個人的に書いてて結構好きでした。
トリコはゼノシスを見据えていた。
プロトタイプの白を基調としたカラーリング。
右手にグレーテルが使っていた大型のチェンソー。
左手にフライデーに使っていたパイルドライバー。
尻尾のような部分にはハンスが使っていた大型ショベル。
そしてプロトタイプのアームハンドとショベルアーム。
それは彼等と共に苦楽を共にしてきたクレタ達からすると不快極まりないものだった。
「あの野郎……!グレーテル達を吸収しやがった!」
「グレースがここに居なくて良かったかもな…!」
アンドーとベンが吐き捨てるように言った。
その横を駆け抜けるように一匹の子獅子が駆ける。
「どりゃぁぁぁぁ!!」
ハンマーがうなりを上げ、ゼノシスの胸部を叩いた。
――ドゴォン!
ゼノシスのフレームに衝突し、衝撃波が空気を裂いた。
「テメェ……よくもアタシ達の家族を…プロトタイプを…!」
ゼノシスのアーム攻撃から身を躱したクレタが吠える。
髪は逆立ち、まるで獅子のようだった。
ようやく見つけた父との繫がり、思い出を奪われクレタは激情に囚われていた。
「DeeMooooou!!」
ゼノシスは唸りを上げて尻尾のショベルアームをクレタに振り下ろす。
「ッ!クソが!」
体制が悪くハンマーで受け流すがその隙をパイルドライバーに狙われた。
「ぬぅぅぅん!」
隙かさずその間に入ったトリコはパイルドライバーを受け止め、抱えるように止めた。
触れれば簡単に人体などめちゃくちゃになるであろうソレをトリコは止めた。
しかしよく見れば体中に血管が浮き出るほどに力を入れているのが見て取れる。
当然である、元が掘削機用のパイルドライバーならばそれ自体の重さもかなりであり、それが勢いよく殺す為に突き抜かれたのだから。
「隙を見せるな!殺されるぞ!」
トリコはパイルドライバーを振り払うように押しのけ自身も距離を取る。
「怒る気持ちも分かる、だが怒りで我を見失えば野生では死ぬだけだ」
隣で息を整えているクレタにトリコは言い放つ。
「わりぃ…!」
ベンとアンドーもクレタの両横につくように配置する。
「状況は最悪だ、装甲は強固な上に極悪なアームが4本。それにあの尻尾ショベルが厄介すぎる」
アンドーはゼノシスを見据えた。
「アームなら俺が切り落としてやる、だが問題はそれが決定打にならない事だ。」
「切り落とすって…そんな事出来るのか……?」
トリコが言った言葉にクレタが反応した。
大きめの木の幹よりも太いあのアームを切り落とす、そう言ってのけるトリコに改めて驚きを得た。
「しかも1本ずつやるしかない、そんな事をしてれば時間がいくらあってもたりねぇ…!」
そう、トリコはタイムリミットを考えていた。
トリコは自身のエーテル適性がかなり高い。
しかし、白祇重工の皆はどうだ。
ホロウに入ってからかなりの時間が経っている。
アームを4本切り落とし、一見簡単そうに見えるがゼノシスは重機にしてはかなりの高機動だった。
流石のトリコも4本のアーム、しかも一撃一撃がトリコにとっても危険な物となる物を4本同時に相手をし、切り落とすのはかなりの危険だった。
ならばクレタ達に引き受けてもらうか、そうすれば確実に4本切れるだろうが囮をしている最中に侵食反応が出てしまい、立ち止まってしまったならどうなる。
トリコ達の頭には答えの凄惨な光景が浮かんできた。
「じゃあどうする、引いてホロウ6課にでも任せるか!?」
ベンは振り下ろされるアームを躱しながら叫ぶ。
「5分だ…!5分時間をくれ!」
トリコがクレタ達に伝える。
「その時間があれば俺がゼノシスをブチのめして見せる」
5分____それは短い時間に感じるかもしれないが
あの悪夢のような敵を相手に5分。
しかも主力とよべるトリコを抜いての5分。
余りにも無理難題と呼べる代物だった。
だが
「聞いたなお前ら!死ぬ気で5分稼ぐぞ!!!」
「「おう!!」」
これに即答出来るのがクレタ達、白祇重工だった。
