TSヴァンパイアは世界を揺るがしかねない封印を解放し妹にしてしまうらしいです   作:西春江

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六話『チョンパだよっ』

 多脚戦闘兵を後にし二日ほどが経ち、森を抜けた頃、ようやくお目当てのものが視界に入る。

 

 機械国家オーシャント。

 

 そこは崩壊した都市だった。

 

 無数のビルが聳え立ち、そのほとんどが途中でぽっきりと折れている。

 

 鋭く尖った鉄骨や砕けたガラスが、あちこちに突き刺さり、近づくだけで危険だと目に見えてわかる。

 

 そして一際目立つのが、中心にある巨大な塔だろう。

 

 聞くところによれば、あの塔を中枢として、機械属たちは指令を受け取り動いているという。

 

 いわば巣のようなものだ。

 

「オリオティスの位置はどこだ?」

 

 早速オリオティス救出に取り掛かろうと、俺はノクトルに声をかける。

 

「……あの塔の中から感じる。多分、私と逸れた場所とそう遠くない」

「じゃあ、早く行っちゃおうよ」

「ダメだ。生き残りの機械属に殺されるぞ」

 

 ピタリと動きを止めるイリス。短く「そっか」と言って納得する。

 

 ここ数週間なら大抵の無理はノクトルが止めていた。

 

 だが、やはりというべきか、あの出来事の後からイリスと会話をする頻度は減っていた。

 

「それと、機械属がいたら魔法かマジンの力でイリスが倒してくれ」

 

 俺の言葉に、イリスの表情が引きつる。

 

「一応言っとくが、あいつらは人間じゃないからな」

「わ、わかってる」

 

 本当に分かってるのかよ。

 

「お前が機械属を殺すのに手間取っていたら、オリオティスを助けるのが遅くなって、間に合わなくて……死ぬ。そういう可能性だってある」

 

 だから、と俺は言葉を続け。

 

「頑張れ、イリス」

 

 俺は無責任な言葉をイリスに押し付ける。

 

「わ、わかった。頑張るよメリス。」

 

 次こそは分かってくれたと、信じたい。

 

 

 

 

 作戦は単純だ。

 

 ナナの機能を駆使し生存している機械属を極力回避。

 

 オリオティスを見つけ出し、即座に救出、そのまま速やかに撤退する。

 

 こんな地雷原みたいな場所で長居するつもりは一切ない。数時間で帰るつもりだ。

 

 そしてその単純な作戦で、俺たちはすでに塔の目前までたどり着いていた。

 

「オリオティスは生きてるんだよな?」

 

 この地に足を踏み入れてから、生命の気配というものをまったく感じていない。

 

 緑は消え、生き物の気配もない。

 

 こんな場所で人間が生き残れるとは到底思えない。

 

「加護を感じるわ。生きてる。もう少しよ」

 

 ノクトルの答えは、確信に満ちていた。

 

「ねぇ、あれなに……」

 

 イリスが指をさした先。

 

 崩れかけた建物の影に、半壊した機械属が転がっていた。

 

 胴体には大きな裂傷。右腕はもげかけてぶら下がっている。

 

「機械属か……ナナ、あれはもう機能してないな?」

「はい。反応はゼロ。完全に停止しています」

 

 俺は警戒しながらも、そいつに数歩近づいた。

 

 そして腰に下げていた剣を引き抜き、勢いよくその頭部へと振り下ろす。

 

「わぁ?! な、なにしてるのメリス?!」

「ち、違う。俺をそんな目で見るな。これだこれ」

 

 イリスの驚いた目を無視して、潰れた頭部の中から白く濁った石のようなものを取り出す。

 

「……なにそれ?」

 

 イリスがまだ訝しげな目をしている。

 

「機械属の脳だ。何かいい情報が入ってるかもしれない」

 

 帰宅後、ナナの機能で解析をする予定だ。

 

「かわいそうだよ」

「だから機械属は人間じゃないんだって」

「えぇ、でも……」

 

