転生したら黒蝕竜だった件 作:転スラ好きのライズ民
勝てる、勝てるはずだった。
あの魔王リムルは、予想以上のバケモノで……。
「強すぎる、強すぎるのよ」
私の最強の手駒、ユウキを魔王リムルにぶつけ、ちょうど逃亡できる隙間が私にできた。
でも、この中でユウキのように大きな欲望を持った者が目の前にいる。
無様ね、無様なの。
魔王リムルの妹。
ただそれだけが書かれた、情報のない報告書。
まさかそれが今ここで役に立つなんて。
開国祭でもほとんど顔を見せず、引きこもりの王女と噂される存在。
シャガリ=テンペスト・アルカーノ。
不自然なほど情報は出回っていなかったのだけれど、その大きな欲望を隠すためと考えれば納得がいく。
恐らく精神面に難があって幽閉されているのね。
だとしたら御しやすい。
実に幸運、幸運なの。
そのたびに焦った表情をしているのを見ると、やはり魔王リムルが可笑しいだけなのね。
王女シャガリを操れば、魔王リムルへの抑止力になるかもしれない。
……それにしても、目が見えないようね。
一行に目を開ける気配が無いということは、それも引きこもっている原因なのかもしれない。
ただ、それなら何故遺跡探索に来たのかという話になる。
大方、お人好しと称される魔王リムルが連れまわしているということね。
「支配するのよ!
一瞬抵抗したような素振りを見せた王女シャガリ。
しかし、次の瞬間には私の支配に落ちた。
これは上出来よ。上出来なの。
……?
先程まで光を全て吸い込むような黒だった王女シャガリの髪色の一部が、金色に染まっている。
おぞましい、私の支配を振り切るような力が左半身から放たれ始める。
命令をしていないにも関わらず左半身を掻きむしり始めた。
しばらくして、何事もなかったようにその気配は消沈する。
何よ、何なの。
王女シャガリはスライムではなかったというの?
掻きむしる時、背中から二本の翼と思わしきナニカを出す。
ボロボロになった皮膚は瞬く間に塞がっていったけれど、スライムがあんな鱗を持っているものなの?
明らかに、異質。
とにかく、王女シャガリを使って魔王リムルを始末、もしくはこちらに有利な交渉をする。
そう思い私は歩き出した。
「……なっ!?」
唐突に、私は躓く。
おかしい。体に全く力が入らない。
というか、まるで
そんな、そんな馬鹿なことがあるわけない、あるはずがないのよ。
そう思って立とうとするも、上手く体に力が入らない。
生命力、魔力……いや、また別のナニカが吸われている……?
「ふざケ、ル、na……わた、しは蝕ム、もノ……」
声が聞こえたので、急いで後ろを振り向く。
……そんなことが、あっていいはずが。
王女シャガリが、こちらを凝視していた。
黄金色に輝く角と、黒と赤に輝く角を輝かせ、左目に赤い光を宿して。
黒い霧が周囲を包んだと思えば、王女シャガリは塵となって消えていった。
それと同時に、力が戻ったのを感じる。
一体、なんだったというの。
手駒を失ってしまったし、さっさと動力炉とやらを爆破させなくては。
ユウキからの報告では、最下層の一番奥にそれがあるはず。
そこを目指し、私は走る。
《……告。全ての
走る途中声が聞こえたような気がしたけれど、後ろを振り向いても誰もいない。
いけないわ。やはり頭が混乱しているようね。
一番奥にたどり着いたけれど、そこには何もなかった。
……そんな、ユウキからの報告では確かに動力炉があるはずだと。
「アハハハハハ!ここには動力炉なんてものはないぜ?」
後ろから聞こえたのは、そのユウキの声。
ユウキは、私を騙していたと言う。
私の、感情に由来する最強の力が……。
今までに培ってきた自信の全て、それが崩壊する音がする。
なんて、なんてことなの……。
《力が欲しいかい?なら、ボクの手を取るんだ》
声が聞こえた。
今度は、走っていた時のような声ではなくはっきりと。
……そうね、そうなのよ。
このままだと、私は殺される。
この声の手を取れば、私は力を得られる。
……認められるはずがないの。
私は、私。
こんな得体の知れない力なんて、どうせしゃぶり尽くされるに決まっているわ。
弱者は淘汰され、富は全て集約する。
そんな世界を目指すのだから、私は今弱者になったのだと、そう感じるしかない。
《そうかい。じゃあ仕方ないね。勝手にしなよ》
素早く近づいてきたユウキに腹部を貫かれ、私は血を吐く。
……あぁ、やはり私は死ぬのね。
力が吸われてゆくのを感じる。
ただ、あの王女シャガリを前にした時のような得体の知れなさではない。
単純に
負けた、負けたのよ。
私はユウキの欲望の大きさに負けた。
……それでも、思い出す。
王女シャガリは、欲望自体は大きかったけれど巨大というほどではなかった。
どちらかと言うと、そのドス黒さが私を超えて――
そこまで考えて、私は魔王リムルの欲望も思い出す。
あぁ、やはりそうだったのよ。
魔王リムル、王女シャガリ、
彼女らは、欲望の"質"が違うのだと。
ユニークスキル、その上が、恐らくある。
その中でも、王女シャガリは底知れない暗さの欲望を持っていた。
ユウキに一つ、私は遺言を遺すことにした。
「ガハッ……ユウキ……最後に一つ、警告するの」
「なんだい?負け惜しみかい?」
「王女、シャガリに……気を付けなさい……」
最悪ね、最悪な……生だったのよ……。