指令を受けた俺は三郎爺さんの住んでいる場所の反対側から山に入り、麓にある山小屋にいた一体の鬼を倒し山頂へ向かうと、情報にあった炭焼の家を見つけた。
室内は悲惨な状態で一家惨殺という有様だった。しかし、被害者に喰い殺された痕が無い事に気付き疑問に思っていると、一人の足跡と血痕を見つけた。
もしかしたら生存者がいてそれを鬼が追った可能性があったので後を追うと、今まさに鬼に襲われている少年を見つけた。
「鬼なんかになるな!!しっかりするんだ!!頑張れ!!」
家族を殺され妹を鬼に変えられた少年、"
すると本来は完全に理性を失っている筈の禰豆子に何かが起こったのか、炭治郎の声が届き、涙を流し次第に力を弱めていった。
「禰豆子・・・!?」
すると突然彼女の背後から男が現れ抜刀する。それを見た炭治郎は咄嗟に妹を抱き寄せそれを躱した。
「(誰だ!?それに日本刀?ペラペラに薄い日本刀?)」
身長六尺四三寸程、黒髪のギザギザ逆立つ短髪に赤い笠を被り、日焼けした褐色肌の筋肉隆々な身体に真っ黒な洋服を着て、その上から左右が白黒の羽織を右腕を通さずに着た男。艶黒兵衛である。
「兄ちゃん、危ないからそいつから離れな」
「妹だ!俺の妹なんだ!」
「そうか、妹か・・・お互い惨めだなぁ」
そう言うと黒兵衛は炭治郎達へ向かって走り出す。炭治郎は咄嗟に妹に覆い被さり守ろうとするも、禰豆子は一瞬の間に黒兵衛の左腕に捕まっていた。
「禰豆子!?」
「悪いな兄ちゃん、こいつはもう
そう言って禰豆子の首元に日輪刀を近付ける。
「待ってくれ!!禰豆子は誰も殺してない!俺の家にはもう一つ嗅いだ事の無い誰かの匂いがした!みんなを殺し・・・たのは多分そいつだ!!禰豆子は違うんだ!!」
禰豆子を殺させまいと必死に弁明する炭治郎。
「そう言われてもなぁ、鬼にされちまったものは仕方無ぇんだ。誰かを喰い殺しちまう前に介錯してやるのがせめてもの救いってやつだ」
「禰豆子は人を喰ったりしない!!」
「今まさに喰われそうになってたじゃねぇか?」
「違う!!俺の事はちゃんとわかってる筈だ!!」
「そう言って死んだ奴を山程見てんだ、諦めろ」
「俺が誰も傷つけさせない!きっと禰豆子を人間に戻す!絶対に戻します!!」
炭治郎の話を聞き頭を横に振る黒兵衛。
「鬼を治す方法は
「探す!!必ず方法を見つけるから殺さないでくれ!!」
「・・・・・・」
「家族を殺した奴も見つけ出すから!俺が全部ちゃんとするから!だから!だから・・・」
「・・・はぁ」
黒兵衛はため息を零すと再び日輪刀を構える。
「やめてくれ!!」
すると炭治郎は黒兵衛に向かって跪き土下座をする。
「やめて下さい・・・どうか妹を殺さないで下さい・・・お願いします・・・」
「・・・はぁ、あのなぁ」
「御主の言葉、これっぽっちもときめかないでござる」
「!?」
第三者の声に驚き顔を上げると、黒兵衛の肩に一羽の白い鴉が止まっていた。
「惨めに蹲って命乞いをした所で無駄でござる。そんな事が通用するのなら御主の家族は殺されていないでござるよ」
「(えっ、カラス?、白い鴉?・・・喋ってる?・・・えっ?)」
混乱する炭治郎を他所に
「奪うか奪われるかの瀬戸際に主導権を握れない弱者が何を言っても無駄でござる。弱者には何の権利も選択肢も無く力で強者にねじ伏せられるのみ」
「ッ・・・」
「御主の上っ面の覚悟だけでは妹を治す事も仇を見つける事も不可能でござる。先程妹に覆い被さった時も何故反撃しなかった?御主もろとも斬り殺されてもおかしくなかったでござるよ。黒兵衛の温情に感謝するでござる」
「・・・話は済んだかい?」
白鴉が話し終わったタイミングで黒兵衛が話し出す。
「そういう事だ。恨むならお前ら家族を襲った鬼と、俺を恨みな」
そう言うと黒兵衛は刀を振りかざす。
「ッ!やめろーっ!!」
炭治郎は叫ぶと石を拾いそれを黒兵衛に向かって力強く投げつけた。黒兵衛はそれを難無く弾き落とす。
すると今度は木の陰に隠れつつ再度投石をすると斧を構えて一気に距離を詰めて来た。
「(木を隠れ蓑にするのかと思えば、結局は破れかぶれの突撃か?)」
ビジッ!!
