飴色の瞳に映るのは   作:愚奏ましろ3

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第8話「探偵目録:ヒアリング」

「助けてって、どうしたらいいの?」

 

 

「簡単だよ、一緒に詩歩ちゃんに『仕返し』しよう?」

 

 

 視界が人間の血で染まる。

 

 …………!!

 

 血の気が引く。視界がぼやけて、リサちゃんの輪郭がずれる。膝が笑い出して、立っていられなくなる。とっさに扉に手をついて体を支える。バン!と大きな音が鳴った気がした。

 

 

「ハァ……、ハァ……。」

 

 

 大きく息を吸っているはずなのに、酸素は薄く、視界が扉・白・赤・黒・赤・扉・黒……とチカチカ切り替わる。

 脳が焼けるように熱く、意識が熱に奪い取られていく。

 

 

「だいじょうぶ~?準備ができたら声かけるから。よろしくね~、友達。」

 

 

 背後から聞こえていたリサちゃんの声は、教室へ。代わりに何重もの振動が、教室から私のもとにやってくる。

 

 

「どうしたの~?」「何事!?」

 

 

 背中に手が添えられる。

 

 

「大丈夫!?シェリーちゃん!」

 

 

 声がする方を見れば、いじめっ子が、とても心配した顔をしていた…………。

 

 

 

 ツンとした臭いが鼻を刺激し、目が覚める。

 見えた天井は、見慣れた模様ではあるものの、教室の天井ではないことはハッキリと分かった。     私はカーテンで囲まれたベッドで寝ていたらしい。教室にベッドなんて普通置かれない。

 

 私は、ベッドの横に並べられていた上履きを履いて、カーテンを開ける。

 

 

「あ、橘さん。おはよう。」

 

 

 机に向かっていた体を私に向けたのは、保健室の先生。背が高くてスタイルもよく、スタイリッシュな感じがあるが、優しく包んでくれるような非常に優しい声色をしている。そんな先生を、高学年の先輩たちは「魔女」と呼んでいるとか。

 

 なんで私は保健室に?

 

 

「体の具合はどう?辛かったりしない?」

 

 

「あの、私……一体……。」

 

 

「まずは先生の質問に答えましょう。」

 

 

 真剣な表情に変わった先生に言葉を遮られる。

 

 

 私は下を向いて自分の体の具合を確かめる。

 

 

「んー。ん~~~。なんか変かも。」

 

 

「おそらく、慣れない時間に寝てしまったからね。橘さんいつも元気だし。規則正しい生活ができている証拠よ。」

 

 

 先生は胸を撫で下ろす。

 

 

「橘さんは教室の前で倒れてしまったのよ、あなたのクラスの子が『妖精さんが倒れた!』って保健室に飛び込んできて、私が保健室まで運んだわ。良いクラスメイトを持ったわね。」

 

 

 そうなのかな?リサちゃん達なら最近話したけど、他の子は話しかけてもスルーされて、避けられていると思ったんだけど……。

 

 

「とりあえず、間に合ってよかったわ。」

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

 私は頭を下げると、先生は柔和な笑みを浮かべる。そんな先生を見ていると、安心できる気がした。

 

 

「今は3時間目の途中だけど、教室に戻る?辛かったら早退って先生に伝えるわ。」

 

 

 先生と話している間に気怠さは取れ、体は二時間近く寝ていたことでむしろ元気になっている気がする。

 

 

「いえ、教室に戻ります。勉強もしなきゃなので。」

 

 

「うんうん、橘さんはいい子ね。また体が辛くなったらいらっしゃい。」

 

 

「はい!ありがとうございました。」

 

 

 私は一礼して、保健室を後にした。

 

 

 自分の教室に戻る時、私が寄り掛かった扉を見ると私の手の形に合わせて窪みができていた。

その窪みに手を重ねると、自分の爪が切り揃えられて、ツヤツヤしていることに気が付いた。

 

 私、今まで爪のお手入れやったことないんだけどな……?

 

 

 

 最近、リサちゃん達に話しかけても、返事すらもらえなくなった。私が話しかけると、何事かと顔は向けられるものの、私の顔を見た瞬間に視線を逸らされる。

 

 私が、何かリサちゃん達を怒らせるようなことをしちゃったのかな?

