飴色の瞳に映るのは   作:愚奏ましろ3

3 / 10
第2話「私は名探偵!」

 陰鬱な雰囲気の中、突如として起こった2人の女の子のやり取りは、この場にいた全員が注目していました。

 どうやら、二人はお知り合いみたいですね。でも、何かワケアリの関係みたいです……。他の面々を見た感じだと私の知り合いはいませんし、知り合いがいる人もいないみたいです。偶然一緒の牢屋に捕まり、再会してしまった。といったところでしょうか?赤い花の髪飾りの女の子は、桜色の髪の女の子を突き飛ばすくらい嫌っていたようですし、過去に軋轢を生む何かがあったのは間違いなさそうです。

 うぅ~~~~~!気になって仕方がありません!!早速事情聴取に!といきたいところですが、通路の奥まで行っていた看守さんが戻ってきちゃいました。ひとまずは、先ほどゴクチョーさんが言っていたラウンジに向かった方がよさそうですね。

 桜色の髪の女の子も、顔を歪ませ立ち上がり、衣服についた汚れを軽くはたいて看守さんについて行っています。私も女の子たちのまばらな列に加わり、看守さんについていきました。

 

 

「うわぁ……広い。」

 

 

 桜の髪の女の子がそう声を漏らしたように、階段を上がると階下の牢屋とは打って変わった、洋館のような空間が広がっていました。左手には2つの観音開きの大扉が閉じられていて、右手は広々とした玄関に繋がっています。高い天井に吊り下げられたシャンデリアが薄明るく玄関ホールを照らし、空気はどんよりとした空気を孕んでいます。玄関ホールを通り過ぎた部屋で看守さんは止まり、私たちを迎え入れるように入り口を開けました。ラウンジに着いたのでしょうか?促されるまま部屋に入ると2人先客がいたようで、赤い花の髪飾りをつけた女の子がソファに座り、牢屋の前を横切って行った黒い服の女の子が静かに壁際に立っていました。

 あれ?黒い服の女の子は先ほど見たときにはなかった、大きな銃を背負っていますね。先程、急いで上へ向かっていたのはこの銃を回収するためだったんでしょうか?大きくてかっこいいですね~!

 

 

「これって本物……?」

 

 

 桜色の髪の女の子の声がした方を見ると、壁には大きな洋弓銃が飾ってあって、物々しい雰囲気を纏っていました。すぐそばには矢も置いてあり、すぐにでも人を殺せるよう物品に皆さんは忌避間を抱いているようでした。

 看守さんがズロロという音を立てながらラウンジの入り口を塞いだところで、私は集められた女の子たちの観察をすることにしました。皆さん十人十色で、思い思いにその時を待っているようです。

 集められた面子は何か共通点があるような感じはしないですね……?なぜ私たちは拉致されたのでしょう?なぜ私たちが集められたのでしょう?単なる拉致監禁とは違いそうですし、私がその当事者になってしまうとは!これから私たちの身には何が起こるのでしょうか!?

 

 

「いやぁ~すごいですねっ!突然牢屋で目覚め!化け物に見張られていて!なんかすごいことが起こっているのを感じます!髙まっちゃいますよね~!」

 

 

「え、う、うん……?」

 

 

 周りのみなさんが私に懐疑的な目を向ける中、桜色の髪の女の子が声に出して返答してくれました!うれし~です~!

 私はその子へ駆け寄り、あいさつ代わりにと、握手をしました。彼女の体はぐわんぐわんと波打ち、苦しそうな顔を浮かべていました。

 

 

「なあにが、高まっちゃいますよね~、ですわ!やべーことになってるんですわ!もっと危機感をもった方が良いんじゃないかしら!?」

 

 

 握手を中断させたのは、長く綺麗な金髪を持った小柄な女の子の高い声でした。彼女の衣服は高貴さがあるのに、庶民的な口調が混じっていて変です。私と同じ印象を持った子がいたのか、微かな笑い声が聞こえました。

 

 

「今笑ったのは誰でやがりますの!?」

 

 

「――いや、すまない。少し変わった喋り方だなと思ってね。」

 

 

 自然と声がした方に視線が向き、応答していたのは、小柄な女の子とは対照的な背の高い大人な相貌の女の子。腰にはレイピアを携えていて、さながら騎士の様です。

 私、王子様系の女の子、初めて見ました~!あれ?でも私、この人の事知ってる気がします。何で見たんでしょうか……?

