転生したら黒蝕竜だった件 作:転スラ好きのライズ民
私はウルティマ師匠に会いに来ていた。
ダグリュールに約束した、砂漠の緑化も進めなきゃな。
魔素を取り込み、浄化する機械を用意している。
これを砂漠の各所に置けば、数年ほどで緑化に成功するだろう。
ダグリュールは私にとても感謝していた。
ふふん、いいだろう。
しかし、調子に乗っていた私にはやはりウルティマ師匠の鉄槌が。
強制的に拷も――戦闘訓練を受けされられ、逆に元気が出たかもしれない。
あれからずっと思い悩んでいたし、吹っ切れてよかった。
これもウルティマ師匠ならではの励ましだな。
和やかとは言い難いが、平和な空気。
そんな空気は、突如として起こった揺れによって離散した。
天通閣と呼ばれる大きな塔の内部に、巨大な気配が出現する。
全く、ちょっとは休ませてほしいもんだ……。
『お母様、こちらには蟲の大軍が来ましたよぉ。どうしますぅ?』
『遠慮はいらない。やれ』
『了解ですぅ』
しかも、ミリムのとこに派遣していたスズネから報告が入った。
ミリム領に蟲の大軍が出現したとのことだが……。
その親玉はゼラヌスという奴だろう?
大体存在値は私と同じくらいか、それより低いくらいのはずだ。
それは存在値だけで見た強さの差であり、質より量をできる私達なら負ける道理はない、はず。
とりあえずできるとこまでやってくれという感じだ。
最悪、私の並列存在が向かおう。
『母さん、こっちにはヴェガという奴が来たぞ』
『やばいな。とりあえず、できる範囲で撃退してくれ』
『無茶振りだなぁ……』
ビアンカからも報告が来た。
イングラシア王国にいるのだが、ヴェガが現れただと?
不味いな。
ヴェガは不味い。
私の並列存在は……。
と思ったが、ビアンカなら何とかなるか……?
どうしようもならなくなったら連絡してくれ、と伝え、会話を終えた。
「まずは、天通閣だな」
ウルティマ師匠は既に戦場に向かった。
ディーノ達が侵攻してきたようなのだ。
レオンもいることから、恐らくリムルも来るだろう。
その前に……私は竜種級の存在値を持つ奴を倒しに行こうか。
天通閣の揺れと同時に現れた禍々しい気配……。
だが、
……っと、いけない。
油断するのは止めて本気で行かなければな。
私が気配の場所に瞬間移動すると、そこにはダグリュールもいた。
フェン、と呼んでいたことから、コイツの名前はフェンか。
コイツは、フェンは、確かに強い。
ただ……なんだか驕りが見える。
強い力を持つ者の宿命というか、実際私も似たようなもんなのだが。
ウルティマ師匠達に膝をつかされたヴェルグリンドのように、力の強い者には常に慢心がつきまとう。
そんなことをしていると、さらに強い奴にやられて死んでもおかしくないというのに。
「
私は後ろから紅い雷を放つ。
単体で技を放つ分には手加減無しの、全力全開。
龍属性も付与しているので、たとえ魔王種であろうとも一発で死ぬだろう。
それがこいつに効くかは分からないのだが……。
それを見越して、雷が当たる前の段階で
勿論、それだけではない。
剣に力を付与し、斬りかかる。
「
一番目に発動した
それに内心舌打ちしつつ、雷が直撃した。
これはしっかり効いたようで、フェンが吹き飛ぶ。
体にデカい穴が空いてるが、精神生命体なんだから大したことない傷だろう。
リムルの例があるから、この程度で油断するわけにはいかない。
「ちょ、待っ――」
待たない。
その程度、あのフォティアなら大した傷にもなってなかった。
因果律を弄っても再生しようとするなど、理不尽極まりない。
現に、コイツのエネルギーは大して減っていない。
精神生命体は、理不尽だ。
剣に纏わせた禁忌の力が直撃し、さらに下半身を吹き飛ばす。
「待、待ってくれ。オレが悪かった。調子に乗ってたンだ……」
この状態でも喋るのか?