 そんな会話をしていると、パンッと乾いた音が空気を裂いた。

 

 音がした直後、ノクトルが俺の前に飛び出す。

 

「ノク——」

 

 咄嗟に声をかけた瞬間、光る何かがノクトルの身体に直撃する。

 

「ノクトル?!」

 

 イリスの叫び声が空間に響く。

 

「私は大丈夫だから! 私の後ろに下がりなさい」

 

 急いで被弾箇所を確認するが、傷一つない。

 

 ノクトルの加護が攻撃を無効化したらしい。

 

「塔の入り口に何かいるわ。……さっきの攻撃は、多分あれ」

 

 塔の入り口を凝視すると、何かがいた。

 

 脚が六本、生えた機械兵器。

 

 先日出会った多脚戦闘兵に似ている。

 

 だが違いは胴体の回転式の銃座。

 

 銃口が再びこちらへ向き直る。

 

「大丈夫。私の後ろにいれば死なないわ」

 

 そう言いながら俺とイリスの前に立つノクトル。

 

 頼もしすぎる。

 

「何発無効化できる?」

 

 俺の声は焦りを含んでいた。

 

 もし、無効化できなくなってしまったら、その時点で俺達は撃ち抜かれ死ぬ。

 

「20発ぐらいなら耐えれるわね」

 

 めちゃくちゃ余裕だった。

 

「加護って凄いのな」

「ありがと。でもね、オリオティスの加護の方が、もっと凄まじいのよ」

 

 オリオティスも加護持ちだったのか。

 

 救出した後が俄然楽しみになってきた。

 

「『(バレッド)』『(ストーン)』」

 

 そのとき、イリスの声が響く。

 

 ノクトルの背後から、魔力を込めた岩が放たれ、機械属に直撃――撃破。

 

「ふふん。私も凄いでしょ」

「あぁ。すごいすごい」

 

 俺が軽く答えると、イリスは頬を膨らませた。

 

「なんか褒められてない気がする……」

「ほら、進むぞ」

 

 塔の中へと、足を踏み入れる。

 

 一本の通路になっており、幾つか扉が見える。ノクトルの話では少し進んだ先に目的地があるとのこと。

 

 そして――すぐに戦闘が始まった。

 

「『(バレッド)』『(ストーン)』」

 

 放たれた岩が、再び機械にめり込む。

 

 塔の内部は、予想以上に厄介だった。

 

 人型の機械属こそいなかったが、蜘蛛のような多脚型の小型兵器が大量に配置されていた。

 

 そのどれもが、銃火器のような武装を備え、こちらを即座に攻撃してくる。

 

「人じゃなかったら撃てるんだなぁ」

「? 当たり前じゃん」

 

 イリスはあっけらかんと言う。

 

 こいつの感性がいまいちよくわからん。

 

「『(バレッド)』『(ストーン)』」

 

 ノクトルが盾となり、その背後からイリスが間髪入れず魔法を放つ。

 

 火花を散らし、砕ける金属、小型兵たちは次々と沈黙していった。

 

 俺はその様子をぽかんと眺めるしかなかった。ほんの数日前まで、「おなかすいた~」と地べたに座り込んでいたイリスが、今は戦場の主役だ。

 

 だが、これだけの数となると……。

 

「魔素切れは大丈夫なのか?」

「うん。任せて。まだまだ、まだまだ撃てるよ」

 

 イリスは胸を張って答えるが、俺は気になってチラリとナナの方へ視線を送る。

 

「イリス様の魔素量は以前より増えているように感じます。上の下ですね」

「ふふん」

 

 どうも、宝食属は成長速度かなり早い部類のようだ。

 

「とはいえ、魔素の量は確実に減っています。節約を考えるのも良いかと」

「分かった!」

 

 イリスは指を前へ向け、小型兵を指す。

 

 そして次の瞬間、まるで指揮者がタクトを振るかのように、軽やかに空を切った。

 

