転生したら黒蝕竜だった件   作:転スラ好きのライズ民

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61:龍の家族(三人称)

ラミリスの迷宮。

そこは、今や物々しい雰囲気に包まれていた。

魔素を無限に供給してくれていた物理的な拠り所である集会所は消え失せ、リムルも消えたことにより万能感という精神的な拠り所も無くなった。

陰鬱な雰囲気が周囲を満たす。

魔国連邦(テンペスト)の幹部達が示し合わせたように会議をしていた。

しかし、その雰囲気はまだリムルとの繋がりは残っているというゼギオンの確信のもと払拭される。

リムルは消えた。

だが、その繋がりはまだ消えていないのだと、ゼギオンは力強く言い放つ。

それに幹部達は目に光を取り戻し、もう名付け親の庇護下にいるだけの雛ではないのだと己を鼓舞していた。

魔国連邦(テンペスト)の幹部達は、今名付け親(リムル)から巣立ちをしようとしていたのだ。

 

しかし、集会所側の者達の気分は暗いままである。

まるで焼き切れたかのように名付け親(シャガリ)との繋がりは強引に絶たれており、どこにもその存在を感じることができなくなっていた。

 

「私が、あの時母様をお守りしていれば……」

 

フウガが歯を食いしばりながら静かに呟く。

護衛を任されたのにも関わらず、身を挺して主を守ることができなかった己を恥じていた。

ベニマルはその姿を心配そうに見たのだが、時間が無いために会議室を退出していた。

侍大将がこの忙しさである故に、誰にも余裕などあるはずもなかったのである。

 

「いや、俺がヴェルザードなんかに苦戦しなければ、わざわざ母さんが助けに来ることも無かったはずなんだ」

「あのお方は竜種。それも、現在最も長く生きている竜種ですよぉ……。そう簡単に勝てたはずも……」

「結局、母さんに力を借りるくらいしか勝つ方法は無かったんだ……。情けない、俺は本当に情けない」

 

ロッサが怒りを吐露し、スズネが深い悲しみの籠った言葉を発する。

彼らは自覚していた。

自らが持つ権能がいくら強力でも、エネルギーの限界というものがある以上枷はあるものだと。

そして、彼らは精神生命体であるが故にエネルギーが尽きると死ぬのである。

並列存在を「時空連続攻撃」で破壊されてしまえば、再生することも無く滅びる。

魂を回収し何度でも生き返らせてくれるはずの(シャガリ)はもういない。

それぞれ魔素を生み出す権能があれど、全力で権能を行使して無事でいられるはずも無かった。

特にロッサはそれが顕著に現れている。

星粒子を体に巡らせ、大技を行使した影響は深い。

意識を保っているのが不思議なほどであり、ラミリスの迷宮の効果で生き永らえているのだ。

後悔と、迷い。

(シャガリ)を守れなかったことを深く悔み、(シャガリ)の作戦が失敗したことに迷いを抱いていた。

それは臣下として失格だと思うロッサだが、彼はシオンほど愚直に物事を考えられないのである。

源蟲五神達は、一片の迷いなくリムルを信じる、シオンを始めとした魔国連邦(テンペスト)の者達を眩しく思っていた。

 

「……僕はダグリュールの監視をするよ。それが母さんに言われたことだもの」

 

ネーロはただ愚直に、(シャガリ)を妄信的に信じる。

それは(シャガリ)が生きているという確信ではなく、死んだことを認められない防衛本能によるものである。

ネーロもまた、繋がりが焼き切れたことに気が付いていた。

世界中から情報を収集する役割も担っているネーロは、(シャガリ)が燃やされたその瞬間を目撃しているのだ。

その時、「死ぬ」という(シャガリ)の意志を間近に受けた。

あの最強だと信じて疑っていない彼らの母親(シャガリ)が死ぬと弱音を零した。

それ故の、絶望。

近くにいたフウガもまたその「死の意志」を感じ取っていた。

咄嗟に守られ、炎の範囲から脱出させられたことによりフウガは生きている。

守ると誓ったはずの命令を守れず、守られる始末。

深い絶望が場を満たしていた。

 

