闇深い世界で…悪化させた日々 作:不良品の主人公
平田君という統率者が機能停止したクラスです。
7月の2週目。
池と山内の退学後、Dクラスは荒れ始めた。
あちこちでポイントを借りに行く者や逆にポイントを取られて辛そうな表情の者と様々だった。支給されるポイントが無い為、クラスの雰囲気は悪くなり、授業中は無気力が蔓延していた。
無理も無い。今月授業を真面目に受けても来月もポイントが入らないのだ。皆席についてはいるがぼんやりと授業を受けており、ノートを取らない者も出て来た。
平田はずっと沈んでいた。彼はもう周りを見ようともしなかった。入学してから築き上げてきた好青年の姿は今や影も形もない。
彼の取り巻きだった女子達は群れの長を失ったかのようにそれぞれバラバラに動いていた。
他からポイントを借りるもの。授業を聞く気力も失った者、様々だった。
そしてそれはDクラスの男子の大半も同じ様子。
先月までは少額であるがポイントが入っていたが今はそれが無い。
ましてや本来は増えた筈のポイントが入らないとなると勉強する気力を失ってしまう。ただでさえ苦手だった勉強をする気力も無くなり皆形だけの授業を受けていた。
やがて、授業が頭に入らないのか、教科書を忘れたり、授業中に居眠りする者も増えて来た。Dクラスの勉強意欲は確実に下がっていた。
そんなある日だった。
「本堂いなくね?」
「休んだのか!?」
男子の1人が授業を欠席した。
表向きには体調不良と言う事になってるらしいが真相は不明だった。
1人が欠席したのを見てかクラスには今までに無い緩みが生じ始めた。授業を受けながらもいない生徒の席を気にしてる様子だった。皆何処か落ち着かない様子だった。
そのまま午後になった。
更に1人の机が空席になっていた。どうやら昼に帰ったらしい。その男子は休んでいた生徒と友人関係にある生徒だった。
それを見てDクラスは騒然となった。
「なあ、授業真面目に受けてもポイント増えないんだよな?」
1人がそう呟いた。
それを皮切りに周りもひそひそと話始める。
午後の授業担当の先生が来てもその余波は収まらなかった。
そのまま授業が始まった。クラスメイトは何処か落ち着かないまま授業を聞き流していた。
後ろから見て何人かはノートを取っていなかった。
チラチラと周りを見ている者数名。他に授業をサボっている人がいないか確認している様子だ。5限目が終わった。
「ねえ、私もう疲れた」
「良いんじゃない?ポイント増えないんだし、帰ろうよ」
何人かが帰り支度を始めた。止める生徒はいない。頑張って残った所でどうせポイントは増えないのだ。
6限目になるとクラスの何箇所かが空席となった。残っている者も落ち着かない様子で授業を受けていた。
1人が隣の人に内緒話をした。早退するよりはマシだと言う考えだろう。それをきっかけに隣と喋る者が少しずつ増えてきた。
やがてその波紋は広がり、授業中にも関わらずDクラスの3分の1が小さな声で話し始めた。
前方の幸村が振り返って教室を見た。何かを言いたげだったが言葉が出てこない様子だ。
誰も止める者がいないまま授業は進んで行った。
あれから1週間が経った。
「でさ〜、昨日の上級生マジでウケるんだけど〜」
「あははははっ、本当だよね〜」
「………」
授業中にも関わらず、前方の席で篠原達が喋っている。止める人はいない。何時もなら優しく止める平田は沈んでいた。平田が誰とも話さなくなってから彼のグループの女子達は徐々に節度を守らなくなっていた。
「早くゲームして〜」
「もう帰って良いんじゃね?どうせポイント振り込まれないし〜」
「そうだな、なら別に良いか。期末も二夜漬けくらいで何とかなるっしょ〜」
