飴色の瞳に映るのは   作:愚奏ましろ3

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第6話「刹那の熱量は美しく」

 階段を上がって入った食堂には、アリサさんや、レイアさんのグループの皆さんが先に食事をとっていました。

 

 

「あっ、アンアンさんっ……!」

 

 

 メルルさんは食堂に入ると、レイアさんのグループの中で食事をしていたアンアンさんを見つけ、駆け足で走り寄ります。

 

 

「アンアンさん、体の具合はいかがでしょうか……?」

 

 

『メルルのおかげで楽になった、感謝する』

 

 

「そ、そんなそんな……!大したことはしてませんし……。」

 

 

「しかしその大した看病が、アンアンくんに笑顔をもたらしたんだ。君は誇らしいことをしたんだよ、メルルくん。」

 

 

「へぇ~、やるじゃんメルっち。」

 

 

「は、はわわ……、わ、わたっ……!うぅ…………」

 

 

「あら、お顔が真っ赤よ、メルルちゃん。少し……ゾクゾクしちゃった♡」

 

 

「は?あんた何言ってんの、そんでなんで少しうっとりした顔してんの!?引くんですケド……」

 

 

 メルルさんが褒められてパンクしているのを横目に、夕食を取って私たちもテーブルに着きます。

 

 

「アンアンちゃんの体調、良くなってるみたいでよかった。」

 

 

「ですねー。メルルさんに加えてレイアさんもよく介抱してましたし、おふたりのおかげですね!」

 

 

「結局、アンアンさんが体調を崩したのは、ノアさんのカラースプレーが原因でしたの?」

 

 

「ボクが見た様子だとそうだね。スプレーで赤くなった部屋にびっくりして倒れちゃったから。あと、スプレーの刺激臭も原因かも……」

 

 

「恐らく、赤い部屋を見たときのショック症状が主な原因みたいです……。」

 

 

「メルルちゃん!」

 

 

 そろりと戻って来ていたメルルさんは、空いていた席にトレーを置いて座ります。さっき褒めちぎられていたせいか、顔が仄かに赤く染まっています。

 

 

「アンアンさんが目を覚ました時に事情を伺ったら、自分の牢屋の中を見てからの記憶が無いみたいで……。そこでショックを起こしたんじゃないかと思います、元々体も弱い方だとも言っていましたし……。」

 

 

「無理もありませんわ。ただでさえ、殺人事件が起こるといわれている環境で暮らしているんですもの、もし同じ場面に遭遇したら、わたくしだって平然とはしていられないでしょうし。」

 

 

 私ならどうでしょう。もし私の部屋が突然赤く染まっていたら……。

 

 

「私も平然としていられないと思います!」

 

 

「でしょうね!殺人事件が起こりましたよーとか言って、ハイテンションになっているに違いありませんわ。」

 

 

「えーっ!!」

 

 

 私の考えてることがハンナさんにバレちゃってます!!

 

 

「どうして私の考えてること分かったんですか!?もしかしてハンナさんはテレパシーの魔法も使えるんですか!?」

 

 

 ハンナさんは呆れ顔になって、

 

 

「テレパシーなんて使えませんし、あなたの思考が分かりやすいんですのよ。マイナスな捉え方だったら、そんな花が咲くような顔で『平然としていられない』なんて言いませんわ……。」

 

 

「良くシェリーさんの考えてることが分かりましたね……。すごいです、ハンナさん……!」

 

 

「うんうん、ボクもそう思う!すごいよ、ハンナちゃん!」

 

 

「すごいなんて言われましても、会って3日のノンデリゴリラの思考なんて分かりたかねーですわよ。はぁ……。」

 

 

「おしゃべりも良いですが、皆さん今夕食の時間だってこと忘れてませんか?」

 

 

「あ」

 

 

 エマさんはハッとした顔をします。

 

 

「夕食の時間にも制限がありますし、さっさと食べましょう!私はお腹が空きました!」

 

 

「こいつ自分が元凶だって分かってるのかしら……。」

 

 

 横に座るハンナさんからジト目でそんなことを言われ、私たちはようやく夕食に手を付け始めました。

 