こちらの攻撃は通用しない。
敵は機械故に疲れ無しの攻撃。
おまけに当たれば即離脱のクソゲー。
無理難題のオンパレードをやってみせると言ってのけたのだ。
「社長!上に躱せ!」
ベンの鉄骨を足場に躱すクレタ。
そのクレタを狙ってパイルドライバーが突き動く。
「さっきも見たぜそれはよ!」
ハンマーの柄を滑らせるようにパイルドライバーを受け流し、勢いを乗せてアームにハンマーを叩きつける。
1分
「オラオラオラァ!!オレ達の気合い見せてやるぞ!」
アンドーは自身の腕についたハンマードリルで打ち込んでいく。
喧嘩殺法と直感を頼りに隙間を縫うように動き駆動部への攻撃をしていく。
アンドーを踏み潰そうと脚を上げたゼノシス。
その脚へ鉄骨と共に全力のタックルをぶつけるベン。
「やらせないぞ!!」
クマのシリオンから放たれる全力のタックルを受け脚が僅かに揺れ動き、アンドーがすり抜ける。
ベンの背中を狙うように尻尾ショベルが放たれる。
それを読んでいたようにクレタが尻尾ショベルの細いコードのような部分をハンマーで振り抜き、軌道を変える。
2分
白祇重工の動きは完璧だった。
各々が動き
各々が支え合う
言葉ではなく長年培ってきた想いで体が動く。
3分
ゼノシスはここでトリコの様子に気付く。
なんだあの圧倒的な威圧感は。
トリコの右腕は通常時の3倍近い太さまでに筋肉が隆起していた。
静かにひたすら力を右腕に溜めている。
排除しなければ。
ゼノシスはちょこまかと動き回るクレタ達ではなく、トリコへと標的を変えた。
肩のミサイルポッドから弾幕を降らすべく発射口が開く。
「仕舞っとけってんだ!!」
アンドーがゼノシスを駆け上がり発射口の扉を蹴り飛ばし無理矢理に閉める。
「DuOuuuu!!?」
発射されずポッド内でミサイル達が爆発し初めてゼノシスの巨体が揺らいだ。
しかし代償は大きい。
「グハッッ!」
爆発に巻き込まれたアンドーは吹き飛び瓦礫の山へとその身を沈めた。
「アンドー!」
クレタの悲鳴にも近い声が響く。
その隙を狙われ、チェンソーが振り下ろされた。
「社長ォォォォォ!!!」
ガギィィィィィン
ベンが動けないクレタを突き飛ばし鉄骨でチェンソーをパリィした音が響く。
「ベン……!」
直ぐに飛び起きベンに視線を向けると、真っ二つになった鉄骨を構えたベンがいた。
「社長…後は……頼みます…」
ベンは崩れるように倒れこんだ。
4分
トリコは未だに静かに構えている。
だが、トリコの心内環境は吹き荒れる活火山の如く怒りに燃えていた。
トリコはその怒りすらも飲み込んでいた。
全ては自分を信じて戦ってくれている友の為に。
この怒り全てに感謝を込め
もらった5分という時間を使い
この怒りをブチかますだけだ。
残り1分 決着は近い。
トリコの異変を感じ取ったゼノシスはチャージを開始した。
「マズイ!ゼノシスの尻尾から高エーテル反応!何か来る!」
隠れていたアキラが2人に警告を放つ。
その警告が終わった瞬間、ゼノシスの尻尾から巨大なビームが放たれる。
「白祇重工……舐めんなァァァ!!」
クレタはトリコの前に立ち塞がり燃え上がるハンマーを盾にするようにビームを受け止めたッ。
「無茶だクレタ!!」
アキラはわかっていながらもそう言わずには居られなかった。
クレタが避ければここまでの苦労が全て無駄になる。
避けなければクレタは唯ではすまない。
しかしここで避けずに受け止めるのが白祇重工のトップであるクレタだ。
「ぐぅぅぅぅぅ!!!」
熱を帯びたハンマーを持っている手が焼ける。
それがどうした。
脚にもう力が入らない。
だからなんだ。
アタシは
アタシは!!!
「白祇重工の!!頭だ!こんなところで、折れてたまるか!」
自分を鼓舞するように叫ぶ。
しかし、無情にも
ゼノシスのビームが終わる気配はない。
「ぐっっ!(やべぇ……!もう!力が…入らねぇ!)」
負けたくない。
諦めたくない。
だってまだ!
親父に!
文句の一つも!言えてねぇ!
