ヤムチャしやがってとは言わせない!   作:ヤムチャしやがって……

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賢い!ヤムチャ賢い!
よっ、天才!


たった一つの冴えたやり方

 

 

 

 

 

 

 

 ヤムチャは元々盗賊として生計を立てていた。

 現在の塒がある荒野を縄張りとしており、時折迷い込んだ旅人を襲って盗みを働き、その盗品を売って資金を得ていたのだ。

 まともに金を稼ごうだなんて殊勝さはなく、これが一番早いと思いますと言わんばかりに悪事を行う。

 

 荒野のハイエナヤムチャ。

 それがヤムチャという男の本来の姿だった。

 

 であれば、資金が目減りした現状でヤムチャが取る行動は、以前のような盗賊稼業だろうか?

 たった一ヶ月程度の修行ではあったが、元が我流だったこともあり無駄な動きがなくなり洗練されたことで実力はかなり上がっている。

 旅人を襲うにしても、より成功しやすくなったのは言うまでもない。

 圧倒的な武力に物を言わせれば、実に楽なものだろう。

 

 

「まあ、今更そんなことしないけどな」

 

 

 だが、現代日本人の前世が新たにインストールされた新生ヤムチャことオレとしては、無意味に人から恨みを買うつもりはさらさらない。

 普通に働くのはあまりにも時間の無駄であるため、手っ取り早く人様に迷惑を掛けない方法が望ましい。

 そこで、先日買い出しに出たプーアルが耳にしたという噂が役に立つ。

 むしろ今までの悪名を帳消しに出来る可能性さえあり、その上で金はガッポリ手に入ることになる。

 

 

「ボクが聞いた噂話ですか?……ああっ、もしかしてあの不届者、偽ヤムチャ様のことですか!?」

 

 

 今しがたプーアルが言った偽ヤムチャ。

 そいつこそが今回の作戦における肝であり、オレが打倒するべき最重要目標だ。

 まさかこんな馬鹿が出るとは思いもしなかったぜ。

 

 偽ヤムチャという通称から推測は出来るだろうが、そいつはオレが一ヶ月前から盗賊としての活動を休止していた間に取って代わるように荒野に現れた盗賊だ。

 かつてのオレと同じく旅人をターゲットにして盗みをしていたが、何故か必ず荒野のハイエナヤムチャを名乗っていたらしい。

 勿論オレはその時修行に明け暮れていたので別人であることは言うまでもない。

 

 だが、人の噂とは割と適当なものだ。

 オレの名前と通称は知られているが、その人相は伝わっていない。

 若い男であり、あとは精々ロン毛であることくらいだ。

 偽ヤムチャは元からオレに罪をなすり付ける目的だったのか、見た目としては若いロン毛の男だという。

 つまり、現時点で荒野のハイエナヤムチャとはまさしくその男のことを示すのだ。

 やりたかったことは分かるが、オレからすればただのカモでしかなかった。

 

 

「実はな、プーアル。こんな作戦を考えたんだが(ゴニョゴニョ)」

「わぁっ、流石ヤムチャ様!天才です!」

「フフフ……そうだろう?プーアルにも手伝ってもらうぞ!」

「分かりました!何でも言ってください!」

 

 

 作戦を実行に移す前に、幾つかやらなければならないことがある。

 まずは以前盗んだ品の中でも敢えてすぐに売らずに非常用に取っておいた盗品から、特に足がつきやすそうな宝飾品などをピックアップする。

 宝石類なんて売れば当然高値がつくだろうが、そういう店はセキュリティもしっかりしている。

 だからこそ売らずに取っておいたのだが、処理が面倒なのでここで使ってしまおう。

 

 それが終われば、プーアルにはある物に変身してもらう。

 この作戦を行うにあたって荒野のハイエナヤムチャは、絶対に一人でなければならない。

 ヤムチャらしき人物と疑われる要素は一つでも少ない方がいい。

 そうでなければオレのこの完璧な作戦は致命的な欠陥を残すことになる。

 というわけで、覚悟を決めて戸惑うプーアルに告げた。

 

 

「ほ、本当にいいんですか?」

「……ああ、構わない。()()、プーアル!」

「いっ、いきますっ!」

 

 

 ────ジョキンッ!