それにしても、竜種級の力だと思ったのにヴェルドラに比べたら格落ち感があるな。
ヴェルドラはヤバイぞ。
私の使う雷を普通に避けていくんだから。
恐らく
周囲に散らばった私の魔素を利用して反撃を加えてきたりもする。
両者共に結界を破壊するから、終わるころにはボロボロだ。
……いや、油断はよくないな。
しっかりトドメを刺しておこう。
「待ってくれシャガリ。ここはワシの顔を立てて、ソイツを助けてやってはくれぬか」
「そうは言うがな、コイツは今でも私の隙を伺っているぞ」
「それはそうなのだが……」
「おい、兄貴!何とかしてくれこの女を!」
横にいたダグリュールが口を出してきた。
弟だっけ?
敵対するなら戦うしかないよな。
ダグリュールに意識を向けた瞬間、フェンは私を鎖で拘束しようとしてきた。
恐らく
鎖の先端が私の肉体に触れた瞬間、ボロボロと崩れて塵になった。
罠無効があるから、そういうのは効かないんだよね……。
さて、こんな危険な奴をどうするか。
あ、そうだ。
そういえば、私は便利な権能を持ってるんだった。
隙をつかれてやられる危険性があるのなら、それをできなくすればいい。
「魂魄掌握」という、権能を使ってな。
驚くべきことに、スルッと魂を抜き出せた。
これならリムルも――
いや、リムルなら普通に反撃してきそうだ。
「じゃ、話を聞こうか」
そう言って私は、ダグリュールの話を本格的に聞くことに。
ダグリュールは語りだす。
どうやら、このフェンと、もう一人グラソードという奴はダグリュールの兄弟らしい。
三人は昔、最悪の巨神とか破壊神とか呼ばれてたとか。
その状態こそが本気という訳だな。
道理で、この状態だと大した強さに感じられなかった訳である。
奥の手として時間停止でもしようとしていたことを吐かせたが、私動けるから。
それを言った時のダグリュールは何とも言えない微妙な顔をしていた。
今はそれはいいだろう。
ダグリュールはフェンと記憶を交差させたことにより、リムルと敵対しようとしていたらしい。
同族の巨人達を救うため、ダグリュールは立ち上がろうとしたのだが……。
その場に私が現れ、文字通りフェンを真っ二つにしてしまったと。
うむ、この地を今すぐ救う手段が無いわけではないのだ。
ということで、私と取引しないか?
「……何であるか?」
「このまま暴れてもらってヴェルドラをおびき寄せ、それを使ってもらうという作戦だ」
「暴れていいってことかよ?」
「そうだとも。ほどよくシオン達に経験を積ませてやってくれ」
魂は返したが、複製して分離させた
もし必要以上のことをすれば、これを握りつぶすだけでフェンは死ぬ。
さながらクレイマンになった気分だ。
ただ、勝つためには手段を選んではいられないんだよ……。
――――――――
その日、ミリム領にて。
そこに
三十万以上の大量の蟲が蠢き、まるで黒い波のよう。
八名の十二蟲将も勢揃いしており、威容を見せつけていた。
その数、その質、ミリム領にいる戦力では苦戦は免れなかっただろう。
そこに究極の力を持つ者が大量にいなければ。
「薙ぎ払え!って感じですよぉ」
「「「
「そこ!回復魔法でも撒いてくださぁい」
「「「
龍教蟲師団が先陣を切り、惜しげもなく神聖魔法を放つ。
大量の
そして、回帰再生を大量にいる軍団全員に付与する神の芸当。
それこそが、彼らの王の
その大いなる加護に守られた軍団から、遅れて大量の魔法が放たれる。
「
「
「
「
「
本来ミリムを始めとする「魔素増殖炉」を持つ者にしか扱えないはずの星粒子。
それは「盟約執行」によって究極の力を持つ近衛達に等しく与えられる。
それらの魔法を、卓越した「空間支配」によって跳ね返す予定だった十二蟲将の一人、ピリオドはその光景に戦慄する。
ミリムが放つ
本来ならば、惑星上で使うようなものではない。
しかし、この場は情報世界によって完全保護されていた。