 

 そんな悩みが頭の片隅に居つくようになった。

 

 

 

 私は久々に昼休みを読書をしていた。そんな私の右前ではいつもの4人が詩簿ちゃんの席を囲んでおしゃべりをしていた。

 

 

「そういえば、日曜日に詩簿の家で遊ぶじゃない?その時に食べるお菓子買っといてー。ポテチの一番でかい袋、あと甘いやつ。」

 

 

「あ、コーラも買っといてー。」

 

 

「私はグミ。」

 

 

「えっ、え……。この前お菓子買って、お小遣い、あんまり……なくて……」

 

 

「は?」

 

 

 リサちゃんは机に身を乗り出して、険しい顔になる。

 

 

「何。文句?用意してなかったら、あの事、お父さんに言うからね。分かってるよね?」

 

 

「……。」

 

 

 詩簿ちゃんの背中が小さくなる。

 

 

「分かった……。」

 

 

「分かればいいのよ~、分かれば~。」

 

 

 そう言い残し、3人は詩簿ちゃんの席を離れる。そこへ、

 

 

「リサさん、居る?」

 

 

 先生が教室に入ってくる。昼休みに顔を出すのは珍しい。

 

 

「先生ー、どうしましたー?」

 

 

「良かった、居るわね。大事な話があるから、相談室まで一緒に来てもらっていい?」

 

 

 リサちゃんの肩が僅かに跳ねる。

 

 

「大事な話ぃー?私何も悪いことしてないですよ~。」

 

 

「そう……、そうよね……。先生もそう信じてるわ。でも、聞かなきゃいけないことなの。」

 

 

「先生、あんまりリサをいじめないでくださいよー?」

 

 

「話を聞くだけだから、苛めたりなんかしないわ。」

 

 

 先生はリサちゃんを連れて教室の外に出る。他の2人も、リサちゃんの存在を埋めるかのように、先生たちとは反対方向に教室を出て行った。

 

 私は寂しくなった詩簿ちゃんの背中に視線を移す。詩簿ちゃんは猫背になって、ずっと俯いている。

 次第に、先程彼女たちがしていた会話が思い起こされた。

 

『そういえば、日曜日に詩簿の家で遊ぶじゃない?その時に食べるお菓子買っといて。ポテチの一番でかい袋、あと甘いやつ。』

 

 この間まで『詩簿ちゃん』だったのが、呼び捨てになっていたり、タメ口になっていたり。家で遊ぶ間柄なんだと知ったり。友達だから当たり前なのかもしれないけど、4人の関係が進歩しているのが分かる。

 

 あれ……?

 

 私が倒れた日、リサちゃんに言われたことを思い出した。

 

『私たち、実は詩簿ちゃんにいじめられてたの。だから助けて、友だちでしょ?』

 

 私は気になった。動き出した足は止まらない。

 

 

「詩簿ちゃん!リサちゃんと仲直りしたの!?」

 

 

「え?」

 

 

 名前を呼ばれた詩簿ちゃんは顔を上げる。そして私の顔を見た瞬間、顔が引きつり固まった。

 

 

「リサちゃんが詩簿ちゃんにいじめられてるって言ってたから。良かったね!」

 

 

「あ、ああ……。うっ、あ゙っ……。」

 

 

 詩簿ちゃんの声音に変化が起こる。

 

 

「詩簿ちゃん?」

 

 

「あああ……うあああ、あ゙あ゙あああー……」

 

 

 顔をクシャっ、と歪めて泣き出してしまった。

 

 

「し、詩簿ちゃん!?」

 

 

 なんで泣いてるの?私は詩簿ちゃんをお祝いしたはずなのに……。

 

 

「詩簿ちゃん、大丈夫?どこか痛い?具合悪い?」

 

 

「やめて……、やめてよ……!わたし、いじめてなんかないっ―――――――――――――!!」

 

 

 詩簿ちゃんが心配で、顔を近づけると、逃げるように詩歩ちゃんは教室を出て行ってしまった。

 シンと静かな教室。周りを見れば、教室にいたクラスメイトの視線は私に向けられていた。

 

 

「シェリーちゃん、最低……。」

「うわー、橘が柊泣かせた……。」

「やっぱあいつヤバいってw」

 

 

 囁かれる。指を指される。きっと、私は今、責められている。

 でも。喧嘩をして仲直りをした。4人の距離は縮まっていた。それを祝福することの何がいけないのだろう?

