日本最強、錆白兵の友達   作:113(いちいちさん)

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第零話 未完成形変体刀"軟刀・革"

 俺の名前は艶黒兵衛(つやくろべえ)。身長六尺四三寸、黒髪のギザギザ逆立つ短髪、日焼けした褐色肌の筋肉隆々マッチョマンの剣士で、日本最強の剣士”錆白兵(さびはくへい)”の友達だ。

 ハクとの馴れ初めは十五年以上前、俺がまだ十七の若造だった頃だ。その頃の俺も寝ても覚めても剣の事しか考えない剣術馬鹿で、恐ろしく強い剣士がいるという噂を耳にしてその日の内に会いに行ったのが当時五つにして既に日本最強の片鱗を見せていたハクだった。因みにハクとは俺が付けたあだ名だ。自慢じゃないがこれでも当時の俺は負け無しで村一番の剣士と言われていた程で、ハクとの決闘が俺の初めての敗北だった。

 その時俺はハクにときめいてしまった。

 

か、格好良い・・・

 

 と。

 

 それからは事あるごとにハクに決闘を挑み、現在の戦績はニ〇〇〇戦、三四三勝、九九九敗、六五八引き分けである。

 そんなこんなである時、旅の途中で入った呉服屋で珍しい革の帯を見つけた所、なんとそれは鞘に納刀した日本刀!?ペラペラに薄い日本刀ですよ!

 店主に話を聞くとそれは父の友人の呉服商から物珍しさから買い取った物で、その呉服商もまた知人から譲り受けた物で詳しい事は誰も知らないという。

 唯、この刀を握った時に思った。

 

こんなに珍しい刀でハクと戦えればさぞや楽しいだろうな

 

 と。

 この刀を手に入れて二ヶ月間修行し、完璧に使いこなせる様になった頃。

 いざ決闘とハクの居る巌流島に向かった所なんと巌流島が焼け野原になっているではないか!とりあえずハクを探そうと休憩がてら御休み処に入った所、後ろの席の男女がなんとハクを討ち取ったと言う。

 ハクを討ったと聞いた時、俺は生まれて初めてプッツンした。いきなり斬りかからなかったその時の自分を褒めてやりたい。俺は二人に錆白兵の友人だと告げ、本当にハクを倒したのか確かめる為決闘を申し込んだ。

 男は虚刀流七代目当主”鑢七花(やすりしちか)”、女は尾張幕府家鳴将軍家直轄預奉所軍所総監督”とがめ”と名乗った。正直どちらもよく知らなかったがとりあえず迷惑にならないよう周りに何も無い草原へと場所を移し、とがめに立会人を頼み七花と決闘を開始した。

 両者一歩も譲らぬ大激闘を繰り広げたが、俺が昨日食べた団子が傷んでいたらしく、腹痛を理由に勝負は引き分けに終わった。戦ってみてわかったが七花という男、確かに強かったが正直ハクに負けはせずとも勝てるとも思えなかったが、話を聞く所本人達も何故勝てたのか不思議なくらいだったという。

 頭が冷えて冷静になった俺はこれまでの事を二人から聞いた。ハクが幕府を裏切り完成形変体刀"薄刀(はくとう)(はり)"を持ち逃げした事、ハクが二人に果たし状を送りつけた事、そして死の間際に、

 

この刀で一戦交えたかったでござるよ・・・クロ

 

 と言っていた事。

 全てを聞いた俺はハクの死を受け入れ、新しい生きがいを探す為二人の旅に着いて行く事に決めたのであった。

 ちなみに、とがめが俺の使っている刀をよく観させて欲しいと言ってきたので渡した所、彼女は、

 

「これは" 四季崎記紀(しきざききき)”が打ったとされる幻の刀、()()()形変体刀"軟刀(なんとう)(かわ)"ではないか?」

 