 ズギャッ。

 

 音ともに、小型兵が鈍く潰れた。

 

「お、お前何したんだ?」

 

 俺は思わず声を上げた。

 

「ハロルドさんの力!」

 

 あの時食べたマジンの力……いや、待て。

 

「そ、それ無条件で使えるのか?」

 

 イリスが不思議そうな顔をする。

 

「条件はわからないけど。魔法と違って何か消費してる感じはしないよ?」

 

 再びタクトを振るように指を動かすイリス。

 

 小型兵が、まるで圧力に押し潰されたように、メキメキと悲鳴をあげて倒れていく。

 

「うっそだろ……」

 

 どこまで規格外なんだ、こいつは。

 

 唖然としていると、突然ノクトルが足を止めた。

 

「着いたわ」

 

 彼女が指差した先には、重厚な金属製の扉がそびえていた。

 

 ノクトルが取っ手に手をかける。しかし、ビクともしない。

 

「やっぱり……。オリオティスと逃げている時、いきなり扉が閉まって逸れたの。魔法で壊そうにも壊せないし。お願いナナ、頼める?」

 

 ナナは球体を光らせながら、扉の解析を始めた。

 

 ふと、俺の視線が扉の上部に吸い寄せられる。

 

 そこには、この世界の文字でこう刻まれていた。

 

 ——培養施設。

 

 

 扉がガチャリと音を立てる。解析が完了し開いたらしい。

 

「ここから先にある設備は触れないでちょうだい。面倒なことになるわ」

 

 扉の先は、暗く、広い空間だった。

 

 壁沿いにずらりと並ぶ巨大なカプセル。

 

 それらはどれも中を覗けるようになっており、俺たちが今しがた倒したような機械属たちが収納されている。

 

 しかし、そのほとんどが壊れていた。

 

 カプセルの外装にはひび割れが走り、中の機械属たちには無惨なほど太い穴が空いている。

 

「何これ……」

 

 ノクトルが息を呑む。

 

「どうした?」

「私が、ここにオリオティスと逃げてきた時は、こんな状態じゃなかった……まさか、オリオティスが……?」

 

 ノクトルが変わり果てた培養施設をグルグルと見渡していた。

 

「元気でいいじゃないか。んで、どこにオリオティスさんはいるんだ?」

「もう目と鼻の先よ。メリス、培養設備が本当に壊れてるか確認できる? 私はその間にオリオティスを助けに行くわ」

 

 その言葉にナナが球体を光らせる。

 

「マスター。私もその案に賛同します。培養設備の情報は私としても大切にしたいです」

「……わかった。じゃあそっちは任せる。イリスはノクトルと一緒に……いてくれ」

「ん!」

 

 ノクトルがピクリと反応する。

 

 ……この前のことが尾を引いているのか。イリスと、どう接すればいいのか、彼女自身まだ決めかねているようだった。

 

 でも、俺と一緒に設備を確認するよりは、ノクトルと一緒に救出に向かった方がいい。

 

「……わかったわ。じゃあ早く行きましょう。オリオティスを助けないと」

 

 二人はそのまま走り去っていった。

 

 残された俺は、深呼吸をしてナナに尋ねる。

 

「ナナ、本当にどれも壊れてるのか?」

「殆どが壊れていますね。ただ、幾つか傷が着いていないのもあります」

 

 背筋に冷たいものが走った。

 

「じゃ、じゃあ、いきなり動き出したり」

「それは大丈夫です。動いていない個体は、脳部分の部品が欠損しています」

「パーツ不足……」

 

 ホッとする。

 

 もし、あいつら二人が居ない時に敵と遭遇でもしたら間違いなく死ぬ。

 

「ん? どこにいくんだ?」

 

 ふわふわと浮遊しながらナナが移動を始める。

 

「マスター、こちらへ」

 

 ナナの案内でたどり着いたのは、見慣れない巨大な装置だった。

 