さらに、情報世界に包まれたことにより、ここではミリム領にいる軍勢全てが不死性を発揮する結果にもなっている。
一部跳ね返ってきた魔法は、完璧に制御された
星の舞う光景を狼煙として、飛獣騎士団やミリム親衛隊、天翔衆などのミリム麾下の戦士達。
そして、ゲルド麾下の
彼らが交戦を開始する。
特に、龍教蟲師団や魔導蟲師団にはない防御力を持つゲルドの軍団は頼もしい背中を見せた。
この時点で、蟲魔王ゼラヌスが率いる軍団は一万にも満たない少数へとなっている。
上位個体はボロボロになっており、それは十二蟲将も例外ではない。
ピリオドは魔法を跳ね返した反動により、魔力回路が"完全に"破壊された。
それは呪いのように体を蝕み、同系統の力でしかかき消すことはできないのである。
その力は、龍属性。
本来耐性を持つはずの蟲の軍勢は、それ以上の力によって壊滅状態へと陥っていた。
「壮観ですねぇ」
摩天楼の上、ミリムが待機する場所でスズネは呟く。
一千万を超える軍勢を目の前にしても、その演算能力は尽きることがない。
それは個の力ではなく、一千万を超える軍勢全てが協力することによって成すことのできる、凄まじい御業。
ミリムは弱い者達が協力して自分ほどの力を出す姿に感嘆し、オベーラはその威力に恐怖した。
究極の力を持つ一万の近衛は、それぞれ十二蟲将へと向かっている。
十二蟲将の末路を思い、オベーラは宿敵に同情するほどだった。
「ミリム様、どうでしょう?」
「うむ。あのチームプレイはシャガリの軍勢ならではだな」
「個の力は経験が足らず、リムル様の軍勢には敵いませんけどねぇ」
統制を知らぬ蟲の軍勢は、協力することを知った蟲の軍勢に敗北しようとしていた。
一方その頃、イングラシア王都。
ここでは、人々が慌ただしく動いている。
突如として世界中で戦争が起こっていた。
それはここイングラシア王国も例外ではない。
数分前までは東の帝国の新皇帝こと勇者マサユキと、西側諸国の重鎮達による会議が行われていた。
それも大詰め、後は和解文書に調印するというタイミングで、王都を揺れが襲う。
それと同時に世界中から戦火の報告が相次ぎ、出席していたリムルは聖虚ダマルガニアへと発った。
その後すぐ、王都の周囲に異様な生命体が出現したとの報告が相次いだのだ。
ヒナタとテスタロッサが、その首謀者と思わしき者達を特定する。
王都の噴水周辺にて、評議会の問題行動により幽閉されていたエルリック王子が演説をしている。
その周りには死刑囚だったはずのライナー一派がいた。
そして、危険人物として報告されていたヴェガも。
これを脅威だと判断したテスタロッサは、直ちに応援を呼んだ。
マサユキの護衛の一人、ビアンカ。
重要な守護対象であるマサユキの護衛を外すのは問題だが、今回はその判断は正解と言える。
ヴェガは竜種級のエネルギーを持っており、ビアンカほどの猛者でないと対抗もできず死ぬからである。
テスタロッサ一人でも対処はできなくもないが、周囲への被害は勘定に入れることができない。
故に、サポートとしてビアンカが必要なのである。
そして、それはヴェガがただエネルギーが多いものと仮定した場合の話なのだ。
もしも、力を奪った対象であるシャガリの力を使えたならば――
その力は想像を絶する。
ビアンカがヴェガのいる場所に到着した。
周囲の戦力を分析し、自分の相手になる相手はほとんどいないと判断。
ヒナタとライナーが戦うようだが、油断をしなければ勝てる相手だと推測した。
(あの全身鎧の男……あいつはダメだな、勝てない)
しかし、気配を一般的な人間程度にしてエルリックの横に立っている全身鎧の男には分が悪いと悟った。
それもそのはず。
(あいつは、母さんが言ってたフォティアか?だとすると放置が正解かもな)
シャガリが敗北した、規格外の
今はただ立っているだけなため、ビアンカは放置を決めた。
もしもの時はシャガリを呼び出そうという作戦のもと、彼女はヴェガに向き直る。