 と言った。

 話を聞くと四季崎が薄刀・針を打つ過程でできた失敗作であり、その薄さに物珍しさから興味を持った彼の友人に無償で譲った事が彼の手記に一文書かれていただけであり、その実物はおろか話すらも聞いた人はおらずそのまま何処かへと紛失した幻の刀だという。

 もっとも、その扱いの雑さゆえ大した物ではないとされ幕府すらも興味を持たず、捜索も行われていないそうなのでこのまま俺の所有物となった。

 

 

 

 そんなこんなで最初について行った先は"賊刀(ぞくとう)(よろい)"を持つとされる鎧海賊団の船長、" 校倉必(あぜくらかなら)"が居る薩摩だった。

 着いて早速校倉を見つけたのだが、賊刀・鎧は文字通り全身甲冑だったのだ。

 

 刀とはなんぞや?

 

 そんなこんなで鎧を賭けて勝負する事になったのだが、校倉が要求したのはなんととがめ自身だった。彼女に一目惚れしたらしい。

 最初は己の技が通用しない相手に動揺した七花だったが、最終的に技とか関係無い物理的な投げ飛ばしで勝利を収めた。

 今回の勝負で七花は嫉妬の感情を覚え人間に一歩近づいた事に、俺は切っ掛けを作ってくれた校倉に心の中で感謝するのだった。

 その後、鎧を脱ぎ船員に化けた校倉からとがめが昔亡くなった妹に似ていたと言う話を聞き、正体に気付いた俺が裏でコッソリ直接会わなくて良いのかと聞いたが、未練が残るからと言い去って行った。

 いつかあいつにも良い嫁さんが見つかると良いなと思いつつ薩摩を後にした。

 

 

 

 校倉の意趣返しで蝦夷に着いてしまった俺達は今、猛吹雪の中、踊山を登っていた。

 "双刀(そうとう)(かなづち)"を持つとされる凍空一族(いてぞらいちぞく)の村に向かっている訳だが、修行で雪山に籠った経験がある俺と違い二人は寒さに弱かった様で、今は俺が二人を担いで歩いている。

 

「あの!大丈夫ですか?」

 

 すると突然目の前に女の子が現れた。

 彼女は"凍空(いてぞら)こなゆき"と名乗り、彼女が暮らしている洞窟に案内された。

 彼女の話を聞くとなんと凍空一族の村は雪崩で壊滅しており彼女が唯一の生き残りだと言う。

 彼女はとがめに双刀・鎚について聞かれると、心当たりがあったらしく一人で刀を探しに行ってしまった。

 しかし、この吹雪の中女の子を一人にさせるのは心配だったのでこっそりついて行く事にした。村の跡地と見られる場所に着くと、花を添えて涙を流すこなゆきを見つけた。

 そういえば俺の家族は今どうしてるだろうか。出来の良い兄達に家を任せて修行の旅に飛び出して来たのだが、もう十年以上帰っていない。この旅が終わったら一度顔を見せておこうか、そんな事を考えながら俺は彼女と合流し二人で双刀・鎚探しを始めた。

 見つかった双刀・鎚は刀と言うより棍棒に近い見た目をしたとんでもなく重い刀だった。力自慢の俺でさえ持ち上げるのがやっとなそれをこなゆきは片手で軽々と振り回す。これで非力な方らしいから大人達は一体どれ程の化け物だったのだろうか。

 そんなこんなで刀を賭けて決闘する事になったのだが、殺さないよう手加減していた七花と、常人離れした怪力と素人で無邪気な彼女の変則的な動きに翻弄され、なんと七花は左腕を折られ敗北してしまう。

 その後、決闘の話は俺達がいなくなるのを寂しがったこなゆきの嘘だととがめが言うので、七花の事は彼女に任せて俺はこなゆきの元へ向かった。その結果、やはり寂しさからつい嘘を吐いてしまったらしく、謝る彼女に向かって俺は七花の傷が治るまで遊んでやると言った。