 

 私は自席に戻って栞を閉じた本を開く。

 周囲から、微かに「えぇ……。」「うわぁ……。」という声と溜息が聞こえた。

 読み進めると、二人の笑い合っている友達の女の子が、手を繋いで下校している挿絵が描かれていた。私は自然に、リサちゃんと詩簿ちゃんを彼女たちに重ねる。すると、詩簿ちゃんの顔にモザイクが掛かった。

 

 詩簿ちゃんの笑顔ってどんな顔だったっけ?

 

 いつも左後ろから見えていたはずの柔かい笑み、黒板の前で先生に褒められて照れたはにかみ、体育館の後ろからでもはっきりと分かる笑顔。事実だけが残って、思い出される笑顔は、暗い表情にすり替わる。

 昼休みが終わるまで、私はそのページから目を離すことができなかった。

 

 午後は呆然と過ごしていた。

 詩簿ちゃんはクラスメイトが見つけてくれたらしく、一度教室に戻ってきていたようだったが、話を聞いた先生が早退させたらしい。見つけたクラスメイトからは、『明日ちゃんと謝れよ。』と一言だけ言われた。

 放課後、先生に相談室に連れて行かれた。先生は怒ったような表情を浮かべていたけど、何を言われているのか全く分からなかった。気が付いた時には、私は相談室に一人で座っていた。

 

 私の一言で、詩簿ちゃんを泣かせてしまった。その事実が。

 私の一言で、詩簿ちゃんが涙を流している。その表情が。

 私の脳裏に焼き付いてしまっていた。

 

 

 

 翌日の放課後、私はその涙をもう一度見ることになる。

詩簿ちゃんは学校に来ていた。しかし、ずっと顔は下を向いていて、元気が無かった。

そんな彼女にリサちゃん達が話しかける。

 

 

「詩簿、今日ずっと元気なかったけど大丈夫~?詩簿が元気ないと私たち心配だよ~。」

 

 

「……。」

 

 

 反応のない詩簿ちゃんに、リサちゃんがうっすら笑みを浮かべる。

 

 

「そういえばー、シャーペン見つかったの~?」

 

 

「……!」

 

 

 ()()()()()に詩簿ちゃんが反応を示す。

 

 

「ずっと探してるもんねぇ。前、詩簿の家行ったときにはあったでしょ?やっぱり詩簿の部屋の中じゃないの~?」

 

 

「部屋はいっぱい探したよ……。何度も……、何度も……。」

 

 

「ほら、灯台下暗しって言うじゃな~い?案外ぃ~、近くにぃ~、あったりしてぇ~。ねぇ~?日曜日に私たちも探してあげるからさぁ~。」

 

 

「……ッ!」

 

 

 詩簿ちゃんの肩が小さく震える。その様子を見て、リサちゃんが笑みを深めた。

 

 

「そうそう。」

 

 

 リサちゃんがポケットから何かを取り出す。

 

 

「実は、私もシャーペン買ってもらったんだ~。」

 

 

彼女が手に握ったものを、詩簿ちゃんの視界に入るように見せた。

 

 

「……!!」

 

 

「ええ!」

 

 

 思わず私も声をあげてしまう。リサちゃんが一度私を睨みつける。

 一瞬、詩簿ちゃんのシャーペンのように見えた。でも、色が違った。

 

 

「これ……。」

 

 

 詩簿ちゃんが食い入るように見つめていた。

 

 

「そう!詩簿と同じシャーペン!詩簿が使ってるの見て私も欲しくなってさ~。これでお揃いだね!」

 

 

 リサちゃんは笑っている。笑っている、気がする。

 

 

「もー、リサ?詩簿は今シャーペン無くしてるんだから、からかっちゃダメだよ。」

 

 

「そうだったそうだった。ごめんね~。日曜日、絶対見つけようね。」

 

 

リサちゃんが詩簿ちゃんの目の前でニコリと笑う。

 

 

「あれ、詩簿泣いてる。」

 

 

「どうしたー?なんか嫌なことでもあったー?」

 

 

「大丈夫だって。シャーペン探しは友達の私たちが手伝ってあげるから~。」

 

 

「ヒッ……!!」

 

 

 詩簿ちゃんの肩にリサちゃんの手が載せられる。詩簿ちゃんの肩が大きく震えた。

 

 

「それじゃあまた明日ね~。」

 

 

 リサちゃん達は帰っていった。

 もちろん教室に残っていたほとんどのクラスメイトが先ほどのやり取りを見ていた。クラスメイト達は、詩簿ちゃんを一瞥したり、「またね。」「ごめんね。」といって帰っていった。