 

「「「「いただきます。」」」」

 

 

「え~っと……、どれから食べようかな……。」

 

 

 私の前に座るエマさんは、プレートに盛られた料理を前にフォークを彷徨わせ、

 

 

「まずい。まずいですわ……!くそー。」

 

 

 ハンナさんは、プレートに盛られた料理をガツガツと食べ進め、

 

 

「……♪」

 

 

 斜めに座るメルルさんは、プレートに盛られた料理を順調に片づけていき、

 

 

「……。」

 

 

 私はそんな3人を、真っ黒なフランスパンを咥えながら見るのです。

 

 エマさんとハンナさんは、顔を引きつらせながら食べているのに、メルルさんは平気な顔で口に運んでいます。今は多様性の時代、味覚の違いをこんな場所で感じられるとは……!

 

 プレートの料理が半分を切ってきた頃。

 

 

「マジだって!あてぃし本人に聞いたもん!」

 

 

 少し離れた席で食事をしているレイアさんのグループ、そのうちの一人のココさんから大きな声が聞こえます。

 

 

「有名なアーティストの【バルーン】だって!」

 

 

 ココさんの力説に、ミリアさんとレイアさんは驚いて目を丸くしています。

 

 

「おや、あちらのグループでも話題になってるみたいですね。バルーンといえば、知らない人いないですもんねぇ。」

 

 

「ばるーん……?ってなんですか……?」

 

 

 メルルさんは私の方を向いて、頭を傾げます。

 

 お、ここにもバルーンを知らない方がいたとは!ふふ~ん、この私がバルーンについてご説明しましょう!

 

 カチャーン!

 

 音のした隣の席を見ると、ハンナさんが驚愕した表情を浮かべています。

 

 

「バルーンがここに捕まっていますの?そんなバカな……!一体誰でやがりますの!?」

 

 

「城ケ崎ノアさんです。」

 

 

「はぁっ!?嘘でしょう!?【バルーン】といえば、ネットで話題にならない日はありませんのよ!そのアートはどこからか現れ、描くところを見た者はいない……正体は謎に包まれ……その芸術的なアートは若者を中心に多くの者を魅了している……。あの子がそんな、世界的に有名なアーティストだなんて!」

 

 

 おー、これが頼んでもないのに紹介を始める、解説キャラというやつですね!メルルさんの疑問も、ハンナさんが代わりに答えてしまいました。それにしても、満点の紹介です、ハンナさん!

 

 

「説明ありがとうございます。」

 

 

 ハンナさんの説明を受けたメルルさんは、「うーん……。」と、腑に落ちない様子。

 

 

「メルルさん、テレビとかスマホのニュースで見たことありませんか?青い月に梯子が掛かっている絵が、街中の壁に描かれてあったり、暗闇の中でタンポポの蕾が咲いてる絵が、海辺近くの地面にミステリーサークル並みにドでかく描かれていたり。」

 

 

「ご、ごめんなさい……。テレビをあまり見ないのもあって、最近の話題にあんまり詳しくなくて……。」

 

 

「そういえば、エマさんもバルーンについて知らなさそうでしたよね?」

 

 

 私はエマさんに話題を振ると、エマさんはぎょっとした顔になりました。

 

 

「えっ!?ええと……、うん……。」

 

 

「そうなんですか……?」

 

 

 食いついたのはメルルさん。

 

 

「うん、黙っててごめんね、メルルちゃん。」

 

 

「い、いえ、そんなそんな……、謝られるほどのことでは……!でも、エマさんがバルーンを知らなくて安心しました。私だけじゃないんだって……。エマさん、私たちは、仲間です……!」

 

 

「『仲間』か……。ふふっ、そうだね、メルルちゃん!」

 

 

 エマさんとメルルさんが顔を合わせて笑い合っている。普段は当たり前の光景でも、この屋敷の中だと、何故か特別感を感じてしまいます。

 はっ!?エマさんとメルルさんが『仲間』なら、私にも『仲間』がいますね!

