炭治郎達が上弦の陸を討伐してから早二ヶ月が過ぎた。
全員五体満足ではあったものの、普通に重症だったため全員仲良く蝶屋敷のお世話になった。
炭治郎、伊之助、善逸の三人は一月程療養し、現在は任務に戻っている。因みに宇髄と義勇は三日で戦線復帰した。流石は現役柱と次期柱候補である。
この二ヶ月間の間に色々と面白い事が聞けた。
カナエからの報告によると、炭治郎とカナヲが何だか良い雰囲気であり、彼女が感情を表に出す事が劇的に増えたらしい。これは二重の意味でめでたい事だ。しかもアオイと伊之助もお互いまだ無意識だが何だか良い感じらしい。
ただ、しのぶと義勇の二人については折角任務で一緒になったというのに結局何時もと変わらないそうだ。因みに義勇は真菰から頭を撫でられ、錆兎から称賛と共に次期水柱へ勧誘されていたがこの期に及んで辞退していた。
獪岳と善逸が偶然か必然か同じ隊に配属されたらしく、任務の度に喧しくてウザい等の愚痴が書かれた手紙が頻繁に送られて来た。
それから、上弦の陸との戦闘により炭治郎の日輪刀が刃毀れしていたらしく、その事にキレた鋼鐵塚がすっかりへそを曲げてしまい刀を送ってくれなくなってしまったそうだ。そのため現在は代用品の日輪刀を使っているがどうにも馴染めないらしい。
担当を変えるという話も出たが、炭治郎はこれまでお世話になってきた鋼鐵塚の刀を使い続けたいという事で、このままでは不味いので直接刀鍛冶の里に出向くとの事だ。
そんなこんなで俺こと艶黒兵衛も実は現在刀鍛冶の里へ向かっている最中だ。
理由は半年に一度の刀の点検である。特に錆も刃毀れもしていないし手入れも欠かさないが、やはり本職に見てもらう方が確実なのでこうして定期点検をお願いしているのだ。
「ようこそお越し下さいました、黒兵衛殿」
「半年ぶりだなぁ
刀鍛冶の里。里長の屋敷にて黒兵衛はこの里の長であるひょっとこ面を被った小柄な老人”
黒兵衛は早速自身の刀を里長に渡すと、彼はそのまま刀を抜き刀身を確認し感嘆の声を上げる。
「何時見ても美しいのぉ。貴方様がこの刀を使い続けて二十年、刃毀れ一つ無かったの」
「そりゃあ作った人の腕が良いんですよ」
「そうやろそうやろ?この刀はワシが作った
黒兵衛の言葉を聞き興奮して語りだす里長。
”名在の刀”とは、本来日輪刀には決まった名前が付いていないが、作り手が天啓に導かれて作った極一部の特別な刀にのみ名前を付けるという風習の事である。
主に柱かそれに準ずる実力の剣士にのみ支給され、頭に一文字の名前、刀身に”惡鬼滅殺”の文字が彫られていることが共通の特徴である。
詳しい話は長い年月により風化してしまったが、現在の階級制度と同時期に始まり、一説には始まりの呼吸の剣士が最初の所有者だったという噂もある。
また、名在の刀の特徴として特殊な形状もしくは効果があるとされており、例として黒兵衛のペラペラに薄い日本刀は勿論、煉獄の使う日輪刀にはこんな効果がある。
煉獄の所有する"
実際、上弦の参との戦闘ではあれ程の激戦だったにも関わらず決して折れなかった。因みにこの刀は前炎柱の槇寿郎から引き継いだ物であり、現在は新品同様に打ち直してあるが、彼が引退間近の頃には刃毀れが酷く刀身も曲がりかけていたらしい。
最初にその話を聞いた時、四季崎記紀の変体刀を思い出したが、この歴史に四季崎記紀は存在しない。
ただ、俺やハクが生まれ変わっているのだから何らかの形でこの歴史にも影響が出ているのかもしれない。
まあ、俺はあまり難しい事は気にしないので深くは考えていないが。
「・・・というわけや」
あれから三十分以上己と刀の素晴らしさを語った里長。黒兵衛が刀の点検に来る度何度も同じ話をされているが、彼は刀や剣術に関することは何でも好きなので毎回楽しそうに聴いている。