オレンジ色に満たされた教室には私と詩簿ちゃんだけが残る。詩簿ちゃんの背中はとても小さく震えていた。

 私は小さな背中に歩み寄ろうとする。だが、足が止まった。詩簿ちゃんの泣いている顔がフラッシュバックして、前に進めなかった。

 私は静かに泣く詩簿ちゃんを残して教室を後にする。

 西日特有の包むような暑さにじっとりと汗をかいた。

 

 

「ねぇシェリー、最近何かあった?」

 

 

 夕食で突然お義母さんからそう聞かれた。少し、ドキリとする。

 

 

「なんで?」

 

 

「ここのとこ、暗い顔をよく見るような気がするから。」

 

 

 あまり義父母には迷惑はかけたくない。だけど、聞いて欲しくなった。

 

 

「昨日、クラスメイトを泣かせちゃった……。私、傷つけるようなことは言ってないと思うんだけど……。」

 

 

 ずっと頭から離れなかった事を打ち明ける。心臓の鼓動が早まるのを感じた。

 義父母は目を合わせ、お義父さんが口を開いた。

 

 

「シェリーは、クラスメイトを泣かせてしまったことを後悔しているのかい?」

 

 

 …………後悔…………?

 

 

「んーー、分からない。」

 

 

「お義父さんは仕事をしていて、いろんな人と関わりを持つんだ。出会ったみんながそれぞれ違う考えを持っていてね。」

 

 

 食事の手を止めて、お義父さんが話し出す。

 

 

「でも、ほとんどの人が『これはダメ』って思うラインはあって、それを平然と超えてしまって、それを気にもしない人だっているんだ。話を聞いただけだけど、シェリーは今、そのラインを跨いでいる状態なんだと思う。」

 

 

 ゴクリ……唾を飲み込む。

 

 

「泣かせてしまったことが気がかりになって、忘れられない。それなら、ラインから引き下がる事ができる。まだ間に合うはずだよ。」

 

 

 お義父さんは和やかな表情で私の目を見る。

 

 

「どうすればいいの……?」

 

 

「その子に次会ったときに、「ごめんなさい。」って謝ろう。心から伝えれば、その思いはきっと届く。心は嘘をつかないからね。」

 

 

 ふと、クラスメイトに『明日ちゃんと謝れよ。』と言われたことを思い出した。まだ、詩簿ちゃんに謝っていなかった。

 

 

「シェリーにはできるだけ、後悔しないような人生を送ってほしい。お義父さん達に話してくれて、とっても嬉しいよ。」

 

 

「そうね。人っていうのは失って初めて、後悔に気づくものよ。そして、後悔だけが残ってしまう……。そんな悲しい思いはしてほしくないわ……。」

 

 

 お義母さんが私を見て笑う。無理して笑っているように見えた。

 

 

「うん、今度会ったら絶対謝る。お義父さん、お義母さん、ありがとう!」

 

 

 今日の夕食は鮭の塩焼きで、いつもよりしょっぱかった。

 

 

 日曜日は大雨だった。

 お義母さんには止められたけど、滅多にない大雨に心が躍って町の探索に繰り出していた。

 信号待ちで、目の前を車が通り過ぎていく。新たに通ったトラックで水たまりが跳ねて、私にかかった。

 

 

「はぁ……。」

 

 

 生まれて初めて溜息が出た。

 信号が青に変わる。大雨に頭を叩かれ、視線はいつもより下向きだった。

 小川から、雨音にも負けない音がする。濁流が走っていた。いつもは見れない川の流れに、自然と足は上流の方に向かっていた。

 小川の終着点に着く。この先にはダムがあったはずだ。私は顔を上げて、周囲を見回す。車通りが少なく、大通りから外れた寂しい住宅街だ。

 住宅街を練り歩く。奥に進んでいくと、ぽつぽつと空き家が増えてきた。

 

 

「……。」

 

 

 違和感を感じて、足を止める。

 

 

「……ぁ゙ぁ゙……」

 

 

 声だ。雨音にまぎれて、声が聞こえた。

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙、あ゙つい゙いい゙い゙!」

 

 

 悲鳴だ。後ろを振り返る。今通り過ぎた空き家からだ。

 走って空き家に向かう。窓ガラスは割れ、木でできた外壁は腐って、ところどころ穴が開いていて、その穴から中を覗き見た。

 

 

「……!!」

 

 

 息を飲んだ。

 詩簿ちゃんだ。詩簿ちゃんが縄で腕を拘束され、壁に張り付けにされている。

 

