何の変哲もない普通のラブコメ   作:ナオ3

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気分転換に書きました、軽く見てください。


1話

俺の名前は宇生優斗(うせい・ゆうと)。白桜学園中等部3年生。成績優秀、品行方正、誰からも好かれる優等生――というのが俺の表の顔だ。

5限目の世界史の授業中、俺は黙々とノートを取っていた。黒板に書かれた年表を丁寧に写し、重要なポイントには赤ペンでアンダーラインを引く。教師の話す内容も聞き逃さないよう、要点をまとめながらメモを取る。完璧だ。

 

 

(よーし、これで平均80点は固いぜ)

 

 

内心でほくそ笑む俺。今度の期末テストも楽勝だろう。

 

 

(くっくっくっっっく、流石は俺様)

 

(生活態度といい優等生の鏡だぜ)

 

 

自画自賛しながら、俺は横目でチラリと見る。そして、いつものように不機嫌になる。

 

 

(なのによぉ...!)

 

 

そこに座っているのは、白桜美怜(はくおう・みれい)。

日本五大財閥の一つ、白桜グループの令嬢様だ。身長は170センチ程度の長身で、俺と同じくらいなのに足が異常に長い。まるでモデルのようなプロポーションだ。

銀髪に蒼い瞳。北欧系の血を引くという彼女は、まさに美の女神が舞い降りてきたと信じられそうな美貌の持ち主だ。顔立ちは彫刻のように整っていて、肌は陶器のように白く滑らか。その美しさは中学生離れしていて、廊下を歩けば男女問わず振り返る。

しかも、美貌だけじゃない。学業成績は常に学年トップ、運動神経も抜群で、部活動では弓道部のエース。文武両道を地で行く、非の打ち所がない完璧超人だ。

だが、その性格は氷のように冷たい。プライドが高く、自分にも他人にも厳しい。誰にも媚びず、誰にも心を開かない。そんな彼女は「氷の女王」と呼ばれていた。

 

 

(そんな高飛車な女のファンがゴマンと居る)

 

 

……本当に、何処が良いんだか俺には理解できねぇ。

いや、俺は優等生だ。常に冷静で公平、正しい判断ができる男。

だから、他の奴らが熱狂してることの意味が、余計にわからないんだ。

 

(なぁ、なんであんな女が“アイドル”扱いされてるんだ?)

 

 

確かに顔は整ってるさ。銀髪に蒼眼なんて漫画かゲームから飛び出してきたみたいだ。

けどよ――それが何だってんだ。

 

俺だって、寝ぐせ一つなく毎朝鏡の前で入念にチェックしてんだぞ?

制服だってシワ一つないようにアイロンかけて、靴だってピカピカに磨いてる。

「優等生」のブランドを守るために、どれだけ手間をかけてると思ってんだ。

それなのにだ。

 

美怜は、ただ「生まれが良い」ってだけで全てを持ってやがる。

生まれつきの顔、スタイル、財閥の肩書き。

努力ゼロ。才能フル装備。

しかも本人はそれを鼻にかけて氷みたいな態度だ。

「私を崇めろ」と言わんばかりに座ってるだけ。

 

 

(あああああ腹立つぅぅぅぅ!!)

 

 

俺はな、優等生の座を守るために人間関係を必死で調整してんだ。

先生のご機嫌取り、同級生への気配り、後輩にアドバイス、先輩に礼儀。

その積み重ねが「模範的生徒・宇生優斗」なんだよ。

 

それに比べて美怜はどうだ?