 

 

 金属が擦れる音のあと、細く軽い何かが落ちる音が続く。

 それが何度か繰り返されて、およそ十数分後。

 静寂が戻った塒の中から一台の車が荒野に向かって飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 

「ひい、ふぅ、みぃ、よぉ…………。ケケケッ、ちょろいもんだぜ!」

 

 

 一方その頃。

 荒野から突き出した岩場に腰掛けながら悪い笑みを浮かべる男が一人いた。

 年齢は恐らく十代半ばから二十代手前くらいだろうか。

 碌に手入れもされていないのが一目で分かるボサボサの薄汚れたロン毛に、ザ・悪人という第一印象を与える人相が特徴的だ。

 頬には十字の傷があり、それが一層のこと顔を凶悪そうに彩っている。

 その手には紙幣の束が握られており、心底から人を馬鹿にしているような笑い声を上げだ。

 

 

「汗水垂らして働くなンて、まったくバカらしいったらありゃしねェなあ!そんなの持ってるやつをこうやって脅して奪えば一瞬だろうがよぉ〜!ギャハハハハッ!」

 

 

 その男の近くには、暴行を受けたあとのように血を流し顔を腫らして倒れ伏す男性が一人、同じく頬を腫らす女性が一人、泣きじゃくる少年と少女がいる。

 特に男性の状態は酷く、顔だけじゃなく服を剥かれた全身に青痣が出来ていた。

 恐らくこの四人は家族であり、妻や子供を庇ったか人質に取られた父親が一方的に暴行を受けたのだと思われる。

 それはあまりにも悲惨な光景であった。

 

 

「なあっ、テメェらもそう思うよなァ?オイッ!」

「ヒィッ!お、思います!だから、もう私たちを解放してください!」

「あ?なンで、このヤムチャ様がテメェの頼みを聞かなきゃなんねェんだよ?ブワァカめ!」

 

 

 女性の必死の嘆願も虚しく、ヤムチャを名乗る男は一笑に付した。

 それどころか浅く呼吸を繰り返す満身創痍の男性に対して、唾を吐き捨てる始末である。

 紙幣の束を懐に仕舞い、今度は剥ぎ取った装飾品の類やホイポイカプセルを物色し始めた。

 

 

「……お願いします!お願いします!もう許してください!」

 

 

 ヤムチャがそうして戦利品を漁っている間、女性は何度も何度も頭を下げて頼み込んだ。

 最初は機嫌が良くて聞き流していた男は、次第に耳障りになったのか。

 凶悪な人相を怒りによって赤く染めて怒鳴り散らそうとして、改めて女性の姿を眺めたあとに何かを思いついたのかイヤらしく口元を歪めた。

 

 

「なァ、オイ。助かりてェか?」

「は、はいっ!お願いします!何でも致しますから!」

「へぇ……何でもねえ?そりゃまた面白ェこといいやがるな。じゃあ、テメェの覚悟がどれほどのもんか見せてみろよ」

「えっ?そ、それは、あの、どういう……?」

 

 

 その言葉には答えない。

 しかし、男の視線が何よりも雄弁に語る。

 女性の肢体を舐め回すかのように視線を這わせ、思わず溢れそうになった涎を拭って舌舐めずりする。

 

 

「まさか……そ、それだけはっ!」

「あン?何でもするって言ったよなあ?アレは嘘だったのか……そォかあ〜、ショックだぜ〜。んじゃあ、腹いせにそこの男は殺すか」

 

 

 あっさりと、至極簡単に告げられた言葉に女性の息が詰まる。

 だが、地面に雑に突き刺されていた湾刀を手に取った姿を見て、本気で夫を殺すつもりであることを理解せざるを得なかった。

 