ハンマーが勢いに負ける。
その時―――
クレタの手に重なるように何かが触れた。
「なんだ……!?」
クレタが恐る恐る顔を横に向けると
其処には、人の形をした黒いナニカが立っていた。
「あれは!ドッペルゲンガー!?こんなタイミングで……?でも、様子が変だ」
アキラは突然現れた電離体・ドッペルゲンガーの襲来に絶望した。
電離体・ドッペルゲンガー
遭遇する相手の知り合いや待ち人失せ人にそっくりそのまま変身するという悪質な性質で知られる。
ドッペルゲンガー自体はエーテリアスの為、本来は敵対関係のハズだが。
「クレタを……支えてる…?」
このドッペルゲンガーは何故かクレタを支えている。
摩訶不思議なことが起こり理解に苦しんでいたアキラだったが
クレタには確かに聞こえていた。
「踏んバれ…!くレタ!オマえならもっと出来るルはずダ!」
「親父……へっ、情ねぇところ見せちまったな……!まさか…エーテリアスに励まされるなんてよ!おい!聞こえてるはずだ!ハンス!グレーテル!フライデー!お前らの論理コアはそんな軟じねぇはずだ!グレースに散々イジられたお前等がそんなバケモンに飲み込まれて終わるはずがねぇ!」
クレタの手に力が籠もる。
たとえ幻だったとしても
そんな風に言われて負けられるはずがない
「そんなバケモンに良いようにされて悔しくねぇのか!白祇重工の誇るホロウ用重機なのか!?違うだろ!」
クレタがゼノシスに向かって吠える。
直後、僅かにゼノシスの機体が揺れた。
「目を覚ませ…!怒りの炉心に火をつけろ!とっとと戻ってこい!」
「――ゲローーーーイ!!」
刹那、クレタの呼びかけに呼応するように白い、ゲローイの機体に付いていたアームがゼノシスの尻尾を掴んだ。
「GuauBa!?」
ゼノシスは信じられないものでも見たかのように起きたことに動揺した。
おかしい、あの重機達は完全にコントロールしていた筈だと。
しかしゼノシスはクレタを
いや、白祇重工の想いを侮りすぎていたッ。
クレタ達を襲っていたビームが途切れゼノシスの左手にあるパイルドライバーが地面を穿つ。
まるでこの場から動けなくするための様に。
右腕のチェンソーは回転を止め尻尾ショベルを押さえるように動いていた。
ゼノシスはなんとか制御を取り戻そうと機体の再構成を試みた。
瞬間、ゼノシスにとてつもない電流が走った。
「gaxaU!?」
激痛の原因はアンドーの折れたパイルドリルだった。
肩のミサイルに刺さったままだったそれは電気を蓄積し続け
感電を引き起こしていたのだ。
アンドーの怒りは着実にゼノシスを蝕んていた!
「決めてこい……!トリコ!!」
ゼノシスは慌ててトリコ達に視線を向ける。
そこには、噴火間近の火山があった。
「ありがとうよ……クレタ、アンドー、ベン…」
構えた右腕は、ゼノシスの命を捉えた。
「15連………!!一点集中…」
アイスピック釘パンチ!!!!
ズドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!
トリコの得意とする釘パンチには拡散型と一点集中型がある。
「集中型」は連打の際のブレを限界まで無くす釘パンチであり、より高い難度と集中力が要求され、腕の負担は更に増える。
しかし、「集中型」は範囲こそ小さくなるが、その分貫通性は計り知れないほどだ。
トリコ達の怒りの一撃を受けゼノシスは思わず絶叫する。
「Gkayaaaaaaaaaaaaa!!」
1撃で装甲が打ち破られたゼノシスの巨体はあまりの衝撃に宙に浮いたッ
空中で受ける衝撃は地面に受け流せず120%の威力を発揮する。
1打1打打ち込まれる事にあの巨体が空中で跳ねるようにビクンも震えていく。
怒りの活火山は止まることを知らずにゼノシスの機体をドンドン破壊していく。
溜まり溜まった憤怒のマグマはとどまることを知らない。
「安らかに眠れ……」
トリコがそう呟くと
増幅された一撃に耐えられずゼノシスは砕け散った。
「終わった…のか…?」
ヘタっとクレタは脚の力が抜け、その場に座り込む。
ドッペルゲンガーはそんなクレタを優しく支え風の流れに沿って消えていった。
「へへっ…見てたかよ、親父…」
クレタはそのままゴロンと仰向けになり、晴れ渡る空を眺めた。
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その後、倒れたアンドーとベンをトリコが担ぎ急ぎホロウの外へ出た一行。
