飴色の瞳に映るのは   作:愚奏ましろ3

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第3話「そして歯車は回りだす」

 ふーむ……。なんという再生能力……。ヒロさんから受けたダメージが、キレイさっぱり回復しています……。いったいどんな仕組みが?

 

 死体となってしまったヒロさんのラウンジにしみ込んだ血以外をゆっくりと、しっかりと片付けていく看守さん。私はいつもの構え方で虫眼鏡を通して、看守さんをじろじろと観察していました。看守さんは地下で見たときと同じ姿に戻っていて、まるで何事もなかったかのように仕事をこなしています。

 ダッ、と地を蹴る音が聞こえた次の瞬間。

 

 ……え?看守さんが虫眼鏡から消えちゃいました!

 

 

「待ちたまえ!」

 

 

 虫眼鏡を覗いたまま声が聞こえた方向を向くと、レンズには、アリサさんと看守さん、その間に立っている、レイピアを構えたレイアさんが映りました。

 

 

「彼女に手を出すな!これ以上の悲劇は起こさせない!――ハッ!」

 

 

 間に入ったレイアさんにめがけて振られた一閃を、彼女は跳躍で見事に躱します。

 

 すごいすごーい!舞台のワンシーンみたいです!

 

 

「彼女はルールを破っていない。切り捨てる理由はないはずだ。」

 

 

「なんでおめぇ……。」

 

 

「私はキミたちを守りたい。そのために互いに冷静になるべきだ。」

 

 

「…………。」

 

 

 看守さんは興が削がれてしまったかのように、レイアさんの前を離れて元の作業に戻っていきます。

 

 今起こったことを推理すると……アリサさんがラウンジから逃げようとし、それを脱走と捉えた看守さんが追いかけ、レイアさんが仲裁に入った……。これがこの事件の真相です!

 

 レンズの中で起こった事件に対して頭の中で弾き出した推理に反応する声はなく、片づけを終えた看守さんはヒロさんの死体を持って、ラウンジを出ていきました。ラウンジに張りつめていた緊張の糸は、看守さんが出て行ったことで解けたみたいです。喉につっかえていた緊張が一気に口から流れたようでした。

 

 

「ぐっ、げええぇっ」

 

 

 ……。理解はできますが、ばっちぃですよぅー。

 

 ココさんが嘔吐を始めた隣で、凛とした声がラウンジに響きます。

 

 

「みんな、聞いてくれ!」

 

 

 声の主は芸能人のレイアさん。役者をやっているだけあって声がよく通ります。

 レイアさんが呼びかけたのは、一度ゴクチョーさんに従い、ここで共同生活をしようという提案でした。私たちの囚人服のポケットにはスマホが入っていて、あらかじめインストールされていた「魔女図鑑」というアプリに書かれた情報を守り、全員で共同生活をしよう。とのこと。そんな提案に対し、アリサさんは否定的でひとりでにラウンジを出て行ってしまいました。アリサさんの様子に肩をすくめるレイアさんは、まだラウンジに残った私たちに向かって言います。

 

 

「他のみんなはちゃんと協力してくれるだろう?」

 

 

「……ボクも、嫌だ。」

 

 

 アリサさんに続き否定的な意見を発したのは、エマさん。

 

 

「ヒロちゃんを殺した、あいつらに従うのなんて、嫌だっ!あいつらを絶対に許さない!」

 

 

「なるほど。エマくんはどうやらヒロくんと顔見知りだったみたいだしね。しかし、仲が良さそうには見えなかったけれど?」

 

 

「ヒロちゃんは……っ、ヒロちゃんは正しい子だから……。」

 

 

「まぁ、従うつもりがないのはわかったよ。強制はしない。ただ、今はなるべく穏便に済ませたい。危険因子と行動を共にすることはできないかな。」

 

 

 「危険因子」。その言葉にエマさんは思うところがあるのか、視線を伏せて拳を強く握りしめました。

 

 私は、レイアさんの提案に対して、どちらの立場に立ちたいのか。答えは……考えるまでもありませんね!

