緊急柱合会議から三日後。
柱主導による大規模合同稽古、"
総勢八名もの柱がそれぞれの担当教官となり一般隊士達の実力を底上げするというもので、最高戦力の離脱による鬼の被害拡大が懸念されたが、禰豆子の太陽克服以来鬼の出現はピタリと止んでいた。
嵐の前の静けさという状況だか、ただ手を拱いているだけでは時間の無駄であり、これを利用しない手は無いとして今回の柱稽古を実施したのである。
柱稽古の概要として
「遅い遅い遅い遅い!!何してんのお前ら意味わかんねぇんだけど!!まず基礎体力が無さすぎるわ!!」
第壱 宇髄による基礎体力向上。
「こんな隙だらけじゃ、もう三回は鬼に喰われてるよ?」
第弐 時透による高速移動稽古。
「そうそうその調子だよ!もう少し開くね!」
第参 甘露寺による地獄の柔軟。
「敵は何処から襲って来るか分からないぞ?感じろ」
第肆 伊黒による太刀筋矯正。
「おらおらおらァ!!こんなんじゃ俺の体温が上がらねェだろ・・・ぬるいんだよォ!!」
第伍 実弥による無限打ち込み稽古。
「じゃあ行くよ、えいっ」
「さあ!俺の動きを読んで一本入れてみろ!」
第陸 煉獄、真菰による極限環境訓練。
「皆、頑張るのだ。全ては鬼を滅殺する為、それは、お館様の為、これまで死んで行った鬼殺隊士の為、生きとし生きる全ての為、我々はやり遂げなければならない」
第漆 悲鳴嶼による筋肉強化訓練。
という流れで稽古を行っている。
カナエはお館様からの特命、黒兵衛は柱達に対しての稽古と本人希望による独自行動により不参加である。
柱稽古開始から数日後の夜。
鬼殺隊所有のとある道場にて黒兵衛の稽古を受ける為にカナエ、黒兵衛を除く柱達が集結し、二人を待つ間に情報交換を行っていた。
「とてもじゃないが、上弦に対して戦力になれるとは思えん」
「こっちも似たようなもんだ。少しはやる奴も居るが、他はてんで駄目だ」
「しかし!たとえ上弦を相手取れずとも、一人でも多く生き残れるよう鍛える事こそ鬼殺隊存続の要!」
「これ以上若い子達に死んで欲しくないからね」
「遅くなりました」
そこに遅れてカナエが到着する。
「柱稽古に参加できず申し訳ありません」
「問題ない、お館様直々の特命より勝るものは無い」
カナエは柱稽古に参加できない事を謝罪した後、実弥に話しかける。
「実弥さんも、おはぎの差し入れありがとうございました」
「あァ・・・しのぶの機嫌はどうだ?」
「ええ、大分落ち着きました」
『あの餓鬼姉さんの事を醜女って言いましたよ!!姉さんはこの世で一番美しい女性なんですからね!!』
カナエはお館様からの特命で出会ったとある人物と口喧嘩になったしのぶの姿を思い出して苦笑いを浮かべる。
「よお!全員揃ってるな!」
「遅いですよ、主催者が遅れてどうするんですか」
そこに今回の稽古の主催者である黒兵衛が現れた。
「悪ぃな、少し
そう言って背中に背負っていた大きな風呂敷包みを地面に置くと、封を開ける。
包の中には柱達それぞれの刀を再現した模造刀が入っていた。
「真剣だともしもの時に大変だし、唯の木刀じゃ物足りねぇと思ってな、鍛冶師達に無理を言って作って貰ったんだ」
そう言って風呂敷を広げ模造刀を並べると、皆それぞれに合った物を手に取って行く。
「それと、もしも今後の戦いの中で迷う事があった時にはこの袋を開けてくれ」
そう言うと懐から小包を取り出し、カナエと悲鳴嶼以外の全員に手渡した。
中身を知っている二人以外は怪訝な表情を浮かべるが、黒兵衛が無意味な事はしないと分かっている為理由は聞かずに全員素直に受け取った。
「さて、柱合会議で説明したが今から俺を無惨に見立てた戦闘訓練を始める。とりあえず今日は準備運動も兼ねて全員纏めて相手する、その後は三人一組での連携訓練だ」
九対一と黒兵衛が圧倒的に不利な条件だが、意を唱える者は誰もいなかった。
「相手は千年生き延びた鬼の頭目だ。何をしてくるか分らねぇ以上最悪を想定して俺も全力で戦う」
「面白れェ・・・隊士達の相手で体が鈍ってた所ですァ」
黒兵衛の全力発言に凶悪な笑みを浮かべる実弥。他の柱達も言葉を発さないが、口角を上げる者や武者震いをする者がいたりとやる気満々である。
「それではいざ尋常に、始め!!」
黒兵衛の合図に一斉に動き出す柱達。
「川の呼吸・番外 速遅剣!」
黒兵衛から放たれる無数の斬撃を各々避ける柱達。
あまりの弾幕の濃さに近付く事すら困難な状況である。
「相変わらず派手派手だぜ!!」
「誠に恐ろしい技だ!固定された刀でありながら間合いのはかりようが無い!」
「だかこの程度突破できねば無惨を倒すなど夢のまた夢」
「ならこっちもド派手に行くか!!」
膠着した状況を動かす為宇髄と悲鳴嶼が飛び出す。
「音の呼吸・伍ノ型 鳴弦奏々!!」
「岩の呼吸・参ノ型
二本の木刀と縄に繋がれた砂袋を回転させ斬撃を打ち落としながら二人は黒兵衛へ接近する。
黒兵衛は二人からの斬撃を跳躍で避けるとすかさず技を放つ。
「川の呼吸・伍ノ型 甌穴!!」
「風の呼吸・肆ノ型
実弥が技を打ち消し合うと左右から甘露寺と伊黒が飛び出し同時に技を放つ。
「蛇の呼吸・伍ノ型
「恋の呼吸・伍ノ型
「川の呼吸・肆ノ型 淵!」
黒兵衛は空中で放たれる無数の斬撃を残像ができる程の速さで捌ききると、伊黒の木刀を蹴る事でその場から離脱し地面に着地する。
「ッ!?」
ガッ!!
