エーテルを食え、トリコ   作:双子座流星群

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誤字報告には大変助かっております。

皆様もお気づきだと思いますが前回のカッパくんはトリコでも出てきておりますので見返してみてくだされ。 


共鳴芋《レゾネ・ルート》-4

「反乱軍だって?」

 

合流したアキラはライカンから聞かされた内容に驚きを隠せずにいた。

 

「えぇ、捕まえられたのが末端だった為、組織名とレイン様が何処にいるかの大まかな位置を把握することが出来ました。」

 

ライカンは得られた情報をリナと整理し、アキラへと報告していた。

 

リナは気絶から立ち直り瀟洒に振る舞っていたが心なしか笑顔が引き攣っていた。

 

茫然自失となり、ベンチに不貞寝していたエレンとの一悶着があったがそれはまた別の話し。

 

「場所も分かったことだし、乗り込むとするか」

 

会話に参加せず、モシャモシャと軽食を食べていたトリコが会話へと参加した。

 

「ありがとうトリコさん…僕の友人の為に…」

 

意外な積極性を見せたトリコに感動していたアキラだったが。

 

「ん?まぁ、それもあるけどよ、そいつらに先に共鳴芋を乱獲されたらさ」

 

前言撤回である。

 

「まぁ何にせよ思い立ったが吉日、それ以外は凶日ってな」

 

三者三様の目線をトリコへ向けるがやはりトリコと言う戦力があるのはアキラにとってもライカンにとっても幸運な事だった。

 

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一行は確保したルートを最短で駆け抜けレインが居ると思わしき階へと足を踏み入れた。

 

「…この辺りは随分荒れてるな。」

 

散乱したガラスや折れ曲がった鉄骨、崩れ落ちた柱などを見てトリコが呟く。

 

「確かに他の階に比べとこの辺りは荒れているようにお見受け致します。」

 

ライカンは柱や壁等を触りながら思考を巡らせていく。

 

「ここは……放送室か?」

 

トリコは1つの部屋へと目線を向けた。

 

そこは今まで見たどの部屋よりも荒れており、扉がひしゃげていた。

 

「…外側からじゃなく()()()()()()()()()()()……それに1つじゃない…2つか?」

 

壊れた扉を見てトリコは訝しんでいた。

 

普通、エーテリアスに襲われたのならば扉は内側へとへこみ、傷がつく。

 

しかしその扉は放送室の中から破られたような跡が残っていた。

 

「…考えたくはありませんが、中に残された方がエーテリアスに……」

 

リナはそこまで言うと黙ってしまった。

 

アキラも思うところがあるようで耳をしおらせながらその部屋を見ていた。

 

「あれ…何か落ちているようだ」

 

アキラはちらりと部屋に眼をやっていた際に何かの紙束を見つけ手に取る。

 

「これは…」

 

「遺言…でございますか……」

 

アキラの手に取った紙束をライカンはざっと読みそこに書かれていた事が遺言であったと把握した。

 

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……この記録が残……って…居るなら、私…は……。

 

……劇場にエーテ……が現れ…館内は……と悲鳴で……。

 

それでも私たち…は、残る人たちに……経路を伝え、

 

……逃げて、まだ大丈夫だと、何度も……続けました。

 

どうか……館内の人たちは……外へ……でしょうか。

 

……誰一人……取り残……いない…を、願ってい…。

 

逃げると……行く手を阻…オデットは……を負いました。

 

私は…庇い、走り……なんと……放送室へ……。

 

そこで……私たちは悟りま…。

 

……ここが、……最期だと。

 

叔父さん……。

 

これ…本当に……。

 

あなたが教えてくれた……と……が

 

最後まで……声を届ける力になりました。

 

……正直死ぬ……怖いです。

 

……音と……時間が……。

 

でも……私たちは姉妹です。

 

オデ……、二人なら……。

 

もし……この遺言を……なら、

 

……ここで、最後まで……姉妹が……ことを。

 

……さようなら。

 