 

「いたい。いたい、いたい痛い!痛い痛い痛い痛いい゙だい゙い゙だい゙!!」

 

 

 ひとつの背中が詩簿ちゃんの腕をチャッカマンで炙っていた。

 

 

「ア、アハハ!!アハハハハハハ!!痛いのぉ?そっかそっかぁ……でもぉ、私まだ足りないんだよねぇ!!」

 

 

 突然、知った声が、詩簿ちゃんのお腹を蹴った。私は反射的に目をそらしてしまう。

 

 

「……ッ!」

 

 

 そのまま、玄関に飛び込んだ。

 

 

「大丈夫!?詩簿ちゃん!!」

 

 

 返事は無い。詩簿ちゃんはぐったりと項垂れている。代わりに、手前にいた背中がこちらに振り返った。

 

 

「な~んで妖精さんがここにいるの。」

 

 

 リサちゃんだ。穴からだとわからなかったが、他の2人もいた。

 

 

「散策してたら、急に空き家から悲鳴が聞こえて。」

 

 

「散策?あ~、いつものやつね。」

 

 

「そういえば、今日詩簿ちゃんの家で遊ぶって言ってたけど、このボロボロな家が詩簿ちゃんの家!?」

 

 

「な訳無いでしょ。ま~でも、今日からここがこの子の家になるけどね~。」

 

 

「どういうこと……?」

 

 

 とりあえず、ここが家ではないのだろう。

 

 でも、なんでこんな空き家にみんなが……?

 

 リサちゃんがキッと私を睨みつける。

 

 

「それより、何の用?私たち今、お取込み中なんだけど。」

 

 

 私もリサちゃんを睨み返した。

 

 

「詩簿ちゃんに何してるの。」

 

 

「何って?詩簿の腕を炙ってるだけだけど。」

 

 

「違う、そういう事が聞きたいんじゃない!どうしてそんな事詩簿ちゃんにするの!?みんなは……、仲直りしたんでしょっ…………!!」

 

 

 声が荒いでいた。肩で息をする自分の呼吸音は、雨が腐れた木材を叩く音で打ち消される。

 

 

「アハ、アハァア……!」

 

 

 リサちゃんが笑みを浮かべる。全身の毛が逆立った。

 

 

「そっか。そっかそっかぁ……!妖精さんにはそんな風に見えてるんだぁ……。やっぱり持つべきものは、『友達』だよねぇ!!」

 

 

 リサちゃんの肌から、欠片が零れ落ちる。リサちゃんは私に近寄って、腕を握ってきた。

 

 

「仲直りなんてしてない……。ついさっきまで、詩簿ちゃんにいじめられてたんだよぉ……?なんとか三人がかりで抑えて拘束できたの……。」

 

 

「そう、なの……?」

 

 

「前に約束したこと、覚えてる?」

 

 

「約束……。」

 

 

『簡単だよ、一緒に詩歩ちゃんに『仕返し』しよう?』

 

 

 視界が揺れる。

 

 

「本来なら、明日の放課後アンタをここに連れていく予定だった。でも、やってほしいことは今日でも明日でも変わらない。だから、だからぁ……」

 

 

 掴まれた腕に爪が食い込んでいく。

 

 

「アイツに『仕返し』してよ!今!!ここで!!」

 

 

 リサちゃんが、背中で隠れていた詩簿ちゃんを指さす。詩簿ちゃんは、変わらずぐったりと項垂れていて、うっすら開かれた眼は朧気だった。体中傷だらけで、洋服もボロボロに引き裂かれていた。

 

 心拍数が上がる。体の内から湧き上がるものがあった。

 

 私は、その姿を知っていた。

 

 

「妖精さんは、『友達』だから。約束、守ってくれるよねぇ~??」

 

 

 耳元でリサちゃんが囁く。

 

 

 『仕返し』。どんなことをすればいいのか言われていない。

 でも、その意味はハッキリと理解していた。

 

 

 詩簿ちゃんに近づいていく。ミシミシと木材の音に反応し、詩簿ちゃんは顔を上げた。

 

 

 私を認識して、表情が変わった。私は、その表情を知っていた。

 

 内から湧き上がってきたものを無理やり押し殺す。

 

 まず、言うべきことがあった。

 

 

「詩簿ちゃん、この前は泣かせちゃって、ごめんなさい。なんで詩簿ちゃんが泣いたのか、ハッキリ言うと、分からないんだけど……。私は、ダメなことをしたんだと思う。」

 