「グッ!?」
黒兵衛は刀を鞭のようにしならせると炭治郎の首筋を打ち気絶させた。
「(ん?斧は何処だ?)」
すると黒兵衛は炭治郎が斧を持っていない事に気が付いた。それと同時に何かが回転する風音に気付き顔を上げると斧が顔に向かって飛んで来ていた。
黒兵衛は顔を傾けそれを避けると斧は背後の木に突き刺さった。
「自分がやられる覚悟で罠を張るたぁ良い度胸してんじゃねぇか」
「ヴヴヴヴヴゥ・・・ガァッ!!」
「うおっ!?」
黒兵衛が炭治郎の覚悟に感心していると掴まれていた禰豆子が突然暴れ出し、黒兵衛を蹴り飛ばす事で拘束から抜け出した。
「(俺としたことが油断したぜ、早いとこ頸を・・・ん?)」
首を斬ろうと一歩足を踏み出そうとしたその時、禰豆子の思わぬ行動に驚愕した。
何と禰豆子は飢餓状態の鬼でありながら炭治郎を庇う様に間に立ち、黒兵衛を威嚇していた。
「(コイツはもしかするかもしれねぇな?)」
「ガァッ!!・・・ヴァ!?」
飛びかかってきた禰豆子を手刀で気絶させた黒兵衛が兄妹を見つめながら思考していると、飛び立っていた白鴉が再び肩に止まった。
「兄は命を犠牲に妹を救おうとし、妹は鬼になりつつも兄を守ろうと壁となる。この兄妹、これまでとは違う何か特別なものがあるのかもしれぬでござるな。思わずときめいてしまったでござる」
「そうだな、とりあえずはお館様に報告だな」
「禰豆子・・・ハッ!?」
暫くして炭治郎が目を覚ますと、隣には人を噛まないようにする為の竹でできた口枷を着けた禰豆子が横たわっていた。
「起きたか兄ちゃん」
「!?」
「おっと、そう身構えるな。もう殺る気はねぇよ」
禰豆子の姿を見て安心した束の間、近くの切り株に座った黒兵衛に話しかけられて警戒する炭治郎。
「この周りに他の鬼はもういねぇから、アンタの家族を弔う手伝いをさせてくれ」
黒兵衛に敵意がない事を匂いで感じ取った炭治郎は黒兵衛と共に家族の遺体を埋葬した。その間に起きた禰豆子は血肉には目もくれず炭治郎の手伝いをしていた。
「さて炭治郎、お前には鬼殺隊に入ってもらう。妹を助けるとか仇を見つけるとかは鬼殺隊になってからじゃなきゃ始まんねぇ」
「はい!」
「
「わかりました!」
「後、くれぐれも妹を太陽の下に出すなよ?直ぐに燃え尽きちまうからな」
「は、はい!気をつけます!」
「それじゃあな。俺は次の任務があるから」
「何から何までありがとうございました!!」
遠ざかる黒兵衛の背中に向かって見えなくなるまで手を振り続ける炭治郎。
二人は荷造りをすると、鱗滝という老人に会う為旅に出たのであります。
人を喰わぬ鬼の出現により、鬼殺隊の歴史に大きな波が生まれたのでありました。