 

 

「はいはい!私もエマさんについていきますよぉ~!」

 

 

 私は、努めて明るくそう言います。

 

 

「面白そうな方につくのが私の信条ですから!そしてエマさん!あなたからは面白そうなにおいがプンプンしているのでっ」

 

 

「ぷん、ぷん……?」

 

 

 目が腫れたまま驚いた顔をして、さらに自身の囚人服を嗅いでいる、とても滑稽な様子のエマさんの横に私はスキップをして並びます。私に続いて、ハンナさんとメルルさんもエマさんの隣に来ました。

 

 

「わたくしもあなた側につきますわ。偉そうに仕切るヤツが嫌いなんですの。」

 

 

 ハンナさんはレイアさんに冷たい視線を送りながら。

 

 

「うぅ……エマさん……。」

 

 

 メルルさんはエマさんの服の二の腕部分を掴みながらエマさんの横顔を見つめていて。

 私たち以外の囚人の皆さんはレイアさんの方針に同意を示し、地下に戻るというレイアさんに着いて行きました。

 

 どうやら私たちはエマさんのグループとレイアさんのグループの2つでわかれてしまったみたいですね。

 

 

「で?で?私たちはどうするんですか?みんなで協力して看守をぶっ殺します?」

 

 

 私の提案はエマさんに却下の印を押され、一度牢に戻って魔女図鑑に目を通すということになりました。

 

 ハンナさんは私の提案に、少女漫画のお嬢様がショックを受けたような、白目を剥いた表情をしていて、牢の中で思い出して笑い転げていたのは内緒の話です。ふふっ……ふっふっふ~!

 

 

「私は一番手前の房なのでここで失礼しますね!次の自由時間の時にまたお会いしましょう!」

 

 

「うん。またね!」

「ええ、また後でですわ。」

「はい!また……!」

 

 

 私はエマさんたちと別れて自分の房へと入りました。

 

 あれ?アリサさんがいないです。

 

 先にラウンジを出たはずのアリサさんは房の中にはいませんでした。

 

 もしかして、脱走でも試みているのでしょうか?

 

 コンコン…

 

 

「アリサさん、います~?いたらお返事してくださーい」

 

 

 房に備え付けられていたトイレにもどうやらいないみたいです。

 

 

「う~ん、大丈夫ですかね~……」

 

 

 アリサさんは不良のようですし、ルールに沿った行動をするのが嫌いなのかもしれませんね。

 

 ベッドにポシェットを置いて、部屋の中に設置されてある椅子で魔女図鑑の確認をしようと思った時、スマホからフクロウの鳴き声の通知音が鳴りました。ゴクチョーさんからのメッセージのようです。

 

『自由時間は終わりです。皆さん、速やかに自分の房へとお戻りください。ルールに従わない者は、懲罰房行きになっちゃうので……仕事とか、増やさないでいただけると……』

 

 私は椅子の背もたれの方をむいて顎を乗せ、アリサさんを待っていました。やがて入口の方からガチャリ、と音が鳴りました。

 

 あちゃー、ゴクチョーさんのお仕事増えそうですね。お労しやお労しや……

 

 仕方がないので、私は魔女図鑑のアプリを目に通すことにしました。

 

 囚人には番号が振られていて、私は667番の数字が与えられています。一番若い番号はエマさんの658番。この牢屋敷には、今まで657人もの囚人が送られてきたということなのでしょう。この657名の囚人もきっと、殺人事件を経験しているんですよね。

 この牢屋敷は地下1階・1階・2階の全3階層で構成されているみたいで、私が通った監房・玄関ホール・ラウンジは一部で他にもいろんな部屋があり、かなり大きい屋敷であることが分かりますね。おぉ!2階には娯楽室・図書室もあります!遊べる場所があるのはとてもうれしいです!図書室には、ミステリーが置いてあるといいですね!

 むむっ?1階の応接間の上の2階部分に謎の空間がありますね?部屋名が書かれてるわけでもないですし、空き部屋でしょうか?