 

 人は、この表情を「怯えている・怖がっている」と言うんだろう。

 

 

「リサちゃん」

 

 

 私は背後に問いかける。

 

 

「なぁにぃ~?」

 

 

「私とリサちゃんは『友達』、だよね?」

 

 

「そ~だねぇ~。」

 

 

「リサちゃんは、『仕返し』をして、それから詩簿ちゃんとどうなりたいの?」

 

 

「それは、気分も晴れて、仲直りして『友達』に戻るに決まってんじゃ~ん。」

 

 

「…………分かった。」

 

 

 

 

 

 心はもう、決まっていた。

 

 

 

 

 

「私は。」

 

 

 詩簿ちゃんに手を伸ばす。

 

 

「い゙や゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」

 

 

 腕を拘束していた縄を、引きちぎる。腕が自由になった詩簿ちゃんはショックで気絶していて、床に倒れてしまった。

 私は、慌てて詩簿ちゃんを抱えあげる。

 そして、リサちゃん達に振り返った。

 

 

「そんな『友達』、間違ってると思うよ。」

 

 

 ピカッ!稲光が走る。

 リサちゃんの肩が震えだした。

 ドゴゴゴーーーン!!!雷が鳴った。

 

 

「何やってんだよお前ェッ!!!!!!!!」

 

 

 顔面に罅が入りそうな剣幕で、リサちゃんが叫ぶ。

 

 

「仕返しをやれって、そいつを殴れって言ってんだよ!!!言葉の意味も分かんねぇのか馬鹿が!!!!!!」

 

 

「うん。私は馬鹿だよ。大馬鹿者だよ。でもね、仕返ししちゃいけないんだよ。仕返ししたら、」

 

 

 私は笑顔を作る。

 

 

「大人の人たちに叱られちゃうから。」

 

 

「お前の事情なんて知らねぇよ!!!!大人に叱られる?だからこんな空き家に入って大人の目につかないところで虐めてんだろうが!!!!」

 

 

 ――――――え?――――――

 

 

「イジメてる……?」

 

 

「はぁぁぁあああ??????お前ホントに分かってないの??ホントに人間じゃないってその頭。化け物だよ化け物。こんなんイジメ以外の何に見えんの??」

 

 

 リサちゃん達が、詩簿ちゃんをイジメていた。私は、それが分からなかった。

 

 どうして……?

 

 再び、身体の内から()()が湧き上がる。()()は身体を巡り、支配しようとしてくる。

 

 その時、腕に乗せていた重みを思い出した。

 

 

 『詩簿ちゃんを、助けるんだ。』

 

 

 身体の中で()()を殺す。

 

 

「まぁいいや。」

 

 

 意識を戻してリサちゃんを見る。

 

 

「妖精でも化け物でも、人間じゃないなら殺していいよね?」

 

 

 部屋の隅に置いていたものを取り出した。鉄製の長い棒、バールだ。

 

 

 3人がそれぞれ1本ずつ持ち、リサちゃん以外の2人が入り口前に立ちふさがる。

 

 

「殺したところで、こんな場所だ~れも見に来ない。逃げ場もない。この家みたいに、2人まとめてここで死骸にしてやる!!!!」

 

 

 絶体絶命の状況だろう。

 でも……。

 私なら、この密室を、ぶっ壊せる!

 

 すぐ後ろの壁を殴る。大きな穴が空いた。

 リサちゃん達は、驚愕の表情を浮かべる。

 友達が分かれる時にする挨拶があった。私は空き家を飛び出る前に、

 

 

「バイバイ。」

 

 

 友達にそう告げた。

 

 呆気にとられているリサちゃん達を置いて、小川の下流の向きに雷の中を走った。

 コケないように最大限気を付けて、詩簿ちゃんの家に向かう。

 

 

「ううううう……。」

 

 

 雨に濡れた詩簿ちゃんが、苦しそうな声を漏らす。

 急がなければ。

 

 あ……、私詩簿ちゃんの家知らない…………。

 

 私は急いで、自分の家に詩簿ちゃんを抱えて帰った。




※お知らせ

ご拝読ありがとうございます。

只今、ハーメルン・投稿停止中のPixiv並びにXの3サイトにて、新規アカウント作成を考えています。今まで投稿していた小説の再投稿・細部の修正も検討しています。決定しましたら今一度、ハーメルン(作品のあらすじ欄・あとがき)そしてXにてお伝えいたします。
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