……一緒なら……。

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そこに書かれていたものはこの放送室で訪れた悲惨な末路を示していた。

 

所々、経年劣化により破れていて読めないがコレを書いた本人はどんな気持ちで居たのだろう。

 

「…持って帰ってあげませんか……?こんな暗くて嫌なところじゃない…暖かい場所に…」

 

カリンは沈黙を破りその遺言を持ち帰ることを提案した。

 

「このバレエツインズ内でのホロウ災害の際に…避難を指揮したと言われる姉妹が居たということを生存者の方に聞いたことがございます…ここで朽ちるよりも持ち帰って差し上げることが彼女達、姉妹への供養となります。」

 

苦虫を噛み潰したように眉間にシワが寄っているライカンはカリンの提案を支持して持ち帰ることを決めた。

 

アキラは壊された放送室の扉を見ながら声を漏らした。

 

「つまりあの時のエーテリアスは……そういう事か…」

 

「コマツの言った通りだったな…こりゃあの爺さんも一枚噛んでやがるな…」

 

トリコは誰に聞かせるでもなくボソリと呟く。

 

「先を急ぎましょう、レイン様を助ける機会を失いたくありません」

 

ライカンはここで訪れた姉妹の末路を眼にし、今回のアキラからの依頼を必ず成功させようと誓った。

 

エレンやリナはこの姉妹に思うところがあったのかと軽く目をつむり、祈りを届けた。

 

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トリコ達は付近にいた反乱軍達を掃討しながら進んでいくも未だにレインへと辿り着けていなかった。

 

「えっと…ライカンさん、お掃除は終わりましたがレイン様は見当たりません…」

 

弱々しくライカンへと報告をあげるカリンだったがその手には未だに音が鳴り止まないチェンソーが唸りを上げ、片手には気絶した反乱軍を掴んでいた。

 

「エレンは何となく強いのは分かってたが…カリンは見た目以上にパワフルだな」

 

トリコも手をパッパと払い反乱軍達を倒し、山を築いていた。

 

若干1名不服そうなサメがいた事にトリコは気付かなかった。

 

「どうやら増量だったようですね、人質が居るとしたら隊長格の所でしょうか」

 

ライカンも脚についた汚れを拭きながら呟いていた。

 

「ライカンさん、戦闘員が通信機らしきものと書類を持っていたよ」

 

トテトテと少し大きめなカバンを持ち上げてライカンへと渡すアキラ。

 

「ご明察です、プロキシ様。そちらはGO3製多周波送信機でございます。」

 

「GO3製だと…?完全なる軍用じゃねぇか。諜報員御用達の機材じゃねぇか」

 

トリコは製品名を聞いて驚きを隠せなかった。

 

「トリコ様もこちらをご存知でしたか、そうです彼等が持つ機材にしては高価すぎます。」

 

そう、この多周波送信機は軍部の通信兵達が暗号化された文章等を読み取る言わば機密の部類にはいる機材だった。

 

一介の流れ者達が持つにしては不自然すぎる。

 

「上層部が絡んでやがるのか…こうなってくると本格的にウーメンに聞くしかねぇな」

 

トリコとライカンが機材の違和感を考えているとエレンが書類を手渡してくる。

 

「ねぇ、物騒なこと書いてあるんだけどコレ」

 

ライカンとアキラはそれを受け取りまた驚かされることになる。

 

「これは…!司法府の専用飛行船!?」

 

「時間とルートが記載されたフライトスケジュールに統合制御システムのハードウェア構成図まで…」

 

なぜこんな物をと、考えていると上層部から声が聞こえてくる。

 

「んーー!ん!」

 

様子を伺うと壊れた吹き抜けに突き出されるように人が居た。

 

汚いボロを纏ったそれはジタバタと暴れているようだ。

 

「クソ小娘が!俺達の目を盗んで救難信号を出してやがった!」

 

目を凝らしてそれを見ると掴まっているのはレインだった。

 

レインは恐怖に怯えていた。

 

裏稼業を生業として居るからには自分にはいつかこういう事が起きると分かってはいた。

 

だがしかし、実際に直面して思うのはなんで私が、なんで助けてくれないの、死にたくない。

 

負の感情ばかり溢れていた。

 

「まぁいい…予定通り進めばパールマンは死ぬ、その前にお前も死んどけ。なぁに…コイツはエーテル侵食で死んだことにすればいい」

 

そう言うとレインを掴んでいた隊長格はパッと手を離した。

 

一瞬の浮遊感の内にレインは死を感じた。

 

嫌だ、誰にも知られずこんなところで死にたくなんてない!

