転生したら黒蝕竜だった件   作:転スラ好きのライズ民

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59:龍の焼燬

スズネは戦場を観察していた。

強そうな蟲魔族(インセクター)にはこちら側の強者を向かわせており、このまま行けば勝利は間違いないものだと考える。

特に危険であるゼスにはカレラが向かった。

次に危険そうなピリオドには、カレラの配下(トモダチ)のエスプリとフォビオが。

三番手と思わしきムジカにはゲルドが。

その他の蟲将はもはや相手にならないと推測する。

心配なのはガビルだが、たとえ死んだところでそれは終わりではない。

受けた傷の全ては回帰再生(インフィニート)によって再生し、たとえ即死したとしても迷宮の不死性がそれを救うのだ。

回帰再生(インフィニート)は、傷口に<気闘法>のように破壊エネルギーが溜まっていても構いなく再生させる。

破壊エネルギーが肉体を破壊するよりもなお早く肉体は再生するのである。

故に、苦戦はしても負けることがない。

味方が蟲将を次々と倒していくにも関わらず戦場の威圧感が少なくならないのは不気味であるが、護衛として横にいるロッサで十分対処可能である、とスズネは考える。

 

「ミリム様は、やはりゼラヌスを心配しているのですかぁ?」

「うむ。ここにいる者達の中で奴と戦えるのはワタシくらいだろうからな」

「ロッサは、どうでしょうかぁ」

「ワタシのように星粒子を操れるから戦えないこともないが……厳しいのだ」

 

いつの間にか戦場にはゼス、ピリオド、ムジカのみが残っており、膠着状態に陥っていた。

特に、ピリオドにはかなりの大人数による攻撃によって戦局が保たれていた。

しかしカレラがゼスを神滅弾(ジャッジメント)によって滅ぼしたことにより、事態が動く。

カレラの核を貫かんと、ゼラヌスが現れたのだ。

それは、カレラを離れた場所に転移させたスズネによって失敗に終わる。

空間の揺らぎを察知した瞬間、時間と空間を超越して迷宮の権能を発動させたのである。

かくして現れたゼラヌスは、別次元なほどの覇気を放っていた。

すぐさま飛んできたミリムと、ゼラヌスの一騎打ちが始まる。

それを遠目から観察したスズネは、やはりミリムは別格だ、と再確認した。

その圧倒的な力は、まだ魔素増殖炉を発動させていないのである。

ゼラヌスをミリムが押さえ、ゼスが死んだ以上、これ以上何も起こらないかと思われた。

だが、この戦場にはゼラヌスの策が一つ残っていたのである。

 

ピリオドが卵から孵化するように、蛹から脱皮するように、新たな姿へと変貌を遂げる。

今まで戦場で滅びた蟲達の力を統合したのだ。

それに魔国連邦(テンペスト)からの援軍も顔が引き攣る。

だが、それはすぐに喜びの顔へと変わった。

いつの間にかピリオドの周囲に一万名の王女近衛(エージェンツ)が待機していたのだ。

そして、その練り上げた禍々しい魔力を解放する。

 

『私達も力を統合するのですよぉ』

「「「天廻冥滅終束淵獄(アポカリプス・シャングリラ)」」」

 

紫色に輝く魔力の柱がピリオドの周囲を廻る、廻る、廻る――

シャガリ麾下の軍団全ての演算能力と魔力が合わさり、その技は完成されようとしていた。

天地を廻る魔力がやがてピリオドのいる一点に集中し、その暴威が吹き荒れる。

ピリオドはそれを空間支配によって受け流そうとしたものの、完全に破壊された魔力回路は空間支配を発動することはできなかった。

龍属性の嵐がピリオドを滅ぼし、その効果範囲にいたムジカをも消滅させる。

それは確実に敵のみを穿ち、魔国連邦(テンペスト)軍は傷一つ負っていない。

逆にダメージが回復するような感覚まで感じるほどであった。

魔国連邦(テンペスト)軍が蟲将二体を足止めしたことにより、一度シャガリを貫いた技を完成することができたのである。

希望を失わずに戦えた魔国連邦(テンペスト)軍。

攻撃を気にせず力を統合できた蠱毒猟団。

協力による完全勝利であった。

 

