飴色の瞳に映るのは   作:愚奏ましろ3

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第4話「鏡」

「メルルさん!おっはよ~ございま~すっ!!」

 

 

 はれ?

 

 私は、エマさん・ハンナさん・メルルさんと、昨日疲れてすっかり忘れていた牢屋敷の探索を行う為、監房の一番奥にあるメルルさんの牢屋の鉄格子を勢いよく開いたのですが……部屋の中はもぬけの殻で、ベッドの上にはシーツと毛布がキッチリと綺麗に畳まれてあります。

 

 ……ふ~~~~~む?私は鍵が開いたと同時に牢屋を出てメルルさんの牢屋に着くまで誰ともすれ違わなかったし、通路に誰かを見てもいないのですが……うーん、分かりません!まぁいないのなら、仕方がないですね。

 

 私はメルルさんの牢屋からハンナさんのいる牢屋へと移り、ハンナさんを呼びに行きます。中からは唸るような声が聞こえて、私はゆっくりと鉄格子を開けます。音のする方を見ると、

 

 

「……いで……、…………怖いよ………………。」

 

 

 ハンナさんはベッドの中で毛布にくるまり、静かに涙を流して眠っていました。その繊細な顔は、私が雫を人差し指で掬うのにも気付かない程美しく、触れている手はハンナさんを起こすことはできませんでした。

 

 

「……。」

 

 

 やり場のないやるせなさを感じ、私はハンナさんの牢屋を出て、すやすやと寝ていたエマさんを起こします。牢屋を出て、牢屋敷探索へいざ行かんと階段へと足を向けた私とは反対に、エマさんはアンアンさんとノアさんの牢屋の前に立ちました。

 

 ……?アンアンさんかノアさんに御用でしょうか?

 

 

「すごい……。」

 

 

 すごい……?一体なにが……?

 

 私もアンアンさんとノアさんの牢屋を覗きました。特徴的なカラースプレーの匂いが漂う牢屋の壁に、抽象的でカラフルなイラストが複数描かれています。

 

 あれ?この絵どこかで……。

 

 私はテレビ・新聞・SNSで見た記憶を漁って、その名前を絞り出します。

 

 

「バルーン……。」

 

 

「バルーン?」

 

 

「エマさん、知りませんか?世界的に有名なストリートアーティストですよ!正体不明でその姿を見た人もいないって噂だったんですけど……まさかのノアさんだったんですね!」

 

 

 私は今、世界的な謎の鍵を握ってしまいました!超超超有名人がこーんなに近くにいたなんて!!

 

 

「すごいすごいすご~い!ノアさん、サインください!!」

 

 

「さいん?」

 

 

 私のお願いに、ノアさんはきょとんとした表情で振り返ります。

 

 

「ノアさん、【バルーン】なんですよね!?」

 

 

「ん?ああ~そうだよ~?へへ~照れるな~。」

 

 

 ノアさんはそう答えつつ、私が差しだしていた手帳の空白のページにサインをしてくれました。

 

 おお?お~~!?何が書いてあるかよくわかりません!でもでも、カッコよくて、かわいいサインです~!

 

 バルーンのサインはなんとなく風船をモチーフにしていることはわかりますが、バルーンの画風通り抽象的で名前が書かれているのかすら分かりません。私がサインを観察しながらう~んと唸っていると、エマさんが必死な顔で私の服をつまんでいました。

 

 

「ね、ねぇ、ここに連れてこられたのって絶対騒ぎになってるよね!?そういえばレイアちゃんも芸能人だし、世間が黙ってないよ!きっと警察がボクらのこと捜してる!」

 

 

 うーん、女の子とはいえ一夜で13人も気付かれずに誘拐するなんてとても簡単なことじゃないですよね?

 

 

「どうでしょう?この牢屋敷は国家ぐるみな気がします。ゴクチョーさんが言ってましたよね。全国で行われた検査に引っかかったって。そうなると、警察が動くような事態にはなっていないのでは。むしろ協力した側かも。」

 

 

 私が展開する推理に、エマさんはみるみる顔が青くなっていきます。

 

 

 

「もしかしたら私たち、死亡扱いになってるかもしれませんね。」

 

 

「そんな……そんなのおかしい!このままにしちゃダメだよ!ヒロちゃんが殺されたこと、ちゃんと外の人に知らせないと!救助を呼ぼうよ!」

 

 

 外の人に知らせる……。こちら側から動くという事ですね。

 

 

「ふむ。それもまたありな展開ですか。脱獄するってことですね?」

 

 

「脱獄……う、うん。ボクらは間違ってここに連れてこられた。だからまずは、脱獄を考えよう……。」

 

 

 エマさんは、『脱獄』という言葉がしっくりきたようで、瞳に決意を宿していました。

 

 脱獄……。いいですね!楽しそうな響きです!かの大怪盗も、捕らえられるたびに、いとも容易くするりと脱獄してしまいますからね!この名探偵橘シェリー、大怪盗も目指します!