 

恐怖に目をつむり、襲い来る衝撃に備えているとフワリと自分を包む感触があった。

 

「危機一髪…と言ったところでしょうか」

 

落とされたレインをライカンが受け止めた。

 

「流石だなライカンッ!」

 

トリコは飛び上がり反乱軍達がいる階層まで飛び上がる。

 

「なんだ貴様らは!撃て!」

 

突然現れトリコとライカンに動揺するも部下へと発砲指示を出す隊長格。

 

が、その指示よりも早くトリコは懐へ手を伸ばし、角のように2つの突起が伸びた何かを取り出す。

 

「ノッキングッ!」

 

ドンドンドンドンドンドンと何かを発射する音を響かせていく。

 

「ガッッ!?」

 

全身が雷に打たれたような痙攣を起こし、ドサリドサリと音を立てて倒れていく。

 

「お見事、ノッキングガンでございますね?」

 

「おう、念のために持ってきておいて良かったぜ、ハードタイプはまだ正式販売されてないから内緒だぞ?IHOから掻っ払って来たんだ。」

 

ノッキングガン

 

生分解性ポリマーでできた特殊な針を打ちつける銃。

 

打つ箇所によって全身を麻痺させるなどの効果があり、 サイズや型など様々な種類がある。

 

ノーマルタイプのノッキングガンは定価18万9000円。

 

弾別売り。

 

2人は話しながらアキラ達の元へと降りていく。

 

「レイン!大丈夫かい…?」

 

アキラがポテポテと駆け寄りライカンに抱かれるレインを覗き込む。

 

息はしているが気絶しているようだ。

 

「先にご友人様をお運びしたほうがよろしいようですね」

 

フワリとリナがそばに寄りレインの顔を心配そうに見つめた。

 

「急ぎましょう、エーテルの侵食も気になります。」

 

「そうだね…ん?ビリーから電話だ」

 

レインを一旦ホロウの外へと運ぶことになったアキラへ電話のコールが鳴る。

 

「て、店長か!?ヤバいことになったぜ!」

 

電話に出るやいなや大声を出して慌てているビリーの声が聞こえてくる。

 

「ビリー、落ち着くんだ今は例の件で裁判に向かうために飛行……船に……」

 

アキラはハッと気付いた。

 

そう、ビリー達邪兎屋は以前アキラとトリコに助けてもらった件で裁判へと向かっていた。

 

司法府の飛行船で。

 

嫌な予感は当たり、ビリーからはこう伝えられた。

 

曰く、飛行船内にガスが撒かれ、自分以外が眠ってしまっていると。

 

そしてこの飛行船の航路は何者かによって変更され。

 

バレエツインズへと向かっていることに気づいたと。

 

「急いで屋上へと向かいましょう!ルートはお任せいたします!」

 

「何か当てはあるの!?ライカンさん!」

 

ビリーの話と先ほどの航路図から掲載するに後、10数分後にはこのバレエツインズにぶつかるとFairyからの報告があった。

 

「私が直接乗り込み、再起動にて手動操作へと切り替えます!」

 

全速力で走る一行に反乱軍やエーテリアス等が邪魔をしてくる。

 

途中でリナやエレンが殿を引き付けてくれたものの、現実は非情だった。

 

「ハァッ…!ハァッ!……クソ…」

 

息も絶え絶えなライカンは珍しく汚く吐き捨てる。

 

〈……乗船可能なランディングゾーンを通過…これ以降の乗船は不可能です…〉

 