「しかし、この刀がいくら素晴らしかろうと結局刀は消耗品。ましてやこれ程酷使し続ければガタが来てもおかしくは無い。それでもこの二十年間刃毀れ一つしておらんのは貴方様の技量あってこそやのぅ」
「そう言って貰えると自信が付きますな」
里長の言葉に笑みを浮かべる黒兵衛。
「この里で名在の刀がいくつも生まれては鬼との戦いで隊士と共に失われて来た。ワシらにとっては刀と共に生きて帰ってくれる事が何よりも喜び、だからこそ戦いで折れるような鈍を作る輩が好かんのや」
先程からの軽い口調から打って変わってドスの利いた声で話す里長に苦笑いを浮かべる黒兵衛。
里長はすぐに切り替えて話し出す。
「今では現存する刀は十一・・・いや、十二本やな」
「!・・・”
里長の言葉に反応する黒兵衛。
「まあ落ち着きなさい、今最後の調整に入っとるから終わったら見せてやるからの。今日は温泉にでも浸かってゆっくり過ごしてや」
温泉宿に向かう途中、不死川実弥の弟である”
彼は兄の後を追い鬼殺隊に入隊したのだが、紆余曲折あって今は悲鳴嶼の弟子になっている。
「お前も来てたのか!玄弥」
「あっ、黒兵衛さん」
この二人は悲鳴嶼を通して知り合っており、見かけたら話す程度は仲良くなっていた。
「お前また無茶な戦い方したそうじゃねぇか?沙代ちゃんが心配してたぜ?」
「すみません・・・でも、俺には才能が無いからこの戦いしかできなくて・・・」
玄弥には残念ながら呼吸の才能が無かったが、とある特異体質により常人には不可能な無茶な戦い方が出来てしまっていた。
「まっ、お前が決めた事だ。俺がとやかく言う資格はなかったな?」
黒兵衛は彼の肩を軽く叩くと歩き出す。
「でもまあ、お前が死んじまって一番悲しむのは実弥だってことは忘れるなよ」
「・・・兄貴・・・」
翌日。
黒兵衛がとある訓練道具を見るために森の中を歩いていると、遠くから刀が打ち合う金属音が聞こえて来た。
その音を頼りに森を抜けると小さな広場があり、その真ん中で炭治郎と五本の腕を持つ絡繰人形が戦っていた。
「よう!
「うわっ!?脅かさないで下さいよ黒兵衛さん!」
炭治郎の戦闘を離れた位置から見守っていたひょっとこ面を被った少年、小鉄の頭に手を置きながら話しかける黒兵衛。観察に夢中になっていた小鉄は驚きの声を上げた。
「あと、何度も言ってますが日縁壱号じゃなくて、"
「なっはっはっ!絡繰人形を見るとついそう呼びたくなっちまうのさ」
炭治郎と戦っている絡繰人形は"縁壱零式"と呼び、過去に実在した剣士を元に作られているらしい。
腕が複数ある理由は、彼の動きを再現する為には最低六本の腕が必要だったかららしい。
そんな剣士が居たのなら是非手合わせ願いたかったものだ。
ちなみに話によると戦国時代に作られた物らしく、どう考えても日和号の親戚なのだが名在の刀同様、四季崎記紀とは無関係である。
「それにしても、半年前はもっと綺麗だった気がするんだが、随分ボロくなったな?腕が一本落ちてるじゃないか」
「話すと長くなりますが、昆布頭のチビがやりました」
「何だ、無一郎も来てたのか」
「自分で言っては何ですが通じるんですね、それで」
どうやら霞柱の時透無一郎も来ていたらしい。
「というか、黒兵衛さんも人の事言えないですよね?親父から聞いてますよ?初めてここに来た時ぶっ壊したって」
「なっはっはっ!いや、つい調子に乗って全力出しちまってな」
黒兵衛が初めて刀鍛冶の里に訪れた際、小鉄の父親に出会いこの絡繰人形の事を知ったのである。
そして当時はまだ複数存在した内の一機と対戦し、調子に乗った黒兵衛が修理不可能な程破壊したため親父にブチギレられたのである。
その件があって今では家族ぐるみの付き合いであり、小鉄が生まれた際や彼の葬式の際は任務を通常の三倍の速さで終わらせ出向いていた。
因みに胡蝶しのぶの持つ毒を調合できる刀の鞘と獪岳の籠手型日輪刀も生前の彼の作品である。
ドンッ!!
