鬼の本拠地である無限城に落とされた黒兵衛は壁を何度か蹴り勢いを殺しながら床に着地し、四方八方から襲い掛かる鬼の群れを一瞬で斬り裂き一息つく。
「随分とまあ遠くへ飛ばされたみたいだな?」
「悲鳴嶼殿も同じ状況のようでござる。御主ら相当警戒されてるでござるな」
そこに首から愈史郎の札を下げた白鴉が合流する。
この札は一種のカメラのような物で、これを身につけた鎹鴉の群れにより無限城内部を細かく索敵し隊士達への正確な情報共有をさせる作戦である。
「さて、頼んだぞ
同時刻、新たに移転した鬼殺隊本部にて。
「柱は全員健在です」
「村田班は合流に成功」
「愈史郎さんの"眼"を借りた鴉は半数に届いたかな?」
「まだです」
既にまともな指揮すらできない耀哉に代わり、齢八歳にして産屋敷家の当主になってしまった産屋敷家長男、
「
そこに三人の背後に音も無く現れた雛鶴から報告が入る。
「直ぐに此処に連れて来なさい」
「御意」
雛鶴は始めと同じ様に一瞬で姿を消すと、数秒程して背後の襖が開き二人を抱えた須磨とまきをが現れる。
二人はひなきとにちかを丁寧に畳に降ろすと静かに退室し襖を閉じる。
連れてこられた二人はすぐさま見取り図の作成に動き出した。
耀哉は隣の部屋に丁重に寝かされ最期の時まであまねが隣に付く。
そして産屋敷家を影から護衛する雛鶴、須磨、まきをの三人。
「お館様からの特命だと黒兵衛さんから呼ばれたけど、まさかこんな事になるなんて・・・」
「天元様は今まさにあそこで戦っている・・・」
「天元様、どうか死なないで・・・」
輝利哉達の護衛を黒兵衛から頼まれた三人は、無限城で戦う宇髄の無事を祈っていた。
「あの若造め、こんな老ぼれまでこき使いおって」
「何をおっしゃいますか桑島殿、怪我で引退されたとはいえ歴代最強の鳴柱と言われた貴方を放っておく程アイツは甘くないでしょう」
屋敷正面の警備を担当する桑島と槇寿郎、更に屋敷の奥で療養中の禰豆子を看病する鱗滝の三人は黒兵衛が呼び集めた鬼のマークから外れた数少ない戦力である。
「彼奴が儂の元へ直接頭を下げに来た時は何事かと思ったが、彼奴には愛弟子達が世話になっておるからな。老ぼれらしく肉壁位にはなってやろうかの」
「御冗談を・・・私も直接呼ばれましたが、鱗滝殿は自分だけ手紙で呼ばれたと嘆いておられましたな」
「それで誰よりも真っ先に駆けつけるのじゃから鱗滝の弟子好きな所は相変わらずじゃな」
槇寿郎は桑島との会話で黒兵衛が会いに来た時の事を思い出していた。
数週間前
煉獄家にて、客間の机を挟んで黒兵衛と槇寿郎が向かい合ったままかれこれ数分間黙ったままの光景を、お茶を用意した千寿郎が固唾を飲んで見守っていた。
「・・・あー槇寿「すまなかった!!」・・・郎?」
数年ぶりの再会で何を言えばいいか分からなかった黒兵衛がとりあえず名前を呼ぶのと同時に槇寿郎の謝罪が飛ぶ。
「俺は若く才能のあるお前に嫉妬していた・・・時が経つに連れ伸びて行くお前の強さに自信を失いかけていた所に、畳み掛ける様に瑠火が死んで、そこからは酒に逃げる様になった・・・」
槇寿郎の話を黙って聞く黒兵衛。
「そしてあの夜、お前に痣が発現したのを見て俺は剣士としての才能の無さに絶望して完璧に折れてしまった・・・」
「・・・」
「だが・・・あの時お前は俺の愚行に本気で怒り、止めてくれた。お前が居なかったら多くの犠牲者が出ていた・・・それどころか、俺が教えを放棄した杏寿郎を導き、俺以上の剣士に育ててくれた・・・随分遅くなったが、ありがとう!!感謝する!!」
腕を組み黙って話を聞いていた黒兵衛が口を開く。
「正直な話、俺は生まれてこのかた誰かに嫉妬や挫折した事が無ぇ、だからお前の気持ちをわかってやる事が出来なかった・・・」
黒兵衛は前世の頃から良くも悪くも強者側であった。
自身より格上の存在である錆白兵や鑢七実については、前者はその強さに一目惚れし彼に追いつき追い越そうと互いに切磋琢磨していた為そういう悪感情は生まれず、後者は未知の脅威としての警戒やこなゆきへの仕打ちに怒りこそあれど、逆に言えばそれだけであり、今世で家族が鬼に惨殺された際も悲しみに暮れたが、仇は直接取れた事と元来のポジティブな性格から挫折する事は無かった。