 

 私たちは脱獄方法を探すという裏目的を添えて、牢屋敷の探索に繰り出しました。

 

 と、思っていたのですが……。

 

 グ~。

 

 

「あっ……。」

 

 

「お先に朝食に行きましょうか。」

 

 

「……うん…………。」

 

 

 エマさんのお腹が元気な音を立てたので、朝食を食べに食堂に入ります。朝食、と言っても昨日の夕食と大きくメニューが変わることはなく、無くなった分が補充されたような印象を受けました。

 

 

「朝だから、瑞々しいキャベツとハムのサラダが出たり……なんてことは無いみたいですね。」

 

 

「ボクたち、ずっとこんなものばっか食べるってことなのかな。」

 

 

「恐らくは、そうだと思います。囚人という以上、贅沢な食事を与えられることは無いでしょうね。ここにお肉の料理は無いみたいですけど、出る時は人肉だったりして。」

 

 

「えっ……人肉……?ぶ、物騒なこと言わないでよ、シェリーちゃん……。」

 

 

 私たちは朝食をそれぞれ取って、一緒の席に着きます。

 

 

「シェリーちゃん、よくそんなパクパク食べれるね……。もしかして、美味しいって感じてる?」

 

 

「え?そんなことないですよ。美味しくないです。でも、こんなメニューしか出ない以上これを食べるしかありませんし、アレルギーでもない限り、食べられない訳じゃありませんしね。」

 

 

「そ、そっか、そうだよね……。ボクも覚悟を決めなきゃ……!」

 

 

 そこから止まりがちだったエマさんの食事は、一定のリズムで進んでいきました。

 

 

「うお~!エマさん、がんばってください!」

 

 

「えっ!もう食べたの!?」

 

 

 朝食を終えた私たちは、やっとこさ牢屋敷の探索に繰り出しました。

 

 

「どこから回っていこうか?」

 

 

「せっかく今1階にいるわけですし、奥にある医務室に向けて進んでいきましょう!」

 

 

「分かったよ。えーっと、まずここは裁判所だね。んー、鍵がかかってるみたい。」

 

 

「昨日の時点から閉まったままですよね、もしかして、裁判が行われるときにだけ開かれるのでしょうか?」

 

 

「開かないなら、裁判所は調べられないね。次に行こうシェリーちゃん。」

 

 

「はい、エマさん!」

 

 

 私たちは玄関ホールを通ってラウンジに入ります。昨日ノアさんが入れ替えていた家具は元の位置に戻り、残っていたヒロさんの血痕は綺麗に拭き取られていて、ラウンジはデフォルトに戻っているようでした。

 

 

 私が部屋を見回すと、私たちが通ってきた入り口の壁際、ちょうど視界に入らなかったところに、大きな銃を背負った囚人、ナノカさんが立っています。

 

 

「おや、おはようございます!ナノカさん!」

 

 

「えっ、ナノカちゃん!?お、おはよう。」

 

 

「……。」

 

 

 挨拶をした私たちに、ナノカさんは罰が悪そうな顔をして、

 

 

「……おはよう。」

 

 

 と挨拶を返してくれました。

 

 

「ナノカさんは一体ここで何を?良かったら私たちと一緒に牢屋敷の探索をしませんか?」

 

 

「ただラウンジで時間を潰していただけよ。でも悪いけれど、一緒には行けないわ。」

 

 

追及しても良いのですが、なんとなくナノカさんの意志は固そうな気がします。

 

 

「分かりました。私たちは医務室に向かいますね!」

 

 

「うん、またね。ナノカちゃん。」

 

 

「……。」

 

 

 私たちは、ラウンジを出て医務室へと進みます。

 

 

「ナノカさんって独特な雰囲気のある子ですよね。」

 

 

「うん。なんだかクールな子って感じ。」

 

 

クールな子って、落ち着いていてカッコいいですよね!数多の名探偵たちも、クールに事件を解決してしまいますし。

 

 

「ふふ~ん!エマさん、私ってクールですよね!」

 

 

「えっ、う、う~ん……。クールとはちょっと違うかも……。マイペース、の方がしっくりくるかな。」

 

 

「え、違いますか!?がっくり……。そういえば、私ってよくマイペースマイペースって言われるんですけど、そんなマイペースです?私。」

 