そこに背後から音も無く現れた時透の放つ頸への一撃をしゃがんだままの体勢で右腕だけを背中に回し木刀で防御する。
黒兵衛はここで初めて焦りの表情を見せた。
時透はそのまま上から木刀を抑え込み、これにより一瞬その場に固定された状態になる。
「炎の呼吸・壱ノ型 不知火!!」
「水の呼吸・壱ノ型 水面斬り!」
「花の呼吸・壱ノ型
その隙を逃す訳も無く煉獄、真菰、カナエの三人が攻撃を仕掛けるが、黒兵衛は木刀を手放すと三人からの斬撃を避ける。
彼は丸腰になるも爆縮地により柱達からの猛攻を掻い潜る。しかし、徐々に広場の中央へと誘導されて行く。
「今だ!!」
完全に囲まれた黒兵衛に全方向から攻撃が迫る。しかし・・・
「(ッ・・・この違和感は何だ)」
悲鳴嶼は黒兵衛に対して僅かな違和感を感じ取った。そして、
「避けろォ!!」
『『『『!?』』』』
パギャッ!!
悲鳴嶼の咄嗟の掛け声に反応するも数人が避けきれずに吹き飛ばされ、防御に成功した者も衝撃で全身が軋み地面に跡が残る程身体が後退していた。無傷で回避できたのは悲鳴嶼だけである。
「流石だな行冥、よく気が付いた!」
黒兵衛の周りには複数の鞭で削った様な跡が付き、彼の隊服の両袖からは先端に錘が付いた紐が三本ずつ垂れていた。
「こういう搦手を使ってくる可能性も考慮しないとな!」
そう言って黒兵衛は手放した木刀に紐を巻き付けると引き寄せ回収する。
「ペッ・・・今のは効いたなァ・・・少しでも気を許したら本気で怪我しそうだぜ!」
「そうじゃないと稽古の意味が無いからな」
「今の技は初めて見ました!その様な事も出来たのですね!」
「やっぱり強いね黒兄は」
「尋常にって言ったのにずるいですよ?」
「(怖かったけど・・・容赦無い姿も素敵!)」
「派手にやるじゃねぇか、忍者かお前は」
「薬の調合ばかりで少し鈍っていたかしら?」
「南無三・・・」
柱達も体勢を立て直すと各々口を開く。この攻撃により彼ら彼女らの闘志は更に湧き上がっていた。
「その意気だ・・・さぁ、行くぞ!」
黒兵衛の攻撃は鞭のような広範囲攻撃も加わり更に激しさを増す。
「(だが、もしも鬼舞辻無惨が俺の想像する最悪だった場合、俺を含め何人が生き残れるか・・・我ながら臆病になったもんだ)」
黒兵衛は絶え間なく斬撃を放つ中、彼が生まれて初めて恐怖を感じた相手である鑢七実の事を思い出していた。
もしも無惨が彼女に匹敵する例外的な強さだった場合を想像し、彼らしくない弱音を吐くのであった。
ついに始まった柱稽古。はたして炭治郎達はこの厳しい試練を無事突破する事が出来るのでしょうか。
大正コソコソ噂話
一般隊士の質は黒兵衛が手鬼を倒した事により将来有望な芽が摘まれなかった事と、鬼を狩りまくった事により本来よりも人員に余裕ができ隊士達の訓練時間が延びた事で本来よりも上がっていますが、流石に上弦を相手取れるのは錆兎や義勇などの一部だけです。
花の呼吸・壱ノ型は調べても詳細が分からなかったのでオリジナル技にしました。