「私もまた作戦に失敗した。マサユキの護衛という最低限しか達成することができず、ヴェガを取り逃がし、挙句、マサユキ……ルドラに守られたのだ」

 

(シャガリ)の消滅を感じて、慌てて眠りから覚めたビアンカは後悔の言葉を吐き出す。

覚醒したマサユキはフェルドウェイの王宮城塞(キャッスルガード)を破って撤退に追い込ませた。

だが、ビアンカはマサユキの加護があるからこそヴェガとフォティアという途轍もない強さの敵に太刀打ちできたという思いがある。

同じ戦場にいたテスタロッサは着々と巣立ちをしようとしているのだが、ビアンカにその勇気は無かった。

源蟲五神は皆未熟であり、大きい力に振り回されている。

普段は気にならないほどの精神の強さでも、名付け親(シャガリ)との"魂の回廊"が焼き切れたという事態には冷静でいることなど不可能なのである。

誰かに頼るということは時に大きな力を生み出すが、一人でできる範囲を狭めてしまうことにもなるのだ。

 

そんな殺伐とした会議室の扉を何者かが開ける。

金色の服、金色の髪、そして、シャガリと似た容姿。

シャガリの母親、ヴェルシャリカである。

顔を青くしたプルチネルラを連れ、ヴェルシャリカは会議室に足を踏み入れた。

プルチネルラはヴェルシャリカに困惑の視線を向ける。

その視線を軽く流し、ヴェルシャリカは会議室にいる者達に向かって問う。

 

「貴方達、聞きなさい。私達は一体何?私達は、家族でしょう?」

「シャリカ様……しかしですな……」

「助け合うことしかできないから何だというの。家族とは助け合うもの。『家族であるならば理解し合うことが大事だ』というあの娘(シャガリ)の言葉を忘れたの?」

「――ッ!」

 

理解し合うからこそ、家族。

でないのならば、家族を成していない。

そうヴェルシャリカは結論を出した。

彼女の目は少し腫れていたが、それを感じさせないほどの威風堂々とした態度。

娘を信じ、それだけではなく全ての家族を信じる意志があった。

 

源蟲五神達は子供である。

巣立ちなど、することができない。

しかし、だからこそ家族(群れ)を作るのだ。

巣立ちができないから他者を頼る。

頼り、頼られ、相互に関わり合いながら生きている。

それを改めてヴェルシャリカから気づかされたのだ。

もう彼らの涙は止まっていた。

気が付けば、彼らは思いを静かに語りだしていた。

 

「私は母様を守れなかったことを悔いている。だがこのまま終わりたくは無かったのだ」

「俺はもっと強くならなきゃな。だが、まずは自分のできるところから始めてみるべきなのかもしれない。それを一歩踏み出すのが恐怖だったんだ」

「僕は母さんが死んだのを認めたくない。怖いんだ、とても」

「私には、母様の代わりは務まりません。だから、皆、力を貸してはくれませんかぁ?」

「マサユキの加護を受けて拮抗していたというのが果たしていいものなのか不安だった。だが、協力できるときにしておいた方がいいのかもな、とも思ったよ」

「今回、我輩は何もできなかった。本当にいてもいいのか不安であったが……確かにシャリカ様の言う通りであったわ」

「私もあの娘(シャガリ)がいなくなった時は不安でいっぱいだったわ。でも、あの娘(シャガリ)が言ってくれた言葉を思い出したの」

 

互いに思いを共有し合った後、彼らは行動を始める。

(シャガリ)が戻った時に悲しい顔をさせないような世界にするのが一番いいよね、と結論を出して。

自己満足的なもので、崇高な目的でもない。

それは根幹にある欲望だ。

 

「最悪、母様を復活させたらいいのではぁ?」

「いいな!竜の因子とか集めるか!」

「天使系とかそんな感じの究極能力(アルティメットスキル)も集めよう」

「フェルドウェイがヴェルダナーヴァを復活させようとしているのなら、私達が母さんを復活させようとしても何も問題は無いはずだ!」

 

シャガリの家族は、さらに深く、さらに強固に絆を作る。

特異点(イレギュラー)を起こさんとする意志が時間と空間を越えて届こうとしていた。

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