男子達も徐々にだらけ始めて来た。まず少しだけ携帯を弄る者が出て来て、次第に小声で話始め、やがて普通の音量で話始める者が出てくるとそれは広がり始める。
授業をまともに聞いてるのは3、4割といったところか。途中で帰る者も出て来た。
須藤の方を見ると周りが緩んでいる為か、頬杖を付いてボーっと授業を聞き流してる。モチベーションが下がってる様子だ。
池と山内の退学によってDクラスのクラスポイントは0ポイントとなってしまった。今月どれだけ授業に出ても恐らく来月もポイントは振り込まれない。中間試験が特別だっただけでテストの度に100クラスポイントが支給される訳では無いのだ。
その為Dクラスの勉強意欲は大幅に下がっていた。
昼休みになった。
女子の集団が俺の席まで来る。
「み、水野月君、ちょっと良いかな?」
篠原が恐る恐る聞いてくる。後ろには佐藤もいる。軽井沢との一件以降平田のグループの女子達は俺を幾らか怖がるようになったと思う。何処か控えめに聞いてくる。
それと反対に俺の席まで声掛けに来る回数が増えてきているが。
「その、一緒にお昼食べない?」
「…悪いが、先約がある」
「そ、そうなんだ」
俺の答えを聞いて篠原の顔が強張る。平田が潰れてからだった。最近よく俺の席に来るようになった。
「じゃ、じゃあ明日は?」
「…すまない、多分行けない。戻ってくれ」
「あ、うん…」
尚食い下がる篠原を追い払う。少しがっかりしたのか彼女達は戻って行った。
とてもじゃ無いが篠原達の相手をする気にならない。1人なら兎も角、集団のそれもお喋りな女子達の相手なんてしきれない。平田の真似なんて俺には出来なかった。
そうで無くとも行かない理由はあるが。
「ねえ」
食堂に行こうとしたら堀北に止められた。彼女はサンドイッチを持ったまま話し始めた。
「ポイントについて話があるのだけれど」
「なんだ?」
堀北は俺の方を向かないまま話し始める。
「私の記憶が正しければ貴方、入学前に企業貢献をしていたわよね」
「そうだが」
「今は続けて無いのかしら」
「いや、一応やってる。何作か企業に提出してある」
先月、最新のAIを2作、最新小説の第1巻、更に新しいゲームの3作目を企業に提出した。宣伝用の広告も出しておいた。今月は厳しいが後1、2カ月後辺りには対価が来るだろう。
「そうだったのね。それで、その対価はいつになったらクラスポイントに反映されるのかしら?」
「…まだ分からない」
何度目か分からない質問に答えながら俺は溜息を吐いた。
昨日もクラスメイトにポイントについて相談されたらしい櫛田が俺の所に来てその際に聞かれた質問だった。
今のDクラスの空気は俺の企業貢献によって発生する対価のポイントが来るまでは何しても無駄という空気になっていた。堀北以外にも松下や幸村がした質問だった。
「そう、出来るだけ早いと助かるわ。ポイントが入らないとDクラスはずっとこのままだもの」
「…恐らく9月か10月には反映されると思う」
「そう…」
堀北は前を向いてサンドイッチを食べ出した。
聞きたい事は聞き終えたようだ。
「陽哉、行くよ」
長谷部が俺の席まで迎えに来た。
俺も立ち上がり食堂へ向かう。
いつも通りだった。
長谷部にはまだクラスに友達が出来てない。
勉強会で同じグループだった女子とも友達になってないのだ。三宅ともまだ友達になってない。彼女はいつも1人だった。だから昼食の時も殆ど俺を誘いに来る。
2人分の食券を購入し、ランチを貰う。
席に座ると早速長谷部が話しかけて来た。
「篠原さん達、最近よく陽哉に話しかけてるんじゃない?」
「ああ、怖がりながらな」
何の話をするかと思えば篠原達の話だった。彼女達は最近は連日のように俺の所に来る。
「ふふっ、それ軽井沢さんを払い除けたのが効いたんだよ」