 どうやら次の自由時間は17時から……後大体2時間後……。この時間を使って牢屋敷を見て回ることにしてみましょう。

 それで……、あっ!ありました!!魔女裁判のルール!!殺人事件が発生すると、捜査の時間が設けられて、魔女裁判で犯人を決めるって流れなんですね。ゴクチョーさんが裁判長となって刑を言い渡すのかと思っていましたが、採決方法は多数決なんですね。そして最多数を集めてしまうと、「魔女」として処刑される……やはり近世に盛んに行われていた魔女裁判が名前の由来になっているのでしょうか?魔女裁判の特徴で推測すれば、殺人事件が起こったとしても自然現象といった事故的な事象が原因となるはずですが、そんな事故的で人為的には起こせないような「魔術」、そしてゴクチョーさんによれば、私たちは魔術を操れる「魔女」になって殺人を犯す……言葉通りの「魔女裁判」が行われるわけですね。魔女…………魔女ですか……………………。私、まだ魔法は使えないはずですし、きっとまだ魔女ではないんでしょうね。でもでも、空は飛んでみたいです!魔女といえばやっぱり箒で空を飛んでいますからね!ぜぇったいに気持ちよくて楽しいに違いありません!!魔法はどんなのがあるんでしょうか?オーソドックスに炎や雷?時間停止や天候操作の大魔法も使ってみたいです!ワクワクが止まりません~~!ムフフ。

 

 

 ホーホー、ホーホー……

 

 

「ハッ!?」

 

 

 机に置いていたスマホからフクロウの鳴き声が聞こえて想像の世界に飛ばしていた意識を現実に引き戻します。通知の内容は夕食の時間になったとのこと。どうやら今まで使いたい魔法について考えていたみたいです。いやー、相変わらず一人だとずっと考え事をしてしまいますね~。流石に脳のエネルギー切れ、美味しい食事でブドウ糖を充電です!ガチャリと入り口から音がして元気よく鉄格子を開くと、

 

 

「あらシェリーさん、あなたも夕食へ?良かったらわたくしがご一緒してあげてもよろしくってよ?」

 

 

「わぁ!ハンナさん!ぜひぜひご一緒させてください!ご飯はみんなで食べた方がおいしいですからね!」

 

 

「あら、いい心がけじゃない。決して一人で食事するのが寂しかったとか、誰かと一緒に居たかったーとか悲しい理由じゃありませんことよ。」

 

 

 私はハンナさんに笑顔で走り寄って、

 

 

「ハンナさーん、寂しかったならそう言ってくださいよ~!っえへへ、仲良くご飯です!」

 

 

「ち、違うっていってるでしょ!それに、くっつくなーですわ!」

 

 

「ほらほら~、行きますよ~!」

 

 

「ちょ、ちょっと強いですわー!押さないでくださいましー!」

 

 

 私はハンナさんの背中を押して、一緒に食堂へと向かいました。

 

 

「うっ……なんですの?この匂いは……」

 

 

 階段を上がってすぐ左にある食堂に一番乗りで入った私たちを待っていたのは、なんとも薄暗い見た目をした、決して美味しそうには見えない料理でした。

 

 

「う~ん。なんとも食欲をそそらないラインナップですね。」

 

 

「ほ、本当にこの料理しか食べる物はありませんの?」

 

 

 ハンナさんは食堂を歩き回り、食糧庫を探しているようでしたが見つからなかったようです。

 

 

「見た目で味を決めつけてはいけませんけれど……、さすがに口に入れる気にはなりませんわ……」

 

 

 この牢屋敷で初めて見た食べ物にどれだけ食欲が湧かなかったとしても、グ~、という音を私たちのお腹は鳴らしてしまうのでした。

 

 

「作ったひ……シェ、シェフはいないのかしら?こんな料理を出すぐらいならわたくしが厨房を代わって差し上げますわ!」

 

 

 ハンナさんは厨房への扉に顔を向けましたが、その扉は開きません。

 

 

「……っ」

 

 

 ハンナさんの瞳が少し潤んでいるような気がします。

 

 

「ハンナさん、私が毒見を行うので、私と同じ料理を取りませんか?」

 

 

「えっ……?」

 

 

「私も美味しそうには全く見えませんが、こういった料理が出るのは私たちが『囚人』だから、かもしれませんし、それならこの先の料理もすべてこのようなものになるはずです。私たちはここにきてからまだ何も食べていませんし、食事の時間も決められています。気が進まなくても、食べ物を体に入れる行為はやっておいた方が良いと思います。」

 

 

「そ、そうですわね……ありがとうございます。シェリーさん。」

 

 

「いえいえ!」

 

 

 ビュッフェ形式の食事で、私は茶色の雑炊、黒っぽくなっているサラダを取っていきます。おや!