当初は近場の病院へと向かおうとしたがコマツがあらかじめホロウ出口に救急車を手配してくれており、ハーモニア中央医療局と呼ばれる新エリー都屈指の病院へと運ばれた。
「トリコさん!」
アキラはボンプではなく生身でこの医療局へと来ていた。
「アキラか、クレタ達ならあまり大きな怪我はなかったそうだ。極度の疲労と骨折だとよ。」
本来ならばあんな決戦があったのだから労う言葉の一つでもとアキラは思っていたが。
目の前でとんでもない量の食事をしているトリコを見てその言葉が引っ込んでしまった。
「えーっと、元気そうだね?」
絞り出した言葉がそれだった。
「まぁ、俺自体は軽症だったからな。クレタ達も目覚めた頃かもしれん、お見舞いにでも行くか」
軽症と言っているがアイスピック釘パンチを放った右手の指は見るも無残な程グチャグチャだったが食事をしたから(?)と言うことで右手はもう元に戻っていた。
「コマツにお見舞い用のフルーツを頼んでるんだが…おっ来たな」
「トリコさーーん、ホワイトアップルのバスケット盛り持ってきましたよォ」
コマツが両手で白いリンゴが沢山入った籠を抱えてやってきた。
「やぁ、コマツシェフお疲れ様。」
「ンナ、アキラさん!クレタさん達のお見舞いですか?」
コマツは片手で籠を抱え、空いている手でアキラの握手をしていた。
「そうだね、トリコさんのお見舞いも兼ねていたんだけど必要はなさそうだ」
「トリコさんは頑丈が取り柄ですからね」
「聞こえてるからなコマツ」
3人は談笑しながら医療局の廊下を歩いていく。
そんな3人を眺めて疎ましそうにしている患者達がチラホラと。
そう、アキラは気付いていないがこのハーモニア中央医療局というのはTOPSの幹部や新エリー都でもかなりの上流階級の人間が使う医療局。
そんな人間たちからすれば野蛮な格好のトリコに明らかに場違いなアキラ
疎ましく見ていた彼等はトリコたちがVIP専用のエレベーターに乗り込んで行くのを見て何も見なかったことにしたという。
「クレタ、入ってもいいかい?」
コンコンと個室の扉をノックする。
「プロキシか…?いいぞぉ…」
随分とふにゃびた声だなと思いつつも扉を開ける。
そこは病院とは思えないほどに広く華美な装飾は無いにしても使われている材質が普段見慣れない物と分かるほどの部屋だった。
「よぉ…プロキシ…」
そこには両手を包帯でぐるぐる巻きにされ、髪を下ろしたクレタとグレースが居た。
「おや、プロキシじゃないか。それと隣の方が…トリコさんかな?」
「やぁグレース、クレタのお見舞いに来てたんだね。紹介するよ、美食屋のトリコさんだ」
「トリコだ、よろしくな」
グレースは建設会社白祇重工の社員で、現社長クレタの腹心の一人。
機械好きのメッカと言われる新エリー都・ルース機械工科大学の出身だ。
先の決戦では怪我をしていた為、参加出来て居なかった。
「僕はコマツです!!トリコさんのコンビです!」
トリコの足元からンナナッと顔を出してコマツも挨拶をする。
「……え?幻聴かな?今ボンプから流暢な言語が聞こえてきた気がするんだけど」
「コマツには俺が作った感情表現モジュールと拡張言語機能が組み込まれてるからな」
ワシワシと屈みながらコマツの頭を撫でてやるとンナナと声が漏れる。
「君が作ったのかい!?私の出た大学でも屈指の難易度を誇る調整なんだよ、ね、ねぇ!触ってもいいかい!?」
興奮したグレースは立ち上がりトリコに迫る。
「お、おう。コマツが嫌がらなきゃ好きにしてくれ」
あのトリコが思わずたじろぐ程の勢いは凄まじかった。
コマツが肯定の意を示すとすぐさま抱き上げ様々なところを見ていった。
「凄いねコマツくん!君のボディは良く見たらエーテル鋼を使ってるんだね!このボディなら生半可なエーテリアスの攻撃なんて効かないじゃないか!それに駆動部の部分も良く磨かれたステアリング等が使われてる…ボンプの動きを最大限活かすための構造だね。コンビと言うことはコマツくんはトリコさんとホロウに良く出かけるのだろう?凄いな、本当に。侵食の欠片も見えない、素晴らしいよ!」
コマツは体中を弄られワタワタとしているがグレースがガッチリと抱き込みその豊かな胸にコマツを捕らえていた。
「あー…その、グレースさん?コマツくんが苦しそうだから離して上げて欲しいんだ」
アキラは苦笑いしながらグレースに伝える。
自分もイアスに入ってグレースにあった時にされた事が今のコマツと重なっており、少し同情していた。
「姉貴……アタシ達、白祇重工の客人に失礼だろ。そろそろ離れろっての」