 円柱状の構造物に、複雑な管や回路が絡みついている。……よくわからん。

 

「……なんこれ」

「機械属の情報保管庫らしいです。ガレット様が塔の中に入れたら、ここを解析しろとおっしゃっていました」

 

 ガレットの言葉が脳裏をよぎる。魔王に関する何かが、機械国家にあるかもしれない……たしか、そんなことを言っていた。

 

「じゃ、解析を頼む」

「はい。ただ、機械国家の情報となると……時間はかかると思います。少しの辛抱を」

 

 俺はナナに向かって、力強く親指を立てた。

 

 

 

「暇になってしまった」

 

 ナナはデータ解析の真っ最中で、会話機能を切っている。つまり、喋る相手がいない。

 

 イリスとノクトルは救出作業に向かってから五分。思ったより時間がかかっているようだが、まぁ、あの二人なら何とかなるだろう。

 

 あとはこっちで変なトラブルさえ起きなければ、無事に帰還できるはず。

 

 そのとき。

 

 ズンと地面が揺れるような音が、耳の奥を叩いた。

 反射的に背後を振り向く。

 そこには超巨大な機械属が——

 

「ま、いないよなぁ」

 

 暇すぎて、そんな妄想に耽っていた。

 

「ん……?」

 

 その時、視界の端に、人影が見えた。

 

 ゆらゆらと、おぼつかない足取りでこちらへ向かってきている。

 

 イリス……?

 

 いや、違う。あいつはもっとちんまりしてたはずだ。

 

 ……いや、俺と十センチも違わないけど。

 

「ノクトルー?」

 

 呼びかけながら歩み寄る。

 

 その人影は、今にも崩れ落ちそうな足取りで、ふらふらと彷徨っていた。

 

 俺は一抹の不安を覚える。

 

 ……まさか、オリオティスが、死んでいた……なんて。

 

 そんな最悪のシナリオを考えてしまう。

 

「ノクトル、今、そっちに行く」

 

 不安を抱えながら歩を進める俺の前に、突如、光が現れた。

 

 人影の周辺に、球体状の光がポツリと現れたかと思うと、瞬く間に膨れ上がる。

 

「まぶっ」

 

 太陽の幻想に当てられた時、瞼を閉じるように、眩い光を見た俺は反射的に目を閉じた。

 

 瞼を開く、その刹那の間に光る球体が消え、視界全体に違和感が走っていた。

 

「――?」

 

 宙がひっくり帰っていた。

 

 上下が逆さまになって、いや違う。

 

 くるくるくるくるとゆっくり回転している。

 

 天と地の境界があやふやになり、俺の体は、まるで水中を漂うように回転を始める。

 

 上下の感覚が喪失していく。

 

 混乱した意識の中で、視界の端に何かが映った。

 

 首から上がない人間がいる。

 

 よく見ると、それは小柄な体格。見覚えのあるサバイバルスーツ。

 

 いや、違う。見覚えがあるどころじゃない。

 

 あれは俺だ。俺自身だ。

 

 そうか、今俺は自分の身体を、宙に浮かぶ状態で、第三者のように見ている。

 

 そして、今、宙に浮いている。頭が飛ばされて。くるくる、くるくると――

 

 ふと、視界に何かが入る。

 

 そこには金髪の男がいた。

 

 忘れるはずがない。忘れられるはずがない。

 

 数年前。コロニーで、勇者が旅立つ夜。

 盛大な宴が始まっていた。

 

 俺は、ひとり隅っこにいた。

 

 誰とも話したくなかった。

 あれ以来、勇者のことなんて、見たくもなかった。

 

 なのに。

 そんな俺に、勇者は俺に声をかけた。

 

 その勇者の名前はオリオティス。

 

 心臓が止まれば、脳は止まる。脳が止まれば、心臓も止まる。

 

 回転する脳が回らくなってきた頃、ようやく理解する。

 

 俺は、勇者――いや、マジン・オリオティスに首を跳ねられた。

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