 彼女との遊びは割と命懸けだったが、良い修行になった。それに、段々と妙な気分になって行った。

 

 もしかしたら俺はこなゆきのお父さんだったのかもしれない。

 

 そんなこんなで数日後、真庭忍軍の”真庭(まにわ)狂犬(きょうけん)”とかいう奴が現れてあろう事かこなゆきに乗り移りやがった。

 そこで俺は二度目のプッツンをした。今回ばかりは俺自身がケジメをつける為狂犬と戦うと宣言し、どうにかこなゆきの身体を取り戻そうと乗り移った際にできた痣のみを集中攻撃したらあっさりと倒せてしまった。

 その後、他の真庭忍と一悶着あったがそれは割愛する。

 こなゆきは無事元に戻り、双刀・鎚を尾張に届けた後は三途神社に住まわせてもらうらしい。

 船の上で手を振るこなゆきを見送りつつ、普段は二人の仲を揶揄っているが、俺も結婚してああいう娘を持つのも悪く無いと思った。

 

 

 

 土佐で何故か" 悪刀(あくとう)(びた)"の所有者となっていた七花の姉、”鑢七実(やすりななみ)”と対決する事になった。

 彼女をひと目見た時思った、勝てないと。恐らく腕はハク以上、頭の中でニ七ニ通りの攻撃を試したが刃が届く気がしない。更に彼女は一度見た事を一瞬で覚え、身につけることができるという恐ろしい秘技”見稽古”とやらを持っているらしい。つまりは最初の一撃で倒す必要がある訳だ。

 そんな事を考えているといきなり七花が天井へ投げ飛ばされた。なんと彼女は凍空一族の村を襲い、その怪力を会得していたと言う。

 その言葉を聞いた時、俺は再びプッツンした。七花には悪いが、今日始めて会った知り合いの姉よりも俺はこなゆきの方が大切だ。俺がどうやって彼女を仕留めるか考える間に七花は敗北し今回は出直すことになった。

 

 その後、色々あって七花と七実の再戦が始まった。結果は七花の新技ととがめの奇策で勝つことができた。しかし、悪刀・鐚を失ってなお姉弟喧嘩という名の殺し合いは止まらなかった。七実がとがめへと向けた斬撃は俺が打ち落としたが、泣きながら戦う七花と全力を出すと身体が自壊してしまう七実との戦いを見ていられたかった俺は、七花のトドメの一撃に割って入り・・・

 

 七実の首を落とした。

 

 俺はそのまま驚愕した七花の一撃を腹に受け貫かれた。

 

「おっちゃん!?」

「すまねぇな、家族の間に割って入っちまって」

 

 俺はそう言うと気を失った。

 その後、目覚めると三日ほど経っていた様で、別に捨て置いても良かったというのに二人共俺が起きるのを待ってくれていた。

 七花は一週間ほど口を利いてはくれなかったが、

 

「俺にねぇちゃんを殺させないでくれて・・・ありがとう」

 

 と言ってくれた。

 

 

 

 俺達は今まで収集した刀を収める為一旦尾張へと向かった。

 二人が尾張城へ登城している間、無関係な俺は宿で一人稽古をしていた。戻って来たとがめの話によると江戸の不要湖に四季崎記紀の工房があったという。そこで何らかの情報が手に入らないかと向かうことになった。

 不要湖までの道案役として以前土佐で出会った際にも案内役をしていた、”否定姫(ひていひめ)”とか言うお姫様の懐刀”左右田右衛門左衛門(そうだえもんざえもん)”という元忍者の男が同行するらしい。

 彼に案内されて不要湖に着くと、そこには”日和号(びよりごう)”というからくり人形剣士が居た。そしてなんとそのからくり人形こそが" 微刀(びとう)(かんざし)"だったのだ。