誰とも馴れ合わず、笑顔も見せず、ただそこに座ってるだけ。

それで男子から「白桜さんカッコイイ!」

女子から「美怜様素敵!」

……頭に蛆でも湧いてんのかコイツら。

 

 

(何が“氷の女王”だよ)

 

 

ただの人付き合い拒否女じゃねぇか。

他人を突き放すことで「高貴」だの「孤高さ」だの勝手に解釈してんのは、ファンどもの妄想だろ。

あの鉄壁の無表情を「美しい」とか「神秘的」とか言ってる連中、俺から見りゃただの能面だ。

 

でもな――それを口にしたら俺が悪者になるんだ。

「宇生、お前白桜さんに嫉妬してんのか?」って、鼻で笑われるのがオチだ。

違ぇよ。

俺は真実を見抜いてんだ。優等生アイでな。

 

氷の女王? 笑わせんな。

あれはただの「周囲を睨みつける眼光が鋭すぎて近寄れない女」だ。

ファンどもは勝手に自己解釈してありがたがってるだけ。

 

 

(だいたいな……!)

 

 

あの女のファンクラブ、存在自体が害悪だろうが。

 

……くそっ。

俺の努力は誰にも見向きもされず、白桜美怜は何もしなくても持ち上げられる。

この理不尽を、誰が納得できるってんだ。

 

 

(わからねぇ……!)

 

 

俺には、本当にわからねぇ。

こんな面倒くさい女のどこがいいんだ?

あの冷たい目に何を夢見てんだ?

あの無口をどうして「ミステリアス」だなんて美化できんだ?

 

俺から見ればただの「プライドの塊」でしかない。

氷の女王なんて呼ばれてるが、要はただの「人間関係を拒否した不器用女」だろうが。

そんなのを崇めて、神棚に祀るみたいに奉って――お前ら、正気か?

 

 

(馬鹿じゃねぇの!?)

 

 

理解不能。いや、理解したくもない。

そうだ、これは俺には一生わからない価値観なんだ。

だからこそ、余計に腹が立つ。

 

――嫉妬?

そうだよ、嫉妬だよ。

俺は嫉妬してんだよ。

努力で優等生やってる俺を差し置いて、何もせずに頂点にいるあの女に。

 

けどな、ただ嫉妬で終わらせられるほど安くはねぇ。

俺は優生優斗。白桜学園の優等生だ。

あの女を越える。

いや、引きずり下ろす。

あんな「氷像」より、俺の方が“本物”だって証明してやる。

 

……でも。

 

 

(白桜……美怜……!)

 

 

俺は大っ嫌いな女の名前を心の中で呟いた。

ああ、なんて嫌な響きだろう。舌に乗せただけで苦味が広がるような、胃の奥を逆撫でするような名前だ。

 

 

(何でテメエが俺の隣に居るんだよぉ!)

 

 

忌々しい。よりによって、俺の隣?

座席なんてただの偶然だ。くじ引きで決まった結果だ。

でも、よりによって「氷の女王」がピッタリと俺の横に座るってどういう悪運だ。

神様だか仏様だか知らんが、俺に喧嘩売ってんのか?

 

――なんでだよ。

どうして隣に座ったのがお前なんだよ。

 

 

(俺が霞むじゃねえか、あっち行きやがれ!)

 

 

そうだ。俺は今、完全に霞んでいる。

事実、美怜が隣に座るようになってから、俺への注目度が下がった気がする。

教室の中で目を引くのは彼女の銀髪と蒼眼。

その顔を少しでも横に向ければ、クラス全員の視線が一斉に動く。

……馬鹿どもめ。そんなに珍しいか?

目の色なんて、絵の具で塗れば誰でもブルーになるだろうが!

 

 

(一番後ろの隅なんて地味な場所に居るんじゃねぇ!)

 

 

そうだ。この場所は本来「俺の城」だったんだ。

教師の監視から逃れつつも、質問には即答して印象を稼ぐ。

クラスメイトの困りごとをそっと助け、株を上げる。

その「俺様の優等生戦略」を実行するためのベストポジション。

 

なのに、白桜美怜が座っているだけで――注目スポットに化けた。

窓際最後列。今やそこは「氷の女王の玉座」と化してしまった。

 

 

(隣に居るのが俺だけだなんて最悪だぜ!!!)

 

 

本当に最悪だ。

こんな「全方位拒絶女」が隣に座ったらどうなる?

必然的に「優斗=美怜の隣のやつ」って認識が生まれるんだ。

 

 

(俺は俺だ! 白桜美怜のおまけじゃねぇ!!)