 

 

「ハンナさん!こっちにはリンゴがありますよ!」

 

 

「あら本当ね。少し黄ばんでいますけれど、そっちに並べられてる料理よりかは食べる気になりますわ。」

 

 

 そうして料理を取り終えたころに、レイアさんを先頭に他の囚人の皆さんも食堂に入ってきました。

 

 

「あっ!メルルさーん!一緒に食べましょ~!」

 

 

「シェリーさん、ハンナさん。はい!是非ご一緒させてください。」

 

 

 メルルさんは迷うことなく料理をお皿に盛り付け、私たちは近くにあった4人掛けの席に着きます。

 

 

「エマさんはまだいらっしゃらないんですのね。」

 

 

「私、エマさんの分のご飯取ってきますね!」

 

 

 私と同じメニューを盛りつけ、席に戻ります。みんなで手を合わせて、

 

 

「「「いただきます。」」」

 

 

 私はまず、茶色の雑炊をパクっと口に入れます。ふんふん…………舌触りはザラザラしてて、甘いですね。私はジト目で私を待っているハンナさんに伝えます。

 

 

「この雑炊、甘くて全然食べられますよ!」

 

 

「あ、甘い?砂糖でも入っているのかしら……。」

 

 

 ハンナさんも雑炊を口に運びます。口に入れたスプーンは数秒間動くことはなく、顔が青くなっていきます。一分くらいかけて飲み込んで、

 

 

「あっっっっっっっっま!!超絶あめーですわ!!!こんなの料理と呼びたくねーですわ……。」

 

 

「そう言いつつも、二口目に入るんですね。」

 

 

「自分でよそったものですし、残すのは作ってくれた人に失礼ですもの……」

 

 

「ふふっ、でもあまり無理はなさらないでくださいね。」

 

 

「ええ、お気遣い感謝しますわ、メルルさ………………うっぷ……。」

 

 

 周りの皆さんも、食事はあまり進んでおらず、顔を青くして何とか食べ進めている様子です。あ!私たちのリーダーが来ましたよ!

 

 

「おーい、エマさーん!こっちこっち!」

 

 

 私の呼びかけでエマさんもテーブルの空いた椅子につき、私がよそった料理を顔を引きつらせながらも食べ始めました。

 

 

「……これって、あの看守が作ってるのかな。」

 

 

「それを想像すると、なんだかあの看守も可愛く思えてきますよねっ」

 

 

 ハンナさんがまた私をジト目で見つめていて、その視線からは「あなた本当に頭ぶっ壊れてるんじゃねーかしら?」という波動を感じます。ヤンキーがパン屋さんでアルバイトしているのと同じ感じだと思うんですけど………………分かりません?

 

 

「あの、その看守のことなんだけど……ボク、さっきアリサちゃんが捕まってるの見ちゃって……。」

 

 

 やっぱり!

 

 

「わ、私も見ました……何があったのでしょうか……うぅ、とても心配です……。」

 

 

「さっき出てってやるって息巻いていましたし、脱走でもしたんですかね?」

 

 

「禁止時間に外にいたのなら、懲罰房とやらへ連れていたのかもしれませんわね……。」

 

 

「懲罰房……何かされるところなのかな。」

 

 

 そういえば魔女図鑑に書かれてありました。自由時間外に監房外で発見されると、2日懲罰房に入れられてしまうんですよね。たまにミステリーで見かけますけど、いざ当事者になって入れられるとなるとあまり楽しい感じは……しないです。

 

 周囲の様子を見ていたエマさんがレイアさんと目があって、照れて顔を逸らしました。そして、これを見ていたハンナさんがエマさんに顔を寄せます。

 

 

「あいつ……魔法を使っているにちげーねーですわ。」

 

 

「魔法……?」

 

 

「女子を誘惑する魔法なんか使って……しかも芸能人だからって、囲いを作って、偉そうに!」

 

 

 ハンナさんは、カチャカチャと音を立てながら料理を口に運んでいきます。

 

 ハンナさん、もしかしてレイアさんにイラついてます?ハンナさんがレイアさんに向ける視線は、普通じゃない気がします。何か因縁めいたようなものが含まれているような……でも、なぜでしょう。今のハンナさん、言動がすごく様になっている気がするんですよね。もしかして、レイアさんはもう魔法が使えるんでしょうか?ハンナさんはその魔法に嫉妬して……ってことは、もう魔法が使える子が他にもいるってことですか!?