 日和号は恐ろしく強く、また壊さずに無力化する必要があるため捕獲は困難を極めたが、最終的にはとがめの奇策により電池切れにさせることに成功した。

 この戦いで七花は刀としてだけでは無く人間としての自覚を持つ事ができたのであった。

 

 

 

 俺達は" 王刀(おうとう)(のこぎり)"を求めて出羽にたどり着き、将棋村に道場を構える心王一鞘流の十二代目当主”汽口慚愧(きぐちざんき)”と七花による王刀・鋸を賭けた決闘をすることになったのだが、生真面目過ぎる汽口は丸腰の七花との決闘を強く拒み、防具と木刀を持たされての勝負となったのだ。

 結果は虚刀流の弱点である武器を持つと極端に弱くなるという謎の体質により七花は敗北。さてどうするかと三人で考えていると泊まっていた宿に汽口が現れ、なんと自身の道場で七花を鍛え、改めて再戦したいと言うではないか。

 そんなこんなで稽古に前向きな七花は道場へ通うこととなり、俺ととがめは留守番することになった。

 ただ待っているだけでは暇なので汽口と七花の稽古をこっそり覗いていたのだが、汽口が七花の頭に付いていた虫を取る動作をたまたま目撃したとがめが接吻と勘違いしたり、七花の着ていた道着が破れたので着替えていたのだがまたもやたまたま目撃したとがめが風呂と勘違いしたり、とにかく面白いことになっていたので散々とがめをからかって痛くも痒くもないちぇりおを受けまくって過ごした。

 そんなこんなで再戦の日がやってきたのだが、結局はとがめの奇策で将棋の話に気を取られた所になんとも情けない七花の面を受けて汽口は敗北。とても静かに呆気なく、そして地味に終わったのである。

 

 

 

 俺達は" 誠刀(せいとう)(はかり)"を求めて奥州は陸奥の百刑場に住む仙人”彼我木輪廻(ひがきりんね)”のもとを尋ねたのだが、なんとその仙人とやらは見る人によって姿が変わるという、最早物の怪の類だったのだ。因みに俺には小さい女の子になったハクに見えている。

 彼我木によると誠刀・銓は俺達の足元、十畳程の深さに埋めてあるという。更にそれはとがめ一人の力で掘り起こさなければならないらしい。そう言うと彼我木は何処かへと消えてしまった。

 持ち主の仙人にそう言われたからには俺達が手伝うとどうなるか分かったものじゃないので、非力な彼女には悪いが見守らせて貰うことにした。

 とがめのもとから離れられない七花に変わって水や食料を調達しに行っているのだが、その間にも七花と彼我木がなにか話したり勝負したりしていたらしい。

 そして掘り始めてから数日、誠刀・銓を掘り起こすことに成功し、同時に二人の中で何かしら重要な心境の変化があったようだが俺にはそれが何なのか分からないし、とがめ達の事で何か聞いてはいけないような事を話している気がしたので少し離れた所で彼女達の話が終わるのを待っていた。

 三人の話が終わると彼我木は最後に、

 

「そういえば軟刀・革は君が持ってたんだね?君はたまたまこの時代に生まれて、たまたま錆白兵と出会い、そして四季崎が気紛れに手放した刀をたまたま手に入れた。君は存在自体が偶然の産物なんだよ。そんな君がこの物語にどう影響するか影から見守っているよ」

 

 とよくわからない事を言い残し、周りの森やとがめの掘った穴など初めから何も無かったかのように景色ごと綺麗さっぱり消えてしまった。

 

 仙人ってスゲー。

 

 

 

 百刑場からの帰り道、虚刀流が実は完成形変体刀と呼ばれる十二本の習作を経て作られた刀、完了形変体刀" 虚刀(きょとう)(やすり)"だったという話を聞いた。正直俺にはよく分からない話だがハクはその事について色々と知っていたらしい。

