炭治郎が縁壱零式に勝利したその日の晩。黒兵衛は里長に預けていた刀を受け取っていた。
「今回も何も問題は無かったからの」
「手入を怠った事は無いが、やっぱり鉄珍の爺様に見て貰った方が安心できますな」
そう言って刀身を見た後、腰に巻き直す黒兵衛。
するとそこに一人の刀鍛冶が現れた。
「すみません、どなたか
「鉄尾さん?ここには来ていないが?」
刀鍛冶と里長の御付きとの会話を聞いていた黒兵衛だったが、突然里の入口の方を向くと腰の刀に手をかけた。
「鉄珍の爺様、大至急住民の避難と隊士達の召集を頼む」
「どうかしたのか?」
「敵襲だ」
黒兵衛はそう言うと瞬きする間に屋敷から居なくなった。
「敵襲ーー!!鬼だーー!!敵襲ーーっ!!」
火の見櫓の見張りが半鐘を鳴らしながら大声で叫ぶ。
その下では門を破り侵入してきた魚型の怪物と常駐警護の鬼殺隊士が戦闘を繰り広げていた。
しかし、物量で攻める敵側に対して、鬼殺隊側は里の秘匿性を上げるために少数精鋭だったのが災いし数的不利による劣勢を強いられていた。
「くっ!!このままでは・・・!!」
「里の住民が避難できるよう少しでも時間を稼げ!!」
何とか小型の魚獣を斬り倒した隊士達であったが、背後から現れた大型の魚獣が腕を振り上げていた。
「「ッ!?」」
魚獣がその鋭い爪で隊士達の命を刈り取ろうと振り下ろしたまさにその時、魚獣の身体はバラバラに裂け塵となった。
「良く持たせた!」
「「川柱!!」」
隊士達の前に刀を抜いた黒兵衛が現れた。
彼は刀を構えるとそのまま魚獣の群れに向かって走り出した。
「川の呼吸・参ノ型 山津波!!」
すれ違いざまの斬撃により魚獣の群れは全て細切れにされ塵となった。
「流石柱・・・あの群れを一瞬で・・・」
「・・・あっ!まだ来る!!」
柱の強さに驚愕する隊士達だったが、森の中からまたも一体の大型魚獣が現れた。
「まだいたか・・・」
「恋の呼吸・壱ノ型
「おっ!」
黒兵衛が構えた瞬間、魚獣の背後から白鴉と共に現れた甘露寺により魚獣の身体は細切れにされ塵となった。
彼女の担当地区は刀鍛冶の里からかなり近く、襲撃を感知した白鴉がすぐさま呼びに向かった為誰よりも早く応援に駆けつけられたのである。
「遅れてごめんなさい!」
「いや、ナイスタイミングだぜ蜜璃ちゃん!」
彼女は黒兵衛の隣に着地すると刀を構える。
彼女の日輪刀は黒兵衛の刀を更に特化させたような物で、刃が極めて薄く縄の様に長くしなっており、彼女の戦う様は斬ると言うより舞い踊るようで正に”舞刀・錈”の名に相応しい刀である。
「柱が二人も・・・!!」
「良かった・・・助かった・・・」
柱の登場に安堵する住民達をよそに隊士達に指示を出す黒兵衛。
「お前達は住民の避難と護衛を、俺と甘露寺は逃げ遅れの捜索と鬼の殲滅だ」
すると温泉宿の方向から轟音が響いた。更に作業小屋の方向からはまたも魚獣の群れが現れた。
「温泉宿と作業小屋か・・・二手に分かれるぞ!蜜璃ちゃんは温泉宿、俺は作業小屋だ!」
「わかりました!」
「これ程の血鬼術だ。おそらく上弦、気をつけろよ!」
「はい!黒兵衛さんも!」
そう言うと甘露寺は温泉宿の方へ走り去った。
黒兵衛も走り出そうとするが、そこへ鉄穴森が現れ彼を呼び止めた。
「待って下さい黒兵衛殿!」
「鉄穴森?」
「良かった間に合った・・・これを時透殿に届けて貰いたいのです!」
そう言って鉄穴森は一本の刀を黒兵衛に手渡した。
「これは・・・」
「はい、彼の新しい刀です」
それは以前話に出ていた新たな名在の刀であった。
「わかった、必ず届ける」
「それと恐らく鋼鐵塚さんが作業小屋に残っていると思いますので、どうか助けてあげて下さい!」
「アイツは死んでも止めなさそうだもんな。そっちも任せとけ!」
刀を受け取った黒兵衛はそう言って走り出した。
時折現れる魚獣を倒しながら森の中を走っていると、魚獣に襲われる寸前の小鉄と水の膜に囚われた無一郎を発見した。
「川の呼吸・伍ノ型 甌穴!!」
黒兵衛の放った技により魚獣は細切れになりながら吹き飛び、そのままの勢いで水の膜を破り無一郎が解放される。