「だが今でもお前とは友達だと思ってるし仲直りしたいと思っている!こんな俺だがもう一度友と呼んでくれないか?」
「ああ・・・勿論だ!」
「良かったぁ・・・」
とりあえず二人が仲直りした事に安堵する千寿郎であった。
「・・・それで早々に悪いが、槇寿郎と仕事の話があるから千寿郎君は少し席を外してくれないか?」
「?・・・はい、わかりました」
先程とはまた別の真剣な表情になった黒兵衛に促され、切り替えの速さに困惑するも退室する千寿郎。
槇寿郎もまた、真剣な表情で聞きの体勢に入る。
「ひと月以内に無惨が動く」
「ッ!?・・・本当か?」
「お館様の勘の鋭さはよく知ってるだろ?それに自分を囮にあえて無惨を誘き寄せる魂胆があると見た。かなりの量の火薬が秘密裏に持ち込まれている」
「うむ・・・」
「だが耀哉の思い通りにはさせねぇよ・・・天狗も動かす、お前には移転した本部の警備に当たって貰う」
「全く、復帰早々とんでもなく重要な任務に就かせてくれるな?」
「恐らく復帰して最初で最後の任務になる。頼んだぞ」
「死ぬなよ黒兵衛、杏寿郎」
槇寿郎は月明かりの下、友と息子の無事を祈っていた。
黒兵衛は迫り来る鬼を蹴散らしながら無惨の居る中央へと向かっていた。
突当たりの襖を開けると、そこには一体の鬼が居た。
その鬼は3mを超える巨体に魚の鱗の様な物で全身を覆われ、背中に背鰭の様な物が生え半魚人の様な風貌の男の鬼であった。
「ようやく来たか、鬼狩り」
上弦の陸
「いまだかつてこの俺に傷を付けた鬼狩りはいない」
「そうかい?」
そう言うと金兵堂は黒兵衛に向かって走り出した。
黒兵衛は突進を避けるとすれ違い様に刀を振る。刀身は鱗の繋ぎ目を正確になぞり鬼の頸を飛ばす。
「馬鹿な!?」
「どんな鎧だろうと繋ぎ目は脆いものさ」
金兵堂 討伐
鬼は巨体を横たえると塵と化した。
黒兵衛が先に進むとまたも突当たりがあり襖を開ける。
部屋一面に紫の薔薇が咲き誇り、その中心に十二羽織姿で着物の裾で口元を隠した狐目の女鬼が居た。
「金兵堂がやられたようね?」
上弦の伍
「私の薔薇園からは誰も逃れられない」
薔薇の花びらが舞い、彼女の周囲を回り始める。一枚一枚が金属の様に鋭い花びらが一斉に黒兵衛に襲い掛かった。
「川の呼吸・参ノ型 山津波!!」
「!?」
黒兵衛は周囲の花びらを全て斬り裂きながら柘榴へと向かって走る。驚愕した彼女は袖で隠した耳元まで裂けた口を大きく開いた。
「残念だったな、お前は俺との相性がすこぶる悪い」
「私の薔薇が・・・!!」
柘榴 討伐
頸を斬られた鬼はそのまま塵と化した。
三度目の襖を開くと、スーツ姿で2m近い長身の額に目がある事以外は普通の人間の男と大きく変わらない姿の鬼が居た。
「この目を見たな?」
上弦の肆
「我が瞳に見入られたお前は永遠に私を捉える事は無い」
「・・・一つ言っておくが、後ろにも目をつけな」
「何?」
「炎の呼吸・壱ノ型 不知火!!」
「ッ!?」
阿尾貘の背後から現れた煉獄が放った技により、鬼の頸はあっさり落とされた。
「しまっ・・・た・・・」
「油断しすぎだ」
阿尾貘 討伐
鬼はそのまま塵と化した。
鬼を倒した煉獄はそのまま黒兵衛と合流する。
「やはりご無事でしたか黒兵衛の兄ぃ!」
「お互いにな」
「しかし、この短期間で既に上弦が補充されているとは」
「ああ、だが猗窩座に比べれば雑魚もいいとこだ。流石に質は落ちてるらしい」
黒兵衛は直接戦った猗窩座と比較してただの間に合わせにしか過ぎないと見破る。
「そのようですね!」
「だが壱と弐がまだ残ってる。壱は未知数だが、弐は厄介だ」
「兄ぃと胡蝶の話から大まかな情報共有はできていますが、並の隊士達では歯が立たないでしょうな!」
「ああ、あの時仕留められれば良かったんだがな」
黒兵衛は腕を組み悩ましげな表情を浮かべた。
「間に合わせの上弦とは言え無駄に時間を食っちまった・・・急ぐぞ!」
「はい!」
二人は無惨の下へと走り出した。
ついに始まった鬼との全面戦争、残る上弦と無惨を相手に果たして鬼殺隊は無事勝利する事ができるのでございましょうか。