クレタは呆れながらベットから体をのそりと出し、グレースの肩を掴む。
「おっと…そうだね。お礼もまだだったもんね」
グレースはコマツを床に下ろしてクレタの両肩をそっと支えながらトリコへと視線を向ける。
「トリコさん、突然の依頼だったのにも関わらず私達、白祇重工、それにおチビちゃん…私の妹を助けてくれて本当にありがとう」
グレースは深々と頭を下げた。
それを見ていたクレタも頭を下げる。
「よせって、依頼を引き受けたのは俺の判断だし、プロトタイプ達を助けられたのはクレタ達が居たからこそだ。俺一人だったらきっと勝つことは出来たとしても吸収された重機達の論理コアはただじゃすまなかっただろうからな」
そう言うとトリコは籠からホワイトアップルを取り出してグレースに投げ渡す。
「全員生きて帰れて、論理コアも無事。プロトタイプも回収できてこの上ない戦果だぜ」
「…そうだね、確かに考えうる最高の結果だ」
グレースは受け取ったホワイトアップルを両手で包んだ
「それよりトリコ…聞かせてくれよ。………親父のことを」
その和やかな空気を裂くようにクレタが切り出す。
「おチビちゃん…?なんでお父さんのことをトリコさんに…?」
グレースが不思議そうに首を傾けていた。
「グレース、トリコさんはホルスさんが消えたあの日のことを知っているみたいなんだ。」
アキラが言葉を選んでいたトリコに変わって答えた。
「え……?トリコさんが?」
明らかに動揺しているグレースは思わずホワイトアップルを落としてしまう。
「とある依頼で俺は重症の男を病院へ運んだんだ。その男の特徴がクレタ達の言うホルスって奴にそっくりだったんでな、詳しく聞いてみたらどうやら同一人物らしいってな」
トリコは椅子へ座り詳細を語り始める。
「俺なりに調べてみたんだ。今回のゼノシスの件、それに俺が運んだ男の行方を。IHOの奴ら、少し圧をかけたらペラペラ喋りやがったぜ」
「結論から言う、ホルスは表に出ていないだけで死亡している。」
トリコが述べた事実にクレタとグレースが息を呑む。
知りたかったはずの真実は残酷なものだった。
「ホルスはあの記念公園でナニカを見てしまった。そいつらにとってホルスは居てはいけない目撃者となってしまい、消されてしまった。」
「その、見てはいけないモノってのはなんなんだい…?」
グレースは震えるクレタを撫でながら
自身の悲しみを殺しながら
自分の父親を消したというナニカを知るために顔を向ける。
「俺達が倒したゼノシス……あの怪物さ」
「今から俺は信じがたいことを言うが、すべて事実だ」
トリコはいつになく真剣な眼差しで3人を見つめる。
「あの怪物は…元は人間なんだ」
「トリコさん!それ以上は駄目です!3人を巻き込んでしまいますよ!」
コマツがトリコの口を塞ごうと短い手を伸ばしていた。
「人間……だって…?」
アキラは状況が飲み込めないのか顔を青くさせてトリコを見ていた。
「嘘だろ……てことは親父は……あの怪物達を作り出した奴らに……」
「トリコさんは…何処でその情報を…?」
「IHO、どうやらアイツラもこの件に関わってるらしい」
バクリと持っていたホワイトアップルを一口で食べると病室にはシャクシャクという音だけが響いた。
耳がビクンと跳ねたコマツが何やらトリコへ耳打ちをする。
「………ここから先は時が来たら伝える。今は体を治すことに専念しとけ」
自分が戦っていた怪物が元人間であること、それを作った組織がいること。
そしてそいつらが親父を……
しょげかえっているクレタの頭を軽く撫でトリコは立ち上がる。
「暗い話だけだと気が滅入るよな、ならいい知らせだ。クレタの親父はこの医療局に運び込まれていた。まだ意識がある時に取られた音声ログが見つかったそうだ」
「本当…?!トリコさん、それ私達に!」
グレースがトリコの言葉に反応して顔を上げる。
「渡してもいいんだが……
そう言うとトリコは立ち上がりアキラの腕を掴む。
「え、ちょっとトリコさん?」
突然腕を掴まれたアキラはトリコにグイグイと引っ張られる。
「聞くって…親父は…」
クレタは一瞬怒りを見せるが、トリコの様子を見て落ち着きを取り戻す。
「言っただろ、表向きにはってな。クレタ、グレース、2人に客人だぜ」
ノシノシとアキラを押して病室から出ていくトリコ。
そして入れ違いになるように点滴スタンドを転がして入ってくる赤毛の男がいた。
その日、その病室からは泣き声や怒鳴り声、笑い声と沢山の声が聞こえてきたという。
しかし、どの声にも不思議と温かさを感じと言う声が多かった。