ヴェガの威圧感はまさに竜種のようである。
「母さんに比べれば大したことないな。私が倒してやるよ」
「ハッ。お前を喰ってさらに力を増してやるよ」
ビアンカがヴェガに突貫する。
その双剣の一撃は、ヴェガの腕によって受け流された。
意志の力によって鎧を
そして、エネルギーを喰らう権能、能力吸収を発動させるヴェガ。
しかしそれは万全の状態で発動された
エネルギーに差があれば、今の攻撃はビアンカにダメージを与えられた可能性があるほどの攻撃だった。
ヴェガの存在値は二千五百万ほどだが、それはビアンカと二倍強ほどの差。
存在値だけで考えるならば、ビアンカに勝ち目はない。
しかし、ビアンカには
魔素増殖炉によって無限に魔素を生み出し、結界を強化して攻撃を無効化した。
それは使い捨てのように使っているため、存在値には直結しない。
生み出した魔素は凝縮して星粒子に変換し、結界の補強、武器への付与、覇気への変換など、多種多様なことに使えるのだ。
防御はもとより、攻撃も強化されるため――
「
星粒子によって強化された二連の斬撃がヴェガを襲う。
ヴェガの想定を超えてそれはダメージを残した。
両者、それに目を見開く。
とはいえ、それは当たり前のことである。
ヴェガは魔素増殖炉の権能がないため、星粒子を操ることができない。
だが、それによって与えたダメージは小さかった。
ヴェガはその再生能力とタフさでダメージを少なく抑えたのである。
思ったより喰らったとは思うものの、自分を瞬時に破壊するほどのダメージではないと判断。
それに笑みを浮かべた。
逆に、持久戦になりそうな予感を感じたビアンカの顔が引き攣る。
当初の予定通りではあるものの、ヴェガにある程度余裕を与えて逃げられないようにした後破壊するという作戦をすることになった。
テスタロッサの準備が終わるまで、精神をすり減らしながら戦う必要がある。
持久戦とはいえ、ヴェガの攻撃は受けると危険である。
ビアンカは切り札を切った。
「
"魂の回廊"を通じ、時間と空間を無視して体の主導権は委託された。
一片のミスも許されない場面において、
斬る、焼く、蝕む。
ヴェガが危険なことをしようとするたびにそれを妨害し、的確に戦場を導いていた。
実際に苦戦しているのは間違いではないため、ヴェガはそれに気づかない。
このまま行けば勝利は確定だと思われたが――
「やれやれ。新たな
突如として、ビアンカの真横にフォティアが立っていた。
思考加速により一億倍にまで加速していた思考ですら捉えきれないほどの高速移動――否。
それは痕跡を残すことなく転移が可能な、"瞬間移動"である。
フォティアは、自身に大きな傷をつけた
故に、その手札を観察する。
無尽蔵に作られる魔素、情報子の支配、他者の権能に似た権能を使うこと――
得た情報を完璧に再現し、最適化する能力だと判断した。
「テスタはサポートだし、実質二体一とは卑怯なもんだぜ」
「ハハッ、勝てばいいんだよ勝てば!」
「分不相応にも私に挑むその心意気は買うとも。素晴らしい、実に面白い」
フォティアとヴェガという二人に囲まれ、厳しい戦いになることを予測したビアンカとテスタロッサは顔をしかめる。
単純なヴェガだけならば、パターン化して対応が可能だ。
しかし、ユリアのデータがあったとしても予測不可能なフォティアがいることによって、勝率は確実に下がる。
しかし、
「大丈夫ですか、皆さん!」
戦場にマサユキがやってきたのである。
ユリアとシエルでも再現が未だ不可能である
彼がいるだけでその戦場の者達は最低ランクの究極の力を与えられ、その力に耐えられない者は幸運の補正によって耐えられるようになる。
実質、彼が一人いるだけで軍勢は究極の力を持つことになるのだ。
それは、疑似的な
そして、力がある者にはさらに大量の幸運の加護が訪れる。
一千万を超える存在値を持つビアンカには、マサユキの登場はまさに福音であった。