 そんな話をしていると、真庭忍軍の" 真庭(まにわ)人鳥(ぺんぎん)"とかいう子供が倒れているのを見つけた。

 彼によると真庭忍軍十二頭領の最後の一人" 真庭(まにわ)鳳凰(ほうおう)"が" 毒刀(どくとう)(めっき)"の毒にかかり乱心したという。

 そこで俺達は真庭・人鳥の真偽を確かめると共に毒刀・鍍を求めて伊賀にある真庭の隠れ里に向かった。

 俺達が着いた頃には既に里は壊滅しており、そこに居た真庭・鳳凰はなんと刀の毒により身体を四季崎記紀の人格に乗っ取られていたのだ。

 彼の話によると四季崎はなんと予知能力者であり彼が作った変体刀は全て未来の技術を逆輸入して作っていたという。

 因みに俺の所有する軟刀・革を見た四季崎は、

 

「俺が予知とは無関係に思いつきで手放した刀だったが、結局俺のもと返って来るとはなんとまぁ運命を感じるねぇ」

 

 と言った。

 そして彼の本当の目的は歴史の改変であり、本来の歴史ではとがめは存在しなかったらしい。そして彼女の父はこの改変された歴史を本来の姿に戻そうとしていたというのだ。

 何だか色々と重要そうな話をされて正直ついて行けそうになかったが、結局は七花が四季崎の憑依した鳳凰を倒し毒刀・鍍は無事回収された。

 

 

 

 完成形変体刀十二本の内十一本を集めた俺達は、最後の一本である" 炎刀(えんとう)(じゅう)"は否定姫が所持しているととがめが当たりを付けていたため尾張に戻ってきた。

 夕焼けの境内でいい雰囲気になっている二人を後方兄貴面で眺めていると、そこに左右田右衛門左衛門が現れた。

 

「ならば復讐と言った方が良いか?かつての奥州の顔役" 飛騨鷹比等(ひだたかひと)"の一人娘、" 容赦姫(ようしゃひめ)"さん」

「!?」

 

 右衛門左衛門の言葉に驚愕するとがめ。飛騨鷹比等の名は流石の俺でも知っている。二十年前、奥州で反乱を起こし国家転覆を企てた首謀者の名だからだ。

 

「悪しからず」

ダンッ!!ダンッ!!

 

 右衛門左衛門はそう言うと懐から炎刀・銃(未来で言う所のリボルバーとオートマチック銃)を取り出しとがめを撃った。

 しかし。

 

おい・・・なんのつもりだ?

 

 俺はその弾丸を打ち落とすと未だかつて無い声色でそう言った。

 俺は過去最大級にプッツンしていた。とがめの出自とか裏でどんな策謀が渦巻いているとか関係無い。とがめの命を狙った。その一点だけで俺の気持ちは決まった。

 俺はそのまま右衛門左衛門へ向かって行くと奴の撃ち出す銃弾を全て弾き落として斬りかかる。流石の右衛門左衛門も俺の行動は想定外だったらしく距離を取ると言った。

 

「お前、その娘を庇う意味、分かっているのか?」

「分かんねぇよお前らの事情なんざ。俺はただ二人の作る全国地図を見たいだけだ」

 

 そう言うと俺は目にも止まらぬ速さで斬りかかる。そこに七花も加わり流石に不利と見て右衛門左衛門は撤退する。

 奴が撤退したのを確認すると俺は二人に顔を向け、

 

「安心しな、お前ら二人の邪魔者は俺がきっちり始末してきてやる」

 

 そう言うと制止するとがめを置いて俺は尾張城へと走り出した。

 

「姫様」

「あら?随分早いご帰還ね?何かあったの?」

「申し訳ありません。不覚を取りました」

「はぁ?貴方、七花くん相手に何をしているの?」

「いえ、彼では無く・・・」

「へぇ・・・ふぅん・・・まぁ、それも面白そうね」

 