Fairyが無機質な音声で告げる。

 

「駄目だ!彼処にはニコ達やパールマンが乗っているんだ…!このまま見殺しになんて…!Fairy!他にないのかい!?」

アキラが声を荒げている。

 

普段冷静な彼だが、大切な友人があの飛行船に乗っているのだ。

 

冷静になどはなれまい。

 

「プロキシ様…」

 

追いついたリナ達は残っているライカンや荒れているアキラを見て察する。

 

「あのさ店長さん!何か…少しでもあの飛行船の進行を遅らせたり、進路を変えたり出来ない?少しでいいの、飛行船がバレエツインズにぶつかりさえしなければ遠隔ハッキングで自動操縦をリブート出来るはず!」

 

目を覚ましたレインが先程までの会話を聞いており、自身のパソコンが無事なことを確認するとアキラを持ち上げ大きな声で詰め寄る。

 

「本当かいレイン!?」

 

一部の希望に顔が明るくなる一同だったが気まずそうにエレンが声を上げた。

 

「あーー……それでどうやって飛行船を足止めしたり、進路を変更するの?」

 

エレンの一声で辺りにまた暗い雰囲気が戻る。

 

そう、飛行船は遥か空の上だ。

 

何をするにも遅すぎたとライカンが自責の念に押しつぶされかけた時、トリコがスッと答えた。

 

「要は…()()()()()()()()()()()良いんだろ?」

 

ギュッギュッと右手をほぐし何かをする気満々のトリコ。

 

「人命優先…市長からの説教は俺と受けてもらうぞライカン」

 

「はい…?」

 

突然の指名に困惑していたライカンを尻目にトリコは駆け出して

 

 ()() ()() ()() ()() ()() ()() ()() ()() ()() ()() ()() ()() ()() ()()

 

「何を…!!トリコさん!!!」

 

「「「トリコ様!!」」」

 

絶句の後にアキラとライカン達はもはや絶叫とも呼べる声でトリコの名を呼んでいた。

 

だがしかし、アキラとライカン達は改めてトリコと言う規格外の存在を認識することになる。

 

仮にも虚狩りと同レベルと呼ばれたトリコという異端児を

 

そしてアキラはここで知る。

 

そうか、今までのトリコさんは。

 

本気じゃなかったのだと

 

 

大きく跳躍したトリコは考えていた。

 

久々に 本気で 躊躇いなく

 

この右腕を使えるのだと、興奮していた。

 

「ナァァァイフゥゥッッ!!!」

 

 

握られた拳は開かれ、ナイフの形を取る。

 

次の瞬間――トリコの右腕、ナイフが振り下ろされた。

 

音はなかった。

 

あるのは、遅れて訪れる現実の破断だけだった。

 

バレエツインズの外壁に、斜め一直線の光が走る。

 

ガラスが一斉に白く曇り、遅れて理解したように砕け散った。

 

鋼鉄の梁が悲鳴を上げ、コンクリートが布のように裂ける。

 

バレエツインズ上部が、わずかにずれて止まり――

 

重力を思い出した。

 

袈裟斬りにされた断面が露わになり、内部の構造、配線、階段、

 

すべてが空に晒される。

 

次の瞬間、上部構造が音を立てて滑り落ち、爆風と粉塵が覆い尽くした。

 

高層ビルは二つに分かたれた。

 

「…やっべ、やりすぎたな…」

 

当の本人は崩れる破片を蹴り上げて残っている方にあるフロアへ飛び移っていた。

 

「これが………美食屋トリコ…」

 

「とんでもない豪傑でございますわね…」

 

ライカンとリナはその光景に脳を焼かれていた。

 

自分達が諦めるという選択をする中で、トリコは前人未到のやり方で解決をしてみせた。

 

「へぁ……トリコ様…ご無事でしょうか… 」

 

「……つーか本当に人間なの…?」

 

カリンは崩れ行くバレエツインズの片割れを見ながらトリコの身を心配していた。

 