 

「うん。相当だよ……。」

 

 

 エマさんは真顔になって言います。

 どうやら、真の名探偵たちと肩を並べるには、まだ早いみたいです。

 

 

「そんなこんなで医務室に到着です!イェーイ!」

 

 

 ギィと鈍い音を立てながら観音扉を開いた医務室は、

 

 

「うわぁ、いい匂い。」

 

 

 薬品の独特な香りは無く、窓から差し込む日差しと花瓶に刺さったレンゲソウと仄かなハーブの香りで、やわらかい雰囲気を纏っています。部屋の中には、ベッドで横になっているアンアンさん、その隣には椅子に腰かけているレイアさんと私たちに気づいたメルルさんがいました。

 

 

「あ、エマさん、シェリーさん……!」

 

 

「メルルさん、見かけないと思ったらこんなところにいたんですね。」

 

 

「は、はい……。アンアンさんの具合が悪いって聞いて、放っておけなくて……ごめんなさい。」

 

 

 そういえば魔女図鑑に書かれていたルールには、拘束時間であっても体調不良だった場合は医務室で休むことができて、付き添いも1人まで可能でしたね。早朝牢屋にいなかったのは、アンアンさんの介護をしていたからなんですね!謎が1つ解けました!

 

 

「謝らなくてもいいですよぉ!えらいです、メルルさん!」

 

 

「そ、そんなそんなそんな……。」

 

 

 メルルさんは指を合わせながらもじもじと恥ずかしがっています。

 お話を伺ったところ、アンアンさんは、自室にされたノアさんの落書きを見たショックで貧血を起こし、熱を出してしまったみたいです。今は、すやすやと寝息を立てて穏やかに眠っています。

 

 

「中庭に植物がたくさん茂っているんだが、ハーブを摘んで、お茶を淹れてくれたんだ。ずいぶん気持ちが落ち着いたんじゃないかな。」

 

 

 そう言ったレイアさんに連れられて、私たちは中庭へと足を運びます。中庭は吹き抜けになっていて、久しぶりに外の空気を吸うことができました。

 

 ん~!瑞々しくて気持ちがいいですっ!

 

 開放的な空気に充てられて、伸びをしていた視線の先から、バサッバサッという音と共に小さなシルエットがだんだんと近づいてきます。

 

 

「ゴクチョー……。」

 

 

「おや、桜羽エマさん、橘シェリーさん、蓮見レイアさんじゃないですか。」

 

 

 気になっていることは、それを一番知ってそうな人に聞くのが一番ですよね!

 

 

「遭遇できるなんてラッキーです!ちょーっといいですか、ゴクチョーさん!ここ、ずいぶん古い建物ですよね。ゴクチョーさんは長い間、何度も囚人を迎え入れているんでしょうか?過去に捕まった囚人はどうなったんでしょう!?この牢屋敷ってなんなんですか!?ぜひ教えてください~!」

 

 

「……やれやれ。まあ、わからないことばかりなのもかわいそうですよね。あまり時間は取れませんが……ほんの少しだけ教えてあげましょう。」

 

 

 気怠そうにため息をつき、ゴクチョーさんはこの牢屋敷について話し始めます。

・この牢屋敷は500年前から存在していて、魔女を捕らえる場所ではなく魔女が普通に暮らすお屋敷だった。

・魔女たちの中心である大魔女がいて、仲良く暮らしていた。

・あるとき、魔女とは違う種族の人間がやってきて、魔女たちは人間を歓迎した。

・囚人を捕らえる牢獄になったのは大魔女が……?

 私は手帳にメモをとりつつ聞いていましたが、ゴクチョーさんは質問中に逃げるように飛んで行ってしまいました。

 元々魔女が住んでいた島を人間が見つけたことで、この島に大きな変化があったという事でしょうか……。なにはともあれ重要な情報ですよ!私たちはきっと、この牢屋敷の真相に一歩近づくことができました!

 

 

「もっとゴクチョーさんのお話聞きたかったですね!でも大収穫だった気がします!」

 

 

「う、うん。」

 

 

「レイアさんが中庭に連れてきてくれたおかげです!ありがとうございます!」

 

 

 私はぺこりとお辞儀をすると、レイアさんは私の前で片膝をついて、流れるように手を差し出しました。

 

 

「大したことはしていないさ。ゴクチョーと会うことができたのは棚から牡丹餅だったけれど、中庭に連れてきたことで、君たちの穏やかな表情を見ることができた。私からも、ありがとうと言わせてくれたまえ。」

 

 

 私、王子様系の女の子がなぜちやほやされるのか、分かったかもしれません。なぜならこんなにも、目が離せないんですから!