 

 

「ね、ねえみんなは当たり前みたいに魔法って言ってるけど……ここに捕まったみんな、魔法を使えるってこと?ボク、魔法なんて使えないと思うんだけど……。」

 

 

「私もエマさんと同じですよ。魔法なんて初めて知りましたし、使えません。」

 

 

「……ふぅ、何も知りませんのね。シェリーさんも、あなたも。魔女因子を持っている子は、不思議な力が使えるんですの。それが【魔法】。あなたたちも気付いてないだけで、何か不思議な力を持っているはずですわ。」

 

 

「ええ~?私不思議な力なんて持ってないですよ?特技っていえば。」

 

 

 私は自分のトレーに置いてあったリンゴを握り潰します。

 

 

「あ……あ……。」

 

 

「ちょっと力が強いかなってくらいで。」

 

 

 あ、ハンナさんの服にリンゴの汁が掛かっちゃってます……顔が真っ青になってるのは、怒らせてしまったせい?

 

 

「どこがちょっとなんですの!?ゴリラ女!?」

 

 

 あ~あ、やっぱりゴリラって言われる……。

 

 

「ひどいです~。リンゴくらい誰でも潰せますよね?」

 

 

「はいそれあなたの魔法!!」

 

 

 え……?

 え~~~~へへぇ?私の魔法ですかぁ~~?やばい!嬉しくてにやけが止まりません~~!

 

 

「そっかあ……私って魔法が使えたんですね。いやぁ、照れますね~。」

 

 

「逆に今まで気づかなかったのが信じがたいですわ……。」

 

 

 私が魔法を使えたなら、ハンナさんも使えるはず。ハンナさんは、魔法の存在を知っていましたし、どんな魔法かも分かっているのでしょうか?

 

 

「で、ハンナさんはどんな魔法をお持ちで?」

 

 

「仕方ないですわね。そんなに見たいのなら見せてあげてもよろしくってよ?よ?」

 

 

 おお!ハンナさん、魔法に自信がある様子です!ワクワク!!

 

 

「これがわたくしの魔法ですわあぁっ」

 

 

 ハンナさんは全身に気合を溜めて……

 わ、わわ!浮きました!浮いてます!ハンナさん飛んでます!!

 

 

「すごいすごいすご~い!」

 

 

「このまま移動もできますのよ!」

 

 

 浮遊だけじゃなくて移動もできちゃうんですか!?ヘリコプターみたいです!!わ~~~~~~!私も!飛んで!みたい!自信があっただけありますね~!スゴイです、ハンナさん!

 

 私は精一杯の拍手を着陸したハンナさんに送りました。

 

 

「……と、こんな風にわたくしたちは魔法を持っていますの。きっと魔女見習いみたいなものね。」

 

 

 浮遊には相当なエネルギーを使うのか、ハンナさんは肩で息をして席に着きました。やがて呼吸が整って話し始めます。

 

 

「自分が不思議な力を使えるって気付いた時から、わたくし、色々調べてきましたの。魔女因子や牢屋敷のことは、都市伝説で聞いたことがありますわ。魔法を持つ者は、魔女になるかもしれないから15才で牢屋敷送りになるって。」

 

 

「そういえば、私も友だちからそんなような噂聞いたことあったかも?」

 

 

 確か、小学校6年の時に友達だったあの子が言ってたような気がします……。

 

 

「ボク、ぜんぜん知らなかった……。ボク、間違えてここに連れてこられたんじゃないかな?」

 

 

「可能性はありますわね。検査なんて、いつされたのかもわからないですし。」

 

 