それを見て、ゼラヌスは危機感を覚えたのか撤退した。

自身の軍団は全て壊滅。

それにも関わらず、敵軍は被害がゼロ。

スリルのある戦場を体験したことにより、強化されていた。

ゼラヌスは臆病であり、勝ち目の見えない戦いをするほど無謀ではない。

大きすぎる損害を前に、潔く去っていった。

 

ゴブタが勝鬨を上げている。

ランガも同時に遠吠えをして、勝利を喜んでいる。

強大な敵を前にして勝利し、皆の気持ちが昂る。

かくして、この戦場は被害を出すこともなく順調に終わった。

――かに思われた。

 

――『吹雪よ、万物を凍てつかせ、眠らせなさい』――

 

突如として、戦場に吹雪が吹き荒れる。

その吹雪は一瞬にして辺りを氷に閉ざした。

――白氷竜ヴェルザード

この世界の最強たる竜種の長姉である。

戦場の外縁部にいた者達はヴェルザードに生殺与奪を握られた氷像と化している。

蟲魔族(インセクター)との戦闘が終わり油断したその瞬間を狙ったように放たれた吹雪は、対策のできていない戦場を大混乱に陥れた。

全てをホワイトアウトさせてゆき、一般の兵士も、隊長格も、Aランクオーバーの戦力であろうとも、全てが氷像と化す。

存在値が百万を超える超級覚醒者(ミリオンクラス)のみがこの場において無事だが、それも時間の問題で――

 

「待て、お前たち!逃げるのだ!」

 

フレイ、カリオン、ミッドレイ、オベーラ――ミリムは残っている者達に撤退を願う。

しかし、それが叶わないことは分かりきっていた。

ヴェルザードは、ヴェルグリンドと違い冷徹で、そして冷酷である。

誰一人逃がしはしないと、吹雪が強さを増す。

それに対抗できるのは、ミリムのような超越者のみ。

止めようと思えば、本気を出すくらいしか対処法が無いのである。

しかし、ミリムは常に周囲に気を配っているため、本気を出すことがないのだ。

本気を出した状態は狂化暴走(スタンピード)といい、ミリム自身にも制御がきかないのである。

故にこの場において、フレイはミリムに迷いを無くすことを選んだ。

ほとんどの者が足手まといになるこの状況では、元より逃げるのは不可能。

故に、氷像になってしまえばミリムの迷いは消える。

本気でヴェルザードの相手ができるようになるのだ。

皆ミリムが大好きで、その意志に逆らってもミリムに生き残ってほしいと願う。

この地に残ったカレラも、他に選択肢が無いと覚悟を決める。

その手に持つ黄金銃が一瞬光るが、それはこの場において無意味であった。

現れたはずの「彼」は、「異物(スズネ)」の采配によって出現していない。

絶望的な状況。

全員が覚悟を決め、ヴェルザードに向き直る。

 

――『愚かね』――

 

しかし、その覚悟をあざ笑うように冷気が全てを凍らせた。

それは超級覚醒者(ミリオンクラス)も例外ではない。

全てが凍てつき、戦場に静寂が満ちる。

ただ一人、呆然と立つミリムを除いて戦場は氷に覆われた。

そのミリムの顔は、ただ一つを残して感情が抜け落ちる。

それは怒り。

 

「許さないのだ!!!」

 

ミリムの怒りに呼応して、彼女の持つ権能が稼働する。

それは「魔素増殖炉」の本来の主の姿。

その凶悪な権能――「憤怒之王(サタナエル)」が完全開放されようとして――

 

 

 

「――炎妃王極星覇(ハイパーノヴァ)!!!」

 

 

 

空から閃光が迸った。

圧倒的な熱が周囲を覆い、瞬時に氷像が融けてゆく。

粉塵が舞い、それが爆発を繰り返していた。

蒼い炎と紅い炎が入り交じり、さながら煉獄のような形相へと戦場が変化する。

先程まで絶対零度だった戦場は突如として炎に包まれたのだ。

その被害は張り巡らされた情報世界によってゼロに抑えられ、的確に氷像となった者達を救出していた。

それを成した者こそ――

 