 

 

「ハンナさん!」

 

 

「はいやっぱり来ましたわね!わたくしとシェリーさんは仲間ですって言うと思ってましたわ。……はぁ……。」

 

 

 大きなため息をつき、やれやれと首を横に振るハンナさん。

 

 

「ハンナさん、やっぱりテレパシーの魔法持ってるんじゃないですか!?」

 

 

 ワイワイと食事をしていた、そんな中。

 

 パリーン!

 

 と、後ろで音がしました。振り返ると、床には皿の破片が散らばっていて、それを足元にアリサさんが立っていました。

 

 

「うるせえよおめえら。人の噂ばっかりしやがって……!不愉快な奴らは全員殺してやりたくなるんだよ!」

 

 

 騒がしかったさっきまでの空気とは打って変わって、静まった空気にアリサさんの怒気の籠った声が響き渡ります。しかし、立ち姿はどこか力が抜けていて、全員を睨んだ瞳は焦点が定まっていないように感じられます。

 

 アリサさんは寝て疲れは取れた、と言っていましたが、懲罰房から出られたのは数時間前の話ですし、まだ回復できていないのも、無理ありません。それにしても、アリサさん、今全員殺したくなる、って言いました!?アリサさん、全員殺しちゃうんですか!?ついに起きちゃうんですか、殺人事件!!

 

 隣に座るハンナさんは、アリサさんを恐れているのか、顔が青ざめ、手に持ったスプーンが震えています。張りつめる空気もあり、私は、アリサさんの放った「殺す」という言葉にワクワクと胸の高鳴りを感じずにはいられませんでした。

 ……でも。懲罰房で罰を受けたからなのか、同室だからなのか、言葉を交わしたからなのか、明確な理由は分かりませんが……、私には、アリサさんが虚勢を張っているように見えました。

 

 その後、レイアさんがアリサさんを宥めようと試みましたが、あえなく切り捨てられ、割れた皿と重苦しい雰囲気を置き土産に、アリサさんは食堂から出て行ってしまいました。

 

 夕食を終えて、4人でこれからどうしようかと話し合っていた頃、

 

 

「あのー、メルルちゃん借りてもいいかな?」

 

 

 そう言ってきたのは、『ギャル』の見た目をしたミリアさん。

 

 

「えっ、わ、私、ですか……?」

 

 

「うん、アンアンちゃんが医務室で過ごしたいって言ってて、メルルちゃんと一緒だと安心だって言うんだ。だから、一緒に医務室で過ごしてあげられないかな?」

 

 

「はい、構いませんよ。でも……。」

 

 

 そう言って私たちを見るメルルさん。

 

 

「行ってきてくださいまし。アンアンさんの体調が戻るのが一番ですわ。」

 

 

「うん、アンアンちゃんには早く元気になってもらいたいし、アンアンちゃんがそう望んでるなら、行ってあげてよ」

 

 

「メルルさん、行ってあげてください!」

 

 

「みなさん、ありがとうございます……!それでは、行ってきますね……!」

 

 

「三人とも、ごめんね。本当にありがとう。」

 

 

 ミリアさんは微笑んで、メルルさんと一緒にレイアさんのグループに向かっていきます。

 

 

「んで、結局この後どうします?」

 

 

「さっき話してた通りシャワーを浴びに行きたいですわ。一応、エネルギーを取ったのに、なんだかどっと疲れましたし……。」

 

 

「うん、そうしよっか。」

 

 

 次の行き先が決まり、ガラガラと立ち上がります。それと同時に、レイアさんのグループも移動を始めます。

 

 

「あれ。おーい、レイアっち~、いくぞー。」

 

 

「……!!、ああ、悪い。今行くよ。」

 

 

 そうして全員が食堂を後にしました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さっきまで着ていた服と見た目が同じとはいえ、なんだか落ち着きませんわ!」

 

 

「でも、ここにきて3日目ですし、そういうものなんだって慣れてきません?」

 

 

「残念ながらわたくしは慣れませんわ。それに、着ていた服は一日で捨てなければならないなんて!せっかく良い生地が使われているのに、もったいなさすぎですわ~!」

 

 