「グエッ!?」
すると先程まで戦っていた炭治郎が緑壱零式に弾き飛ばされて来た。
「おう!やってるな!」
「・・・く・・・黒兵衛さん・・・」
「そんなにやつれてどうした?修行に夢中になるのは分かるが無理は禁物だぞ?」
「いえ・・・その・・・小鉄くんが・・・」
「まあ良いか。ほれ、団子食うか?」
そう言って彼は懐から串に刺さった餡団子とお茶を取り出し炭治郎へ差し出す。
「是非頂きます!!」
炭治郎、五日振りの食事であった。
「なる程な、気持ちは分かるが無理は禁物だ。適度な休息と食事は修行において大切なことだからな?」
「ハイ、すみません・・・」
無茶な修行方法の事で怒られる小鉄と、何とか命を繋ぐ事に成功した炭治郎。
「まあ、俺も暫くここに残るつもりだから面倒見てやるよ」
「本当ですか!継子でもないのにありがとうございます!!」
こうして二人の修行に黒兵衛が参加する事となった。
「右!次は左だ!上!」
「グッ!?アッ!?」
動きを予測する黒兵衛の掛け声とともに緑壱零式からの攻撃を捌く炭治郎。しかし、反応速度の差で全ては避けきれず何度も攻撃を受けてしまう。
「(黒兵衛さんは僅かな動きで攻撃を読めている・・・けど、俺はまだ反応できていない!)」
「次来るぞ!左!上と見せかけて下!」
「(ッ!・・・動きをよく見ろ、覚えるんだ!)」
黒兵衛の掛け声をもとに相手の動きを覚える炭治郎。それにより段々と掛け声に頼らず動けるようになっていく。
「(・・・来る!!)」
炭治郎はギリギリの所で攻撃を避けると緑壱零式の右脚に攻撃を当てた。
「よく当てたな!」
「はい!黒兵衛さんの指示のおかげです!」
「何言ってんだ?俺は途中から掛け声を止めてたぜ?」
「えっ?」
実は黒兵衛は途中から掛け声を止めており、極限まで集中していた炭治郎はその事に気付かないでいたのだ。つまりこれは正真正銘炭治郎自身が決めた一撃である。
「それで?なにか掴めたかい?」
「何と言うか、匂いがしました。相手が動く前に動きが分かるといいますか」
「ほう?匂いね」
炭治郎の話によると、相手の動きを匂いで予測できるようになったらしい。
黒兵衛や他の柱達は技術と経験、勘により相手の動きを予測し並外れた反射神経で対応しているのに対し、そこがまだ未熟な炭治郎にとって強力な武器となった。
「(よし!!よし!!分かるぞ動きが!!前よりもずっと良く分かる!!)」
そこからの炭治郎は動きが格段に良くなり零式の攻撃を次々と躱していく。
そして空中で宙返りし、その体勢のまま零式の頸に向かって刀を振る。
「(よし!!入る!!渾身の一撃!!・・・あっ、でも壊れたら・・・)」
小鉄を気遣い一瞬力が抜ける炭治郎、しかし・・・
「斬ってーー!!壊れてもいい!!絶対俺が直すから!!」
「!!」
小鉄の叫びを受けて炭治郎は刀を握る手に力を込め、渾身の一撃を零式に浴びせた。
炭治郎はそのまま受け身を取り零式から離れると、心配した小鉄が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!!」
「うん、何とか・・・あっ!?」
炭治郎が何かに気付き声を上げる。それにつられて小鉄と黒兵衛が零式の方を見ると、零式の顔にヒビが入り砕け散る。
すると驚くことに零式の身体の中から”納刀された刀”が現れた。