エレンはドン引きしながら崩れ行くバレエツインズを見てう〜わと声を零す。

 

「は…はは……これがトリコさんの本気なのかな」

 

もはや畏怖すら抱いているアキラを他所にレインはハッキングを行っていた。

 

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トリコと合流した一行は恐らくこれからなだれ込んでくる治安官達を避けるべく出口へと向かっていた。

 

「おっと…お出ましだぜ」

 

トリコが呟くとライカン達は目線を前へと向ける。

 

そこには黒衣の衣装を纏ったオディール。

 

そして一糸乱れぬ動きの元、オディールの背後から現れたのは、

 

白衣の衣装を纏ったエーテリアス、オデットだった。

 

「分身した!?」

 

「いえ、プロキシ様アレは恐らく2匹で1対のエーテリアス、あの姉妹の末路でございます。」

 

こんなタイミングで…と眉間にシワが寄るライカン。

 

各々が武器を構える中、トリコだけがスッと前に出る。

 

「お前等の居場所を壊して悪かったな、お前達姉妹に届け物だ」

 

近づくトリコを見つめる2人に向かってトリコは小さなオルゴールを取り出した。

 

「トリコさん、それは?」

 

「鎮魂歌さ…お前達の叔父からだ」

 

ネジを回すと優しく、清らかな旋律が辺りを包む。

 

オディールがその音を聴くと震える手でオルゴールを受け取った。

 

「これは…White Swans Until the End……」

 

「!聴いたことがある、あの有名な歌手アストラさんが珍しくリクエストされて作った曲だ」

 

ライカンとアキラは聞き覚えがあった。

 

White Swans Until the End 最後まで白鳥だった

 

この曲は新エリー都では知らない人が居ないほど有名な歌手アストラがバレエツインズホロウ災害で亡くなった人へ送った鎮魂曲だ。

 

曲のリクエストを中々取らないアストラが受けた数少ないリクエスト曲だった。

 

震えるオディールの手を包むようにオデットが寄り添う。

 

「誰も忘れちゃいねぇよ、お前達姉妹がやり遂げたことは未来に繋がった。新エリー都の市民として誇らしいぜ」

 

ニカッと笑うトリコを見てオディールとオデットの顔からエーテルが溢れた。

 

オディールとオデットが手を取り、踊る。

 

鎮魂曲に合わせて、想いを受け取るように。

 

すると2人が舞う舞台を囲うようにぴゅるぴゅると蔦が伸びて一気に辺り一面に生い茂る。

 

それは涙だったのかただのエーテルだったのかはわからないが、

 

この鎮魂曲がこの姉妹の魂をただ癒してくれるのを願うのみだった。

 

「これは、どういう原理なのでしょう?」

 

首を傾げリナは何が起きたか分からずにいる。

 

オディールとオデットが頭を下げ舞台袖へと消えていった。

 

 

「蔦から伝わる微かな振動…!ここからでもわかる、完熟に至った激烈な芋の香り!」

 

そう言うとトリコは蔦を解き、根っこつまり実がなっている部分に手を差し込み土を掘り返していく。

 

「もしかしてそれがトリコさんの今回の狙ってる食材なのかい?」

 

アキラはトリコの元へ向かい、倣うように土を掘り返していく。

 

「そうだぜアキラ、!あったこれだ!」

 

指の先にコツンと当たる丸く硬い何か。

 

そっとそれを両手で包むようにもちあげる。

 

そこには蔦の形が音符のような形をしており、表面にはうっすらと五線譜の様なものが浮かび上がっていた。

 

持ち上げた瞬間、その芋 共鳴芋から震えるような曲が聞こえてきた。

 

それは先程まで聴いていたあの曲に似ている。

 

「それ、芋からなってんの…?」

 

「お芋さんから音楽が聞こえるなんて不思議ですぅ…」

 

カリンとエレンは珍しいものを見るようにトリコの持っているソレに視線を向ける。  

 