 今、シャワーを浴び終わってシャワー室から出てきたとこなのですが、シャワーを浴びる前から始まった、ハンナさんの『囚人服を毎日捨てること』に対する愚痴はまだ続いていました。

 

 

「慣れていないからこそ、この服だとうまく寝付けませんし、寝たとしても服に皺が寄ってしまいますし、しかも毎日同じ服を着なきゃならないなんて!せめて寝間着は用意してほしかったですわ。」

 

 

「ま、まあまあ。同じ服でも替えがあるのはありがたいよ。」

 

 

 この牢屋敷が国家ぐるみだとするなら、大層な装飾が施された私たちの囚人服が何着もあるのには納得がいきます。でも、私たちのよく知る『囚人服』とかけ離れているのは……?うーん、仮説をあげるなら……。

 

 

「ゴクチョーさんの趣味かもしれませんねぇ。」

 

 

そう言うと、ハンナさんは一度来ている服を見下ろして……、

 

 

「ふん、趣味は悪くないんじゃないかしら?」

 

 

 と、カラッと一言。

 

 でも私は見逃しませんでした。……ハンナさんの口角が少し上がるのを!!

 

 

「気に入ってるんですね。」

 

 

「べ、べべべべっつにぃ?気に入ってませんけどぉ?」

 

 

 ハンナさんは顔を赤くして私から顔を逸らします。

 

 これはこれは……、なんとわかりやすい反応でしょうか。

 

 私は虫眼鏡で強がっているハンナさんを観察していると、突然ポシェットに入れていたスマホが振動し、取り出して画面を確認しました。

 

 

「あ、エマさん、ハンナさん、スマホ見てください。」

画面には、『【蓮見レイア】配信中』とバナーが表示されていて、タップすると、レイアさんの顔が画面に映ります。

 

 エマさんとハンナさんも、私に続いてスマホでレイアさんの配信画面を開きます。

 レイアさんは配信にて、一致団結し、この牢屋敷をみんなで出ようという激励の演説を行っています。

 

 

「ふんっ、こんなもの見る価値ありませんわね。」

 

 

 私はスマホをスリープモードにしてポシェットに入れ、ハンナさんの方を見ると、ハンナさんは発した言葉とは裏腹に、キラキラした瞳でスマホの画面を凝視していました。

 

 

「ふむ。」

 

 

 私、てっきりハンナさんってレイアさんのことが苦手だと思っていたんですけど、どうやら違ったみたいです。

 

 

 …………。

 

 

 なぜハンナさんは、あんなにレイアさんをじっと見つめているのでしょうか……。それも視線一つも動かさない程に。

 

 ふと湧きだした疑問で、私はハンナさんにイタズラをしたくなりました。

 こちらの動きに文字通り目もくれないハンナさんは、両手で持っていたスマホを私に奪われてしまいます。

 

 

「!……何しますの!?お返しなさい!」

 

 

 ハンナさんは、奪われたスマホの画面に吸い込まれるように視線を動かしながら私を追いかけます。

 

 

「ハンナさん、本当はレイアさんのこと好きなんじゃないですか~?そんな一生懸命になって。」

 

 

「このゴリラ女!返せ!!」

 

 

 顔を真っ赤にして追いかけてくるハンナさんに、直線の廊下を駆けて逃げます。

 

 

「ふふふ、捕まえてごらんなさいな~。」

 

 

 玄関ホールまで逃げ切ったところで、手に持っていたスマホ音声が途切れます。画面を見てみると、『配信は終了しました』の文字。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、……はぁ、や、やっと終わりましたのね……。」

 

 

 追いついてきたハンナさんは膝に手を当てて下を向いていて、肩で息をしていました。

 

 

「ハンナさん、スマホお返しします!ちょっとイタズラしたくなっちゃいました。てへっ☆」

 

 

「何が……、ちょっと……、イタズラしたく……なっちゃった……、てへっ、ですの……。……はぁー……、振り回されるこっちの身になれですわ……。」

 

 

 スマホを差し出した私の腕をハンナさんは掴んで、上体を起こしてスマホを受け取ります。

 

 