 右衛門左衛門の報告を聞いた否定姫は不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 そんなこんなで日も沈み切らぬ内に始まったたった一人の攻城合戦だったが、早々に”家鳴将軍家御側人十一人衆”とか言う奴らとの一対一の勝ち抜き戦が始まった。

 正直平兵士相手の峰打ち合戦に飽きてきた所だったのでちょうど良かった。

 ここまでの道のりは軟刀・革を使うまでも無かったので元々所持していた普通の刀を使っていたのだが、噂に聞くあの十一人衆相手なら出し惜しみは無しだろうと身構えた。

 しかし、その十一人衆は噂で聞いていたよりやけに弱く感じた。一人ひとりが完成形変体刀を所持していたのだが、何だか本人達の気質に合っていないような気がするのだ。

 そんなこんなで想定よりもあっさりと彼らを全滅させ、右衛門左衛門と否定姫の下に辿り着いた。

 

「貴方が艶黒兵衛?初めましてだわね?」

「あぁ、そしてこれが最初で最後の対面って訳だ」

「それにしても、まさか貴方がここに来ちゃうとはね。そのせいで虚刀・鑢が未完了になっちゃったじゃない」

「完成だか完了だか俺には関係ねぇ。二人の今後のためにもアンタらが邪魔なんでね、消させて貰うわ」

「右衛門左衛門、命令してあげる。殺しなさい」

「仰せのままに」

 

 そう言うと否定姫は階段を登っていった。残された二人は互いに向かい合ったまま動かない。

 

「まさかお前とこうして戦うことになるとはな」

「俺も自分でビックリしてるぜ。昨日まで二人の旅路をのんびり眺めてたってのに、今は国家転覆の真っ最中だってんだからな」

 

 そう言うと二人は同時に走り出し、刃と刃がぶつかり合う。右衛門左衛門の刀は早々に使い物にならなくなり、炎刀・銃での戦闘になる。

 

「ところで前から気になってたんだけどさ!アンタ、あのお姫様の事好きなのか!?」

「戦いの最中に何だ!?」

 

 銃弾を切り落としながらもおかしな質問をする黒兵衛に困惑する右衛門左衛門。

 

「いやさ、殺しちまった後じゃあ聞けねえと思ってさ!どうなんだ!?」

「言うに及ばず!」

 

 黒兵衛の質問を無視して攻撃の手を強める右衛門左衛門。二人の攻防は激しさを増し、戦闘の余波で部屋はたちまち廃墟と化す。

 

「これ程の腕を持ちながら何故無名でいる!!今まで一体何処で何をしていたのだ!!」

「俺は錆白兵の友達だ!!それ以上でも以下でもねぇ!!」

 

 そして最後にお互いの大技が炸裂し、最終的に炎刀・銃は砕け散り右衛門左衛門も壁に激突した。

 

 右衛門左衛門を討ち破った黒兵衛は否定姫と尾張幕府八代将軍" 家鳴匡綱(やなりまさつな)"の居る天守閣へと辿り着いた。

 

「アンタが将軍様か、アンタに言いたい事があって来た」

な、なんだ!?

 

 刀を持って震える将軍の前に立ち、返り血塗れの顔を顔面すれすれに近付ける。

 

今後一切、とがめと七花に手を出すな

な、何の話だ!?

「ん?・・・アンタもしかして知らないのか?」

 

 将軍の反応から彼がとがめの正体を知らない事が分かると一瞬拍子抜けした顔になった黒兵衛だが、再度詰め寄り将軍に言う。

 

「まあ良いや。兎に角、とがめと七花には今後一切関わるな。もしも手を出した時は、アンタを八つ裂きにするからな?

わ、分かった!約束しよう!!今後一切その奇策士には手を出さん!約束する!だから助けてくれ!!