「何か出た!!こここ小鉄君何か出た!!何コレ!!」
「いやいやいや分からないです俺も!!何でしょうかコレ!!」
「刀だなぁコレは」
「「いえそれは分かってます!!」」
予想外の事態に大混乱な二人と冷静に刀を観察する黒兵衛。
「少なくとも三百年以上前の刀ですよね!!」
「そうだよねこれ・・・やばいねどうする!?」
「これ炭治郎さん貰って良いんじゃないでしょうか!?もももも貰って下さい是非!!」
「ややややや駄目でしょ!?今まで蓄積された剣撃があって偶々俺の時に人形が壊れただけだろうしそんな」
炭治郎に貰って欲しい小鉄と恐れ多くて受け取れない炭治郎。
「そうだ!!黒兵衛さん!!柱なんですから貴方が受け取るのが正しいんじゃ!!」
「いや、俺はもう自分の刀があるし、お前が貰って良いんじゃないか?」
「ほら!!柱がそう言ってるんですし貰って下さいよ!!」
小鉄と黒兵衛に推されて恐る恐る刀を取る炭治郎。すると・・・
「!!・・・これは?」
「どうかしましたか?」
「いや、何と言うか・・・持った時にピンと来たと言うか、初めて持った気がしないと言うか・・・」
「ほう、それは
炭治郎が刀を握った時に感じた違和感について心当たりがある黒兵衛が語る。
「昔俺の知り合いが言ってたんだ。刀は持ち主を選ぶ、但し斬る相手を選ばないってな。この刀は炭治郎を選んだ。俺の”鈹”と同じでな?」
「刀が、俺を?・・・ん・・・」
黒兵衛の言葉を聞き、真剣な表情で刀を見る炭治郎。
そして徐ろに刀を抜く。
しかし、三百年間一度も手入れをしていないであろう刀身は酷く錆びていた。
「錆びてる・・・」
「ガクッ・・・黒兵衛さんの話は何だったんですか」
「まっ、三百年もたちゃあそりゃそうだよな」
黒兵衛の話を聞き期待が最高潮になっていた分、ショックが大きい二人とそりゃそうだよなと頭を掻く黒兵衛。
「話は聞かせてもらった・・・後は・・・任せろ」
「うわあああああ!!」
「誰!?鋼鐵塚さん!?」
そこに突然現れる上半身裸でムキムキの鋼鐵塚、その姿を見た炭治郎と小鉄は悲鳴を上げた。
何故かそのまま刀を持ち去ろうとする鋼鐵塚と、それを止めようとする炭治郎と小鉄との間で一悶着あったが、鋼鐵塚を探しに来た”
因みに鉄穴森は伊之助と無一郎の刀を担当している。
「鋼鐵塚さんを許してやって下さいね。山籠りで修行していたんですよ」
「修行?」
「そう。君を死なせないようもっと強い刀を作るために。素直に言わないけどね」
「俺のため・・・」
「まあコイツは恥ずかしがり屋だからな」
鉄穴森の話を聞いて感激する炭治郎と呆れる黒兵衛。
すると復活した鋼鐵塚が起き上がる。
「この錆びた刀は俺が預かる。鋼鐵塚家に伝わる日輪刀研磨術で見事磨き上げてしんぜよう」
「ほう、そりゃあ楽しみだ!」
「じゃあ始めからそう言えばいいじゃないですか一言。信頼関係も無いのに任せろ任せろって馬鹿の一つ覚えみたいに・・・」
その後小鉄の言葉にキレた鋼鐵塚を三人で鎮圧し、なんだかんだで炭治郎は新しい刀を手に入れる事ができたのであった。
刀鍛冶の里にて愉快な一時を過ごす黒兵衛達。しかし、そこに二人の上弦の鬼が迫っているなど、この時の彼らは思いもしないのでありました。
名在の刀一覧
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