「そういうものか?」
「そうだよ、今のままじゃポイントは借りられないって思ってると思う」
長谷部の目から見ても俺は篠原や佐藤達のグループに怖がられてるらしい。
軽井沢はあの一件以降俺に話しかけなくなった。平田を励ます事が出来ないのは勿論、その弊害で女子のグループにも上手く入れずにチラチラと俺の方に救いを求める視線を送ってる。
今俺に普通の態度で話しかける女子は長谷部の他には勉強会のメンバーくらいになった。それでも俺に話し掛ける頻度は減った気がする。
松下は前のようには食事やデートに誘わなくなった。断り続けたのが原因だとは思うが、やはり彼女もプライベートポイント目的な部分はあったのだろうか。
勉強会の講師役の分は既に支払ってある。
長谷部の話は続く。
「でも同時にね、こうも思ってると思うの」
「…どんなふうに?」
「分からないの?」
「ああ」
平田が潰れてから、篠原達が恐る恐るだが、話しかけて来る理由が分からなかった。
長谷部はふうっと溜息を吐くと口を開いた。
「それはね、平田君の代わりに陽哉を引き入れようとしているんだよ」
「俺を?」
「うん、この前佐藤さん達の会話を聞いたの、水野月君を引き込まない?って言ってた」
マジか。軽井沢の一件でポイントで集る輩は追い払ったと思ったが、まだ諦めて無かったのか。
もっと強く撥ねつけるかとか考えていると、長谷部が首を振った。
「多分陽哉を仲間にしたいのはね、ポイント以外にもあると思うよ」
「ポイント以外?」
ポイント以外か…。勉強だろうか。平田の周りの女子は学力が低い人が多い。しかし彼女達が進んで勉強する人には見えなかった。
俺が首を傾げてると長谷部は何処か言いにくそうに口を開いた。
「きっとね、自分達の新しい王子様を探してるんだと思うの。平田君の代わりのね」
「…冗談じゃないぜ、平田の代わりなんて絶対やだ」
「ぷぷっ、陽哉、嫌がり過ぎでしょ」
ポイントで集るだけでなく俺に平田の代わりになれと言うことか。絶対無理だな。俺は皆のアイドルになんてなれない。
まあ篠原達としては文武両道で顔が整ってれば誰でも良いってところか。となるとクラスには平田を除くと俺くらいしかいない。高円寺はEX枠だ。
そんな事を考えていると長谷部の表情が少し曇った。
「どうした?」
「ううん、何でも無い。何でもないんだけど…」
「…聞きたいって言ったら?」
そう言うと長谷部は少し下を見て話し始めた。
「実はね…この前篠原さんに聞かれたの。水野月君とどんな関係なの?って」
「…中学から付き合ってるって、ちゃんと答えたか?」
「うん、そう言ったの。そしたら釣り合ってないって言われた」
「……意味が分からないな…俺が波瑠加に選んで貰ったんだから、別に篠原達に関係無いだろ」
「んん?」
俺が長谷部と釣り合わないのは分かってる。こんな中身は凡人以下の奴が長谷部みたいな美少女と一緒にいるなんて周りから見たら異質だろう。
だがそれがどうしたと言うのか。篠原達には関係無い。俺は長谷部と一緒にいられるのなら何をしても安いと思ってる。彼女が俺を必要とする限り俺は彼女の側を離れない。
そう思ってると長谷部は苦笑した。
「多分陽哉が思ってるのとは違うよ。篠原さん達が言ったのは逆。私が至らないって事」
「んん?いや、あり得ないだろ。足りないところなんて無い」
「ふふっ、ありがとう。そう言うと思った。
けど…私もだけど、周りはそうは思わないみたい。それでね…」
長谷部が少し表情を暗くする。
おい篠原、長谷部にこんな表情させやがって。
「最近、篠原さん達の私に対する辺りが強い気がする。この前も、朝下駄箱ですれ違ったら無言で睨まれたの」
「集団でやられてるのか?」