 実際このヤムチャはこれまで同じように旅人を襲ってきた中で、既に何人かを殺害している。

 うっかり手加減を間違えた結果であったり、ただ衝動に任せてみたりと様々だが、要するに人殺しを躊躇うような人間性の持ち主ではない。

 ハイエナヤムチャは少し前よりも残虐性を増しているとして、それこそ最近では指名手配までされていて賞金が懸かっているほどに大暴れしている。

 

 女性もそんな噂の一部を聞いたことがあったのかもしれない。

 顔を真っ白にしながら、悲鳴のような声で叫んだ。

 

 

「待って!……待ってくださいっ!分かりました!やりますっ!何でもやりますからっ!!」

 

 

 溢れんばかりの涙を湛えた目を諦観によって陰らせながら、夫に迫る危機を回避しようと必死に叫ぶ。

 そのまま服を震える手で脱ごうと手を掛ける。

 グフフと男が気色の悪い声を漏らして、その様子をじっくりと眺めるために歩みを止めた。

 

 こんな状況ではあるが、男が劣情を催したことからも分かる通り女性は整った容姿をしていた。

 頰が腫れているせいで痛々しいが、()()()()()()があるヤムチャからしてみればだからこそ一層興奮する要素にしかならない。

 服の裾が少しずつ捲れていき、白く綺麗な素肌が見える。

 鼻息が荒くなり、今にも襲い掛かりそうなほどに目を血走らせた男は、ふと車の駆動音を耳にして辺りを見回す。

 

 そして、男はこちらに向かって直進してくる車の姿を捉えた。

 この荒野の只中で迷いのない動きは、地理を知り尽くしている地元の人間か、或いはこの場に用でもあるのか。

 ヤムチャは盗賊としての勘から、後者であると勘づいた。

 

 

「あァ?ンだよ、これからお楽しみって時によぉ〜!」

 

 

 明らかな苛立ちを含ませた声を聞いて、上半身だけ下着姿となった女性は絶望に顔を染め上げる。

 どこの誰だか知らないけれど、何故このタイミングなのか。

 もしかしたら自分の身を犠牲にすれば家族は助かったかもしれないのに、もうそれも期待出来そうにない。

 

 男の予想通り、車は程近いところで止まった。

 車内から現れたのは()()()()()()()()に、緑色の武道着を身に付けた少年である。

 まだあどけない顔立ちながらイケメンであることが一目瞭然の容姿をしており、車に同乗していたらしい小さな獣人族が肩に乗る姿は、この凄惨な暴行現場には似つかわしくなかった。

 

 

「テメェ……何者だァ?ここに俺様が、ヤムチャ様がいると分かってて来たんだろうなァ!?ぶっ殺されてェなら望み通り殺してやるよッ!!」

 

 

 お楽しみを邪魔されたヤムチャは顔を凶悪に歪める。

 その目には色濃い殺意が浮かんでおり、男が握る湾刀の柄からはギチギチと音が鳴る。

 先程意識が戻った男性も含めた男の被害者たちは、これから殺されるであろう少年の姿を見ていられないと目を瞑る。

 

 しかし、数秒経っても何も音がしない。

 少年の悲鳴も聞こえず、微かに鈍い音が聞こえたような気がするくらいだ。

 恐る恐る目を開いた時に見えた光景は、信じ難いものだった。

 

 あの凶悪なヤムチャが、白目を剥いて崩れ落ちているのだ。

 あれほど強く握りしめていた湾刀は粉々に砕けており、男の目の前には緩く拳を突き出した姿勢の名も知らない少年が一人いるだけ。

 まさか彼がやったのか?このたった一瞬で。

 この場にいる誰もが声も出せないほど驚きに包まれる中で、少年が突然涙を溢れさせながら拳を強く握った。

 

 

「……やっと終わった。同じ名前というだけで詰られ、虐められる日々が終わったんだ!あの極悪人、荒野のハイエナヤムチャを倒したんだ!やったっ、やったぁー!」

 

 

 歓喜に咽び泣く少年を見て、その言を聞いて男性と女性はある可能性に思い至った。

 先程少年は同じ名前だと言っていた。

 もし彼の名前がヤムチャだとしたら?悪名轟く荒野の生まれだとしたら?