「焦ったぜ。まさかヴェルザード様が来るなんてな」

「熱を使う人がいてよかったですよぉ、ほんと」

 

魔素増殖炉の新たな使い手、ロッサ。

ミリムほど出力は高くないが、シャガリからの加護を受けることによって凄まじい力を発揮することができる。

自身の体の限界を超えて星粒子を受け入れ、発動したのが先程の技。

炎王竜星爆(スーパーノヴァ)炎妃竜星爆(ヘルフレア)を合体させたものである。

しかし、その反動は大きい。

ロッサは生きているのが不思議なほどの大怪我を負った。

だが、それを見越してスズネが動く。

シャガリから受けたエネルギーを回復能力へと変換させ、周囲に伝播させたのだ。

負けないという一点において、シャガリとその配下は強い。

希望はまだ残っていた。

 

「お前たち、大丈夫か!?」

 

戦場にシャガリも合流し、このまま行けば何事もなく鎮圧が可能――

そう誰もが思う。

 

 

 

 

 

それは誤りであった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

天通閣でゆっくりしてた私は、リムルに呼び出された。

どうやらただ事では無さそうなので、瞬間移動ですぐさま合流。

ダグリュールの裏切りは心配ないと告げる。

いちおうネーロは派遣しておくが、多分出番は来ないだろう。

西の戦場はもう問題が無いので、リムルの報告を聞く。

どうやら、ミリムのとこがピンチのようだが……。

リムルの神之瞳(アルゴス)で見てみると、なんかめっちゃ吹雪いていた。

視界が碌に機能しなさそうだ。

この吹雪はヴェルザードが来たということだろう。

ロッサならばギリ耐えられる……か?

いや、アイツなら自分の体を削って無茶しかねない。

スズネとロッサを派遣しているとはいえ、ヴェルザード相手には流石に厳しいだろう。

すぐさま私はそこに向かうことにした。

 

「おい、まずは俺が皆を集めるから――」

 

止めるリムルを無視し、私は瞬間移動をする。

すまない、リムル。

なんだか行きたくて仕方がない。

ミリムのとこにいる皆がピンチだと聞いたら、居ても立っても居られなくなってしまったのだ。

そう思い、瞬間移動を構築したのだが……。

 

移動した先は白い空間だった。

どことも知れぬ、謎の空間に私は転移してきたようなのだ。

 

「今は止めておきなさい。私からの忠告よ」

「どうしてだよ?ヴェルザードが来てるんだぞ?」

 

目の前にはプロトが。

こいつの仕業か。

早く行かなければならないのに、プロトは私を止める。

珍しい真剣な雰囲気に呑まれそうになるが、私は理由を聞いた。

ここでゆったりしてるとミリム達が危ないというのに。

 

「どうしても、よ。さらに危険なことになるわ」

「相変わらずの秘密主義だな……」

 

プロトは理由を話さない。

私の身を案じてくれているのは嬉しいが、今は行かなくては。

そう思いプロトを見つめ返すと、観念したのか溜息を吐いて「そう」と呟いた。

なんだか私も嫌な予感が止まらなくなってきたが、友達(ミリム)を助けに行くのに嫌な予感なんかを心配してられないだろう。

 

《……ふむ。ヴェルザード単体であれば勝利は確実だと思いますが》

 

私が再び瞬間移動をすると、何故か熱い。

周囲を見ると、どうやらロッサが無茶をやらかしたようだな。

さしずめ、超規模の大爆発を起こしたといった感じだろう。

スズネも疲れてるみたいだしヴェルザードは私が相手をしようか。

ヴェルザードは不機嫌そうな顔をしているがギィと戦いたいのだろうか。

だとしたら私達を巻き込まないでほしいものだ。

私は双剣を構え、ヴェルザードの前へと飛ぶ。

……やはり、嫌な予感は気のせいだったか?

 

「お前たち、大丈夫か!?」

 

私は自分が来たことを知らせるために声を出す。

それに、スズネとロッサは嬉しそうな顔をした。

いや、そんなに期待されても雷くらいしか攻撃手段が無いんだけど……。

 

とにかく、早くこの場から去って――

 

……は?