「うん、この前も、ろくに友達も作れない癖に彼氏は作るんだって言われたの」
「…俺も殆どいないけどな」
「ふふっ、そうだよね。そうだった」
篠原達の元の性格をあまり知らないが原作より倫理感外れて来てないか?恐らく平田が潰れたのと、クラスが半壊してるのが原因だと思うが。感情で動くようになってるのだろう。
「……よし、何か起きる前に取り敢えず龍園に頼んで篠原を追い込もう」
ふざけた事を言ってる篠原は除去するべきだ。
龍園なら何とかしてくれるだろう。期末試験前にCクラスのイケメンを使ってカラオケに誘い、篠原の飲み物に下剤を盛るくらいはしてくれると思う。
俺は最初、Dクラスは成長型のクラスだと思っていた。困難にぶつかる度に少しずつ伸びていくと心の何処かで信用していた。
だから完全に裏切る事は無かった。
Dクラスは何れはどのクラスも超えていく。その素質と可能性を持つクラスだと思って今まで他クラスの移籍と迷いながらもサポートしてきた。いつかは変わってくれるかもしれないと思ってフォローしたつもりだった。
だが今のDクラスにはその可能性を微塵も感じない。このまま少しずつ崩れていく様子が想像出来る。
一体何故Dクラスはここまで落ちてしまったのか。俺が最初に無闇にクラスに関わったのが原因かもしれない。
兎に角、原作のように成長するDクラスだったらまだしも、今の不良品になりかけのDクラスを気に掛けるつもりは無い。
長谷部が俺の腕を叩いた。
「駄目、陽哉の印象が崩れる。そこまでじゃないから大丈夫」
「…本当?」
「うん、だから陽哉は陽哉のままでいて」
そう言って俺の腕を取る。柔らかい感触が俺の左腕を包んだ。それだけで俺の心が安らいでいく。
この娘はクラス内での俺の立場を崩さないようにしてくれてる。自分が傷ついていると言うのに。
…やはり、この場所は誰にも譲りたくないと思ってしまう。
前までの俺は彼女の相手は自分じゃ駄目だと思っていたけど、今はそれが揺らいでいた。少なくとも長谷部が俺を必要とする限りはこの場所を死守したいと思っている。
「波瑠加」
「何?」
彼女が俺を見る。その瞳に俺が映る。
「早く、2人で何処かに移ろうな」
俺は腕を回して彼女を抱き寄せるのだった。
絶対にこの娘の側を離れない。そう決意した。
「うん」
長谷部はその意味が分かったのか頷いた。
夏休みが終わるまでにはクラスから離れる。
そう決めていた。
食堂で周りの目はあったが気にならなかった。
中学の時みたいに長谷部に何かあった時の為の微細機器を持たせて7月を過ごした。
期末テストが近づいて来た。
平田が機能して無い為、Dクラス全体の勉強会は無かった。
俺は教えを請いに来るメンバーのみに対して勉強を教えた。
龍園には2週間前に期末試験対策の模擬試験とその解説を作成して送っておいた。
問題文を送信した際に『中々良いものくれるじゃねえか』と返信が来た。
俺はそれに対して『この前の礼だ』と返信した。
椎名からはCクラスでは勉強会が強制で開かれてると聞いた。彼女は成績優秀者な為、クラス中で放課後あちこちで引っ張り凧なのだそうだ。
龍園の性格上、今回の試験からはあまり役に立たない過去問の代わりに俺の出した模擬試験の問題だけでも完璧に覚えさせようとしてるのだろう。彼は学力をあまり重視しないタイプだが、完全に捨ててる訳では無い。
1つクラスが違うだけでここまで違うのかと思いながら俺は松下や須藤に勉強を教えるのだった。
そんな中、Dクラスの女子の間である噂が流れ始めた。
女子達の間には緊張が走っていた。
その噂を俺は松下達の会話から聞いた。
そして、驚愕した。
噂の内容はこうだった。
『女子寮に見知らぬ男が出入りしている』
少ししか描写して無いけど既にヤバそう。