 まだ幼い彼のような少年が旅人を襲って盗みを働くわけはないが、人間というのは時として残酷だ。

 恐らく名前が同じというだけで辛い人生を送ってきたのだろう。

 自分たちの状態さえ忘れて、男性と女性は僅かに涙を滲ませて少年の悲哀に共感した。

 

 

「ハッ……まさか貴方たちはこの男、ハイエナヤムチャの被害者ですか!?これは酷い怪我だっ、ヤムチャめ許せん!プーアル、手頃な縄と応急キットを車から持ってきてくれ!」

「分かりました!()()()()()!」

 

 

 自分たちに気付いていなかったのか、驚いた表情をした少年が急いで駆け寄ってきて、女性の夫の容態を確認してすぐに獣人の子供に指示を飛ばす。

 その際に、やはり少年の名前がヤムチャであることが判明した。

 ヤムチャ(悪)を縄で縛ったあと、手際良く手当てをする間も女性の方向は極力見ないようにしており、その気遣いに胸の内が温かくなる。

 女性も服を着直してから、プーアルと呼ばれた獣人から軽い手当てを受けた。

 

 暫くして、少し場が落ち着いてから今後のことを話し合った。

 基本的に話し合いはヤムチャ(善)と男性の間で行われて、ハイエナヤムチャには賞金が懸かっていたこと、塒を突き止めたヤムチャ(善)が今までヤムチャ(悪)が集めたであろう盗品を回収したことなどを互いに説明した。

 その結果、盗品の返品や詳しい事情を説明するためにもヤムチャ(善)はヤムチャ(悪)を指名手配した町への輸送を手伝うことになる。

 

 到着した町では最近になって凶悪化していたハイエナヤムチャを捕らえたとあって大歓迎を受けた。

 事情聴取や盗品の返品などで数日時間を取られたが、指名手配の報奨金だけでなく今までの被害者たちから感謝の言葉と共に個人的なお礼として渡された分、全て合わせて数百万ゼニーを手に入れたことになる。

 誰かのためにやったことではないとして直接の感謝の言葉は受け取らず、それでもという礼だけは受け取った形だ。

 ちなみに指名手配の報奨金は十万ゼニーであり、手に入った金の大部分は実は大金持ちだったという直接ヤムチャ(善)が助けた家族からもらった物である。

 

 ヤムチャ(善)は一連の手続きなどが終わった翌日の早朝に町から去ろうとしたが、待ち構えていたあの家族に見送られる形で町を出ていく。

 無人の荒野を走る車には、見えなくなるまでずっと感謝の言葉が届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





おまけ

ヤムチャが颯爽と助けに現れた時、実はヤムチャの内心は大変なことになっていた。

(キャアアアア!なんでっ、なんで上半身裸なの!?見れないっ、向こうを見た瞬間オレは気絶する自信があるっ!!)

アビャー!
下着姿の女性を見て発狂寸前!
そう、ヤムチャは女性限定の極度のあがり症なのだ!

「〜〜望み通り殺してやるよッ!!」

(ファッ!?なになになにっ!?ごめん話なんも聞いてなかった!やばいこのままじゃ殺されッ!…………って、動きおっそ!何こいつクソ雑魚じゃん!ラッキー!)

刀、バキバキー。正拳突き、ドン!(手加減)

(あ、あれ?めちゃくちゃ軽く打ったのに一撃?動きもすっとろいし、こいつ完全に見た目だけのやつだったかぁ〜。自分がどのくらい強くなったのか確認したかったんだけど、まあしょうがないな)

なお、この時に一瞬女性の下着姿を見てしまったことで、少しだけ女性に免疫がついたヤムチャであった。

ちゃんちゃん♪♪
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