なまでに引き離されちまった……。ポイントはゼロ、あいつらは船で浮かれてやがる。俺たち、これからどうすりゃ良いんだよ……っ」

 

 

須藤が悔しげに拳を握りしめ、壁を殴りつけんばかりに歯を食いしばる。三宅もただ無言で、険しい表情のまま床を見つめていた。

 

俺は歩みを止め、自分の部屋の前で行き足を止める。そして、隣にいた松下と、未だに俺の手を心配そうに握っていた佐倉に向き直った。

 

 

「松下、佐倉。――後で、お前たちにだけ個別に話したいことがある。時間が空いたら、俺たちの部屋に来てくれ」

 

「……えっ?」

 

 

佐倉がパッと顔を上げる。一方の松下は、俺のブレのない、完全に先を見据えている「安定した目」をじっと見つめ返し、何事かを察したように小さく、深く頷いた。

 

 

「分かった。少し落ち着いたら、佐倉さんを連れて行くね」

 

 

それを見ていた三宅と須藤が、驚いたように俺に詰め寄ってくる。

 

 

「おい、水野月……。なんか、ここから這い上がる方法でも思いついたのか?」

 

 

期待と焦燥の入り混じった目で見てくる二人に対し、俺は不敵な笑みを僅かに浮かべてみせた。

 

 

「まあな。――すべては俺次第だが、どうしようもないわけじゃない。少なくとも……ここにいるメンバー(お前ら)くらいは、俺が何とかして見せるさ」

 

「「……!」」

 

 

須藤と三宅は、驚きで顔を見合わせた。Dクラス全員を救う気はさらさらないが、俺を信じて最後まで足掻いたこのメンツだけは、絶対に切り捨てない。その強い意志を感じ取ったのだろう。

 

同室である須藤と三宅が、俺を気遣うように部屋のドアを開けた。

 

 

「……ま、詳しい話は後だ。水野月、お前一週間まともに風呂も入ってねえんだろ?」

 

 

三宅がいつものクールなトーンで、けれど気遣わしげに言った。

 

 

「取りあえずつべこべ言わずに、さっさと風呂入ってこいよ」

 

「ああ、そうさせてもらうわ」

 

 

二人に促され、俺は部屋のシャワールームへと向かった。衣服を脱ぎ捨て、勢いよく溢れ出す温かいシャワーを頭から浴びる。一週間の無人島の泥と汗が、白い泡と共に足元へ流れ落ちていく。

 

目を閉じ、心地よい水圧を感じながら、俺はこれからの完璧なシナリオを脳内で組み立てていた。

 

 

(……だが、現実はそこまで甘くねえな)

 

 

俺の手元にあるのは、新型ドローンなどの事業で稼ぎ出した手持ちの5000万プライベートポイント。この学校でクラスを移籍するには、一人当たり2000万ポイントが必要になる。つまり今の資金力では、俺と長谷部の二人分を支払うのが限界だった。

 

だが、詰んでいるわけじゃない。

俺には、すでに仕込んである次の一手がある。前世の知識を活かして売り出している最新刊の小説の売上、そしてこの夏の頑張り次第で、九月か十月には再び莫大なプライベートポイントが俺の手元に入ってくる計算だ。その資金さえ手に入れば、奴らを一気に引き抜くことができる。

 

 

(松下、須藤、三宅、佐倉――。まずは、この四人を最優先で『新生Bクラス』に移籍させる)

 

 

他にもあの砂浜に残っていた、幸村や小野寺といった骨のあるメンバーも多少は引き込みたいと考えているが、まずは俺を信じてくれたこの四人が絶対最優先だ。

 

熱い湯気に包まれながら、俺の胸の奥では、Dクラスの精鋭たちを救い出し、学年全体の勢力図を完全に塗り替えるための、次なる冷徹な資金調達と引き込み(移籍)の策略が静かに熱を帯び始めていた。

 

 

 

 






Aクラス 300−30(坂柳不在)−30(戸塚リタイア)−50物資+100(リーダー当て(B、Dクラス))+183(スポット占有)=473cp

Bクラス 300−70(物資)−150(3クラスからリーダー当てられる)−50(Cクラスのリーダーを外す)=30cp

Cクラス 300−70(物資)−30(1人リタイア)+100(リーダー当て(B、Dクラス))+172(スポット占有)=472cp

Dクラス 300−70(物資)−1080(ほぼ全員リタイアしたので持ち点消失)−100(A、Cクラスからリーダーを当てられる)+50(Bクラスのリーダーを当てる)=0cp(−にならない)



Aクラス 1004+473=1477cp

Bクラス  713+30=743cp(Cクラスに降格)

Cクラス  512+472=984cp(Bクラスに昇格)

Dクラス 0+0=0cp
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