「なるほどな…あの姉妹が揃って踊った場所にあるメロディールートがそのステップの振動やリズムによって生まれる特殊調理食材ってわけか!」

 

キラキラした眼を向けて今にも食べだしそうなトリコへライカンは申し訳なさそうに伝える。

 

「ご感動のさなか、大変申し上げにくいのですが治安官による包囲がされる前に脱出したいと考えております。もちろん、取れる分は採取出来るようルート構築は致しますが」

 

「俺だけだったらどうにでもなるが…そうか、アキラ達は困るのか」

 

トリコは渋々と言った感じで背負っている大きなカバンへと共鳴芋をドサドサと入れていく。

 

「良し、ある程度は採取出来たな。実食は全員無事に抜け出してからだな!」

 

パンパンに詰めたリュックを持ち上げる。

 

そのまま全員で駆け出しバレエツインズを皆で後にした。

 

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当日に食べたかったトリコだったが、皆の疲労を考え後日、ホテルホロウにての実食となった。

 

今回の招待客はヴィクトリア家政一同、そしてアキラとリン。

 

レインは今回の騒動を受け、一同深くインターノットの底へ沈んでおきたいとの要望があり不参加。

 

指定時間に集まった面々は予め連絡をしてくれたコマツのお陰で既に会場へと集まっていた。

 

ヴィクトリア家政は何時ものメイド服や執事服ではなく、会場に相応しい格好へと着替えていた。

 

ライカンは明らかに素材が良すぎる身体に負けないような燕尾服を纏っていた。

 

「美食屋トリコ様にお呼ばれする夜会となればそれなりの服装は必要かと思いこのライカン、少々張り切っております。」

 

「ふふ…ライカンったら普段滅多に開けないクローゼットまで開けてましたものね。」

 

リナは深いスリットの入ったナイトドレスを身に纏っている。

 

普段のメイド服もかなり攻め込んだスリットだと思っていたが

服装が変わるだけでこんなにも妖艶な雰囲気が溢れるのかと思わずアキラは少々見惚れていた。

 

「ダルいって…こんなのなら普段のメイド服の方がマシなんだけど」

 

「エ…エレンさんもとってもお似合いですよぉ…?」

 

エレンとカリンは年相応の露出が控えめのドレスだったが、2人ともとても整った顔つきのため何処かの令嬢かと錯覚してしまうほどだった。

 

「うはーー!エレンもカリンちゃんもすっごい可愛い!普段のメイド服もいいけど、こっちは大人の雰囲気が素敵!」

 

キャアキャアとはしゃいでいるリンは前回と同じナイトドレスを着ていた。

 

そんなリンをアキラは優しく見つめていた。

 

今回の依頼もようやく一段落といった感じだった。

 

「よぉ、揃ってるみてぇだな」

 

皆が視線を向けるとトリコが会場へと入ってきていた。

 

いつもの軽装ではなくやはり、しっかりとした服装に身を包むトリコには普段はない気品があった。

 

「皆さん!お久しぶりですね!本日も腕によりをかけ、お食事を提供したいと思います!」

 

トリコの後ろから入ってきたコマツはアキラとリンにぴょんぴょん跳ねながら挨拶をする。

 

「そしてヴィクトリア家政の皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。本日はお時間の許す限りごゆるりとおくつろぎください」

 

ライカン達へと向き直りコック帽を下ろしながらペコリと頭を下げる。

 

「お招き頂き、ありがとうございます。ヴィクトリア家政を代表して私、ライカンより謝辞を贈らせていただきます。」

 

腰を90度に曲げ、トリコとコマツへ挨拶を送る。

 

「堅苦しい挨拶は抜きにして!取りあえずは軽く飯を食おうぜ!」

 

ライカンの肩をポンと叩いて席につくトリコ。

 

それに続いてアキラ達も関へついて行く。

 

「コマツ、俺はサマーウイスキーをロックで頼む、アキラ達も好きな飲み物頼んでくれよ」

 

「お気づき感謝するよトリコさん、僕とリンにはコーラをお願い出来るかな」

 