「あなたのせいで、足は重たいし、首は痛いし、さっきシャワー浴びたばかりなのに汗は出てきましたし、散々ですわ……。」

 

 

 ハンナさんの顔は辛そうで、悪いことをしたんだなという実感を私は強く感じます。

 

 

「えっと……、その……、ごめんなさい。」

 

 

 私は頭を下げて謝ります。途端、心拍数が上がるのを感じました。

 

 

 ……。

 

 

「顔をあげてくださいまし。」

 

 

 私が顔を上げると、コン、と額に何かが当たりました。

 

 

「わたくしの全力デコピン、これでおあいこ、ですわ。」

 

 

 ハンナさんの顔は、さっきまで見ていたツンとした顔。だけどその声色に棘は無く、私は心拍数がゆーっくりと下がっていくのを感じます。

 

 

「はい。それで、これからどうしますか?もう一回シャワー浴びに行きますか?」

 

 

「またシャワー室に向かうのもしんどいですし、自分の部屋に戻りたいですわ。……の前に……。」

 

 

 そう言うと、ハンナさんは走って来た廊下を振り返ります。

 

 

「おーい、二人ともー、大丈夫~?」

 

 

 あっ。

 

 

「エマさんを待ちませんとね。」

 

 

 ハンナさん、エマさん、私の順で並び地下への階段を下りていきます。どこか物足りなさを感じながら、それぞれ自分の牢屋に入っていきました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 牢屋に入ると、この時間帯に久しぶりに下のベッドが埋まっていました。そのベッドの主、アリサさんは顔を壁に向けて横になっていました。

 

 アリサさん、懲罰房から出たばっかりで、まだ疲れも取れてなさそうでしたし、もう寝てしまったのでしょうか。あまり音を立てないようにしなくては。

 

 私はポシェットを机に置いて、静かに梯子を上り自分のベッドに入りました。

 

 アリサさん、本当にみんなを殺すつもりなんでしょうか?殺人事件が起きるのは楽しみですけど、やっぱり虚勢を張っていたような気がします。アリサさん、見た目に反して真面目なとこありますから、みんなを殺すなんて、本当に考えてるとは思えないんですよねー。そして、ハンナさんは、本当に許してくれたのでしょうか。あの後会話もぎこちなかったですし、あまり顔見れませんでしたし……。なんか、落ち着きません……。明日は……、ちゃんと話せるんでしょうか……

 

 ハンナさんに触れられた、腕と額を擦っていた時。

 

 

「あぁうるせぇなあ、静かにしろ、寝れねぇんだよ。」

 

 

 突然、下のベッドから声が聞こえました。

 

 

「独り言か?頭ん中が出てきたのか?お前はハエか?人が寝ようとしてんのに、耳障りなんだよ。」

 

 

「あれ……、私、もしかして声漏れてました?」

 

 

 私は恐る恐る尋ねます。

 

 

「あぁ、お前の声、耳にキンキン響くからうるさくて仕方なかった。」

 

 

 あちゃー……。

 

 私は反射的に口を掌で抑えます。

 

 

「あのー、聞かなかったことにしてもらえませんか?」

 

 

「お前が遠野と何があったのかは知らねぇし、興味もねぇ、だから干渉はしない。でもうちが夕食の時にキレたのは、城ケ崎の苦労も知らずに、おめぇらが良いように言ってたからだ。あいつだって作品を創るためにいっぱい努力してんだ、それを『魔法』で片づけたり、根も葉もない噂の話をするのは、うちは許せない。その怒りに任されたとこはあるが、不愉快な奴らは殺したくなるっていうのは間違いじゃねぇ。だからおめぇらがウチにとって本当に気に食わなかったら、殺すかもな……。」

 

 

 アリサさんは、私の要望を無視して自分の内にあるものを吐露していきます。

 

 

「それと……、案外繊細なとこあるんだな。ハエ女のくせに。」

 

 

 その言葉を最後に、アリサさんは寝息を立て始めました。

 私は、アリサさんに対する予感を確信に近いものに変え、独り言には気を付けようと噛みしめながら、意識を疲れに浸しました。

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