エーテルを食え、トリコ   作:双子座流星群

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お待たせ致しました。

遅くなりましたが皆様のおかげで4万UAを達成しておりました。

感想も沢山頂いており、大変励みになっております。

短めですが繋ぎとして置いておきます。

オリジナル食材……大変すぎます。


共鳴芋《レゾネ・ルート》

あの激闘から早数カ月。

 

何時もの日常に戻ったトリコは自宅で依頼人を待っていた。

 

基本的な依頼はコマツを通して受けているトリコだが、時折こうして自宅に依頼人を招くことがある。

 

家に招いて受ける仕事は大抵厄介事が多い。

 

ボンプやインターノットに何かしらの履歴を残したくない者達だからだ。

 

「そろそろ時間か……」

 

葉巻木を一気に吸い付くし灰皿へ押し付ける。

 

ボフッと音と共に灰になった葉巻木が崩れ灰皿に広がる。

 

直後、コンコンと玄関を叩く音がリビングに広がる、

 

トリコは立ち上がり玄関の扉を開け、訪問者を見据える。

 

「…本日、約束いただいた者です。」

 

そこには杖を突いた老人が立っていた。

 

腰は曲がり、年季の入った革のコートを羽織っている。

 

しかしその目には、何か執念すら感じる鋭さが宿っていた。

 

「トリコだ、詳しい話は中でしようぜ」

 

そう言うと扉を広げ老人を招き入れる。

 

「失礼…」

 

老人は会釈をして部屋の中に入っていく。

 

トリコは玄関においてあるサイドテーブル上のお菓子鉢を手に取り後を追う。

 

「ソファに額縁……それと壁も削るか」

 

トリコは吟味しながらソファの一部をちぎりお菓子鉢へと乗せる。

 

額縁の壁から外してパキパキと小気味の良い音を鳴らしながら崩していく。

 

「そろそろ建て替えかもなぁ…」

 

削られていく家具を見ながらトリコは呟いていた。

 

壁を右手で削り取りながら。 

 

「飲み物はコーヒーでいいかい、爺さん」

 

その削り取った家具達を老人が座るテーブルの前に置く。

 

何もトリコが気狂いになった訳では断じてないので安心を。

 

この家はトリコが設計し、建てた食べられる家、スウィーツハウスなのだ。 

 

「そうですな、折角ですし頂きます。」

 

トリコは食器棚から黒い木目調のマグカップを2つだしシンクへも向かう。

 

シンクのある天井から蔓のようなものがぶら下がっており、先はぷっくりと膨れている。

 

その蕾をギュッと握りしめる。

 

すると蕾の先からほんのりと湯気を立たせながらコーヒーが出てきた。

 

マグカップに入れてテーブルに戻り老人に差し出しながら座る。

 

「生憎、客を入れることが少なくてな。菓子しかないがゆっくりしてくれ」

ズズッとコーヒーを飲みながら答える。

 

「では、いただくとしましょう…これは… 綿菓子の木ですな?これほど上質な綿菓子は初めてですな。指で摘んでいるのにベタつかない。しかし口に入れればスルリと溶け、口全体に甘みが広がる……美味しいですな」

 

老人は先程ソファから千切られたそれを口にして感嘆の声を上げる。

 

「お、わかるのか爺さん。綿菓子の木はようやく市場でも出回り始めた品なんだぜ」

 

トリコはそう言うと座っている椅子の手置きをバキリと割って齧る。

 

「食べることが出来る機会がありましてな。それでもコレほどの上質な物は初めてです。ふむ…それにこのマグカップ、ココヤシの木で作られておりますな。木の幹がココアの成分で出来ている不思議な木でしたかな、乾燥させて使えば上等なココアクッキーになり、飲み物を入れればココアの風味を足してくれる……実に美味しいですな。」

 

「……驚いたな、ココヤシの木は流通が始まったばかりだぞ。

随分詳しいんだな。」

 

トリコは素直に驚いていた。

 

確かに綿菓子の木はトリコが群生地を発見しており、僅かながら流通が始まっていた。

 

しかし、ココヤシの木に関しては別だった。

 