「あっ、アタシもコーラがいい」

 

「カリンもそれでお願いします」

 

未成年組とアキラとリンはコーラをコマツへと注文をする。

 

「ではせっかくの機会ですので私とリナにはコマツ様オススメのワインを頂けますか?」

 

「ンナッ!承りました!」

 

注文を取りまとめるとワタワタと厨房へ向かっていった。

 

他愛のない会話をしている中でアキラが思い出したようにトリコへ質問をした。

 

「そういえばトリコさん、よくあのエーテリアスに対抗できる曲を持っていたね、何か事前情報があったのかい?」

 

確かにあの双子のエーテリアスを相手しなくてよかったのはトリコがあの曲を持っていたからだった。

 

「あぁ、あれか。実はな、俺の所に共鳴芋の依頼を持ってきた依頼人こそがあの姉妹の叔父だったんだ」

 

トリコは答える。

 

「なんだって、あの姉妹の叔父さんが?」

 

「なんと…数奇な巡り合わせもあるものでございますね。」

 

ライカンとアキラはその話を聞いて驚く、あの姉妹の肉親がトリコへと依頼をしていたなんて。

 

「今回の事の顛末は伝えておいた、アイツは俺があの姉妹を地獄の苦しみから解放してくれるのを願って依頼してきたらしいが、あの姉妹はもう過去に囚われることはないし恐らく人を襲うことはないだろうってな」

 

トリコは運ばれてきたサマーウイスキーをグイッと飲み干し話を続ける。

 

「ロードって名前なんだがな、背景をコマツに探って貰ったら叔父ってことが分かったんだ。あんたの作った鎮魂曲は姉妹に安らぎを与えたぞって言ったら泣かれちまったな」

 

「そんな事が……トリコさんは元からあの姉妹を倒す気はなかったんだね」

 

「まぁな、それに共鳴芋を食うにはあの姉妹が必要だしな」

 

ニカッと笑うトリコを見ながら一同はうっすらと頭に浮かんだ言葉を飲み込んだ。

 

まさかその考えがメインじゃないよね?と。

 

誰もが言いかけたがその言葉を届いた飲み物と一緒に飲み込んだ。

 

「うわぁ!何このコーラ!すっごいキラキラしてる!」

 

「本当だ…弾ける泡がキラキラと光ってまるで宝石みたいだ。」

 

アキラ達に届いたコーラは普段飲んでいるものとは明らかに違う雰囲気を放っていた。

 

「ンクッ…うわぁ…コーラって感じの味なのに、コーラ特有のガツンとくる砂糖の甘さってよりかは自然な甘みが強い…」

 

「わ、わ、わ!カリン、炭酸の強い物は苦手なんですがこのコーラの炭酸は強いのに凄い心地いいです!」

 

エレンはいつも通りにコーラを飲むが明らかに普段のジャンクな味ではなく、まるでメープルの様な自然の甘みに口が包まれていた。

 

カリンは頬を押さえながらパチパチと弾ける炭酸を楽しんでいた。

 

「アキラ達が飲んでるのは水晶コーラだな、俺も好きだからよく飲むぜ」

 

「水晶コーラ!?あの1cm成長するのに1000年かかると言われる水晶の樹から採れる樹の実を使ったものでございますね?」

 

名前を聞いてライカンは目の色を変える。

 

水晶コーラ

 

水晶の樹と呼ばれる、木の幹が水晶のように煌めいている樹から採れる果実を使ったコーラ。

 

自然種は既に絶滅していると記録に残っていたが、トリコが零号ホロウを探索した際に深層部に根付いていた物を採取し、IHOとトリコの知識により現代に蘇った。

 

1L辺りの単価は90万弱と言う化け物じみた価格の為、ライカンはその事をアキラ達には伝えるのはやめようと決心した。

 

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「お待たせしました!共鳴芋、調理完了です!」

 

会話を楽しんでいた所にコマツがワゴンを押して入ってくる。

 

「来たな!待ってたぜコマツ!」

 