 

 

「みんな初対面だと思うから、良かったら自己紹介をしていかないか?先に名乗らせてもらうよ。私の名前は蓮見レイア。」

 

 

「……ふんっ、遠野ハンナですわ。お見知りおきあそばっ……お見知りおきあそばせせ?」

 

 

 ハンナさんはどうやらプライドが高いみたいです。レイアさんに笑われて顔を真っ赤にしていますし、気にしてないと強がっていますが、明らかに気にしていますし。なんだかおもしろい子ですね!

 ハンナさんの自己紹介が終わってから、皆さんよそよそしい雰囲気を持ち始めました。

 ただ自己紹介するだけじゃないですか?

 そう思って私は我先にと名乗り出ました。

 

 

「はいは~い!私は橘シェリーっていいますっ。事件があるところに私あり!この名探偵にお任せください!」

 

 

「名探偵ぃ??あなたが??」

 

 

「そうですよ!えっへん!何せミステリマニアですからね!」

 

 

「実際に何か事件を解決した経験があるのかい?」

 

 

「それはまだありませんね!」

 

 

「……そ、そうかい。少し頭が痛くなってきたな……。次に行こうか。君の名前を教えてくれないか?」

 

 

あれ、私何か変なこと言いました?

……皆さんから向けられる視線はやっぱりどこか懐疑的で、なんだかもやもやしますね。こういう視線を向けられるのにも慣れてしまいましたが。

 そのあと、レイアさんが先導して自己紹介は続いていきました。

 

 先程突き飛ばされていたのは、桜羽エマさん。

 彼女が負っていた怪我を不思議な力で治した氷上メルルさん。

 配信者をやっているという沢渡ココさん。

 露出が多めで「ギャル」という言葉が似合う佐伯ミリアさん。

 妖艶な雰囲気を纏っていて、心持ちに余裕がありそうな宝生マーゴさん。

 私と同じ房で目が覚めた紫藤アリサさん。

 隅っこで丸まって、スケッチブックで筆談をする夏目アンアンさん。

 黒い服を着て、大きな銃を背負っている黒部ナノカさん。

 エマさんを突き飛ばした二階堂ヒロさん。

 アトリエの物の配置を変えたり、室内を物色している自由な城ケ崎ノアさん。

 

 レイアさんはどうやら芸能人で、舞台で多く活躍されているようです。どうりで既視感があったわけですね!芸能人を生で見たのは初めてだったのでサインをお願いしたのですが流されちゃいました……。ガーン!残念です……。

 全員の自己紹介が終わると、天井にある通気口から羽音が聞こえて、先ほどモニターで喋っていたゴクチョーさんが飛んできました。

 

 

「あっ……人がいっぱい……。えっと、改めまして……この屋敷で管理を任されているかわいいフクロウ、ゴクチョーと申します……。定時とかもあるので……さっさと説明をしていきますね……。」

 

 

 

 ゴクチョーさんからは、

・私たちが、国に災厄をもたらす【魔女】になる因子を持っていて、全国的に行われていた検査によって強い結果を示したため、「牢屋敷」に収容がされたこと。

・この牢屋敷で囚人として生活すること。

・看守さんは【なれはて】と呼ばれていて、私たちと同じように収容された女の子が魔女になりマインドコントロールされた存在。そして私たちは逆らったら殺されてしまうということ。

 

 私たちのような元人間が、どうやって看守さんのような姿に!?気になります~!

 看守さんについて説明がされていた、そんな時。

 

 

「間違いです。私は悪ではない。」

 

 

 意志の籠った声をあげ、割って入ったのはヒロさんでした。

 

 

「この国に災厄をもたらす危険因子はこの子の方だ。」

 

 

「……っ」

 

 

 ヒロさんが指で指し示したのはエマさん。エマさんは怯んだ表情を見せて、そばで心配してくれているメルルさんに取り繕って笑っていました。

 

 いじめっ子といじめられっ子。地下で起こったことを含めて、そう見えるには十分で。似た状況を知っている私は、軽くこぶしを握っていました。

 

 

「私はこの世の悪を排す。まずは――。」

 

 

 ヒロさんは、暖炉脇に立てかけられていた火かき棒を手に取って、エマさんに視線を向けていました。ブレることなく、まっすぐに。

 エマさんは後ずさり、顔は青ざめていて、一触即発の空気が生まれて。

 ヒロさんは、一気に襲い掛かりました。

 

 

「貴様だ!化け物!」

 

 

――看守さんの方へと。

 

 女の子が出しているとは思えない速度で振られた火かき棒は、看守さんの顔面にゴォンと鈍い音を立てて命中し、右から左へ、左から右へ、看守さんの体を滅多打ちにしていきました。

 

 

「悪は死ね!死ね死ね死ね!」

 

 

 ヒロさんは絶えず火かき棒を振るい続け、顔が返り血で染まっても、看守さんの体の原形が崩れてきても止まりません。

 う~ん、ヒロさん華奢に見えるんですけどね~、意外とムキムキだったりするんでしょうか?無尽蔵の体力もどこからやってくるんでしょう?と~っても気になりますね!