「うわっ!?黒兵衛さん!!」
「ガハッ!!ゲホッ!!」
「あっ!時透さん大丈夫!?」
「お前がここまで追い詰められるなんてなぁ・・・」
「いえ!俺を庇ったせいでこんな・・・」
水の膜から解放された無一郎であったが、体中に針のような物が刺さっていた。
「庇ったのか?・・・まあそれはさておき、あの小屋の中にいるのが本体か?」
黒兵衛は作業小屋の中から強い鬼の気配を感じていた。
しかし、何故か鬼の気配はその場から動くこと無く留まっていたのでこれ幸いと無一郎の手当てを始める。
黒兵衛と小鉄、そして嘴と足で器用に包帯を巻く白鴉の二人と一羽により瞬く間に応急処置を終えると、解毒薬を注射する。
「ゴホッ・・・黒兵衛さん、宿の方でもう一体分裂する鬼が炭治郎と戦っています。恐らくそいつはここにいる鬼より厄介です・・・コイツは僕が倒しますから黒兵衛さんは炭治郎の加勢に・・・」
「お前、名前を・・・」
普段の様子と違いはっきりとした口調と表情の無一郎に驚く黒兵衛であったが、彼の真っ直ぐな目を見つめフッと笑顔を浮かべる。
「記憶、戻ったみたいだな」
「・・・はい!」
「良かったな」
黒兵衛はそう言うと無一郎の頭に手を置き優しく撫でる。そして再び真剣な表情に戻ると話を続ける。
「お前一人で大丈夫なんだな?」
「はい!」
「・・・わかった、ほれ」
黒兵衛は無一郎の持つ刃毀れした刀に代わって、鉄穴森から託された刀を手渡す。
「これは・・・!」
「鉄穴森と鉄井戸爺さんからの贈り物だ」
刀を握った無一郎は何かに気づいたかのようにハッとする。
「それじゃビャクは小鉄君を頼む」
「了解したでござる。さあ、行くでござるよ」
「あっハイ!二人共死なないで!!」
白鴉に連れられて避難する小鉄。残った黒兵衛は刀を差し直した無一郎と向かい合う。
「アイツはお前に任せる。負けるなよ?」
「勿論、僕は黒兵衛さんの弟子ですから」
「フッ、言えるようになったじゃねぇか!」
黒兵衛は無一郎の背中を叩くと温泉宿の方へ走り出した。
「凄い鉄だ・・・凄い刀だ・・・何という技術・・・素晴らしい・・・」
「きっ・・・気に食わぬ!!私とてこれ程集中したことはない!芸術家として負けている気がする!!」
作業小屋の中では、鬼の襲撃に全く気付かずひたすら刀を研ぎ続ける鋼鐵塚と、あまりの集中力の高さに謎の敗北感を覚え、一思いに殺すこともせず動きを止める、壺から身体が生え目と口が反転しているという奇怪な姿をした十二鬼月が一人上弦の伍・"
「これ程の刀にこの
「気に食わぬ・・・殺すのは造作もなきことだが、何とかこの男に刀を放棄させたい!!この集中を切りたい!!」
玉壺の頸に無一郎の振るった刃が迫る。
「ッ!!」
壺の中に潜ることで間一髪で攻撃を交わした玉壺であったが、無一郎の変化に戸惑う。
無一郎の顔には雲のような痣が浮かび上がっていた。
「ああ・・・
白く透き通るような刀身の日輪刀”
「わかって・・・いたんだ・・・本当は・・・無一郎の・・・無は・・・・”無限”の”無”なんだ」
「お前は、自分ではない誰かのために、無限の力を出せる選ばれた人間なんだ」
かつて、共に生まれ共に生き、鬼に襲われ死んでしまった双子の兄、"
そして、
「お前さんがどれだけ手一杯か、どれだけ限り限りと余裕がないか、物を覚えていられんことの不安がどれだけか、そして血反吐を吐くほどの努力を・・・」
「分かってくれる者達の名を、お前さんが忘れんよう刀を打とう」
刀の完成前に心臓病で亡くなった無一郎の最初の専属刀鍛冶、”鉄井戸”。
「血鬼術
壺の中から蛸の足のような触手が無数に現れ無一郎に殺到する。しかし、
「霞の呼吸・伍ノ型
無一郎はその全てを一瞬で斬り伏せると玉壺の頸を狙う。
玉壺はまたも壺に潜り、別の壺に移るという高速移動により攻撃を躱した。
「素早いみじん切りだが、壺の高速移動にはついてこれないようだな?」
「そうかな?」
「何?」
「随分感覚が鈍いみたいだね。何百年も生きてるからだよ」
バッ!!