各自の前に皿が配膳されていき、コマツが料理の内容を説明していく。

 

「今回は素材の味を楽しみつつ、メインが芋ということで揚げたり焼いたりと飽きのこないように調理してみました!」

 

パカリと蓋が開くとフワリと湯気が立ちのぼり、辺りになんとも言えない美味しそうな香りが一気に鼻腔へ押し寄せる。

 

「揚げ物はやはり、フライドポテトが良いと思い、ナチュラルカットにした共鳴芋を二度揚げすることにより外はザックリと中はホクホクに仕上げました。」

 

「共鳴芋、実食だ……ッ!!この世の全ての食材に感謝を込めて。」

 

トリコが両手を合わせて目を閉じる。

 

皆も合わせるように手を合わせ。

 

「いただきます。」

 

 

「あぁぐっ……!!口に入れた瞬間、音が広がりやがる!……鳴ってやがるッ! サクッて音じゃねぇ、“ハーモニー”だッ!!」

 

噛み締めるごとに、カリ……パリ……という小気味よい音が舌から骨に響く。

 

甘味が音波になって脳天を貫き、次の瞬間、香ばしい香りが広がる。

 

「……この振動、ただの食感ではございません。芋の繊維が舌の味蕾を“共鳴”させております。周波数は……440Hz、音階で言えばラ。食べることで味覚が調律されているような感覚に…。」

 

ライカンは一口食べると思わず眼を閉じてしまった。

 

「……これ、ただの食感じゃございませんね。繊維が音波を生んでいるようですわ。芋の細胞膜が微弱な振動を出して、咀嚼のたびに周波数を変えているんですわ。今、トリコ様が噛んでる音はラ。ライカンのはファになりますわ。」

 

リナも頬に手を当ててウットリしながら共鳴芋を楽しんでいた。

 

「美味しい!サクサクなのにホクホク、家で作る奴とは全然違うねぇお兄ちゃん!」

 

リンはモリモリと皿に乗っているポテトを食べていく。

 

揚げている芋にも関わらず、胃もたれをする気配が全くない。

 

「あぁ……美味しいね、リン。味覚の極致を超えて、五感どころか魂まで調律されるような……まさに、共鳴だね」

 

アキラは楽しそうに食べているリンを見ながら自分も食べ進めていく。

 

「次は共鳴芋のポタージュです、味付けはシンプルに塩だけでさせていただいています。」

 

黄金色のスープが配られていく。

 

「綺麗…ポタージュをみて綺麗なんて感想感じたの初めてかも…んっ…!甘い…塩しか入れてないって言ってたのに、共鳴芋ってこんなにも甘いんだ……ズズッ……え?味変わったんですけど…さっきよりも断然、旨味が強い…ズズッ…また変わった……今度は出汁みたいな味…あっ、わかった。これ、アタシの立ててる音に共鳴して味変わってるんだ…え?本当に何これ」

 

喉を通った、その直後——

 

旨味が遅れてやってくる。

 

一拍、二拍。

 

まるで舞台の幕が上がるのを待つような“間”のあと、

 

コクが内側からじわりと広がり、舌の奥、頬の裏、喉の付け根へと染み込んでいく。

 

共鳴するように。

 

トリコ達は様々な味の共鳴芋を楽しみ、夜は深けていく。

 

ちなみにトリコ達はなかったことにしているが市長や治安局達は突然真っ二つに割れたバレエツインズの後処理に追われて、家に帰れない夜を送っている。

 

バレエツインズ崩壊によって縮小したホロウの始末にIHOが当たっており、トリコの携帯に鬼のように電話が着ているがそんな事は食事に夢中のトリコには届かなかった。

 

料理の後には、リナがコマツに料理を教えて貰い、味見をしたコマツの倫理コアが一時的に壊れ、普段の文句を言いながらトリコにブチ切れて包丁を振り回したりなど。

 

楽しげな声がホテルホロウに響いていった。




……明けましておめでとうございます。

年明け前に…出したかったのですが遅れてしまったことをお許しください。
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