 

 

だが現実は残酷だ。

後ろから見れば「氷の女王とその従者」にしか見えない。

前から見ても「冷酷令嬢の影に隠れる優等生」にしか見えない。

俺の存在が霞んでいくのが日々わかる。

 

 

(俺の学園ライフ返せぇぇぇ!!)

 

 

席替えは本来、学園生活の一大イベントだ。

新しい隣人が誰になるかで、その学期の空気が決まる。

俺は密かに「地味でおとなしい女子がいいな」と願っていた。

そういうタイプなら、俺の優等生イメージを引き立ててくれる。

必要以上に主張せず、適度に俺を頼ってくれて、

クラスの3番手くらいの可愛さで「宇生君と一緒で安心する」って言ってくれるような子。

 

それが理想だったのに。

 

 

(何でよりによって“学園トップ”が来るんだよぉ!!)

 

 

最悪だ。

氷の女王と隣の席。

これはもう「運命のペア」みたいに見えるだろ。

いや違うんだよ! 本当は最悪の組み合わせなんだよ!!

 

だが、俺の心の叫びは誰にも届かない。

むしろ周りは勝手に「お似合い」なんて噂をし始める。

……冗談じゃない。

俺が欲しいのは「地味女子×優等生」という黄金ペアなんだ。

氷の女王なんて相手にしたくねぇんだよ!!

 

 

(あああああ俺様の評判がぁぁぁ!!)

 

 

俺が積み上げてきた努力も計算も、すべてが「氷の女王のお隣さん」という一言に飲み込まれていく。

ここまでやってきたのに、結局俺は“自分自身”として評価されることはないのか。

このままじゃ、俺は「白桜美怜の隣に座っている男A」で終わっちまう……!

 

悔しさに歯を食いしばり、ちらりと横目を向ける。

 

 

(けっ、どうせ何時も通り済まし顔で居るんだろうよ)

 

 

そうだ、間違いない。

何が起ころうと眉一つ動かさず、冷たい横顔で教科書を睨んでいるに決まっている。

いつだってそうだ。

周囲がどれだけざわつこうと、こいつは「自分は動じません」みたいな顔で澄ましている。

その氷の仮面が、どれだけ俺の努力を台無しにしてきたことか――。

 

 

イライラしながら、俺は美怜の顔を見る。案の定、彼女はいつものように無表情で前を向いていた。背筋をピンと伸ばし、教科書を見つめている。その横顔は相変わらず美しく、まるで絵画のようだ。

 

 

(ん?)

 

だが、何かがおかしい。

いつもなら氷像みたいに完璧に無機質で、教師の問いかけにも寸分の狂いなく答える、あの“氷の女王”の顔。

それが、今日に限っては――妙に揺らいでいるように見える。

 

(何か、おかしくねぇか?)

 

俺は眉をひそめた。

ぱっと見は確かにいつもの無表情だ。

背筋を伸ばし、視線は前へ、口元も引き結ばれている。

だが――違う。

その無表情は「何も感じていない」顔じゃなく、「必死に押し殺している」顔に見えた。

眉間にはうっすらと皺が寄り、蒼い瞳の奥には硬さがある。

唇はただ閉じているんじゃない。まるで何かを堪えるように、固く、ぎゅっと結ばれているのだ。

 

 

(...余裕が無い?)

 

 

氷の女王と呼ばれる美怜だが、今日はその氷にヒビが入っているような...そんな印象を受けた。

俺は優等生として培った観察眼を駆使して、美怜の様子を観察する。人の機嫌を読み取り、適切な対応をする。それが優等生として生きる俺の処世術だ。

まず、顔色。少し青白い気がする。体調不良か?

次に、姿勢。背筋は伸びているが、どこか不自然だ。普段の美怜なら、もっと自然体で座っているはず。今は何かを我慢しているような...

そして、足元。机の下を覗き込むと――

 

 

(!?)