 ハンナさんが、悔しそうに爪を噛む。

 

 

 ズキ

 

 

「わたくし、牢屋敷送りが嫌でこの能力をずっと隠してきましたのに……。こんなところに閉じ込められて、この先、どうなってしまうんですの……?」

 

 

 先程魔法を見せた、自信のある表情とは打って変わって、弱弱しく、覇気もなく、泣きそうな声でハンナさんは言います。

 

 

 痛い。

 

 

 重苦しくなった雰囲気の中で先に完食していたメルルさんに続き、エマさん、ハンナさん、私の3人も夕食を平らげ、食堂を後にしました。

 

 

「ボク、今日は色々ありすぎて疲れちゃった。シャワーとか浴びたいけど、今日はもう寝るね。」

 

 

「エマさんにとっては激動の一日だったに違いありませんもの。ゆっくり休んでくださいまし。」

 

 

「そうですね。ベッドでゆっくり休んでください。」

 

 

「わたしは医務室にいるので、何かあったら少し遠いですが……訪ねてくださいね。」

 

 

「みんなありがとう。それじゃあ、おやすみ。」

 

 

「「「おやすみなさい。」」」

 

 

「また明日です~!」

 

 

 エマさんは重そうな足取りで、地下に繋がる階段を下っていきました。

 

 

「私たちはどうします?」

 

 

「わたくしはシャワーを浴びて―ですわ……。いろんなことがありましたし、少しでも体をスッキリさせたいですの。」

 

 

「いいですね……!私もシャワー浴びたいです……。」

 

 

「私も異論ありません、シャワーを浴びに行きましょう!」

 

 

 すんなり意見がまとまり、私達はシャワールームへと足を運びます。

 入り口から左にロッカー、右にシャワーがあり、正面の奥手にはその日着た衣服を捨てるダストシュートが設けられてあります。

 

 

「どうやらシャンプー・リンス・ボディソープはあるみたいですわね。一安心ですけれど……」

 

 

 シャワールームに入って体を洗い、新品の囚人服に着替えます。

 

 

「う~ん……」

 

 

「な、なんですのよ、人の体じろじろ見て。」

 

 

「ハンナさんが思ってたよりちっこくて、身長どれくらいかなーって思いまして。」

 

 

「はぁ……そんなことですの、別に構いませんわよ。去年の身体測定で測ったときは確か、145cmでしたわ。」

 

 

「へ~、私とだいたい15cm差ですね!定規を1本ハンナさんの頭上にプレゼントです!」

 

 

「やかましーですわ!!」

 

 

「メルルさんは身長幾つです?」

 

 

「えっ!?えと……よく覚えてないのですが、す、数年前に測ったときは150cmでキリがよかったので覚えています。」

 

 

「わたくしと15cm差という事はシェリーさんは160cm超えていますのね。レイアさんはもっと高いですし……う、羨ましいですわ……。」

 

 

 全員着替え終わって、シャワールームを出ます。

 

 

「わたし、医務室に寄って行こうと思います。どんな所か見ておきたくて。」

 

 

「わたくしは体を洗って、どっと疲れを感じてきましたし牢屋に戻ることにしますわ。」

 

 

「私も牢屋に戻ることにします。」

 

 

 メルルさんとそのまま別れ、廊下を歩きます。

 

 

「ハンナさん、私聞きたかったことがあるんですよ。」

 

 

「な、なんですの?」

 

 

「ハンナさんがさっき見せてくれた浮遊の魔法、いったいどれくらい続けられるんですか!?」

 

 

 ずいっと顔を寄せた私に、げんなりした顔になるハンナさん。

 

 

「べっ、べつにいくら続けられたっていいんじゃねーかしら?シェリーさんがそれを知って何になるんですの?」

 

 

「いえいえ~、時間次第では地面に足跡を残さない殺人ができるな~と考えてしまいまして。」

 

 

「勝手に私を殺人犯にしないでくれるかしら!!!!?」

 

 

「でもでも、足跡ってミステリーにおいて結構重要な証拠になるんですよ。」

 

 

「まだ自由には飛べませんし、さっき見せたぐらいしか飛べませんわ。1分も飛べませんわよ。だったらシェリーさんは握力がいくらだっていうのかしら。」

 