 

 ラウンジのあちこちに看守さんの血や肉が飛び散り、元々の看守さんが見る影もなくなってきた時、看守さんの持っていた鎌が唐突に振られました。その軌道はヒロさんの首の位置を通っていて、ヒロさんの首は血の弧を描いて体と切り離されてしまいました。

 

……あ。

 

 

「え……?」

 

 

「キャアアアーッ!!」

 

 

 ヒロさんの首はエマさんの足元に転がって、胴体は首元から流れる血に濡れながら崩れ落ちて、そうして起こった一瞬の出来事にラウンジは悲鳴で溢れ返りました。

 看守さんに逆らったら殺される、というのはどうやら本当みたいですね。

 

 

「ヒロちゃん……?」

 

 

 エマさんは、嫌われていたはずのヒロさんの首に近づいて、深紅に染まったヒロさんの頬に触れ、涙を露にしました。

 

 

「ウソだよね、ヒロちゃん……?やだ、やだ、やだ。」

 

 

 エマさんは、ヒロさんに嫌われていたはずです。なんでエマさんは泣いているんでしょう?

 私には、分かりませんでした。

 

エマさんは何かをポケットにしまうと、涙は収まり、強い思いが宿った瞳を浮かべていました。

 

 

「うわ~……死んじゃいましたね……掃除しなきゃ……。ああでも魔女はこんなことじゃ死なないので、彼女は魔女じゃないと証明されたことになりますね。やれやれ……良かったですね。」

 

 

ゴクチョーさんは『またですか』といった雰囲気で話し始めました。

 

 

「――あっ、あと何個もすみません。最後に。みなさんに、もっとも大切なことを伝えておきます。魔女になりつつある者は、抑えきれない殺意や妄想につかれてしまいます。面倒なことに、いずれ囚人間で殺人事件が起こるんですよ。」

 

 

――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

「殺人事件っ!?」

 

 

 今、殺人事件が起こるって、言いました!言いました!よ!!ね!!!殺人事件を捜査して、犯人を突き止め解決へと紐解く!ミステリマニアなら誰もが一度は叶えてみたい夢です!今までは警察に阻まれてまともに捜査もできませんでしたが、この牢屋敷にはおそらく警察はいないので捜査し放題です!私が今までミステリーを漁ってきたのは、今この時の為だったんですね~!なんなら、囚人間で殺人が起こるみたいですし、容疑者は私とさっき死んだヒロさんを覗いた11人。あっ、囚人が殺されちゃうから10人ですか、ともかく容疑者は絞られているわけです。ふっふっふ~、名探偵シェリーちゃんには手が余るかもしれませんね~!!楽しみです~!ワクワクです~!!

 

 

「そうなんですよ……毎度のことなんですよねぇ……さすがにそんな危険人物とは一緒に生活できませんよねぇ。というわけで殺人事件が起こり次第、【魔女裁判】開廷します。【魔女】になった囚人は……あのー…………処刑しますので……。詳しくは【魔女図鑑】をご覧ください。では私はこれにて……。」

 

 

 そういえばこのラウンジには洋弓銃がありました!洋弓銃は簡単に人の心臓を貫けるので非常に危険です。それに洋弓銃がそのまま殺人に使われるとは限りませんし、1度分解して構造を知っておくのがいいかもしれませんね!

 

 私がこれから起こる殺人事件について考えている間にゴクチョーさんの話は終わってしまっていたようで、ラウンジにゴクチョーさんの姿はありませんでした。

 後に魔女図鑑で確認したところ、ゴクチョーさんは、

・殺人事件が起こり次第、【魔女裁判】を開廷し【魔女】になった囚人は処刑されること。

を言ってたみたいです。

 

 この牢屋敷で起こる殺人事件、この私、名探偵シェリーちゃんが解き明かしてみせましょう!!

 

 そうして、私の牢屋敷の日々が幕を開けたのです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。