 

 

美怜が僅かに内股になっていた。しかも、微妙にモジモジと動いている。太ももをぎゅっと閉じて、時々位置を変えている。

 

 

(おいまてこれって...)

 

 

嫌な予感が俺の背筋を駆け上がる。

この仕草、この表情、この雰囲気...まさか...

 

 

(トイレ我慢してるううううう!?)

 

 

俺は心の中で絶叫した。

頭の中に非常ベルが鳴り響く。赤いランプが点滅し、「避難、避難!」とサイレンが鳴り渡る。

 

 

(おいまてまてまてまてまてぇ!)

 

 

パニックだ。完全にパニックだ。

俺の人生で想定してきたどんな最悪シナリオよりも、今この瞬間の方が遥かにヤバい。

テストで赤点を取るとか、教師に居眠りを見つかるとか、そんなの比じゃない。

隣の席で白桜美怜がダム決壊なんて――それこそ人類史に刻まれるレベルの大惨事だ!

 

 

(マジ勘弁してくれ頼むぅ!)

 

 

俺は机の下で膝を震わせ、心の中で土下座する勢いで祈っていた。

頼むから持ちこたえてくれ。

頼むからここで爆発するな。

このクラス、この学校、そして俺の人生の平穏を守るために!!

 

 

今にも爆発しそうな爆弾が横にある気分だ。もし、もしも美怜がここで...いや、考えたくもない。

白桜財閥の令嬢様が、氷の女王が、学園のマドンナが、教室でお漏らし...そんなことになったら、大事件だ。学園中の噂になるだろう。いや、下手したら全国ニュースになるかもしれない。

そして、その時隣にいたのは俺。

絶対に巻き込まれる。「あの時隣にいた男子」として一生語り継がれるだろう。最悪だ。

 

 

(よーし、ここは優し〜く)

 

 

俺は心を落ち着かせ、優等生モードに切り替える。ここは穏便に、スマートに解決しなければ。

 

 

「白桜さん、大丈夫?」

 

 

俺は心配そうな表情を作り、小声で美怜に話しかけた。

美怜がゆっくりと俺を見る。その蒼い瞳には、警戒の色が浮かんでいた。

 

 

「少し体調が悪そうだよ?」

 

 

俺は優しい声で続ける。実際、美怜の顔色は良くない。冷や汗も浮かんでいるように見える。

 

 

「無理しないで保健室に行ってきなよ」

 

 

優しい優等生スマイルを浮かべながら、俺は美怜に保健室行きを勧める。保健室に行く途中でトイレに寄ればいい。完璧な作戦だ。

だが――

 

 

「気の所為よ」

 

 

美怜は冷たい声でそう言うと、俺から視線を外して前を向いた。完全に無視された。

 

 

(気の所為よ、じゃねぇだろばあああああか!)

 

 

俺は心の中で絶叫する。

 

 

(てめえがトイレ我慢してる事は優等生アイで見抜いてるんだよおおお!)

 

 

長年の優等生生活で培った観察眼を舐めるな。人の些細な変化を見逃さない、それが俺の特技だ。

 

 

(仮病を使えや!)

 

 

プライドなんか捨てて、さっさとトイレに行け!

 

 

(しょんべん漏らすのとどっちがダメージデケェか園児でもわかんだろ!!!)

 

 

氷の女王のプライドと、お漏らしのダメージ。どっちが大きいかなんて、考えるまでもない。

 

 

(いやだあああああ!!!)

 

 

俺は必死に美怜の方を見ないようにしながら、最悪の事態を想像してしまう。

 

 

(白桜令嬢おもらし事件被害者Yくん...)

 

 

新聞の見出しが頭に浮かぶ。『名門校で前代未聞の珍事!財閥令嬢が教室で...隣席の男子生徒も巻き添えに』

 

 

(絶対にいやだあああああ!!!)

 

 

俺の学園生活が終わる。いや、人生が終わる。一生「あの時の男子」として語り継がれるなんて、死んでも嫌だ。

時計を見る。授業が終わるまで、あと30分。

30分...長い、長すぎる。

 

 




よし、普通だな
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