「!?」
躱したと思われた斬撃だが、完全には避けきれていなかったようで玉壺の頸から血が吹き出す。
「次は斬るから。お前のくだらない壺遊びにいつまでも付き合っていられないし」
「・・・・・なめるなよ小僧」
「いや別に舐めてる訳じゃないよ。事実を言っているだけで、どうせ君は僕に頸を斬られて死ぬんだし。だって何だか凄く俺は調子がいいんだ今、どうしてだろう?」
「その口の利き方がなめていると言ってるんだ糞餓鬼め。たかだか十年やそこらしか生きていない分際で」
「そう言われても、君には尊敬できる所が一つも無いからなぁ。黒兵衛さんの方が強いし、白鴉さんの方が何百倍も綺麗で美しいし」
「この私をたかが柱とカラスに比べられるのは心外だが、この程度の安い挑発に玉壺様が取り乱すとでも?」
「うーん?・・・うーん?」
「ヒョッヒョ、何だ?」
「気になっちゃって・・・」
玉壺と会話をしていた無一郎は何かに気付き首を傾げる。そしてその様子が気になった玉壺の問いに対して彼は壺を見ながら言った。
「なんかその壺形歪んでない?左右対称に見えないよ、下っ手くそだなぁ」
「それは貴様の目玉が腐っているからだろうがアアアア!!」
無一郎の言葉に今までの冷静さが何だったのかと言う程、頭の血管から血を吹き出しながら激怒する玉壺。
彼はそのまま無一郎に向かって血鬼術を発動する。
「血鬼術
十本の腕が持つ十個の壺から無数の魚が飛び出し無一郎を襲う。
しかし、彼はそれを冷静に対処する。
「霞の呼吸・陸ノ型
無一郎は空中で回転しながら全ての魚を斬り裂いた。
「霞の呼吸・参ノ型
そして回転斬りにより魚から分泌される毒液を全て吹き飛ばした。
彼はそのまま玉壺の頸を狙うがまたも回避されてしまう。
「お前に私の真の姿を見せてやる」
「はいはい」
「この姿を見せるのはお前で三人目」
「結構いるね」
「黙れ!!」
無一郎と口論しながらも木の上で形を変える玉壺。
今までの小さな体に複数の腕を持つ姿から、鱗と水掻きを持った二本の腕と魚の尾びれのような下半身をした姿へと変貌した。
「・・・・・・」
「何とか言ったらどうだこの木偶の坊が!!!本当に人の神経を逆撫でする餓鬼だな!!!」
「もう良いよ喋らなくて」
無一郎の無反応にキレる玉壺に対してバッサリと言い放つ。
「折角皆に手当してもらったんだし、無駄に怪我する前にさっさと終わらせるね」
「何を言ってるんだお前は・・・あ?」
「霞の呼吸・漆ノ型
すると突然無一郎の姿が霞のように消えていった。
「何処へ行ったんだ!?」
ヒュッ!!
「えっ?」
突如背後に現れた無一郎により、玉壺の頸はあっさりと切断された。
「お終いだねさようなら。お前はもう二度と生まれて来なくていいからね」
「(きっ?きっ・・・!斬らっ・・・斬っ・・・斬られた!?斬られた斬られた斬られたアアアア!!!)」
一瞬の出来事に理解が追いつかない玉壺。
「馬鹿なアアアア!!折角変身したのにまだ何もやってな・・・」
「もう良いからさ、早く地獄に行ってくれないかな」
頸だけになってなお騒がしい玉壺を細切れにする無一郎。
そこには無一郎と今もなお刀を研ぎ続ける鋼鐵塚の二人だけが残っていた。
何処からともなく声が聞こえる。
『ほら全部うまくいった』
「(父さん・・・母さん・・・)」
『頑張ったなぁ』
「(兄さん・・・ありがとう・・・)」
無一郎の頬に一筋の涙が伝った。
手負いでありながら上弦の伍を圧倒した無一郎。しかし、更に厄介な能力を持つ上弦の肆がいまだ健在なのでありました。
大正コソコソ噂話
無一郎は黒兵衛との稽古により本来よりも実力が伸び、更には毒の治療をされたため玉壺を圧倒できました。