ココヤシ自体が比較的、最近発見された物と言うこと。

 

IHOがようやく植林に成功して民間にようやく卸されたということ。

 

「伊達に長生きはしてませぬぞ」

 

老人は笑いながらココヤシのマグカップの縁をかじり答えた。

 

その後、暖かい湯気が立つティーカップを前に、2人はしばし世間話に興じた。

 

新エリー都の情勢、最近の対応レベル上昇、そして老人の名前はロードと言う事。

 

「んで、爺さんよ本題はなんだ?あんたが只者じゃないってことはわかるが、俺になんの依頼なんだ?」

 

葉巻木に火をつけ老人を見据える。

 

老人は静かに頷きながら、やがて表情を引き締めた。

 

「……トリコさん。音が鳴るという不思議な芋をご存知ですか?」

 

「音が鳴る芋…ああ、知ってるぜ。確かメロディルートと呼ばれる作物だろ?。あれは育つ環境次第で“味が鳴る”って言われてる不思議な芋だ。」

 

メロディルート――

 

それは育った場所の音や音楽を聴いて味が変わるという不思議な芋。

 

コンサート会場の跡地にできた共生ホロウで発見された新種の作物。

 

オペラを聴かせて育てれば舌が響くような味に。

 

ロックを聴かせれば荒々しいスパイシーな味に。

 

もちろんそのまま食べても美味しいがやはり何かを聴かせて育てたメロディルートは格別だという。

 

「……ある仕入れ業者から聞いた話なのですが。曰く、“とてつもない旨味を持つメロディルート”を手に入れたと。その由来をたどるうちに、どうもただの芋ではないと言うことがわかりましてな。」

 

老人は淡々と語っていく。

 

「その業者は“バレエツインズ”という廃墟でガラクタを拾い集めていたそうです。そこはバレエ兄弟と呼ばれる資産家が建てた巨大なビル、しかし今は、ホロウレイダーどもが巣くう危険地帯です。その中で、死んだホロウレイダーの遺品に――“奇妙な芋”が混じっていた。」

 

「奇妙な芋だと…?」

 

トリコの目がわずかに細くなる。

 

老人は息を整え、続けた。

 

「見た目はメロディルートなのにその皮にはまるで五線譜の様な線が入っていたと」

 

「その業者、何の気なしに煮て食べてみたそうです。……そしたら、とんでもなく美味かった。」

 

「口の中に“音が響く”ような旨味が広がったと。しかし、それはまだ未成熟の個体――メロディルートの若芽だったらしい。」

 

「メロディルートは聴かせる音によって味が変わるが…五線譜模様なんてのは聴いたことがねぇ、それにそれほど旨味を溜め込んだ芋が若芽だと……」

 

トリコは思案していた。

 

美味いメロディルートならば食べたことはある。

 

1曲演奏するのに100万近く飛んでいく楽団の曲を生演奏で聴かせ続けたメロディルートはかなり美味かった。

 

それなのに廃墟とかしている場所でそれ以上のメロディルートが見つかった。

 

しかも未成熟でだ。

 

「成熟しきったそれは一体……どれほど美味いんだ……」

 

気づけばよだれが口の中に溢れていた。

 

「ええ。私は……それがどうしても食べてみたいのです。トリコさん、あなたなら行けるでしょう?」

 

老人はハットの隙間から鋭い目を光らせてトリコに向ける。

 

 

「“バレエツインズ”には、恐らく成熟した本株が残っているはず。特別なメロディルートを……ぜひ、私の代わりに見つけてきてはいただけませんか?」

 

老人にはきっと別の思惑があるのだろう。

 

しかしトリコの腹の虫は鳴いていた。

 

「爺さん……その依頼!受けるぜ、俺も食ってみたくなって来たぜ」

 

トリコは右手を出し老人に向ける。

 

「トリコさん…… 貴方なら、きっと手に入れられる。そして私の望みをきっと叶えてくれると信じております」

 

硬い握手をした老人の顔つきが少し和らいだ気がした。

 

【共鳴芋[レゾネ・ルート]】

【推定対応レベル:38】

 

 

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