 

「いや~、それが分かんないんですよね。私の握力に堪え切れた計測器はありませんでしたから!どや!」

 

 

「多分それ褒められることじゃねーですわよ……。もしかして本当にゴリラの遺伝子でも持ってるんじゃないでしょうね?」

 

 

「そんな遺伝子持ってないです!持ってたとしても、ゴリラじゃなくて妖精さんの遺伝子がいいです!」

 

 

「よ、妖精ぃ?あなたのどこに妖精の要素があるのかしら?」

 

 

「中学では私のことを、皆さん妖精さん妖精さんって呼んでくれてたんですよ。」

 

 

「多分それ比喩ですわよ……」

 

 

 そんなやり取りをしながら玄関ホールに入ると、階段を下りてきたマーゴさんとミリアさんに出会いました。

 

 

「あら♡2人とも火照った顔をしているわね、何かいけないことでもしたの?」

 

 

「シャワールームにいたんですのよ。」

 

 

「シャンプー・リンス・ボディソープが置いてありましたよ。」

 

 

「それは本当かい?ハンナちゃん、シェリーちゃん。」

 

 

「品質は疑わしいけれど、女の命を守ることはできそうだわ。ここはそんな命も奪い合ってしまう場所らしいけれど。うふふ♡さあ、私たちも浴びに行きましょう。ミリアちゃん♡」

 

 

「ひっ!?いやー、おじさん後で一人で浴びよっかなーって……え、ちょっとマーゴちゃん!?無言で笑いながら腕引っ張るのやめて!?怖い、怖いから!」

 

 

 そのままミリアさんはマーゴさんにラウンジの方へと引っ張られてしまいます。

 

 

「大丈夫でしょうか、ミリアさん。」

 

 

「無事であることをお祈りしますわ……」

 

 

 私たちは、地下に通じる階段を下りていきます。

 

 

「なーんだか、あなたと一緒だとすごーく疲れますわ。ただでさえ環境の変化でストレスを感じてるっていうのに……。」

 

 

「えー?私は楽しいですよ!ハンナさんと過ごすの!」

 

 

「そーですの。シェリーさんのノリに付き合わされる身にもなってほしいですわ。全く……ふふっ。」

 

 

「あ、今ハンナさん笑いました?」

 

 

「気のせいじゃねーかしら?」

 

 

 階段を下り切って私の房の前に着きます。

 

 

「ここでお別れですわね。おやすみなさい。ですわ。」

 

 

 そう言って奥に歩き出した背中に、

 

 

「ここでお別れじゃありません!また、明日。ですよ!」

 

 

 振り返ったハンナさんに、わたしは右手を差し出します。

 

 

「おやすみなさいの握手です。ふふっ。」

 

 

 ハンナさんは私の手と顔を見て観念したようにため息をつきながら、

 

 

「おやすみなさい。ですわ。」

 

 

 ハンナさんの顔は微笑んでいました。

 思っていたよりも疲れていたみたいで、房に入ってすぐベッドの梯子へ足をかけていました。ポシェットを置いてすぐに横になります。

 

 今日はすごい日でした、まさかわたしが…ら、ち、かんき……………………。

 

 これが私の牢屋敷の一日目。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『シェリーちゃんのおかげだよ。本当にありがとう!』

 

 

『よかったら、シェリーちゃんのお友達に、なれないかな……?』

 

 

『シェリーちゃんがホームズで、私はワトソンだよ!』

 

 

『シェリーちゃんといると毎日楽しいな。」

 

 

『ホームズ!新しい噂をゲットしてきたよ!』

 

 

『ううん、仕方がないの。だから、これでお別れ。』

 

 

『大好きだよ!シェリーちゃん!!』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 目を開けて広がる視界ははっきりとしていなくて、私は腕で目元を拭う。

 横にある見慣れないスマホには、5:45の表示。

 

 悪い夢じゃ、ないんですね。

 それなら仕方がありません!私は身支度を着々と済ませて、鉄格子の前でスタンバイ。ホーホー、ガチャリと音が鳴り、鉄格子を開けて、

 

 さぁ、今日も元気にいきましょう!

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