 

 目の前にいるレイアさんはまるで本物の王子様のようで、その立ち振る舞いと言葉遣いはとても様になっています。

 

 

「いえいえこちらこそ!」

 

 

 私に伸ばされた手を取って、ブンブンと腕を振りながら握手をすると、驚いた表情になったレイアさんは素早く立ち上がって「もういいかな。」といって手をするりと抜いてしまいます。

 

 

「さて、そろそろアンアンくんの介抱に戻らなくては。君たちと一緒の時間が過ごせて楽しかったよ。」

 

 

 レイアさんはシャンと背筋を伸ばして姿勢よく歩き、医務室に戻っていきました。

 

 

「レイアちゃん、すごくかっこよくて、面倒見がいい子なんだね。」

 

 

「まさにリーダーシップの権化!って感じがします。」

 

 

「ふふっ。それ、リーダーシップの権化のポーズ?」

 

 

「ええ!このポーズで、エマさんもリーダーシップの権化になれますよ!」

 

 

 エマさんがくすくすと笑います。普段のエマさんを少しだけ垣間見ることができました。

 エマさんがまだ入っていなかったシャワールームを見て、ステンドグラスの窓が並んだ外側の通路を通って玄関ホールに戻ってきた後は、残していた応接間に入って1階の探索は終了。次に2階で図書室と娯楽室を回って、最後に地下の足を踏み入れたことのないエリアにいくことになりました。階段を下り切って牢屋とは反対方向の左の通路へ。そこは通路の左右に重たそうな扉が4つずつ設けられた空間でした。扉は私たちの牢屋と違って南京錠で閉ざされています。

 

 

「ここってなんですかね?中には入れないようですが……。」

 

 

「覗き窓があるから、見てみようか。」

 

 

 エマさんが率先して見に行きましたが、少し目よりも高い位置にあり、背伸びをして中を覗きます。

 

 

「うわぁっ!」

 

 

叫び声をあげ尻もちをついたエマさんは、血の気が引いて顔が真っ青になっています。

 

 

「大丈夫ですか、エマさん。一体何をそんなに驚いて――。」

 

 

 ほー……。

 

 

「これは……またまた……えぐいですねぇ。」

 

 

 磔刑台・ギロチン・三角木馬・ナイフ……。昔、実際に処刑に使われていたものや、拷問器具として使われていたものが勢ぞろいです。現代でなかなかお目にかかれるものではないですし、じ~っくり観察したい!……のですが、これらは全て、「人に苦しみを与えてきた事実」を抱えています。一つの部屋に集められたそれは大きな黒い事実となり私の好奇心を覆い隠してしまいました。

 ……、1階に居たきりマップを見なかったので忘れていましたが……

 

 

「ここがゴクチョーさんの言ってた懲罰房でしょうね。規則を破った囚人はここに入れられる、と。」

 

 

 もしかしたら、ここに……

 

 

「ぐぅ……クッソ、ざけんな……。出せよぉぉ!!おああああ!!」

 

 

 私が思い浮かべていた人物の叫びが聞こえます。

 

 

「やっぱりアリサさんは懲罰房行きになったんですね。」

 

 

「探そう!」

 

 

 エマさんと私で左右に分かれて、覗き窓を1つずつ確認していきます。

 

 

「アリサちゃん!」

 

 

 エマさんがアリサさんを見つけ、私もエマさんの隣に立って覗き窓を覗きます。

 アリサさんは磔刑台に張り付けにされ、地についていない足には宙に浮いた足枷が着けられています。腕には力が入っておらず、首はぶらりと項垂れていました。

 エマさんの声に遅れて気が付いたようで、入り口に並ぶ四つの目を見て、ギロリと鋭い視線を送ります。

 

 

「あ……?誰だてめえら……。」

 

 

 アリサさんの声に含まれる覇気は掠れていて、約1日受け続けている拘束で憔悴しかけているのが分かります。

 

 ………………。なんでしょう、この胸の動悸。この感覚は…………嫌いです。

 

 

「大丈夫ですか?ひどいことをされたのでしょうか?」

 

 

「てめえらに関係ねーだろ……。」

 

 

 アリサさんは私の声を聴いて、わずかに睨みを強めます。

 

 

「……ああでも、ひとつ忠告しといてやる。屋敷から遠くまで逃げると、監視のバケモンフクロウが大量に飛んでやがったよ。そいつらに見つかった途端、看守が飛んできた。脱獄は難しいってことだ。」

 

 

さっきお会いしたレイアさんも言ってましたが、自由時間は正面玄関の鍵が開いているそうですからね。昨日アリサさんはラウンジを出た後、屋敷の外に出ていたと。そして、外には監視のゴクチョーさんが大量にいる……。え、ゴクチョーさんってたくさんいるんですか!?