「・・・よし分かった!それじゃあ邪魔したな」

 

 将軍の言葉を聞きいつもの飄々とした顔に戻ると、刀を仕舞い背を向ける。

 そのまま帰ろうとする黒兵衛に否定姫が声をかける。

 

「ちょっと、アイツを殺さないと話が終わらないじゃないの」

「この爺さんを殺した所で何も無ぇじゃねぇか」

「じゃあ私は?色々知っちゃってるわよ?」

「斬る気が失せた。右衛門左衛門の居ないアンタはもう二人の敵じゃねぇ」

 

 黒兵衛の言葉を聞いてため息を吐く否定姫。

 

「はぁ・・・結局、四季崎一族の悲願も虚刀・鑢の完了も達成されず。まぁ、元を辿れば四季崎記紀が軟刀・革を気紛れに手放したのが運の尽きと、言ってしまえば自業自得なのだけれども。未完成系変体刀とはよく言ったものね」

「何を言ってるのかよく分からねぇが、世の中には完成しなくても別に困らないものもあるって事だろ?」

 

 否定姫に向かって黒兵衛は言う。

 

「そういえばアンタ、将軍様の前で色々とゲロっちまった訳だがどうすんだ?このままじゃ打ち首だぞ?」

 

 恐怖と緊張で未だ震えが止まらない将軍を見ながら黒兵衛が言う。

 

「そうね、どうしましょうか?これまでの人生否定されちゃったみたいだし・・・」

「・・・下であの何とか左衛門が寝てるだろうから、俺の気が変わらねぇ間に二人でどっか行っちまえ」

 

 そう言うと黒兵衛は尾張城を後にした。

 

 

 

 そんなこんなですっかり日も落ちた頃、ボロボロになった正門を出るとそこには明らかに不機嫌そうなとがめと苦笑いする七花が立っていた。

 

「よお!話は付けて来たからもう大丈夫だ。まぁ、ちっと派手にやり過ぎた見てぇだし、多分あの何とか総監督とやらはクビになってるかもしれねぇから先に謝っとくわ」

「私が怒っているのはそんなことではなーい!!」

 

 血だらけの俺の身体に何時ものちぇりおと説教が飛ぶ。

 

「良いか!貴様も既に私の駒だ!今後一生扱き使ってやるからには勝手に死ぬのは許さん!!七花!お前も何とか言わんか!!」

「いやぁ・・・最近は忘れかけてたけど、おっちゃんってべらぼうに強かったんだよな!流石は錆白兵の友達だ!」

「そういう事ではなーい!!」

「なっはっはっはっ!!」

 

 二人のいつもの光景に俺は笑い声を上げた。

 

 

 

 あれから数ヶ月が経った今日この頃。俺は一人旅を再開していた。

 とがめと七花の二人は兎も角、城を襲撃した俺は当たり前だがお尋ね者となり、幕府から定期的に刺客が送られて来るようになった。返り討ちにするのは簡単だが、このままでは二人の全国地図作りに支障が出ると思ったので俺の方から抜けさせてもらった。

 全国地図が完成したら最初に出会ったあの御休み処で会おうと約束した。その頃には二人の子供にも会えれば良いなと思いつつ旅を続けている。

 因みに俺と同じくお尋ね者となった否定姫と右衛門左衛門とはあの日戦ったきり一度も会っていない。

 

 そんなこんなで旅をしていたある日、たまたま入った定食屋で食べたふぐ鍋の毒にあたり町中で悶絶していると、なんと道の真ん中で転んだ女の子が馬車に轢かれそうになっているではないか!

 俺は咄嗟に走り出し女の子を突き飛ばすとそのまま地面に倒れた。

 普段の俺なら馬車を躱す事なぞ造作もないのだが、ふぐ毒で弱っていた俺は動く事ができずそのまま馬車に轢かれた。

 こうして俺の人生は事故死という結果で呆気なく終わったのであった。心残りがあるとすれば二人の作った日本地図を見れなかった事だろうか。

 最期にそんな事を考えながら意識が遠のき・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと何故か赤ん坊になっていたのである。

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