 

何故私はそんなことを考えて……。

……生存本能が、悲鳴を上げている?

私の意志に反して、体はこの場から逃げようとしている。

フォティアがいる訳でもないのに、何故。

何故か思考もここから逃げることに固執している。

プロトも来ない方がいいと言っていたが、もしかしてこれか?

私の判断が凄まじい間違いだったのではないかと、そう問いかけてくる。

そんなことは無いと信じたいのだが、柄にもなく熱くなってる自覚はある。

思考が交錯するくらいはあるあるなのかもしれない。

 

 

 

『やはり来たわね。計画通りだわ』

 

音が、光が、情報が、止まる。

世界の時が止まった。

いや、違う。

これは無限思考と似た、思考のみを停止させる権能だ。

 

『あの時思考誘導をかけたのは正解ね。これで貴女を葬れる』

 

そして、その私に語りかける少女の声。

プロトによく似ていながら、怖気を感じさせる不気味な声。

黒いドレスのアイツ、モイラだ。

いつの間にか私の後ろにモイラが立っている。

無限思考の影響なのか、特に何かされている気配はない。

私も無限思考をしている時は動けないし、それは当たり前の制約である。

だが、これが解かれた時どうなるのかは……。

――どうしても、よ。さらに危険なことになるわ。

プロトの言葉が思い出される。

そんなこと言われても、これは予測不可能だろう。

まさか、黒龍(ミラボレアス)が出張ってくるなんて。

 

「それじゃあ、サヨナラ。私に破壊されることを光栄に思いなさい」

 

無限思考が解かれる。

それと同時に、私の背後で練られた力が解放されようとしているのを感じた。

これは……避けられない。

私の思考は現実逃避気味に横にそれて、関係ないことを考え始めていた。

……モイラは聞き捨てならないことを言っていたな。

思考誘導されていた?この私が?

私を葬れると言っていたが、ここまで敵意をむき出しにされたのは初めてである。

私はモイラを睨み返す。

――あぁ、やはりこの邪龍はダメだ。

破壊を愉しむ目をしている。

このままでは、世界が――

 

《――緊急発動します!渾纏之神(ウボ=サスラ)神治之王(デミウルゴス)!》

 

「――劫火(ザ・フレイム)

劫火(ザ・フレイム)!!!」

 

炎が私を襲う。

だが、私も炎を吐き出した。

私の全力、究極の力を付与した炎。

あわよくば、相殺できないかと。

しかし、それは敵わない。

確かに私の全力の炎はモイラにダメージを与えた。

だが、モイラの炎は私単体を破壊するものではなかったのだ。

 

《これは……情報が燃やされて……》

 

私を構成する情報子が燃えてゆく。

私の神権発動(アノマリードミニオン)を燃やし、仲間たちとの"魂の回廊"が切れた。

力を譲渡、収集できなくなる。

片魂不滅が燃えてゆく。

ラミリスとの繋がりが焼け落ちるのを感じた。

龍属性を使う力が燃えた。

私の体を、炎に付与されている龍属性が侵蝕を始めるのが分かった。

渾纏が、結界が、ボロボロと灰になってゆく。

私を守るものが無くなった。

さらに炎が侵蝕を早める。

渾暴蝕が発動できなくなった。

発動させていた情報暴蝕覇(インフォエロ―ジョン)がフッと効力を失う。

世界創造(イツワリノセカイ)から放出される情報子が燃やされ、その効果を失わせた。

最後は情報世界にまでその炎が到達しようという所で――

私は咄嗟に時空間を跳躍し逃げようとするのが精一杯だった。

 

――あぁ、ダメだ

 

――これは、死ぬ。

 

――この、私が?

 

絶対に、生き残って――

 

 

 

――――――――

 

 

 

シャガリが消滅した。

情報世界はシャガリが消えたことによって閉じ、ラミリスの迷宮に隣接する集会所が消える。

世界を守っていた結界も消え去る。

源蟲五神を始めとするシャガリの配下達は、魂の繋がりを失った。

まるでシャガリが最初からこの世界に存在しなかったかのように、その痕跡がほぼ消え失せる。

 

――ヴェルシャガリ=テンペスト・アルカーノは、基軸世界から消失したのだ。

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