 

 

「高い塀があったから燃やそうとしたんだが、それも無理だった。不思議な力で炎がかき消えちまって……どうなってんだよ、クソッ。」

 

 

 塀を燃やそうとした……?マッチなら中庭の前の物置に置かれてあるのは見ましたが、屋敷を出た後物置まで取りに戻ってきたんですかね?それに、遠目ではありますけど、1階の廊下から見えた塀は石でできているように見えましたけどね~。石炭で作られてない限り石が燃えるようなことはないと思うのですが……あくまで遠目ですし、アリサさんは近くまで行ったことで石ではない素材と分かったのかもしれませんね。

 

 

「ふむ……私たち囚人として捕まっているので、この監獄もやすやすと私たちを逃がすわけがありません。難しくて当然なのでは。」

 

 

「っ……笑いに来やがったのかてめえ!あっち行けよ!消えろ!!」

 

 

 アリサさんは今日一の声で私に怒鳴ります。

 

 まだ怒鳴る気力があるようです。心配しましたが、一安心ですね!

 

 

「行こう。シェリーちゃん。」

 

 

私はエマさんに肩をトンと叩かれて、アリサさんの房から離れます。

 

 

「どうやら元気そうですね。規則によれば明日には出られるでしょうし、とりあえず無事が確認できて良かったです。」

 

 

「うん、そうだね……。」

 

 

 エマさんはアリサさんの姿が目に焼き付いているのか、暗い顔をしています。

 

 

「足枷までつけられてかわいそうに……。」

 

 

「ん?アリサちゃんって、最初から足枷をつけられていたような。」

 

 

「ああそうでしたっけ!いきなりハードモード囚人だったんですね。要注意人物だと思われてたんでしょうか。」

 

 

「そうかも……。」

 

 

 階段の辺りまで戻ってきたところで、ポケットの中のスマホから通知音が鳴りました。

 

 

「あっ、もう自由時間は終わりか。」

 

 

「残すところは焼却炉だけですし、急いで見に行きましょう!」

 

 

「あっ、待って!シェリーちゃん!」

 

 

 私は駆け出して、階段の正面の通路進んでいきます。焼却炉は、薄緑色の小さな部屋で、炉を開いてみると、中から炭の匂いと共に灰と煤が飛び出してきました。

 

 

「ケホッ、ケホッ……。」

 

 

「はぁ、はぁ、大丈夫シェリーちゃん?」

 

 

「はい。灰を肺に吸い込んでしまったみたいです。なんちゃって☆……コホッ……」

 

 

 私はぱたんと炉を閉じて、膝に手を当てて大きく息をしているエマさんに呼びかけます。

 

 

「ここには特に、目立ったものは無いみたいです。牢に戻りましょうか、エマさん。」

 

 

「う、うん……」

 

 

 牢屋が近いこともあり、私はエマさんの歩幅に合わせて焼却炉を離れます。

 

 

「エマさん、探索付き合ってくれて、ありがとうございました!次は、またお昼の自由時間でお会いしましょう!」

 

 

「ボクもシェリーちゃんと一緒に回れて楽しかったよ。またね!」

 

 

 私は牢屋の前で奥に進んでいくエマさんに手を振り、鉄格子を開けます。キィ……とかすかな音が鳴り、足を踏み入れた自分の牢はどことなく寂しさを感じさせます。

 

 ……明日、アリサさんが戻ってきたらマッサージをして労ってあげましょう。きっとお疲れでしょうから。

 

 1人の牢屋にガチャリという音が響き、自由時間の終わりを告げます。私の足は自然にベッドへと向かって、ペラペラとした毛布の中に納まりました。

 

 かなりの収穫があって大満足な探索でしたね。牢屋敷の情報だけじゃなくて、2階ではミリアさんやマーゴさん、医務室でレイアさんともお話しすることができました!エマさんはもちろん懲罰房ではアリサさんとだって………………。

 

 アリサさんの力の抜けた体、覇気が失われた表情、私が見たアリサさんの姿が頭の中を埋め尽くしていく。

 

 …………。

 

 私は石壁とにらめっこ。無機質な視界で時間の感覚が曖昧になってきた頃、眠気は無いのに瞼が自然と落ちていきます。

 

 …………。

 

 私は逃げるように、身体に身を任せました。

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