某所、天渡会支部。
幹部より下の構成員には完全に伏せられたどこかの地にある天渡会の集会所。
そこへとメタルレーマに変貌していた大男が招集され、他の4人の幹部ら、そして天渡会のトップである
「導師、先の戦闘ではお見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ございませんでした」
「問題無いよメタル、“プロフェット”の予言通りに事は進んでいる上、新たなるレーマの誕生も確認できた。神世界への到達にまた近付いたのだから」
は、とメタルと呼ばれた大男が深々と頭を下げる。
「プロフェットの次なる大予言は……確か、霞ヶ関への侵攻だったね」
「はい……水無月の六日、日本の中枢を成す地点である
幹部らに並ぶ黒いドレスの婦人、プロフェットが微笑むと、導師が笑みを返す。
「現状、日本の一部省庁にも我々の仲間はいる。が、彼らのみならず、霞ヶ関を中心としてさらに王を信ずる者を迎え入れ、一人でも多くの人が神世界に到達できる様に我々は働いていこう」
導師の激励に、幹部らと共に座っていた黒いセーラー服の少女がそれなら、と口を挟む。それを見て怪訝な顔を向ける幹部もいたが、導師は笑顔で彼女へと視線を運ぶ。
「レーマ狩りが持つあの力、私達のモノにしたいですよね」
「そうだね、穣司──“ベルゼノ”」
穣司、すなわち導師に次ぐ天渡会の実力者。その立場を得ている少女──ベルゼノは不敵な笑顔で自分の携帯に残っている仮面ライダーの画像を何枚から見る。
「レーマが持つ性質を2つも掛け合わせつつ、肉体強化を行えるあの機械、あれがあれば天渡会がさらなる力を得られる……素敵ですね」
「力は手段でしか無い、それをお忘れ無きよう」
幹部の1人である小柄で長髪の男がベルゼノを睨むと、そうでした、と彼女が座りながら会釈する。
その様子が気に食わず、男は舌打ちをして目を逸らしてしまう。
「それにレーマ狩りが持つ武装を手に入れるにしても、どうやって……」
メタルが呟いた当然の疑問に全員がプロフェットの方を向く。
「私の予言によれば、霞ヶ関の戦闘では“死神には悪夢を”、“亡者には速き獣を”、“堅牢なる者には小さき命を”、と出ています。つまり今回直接の戦闘を行うのは新入りのナイトメアに、幹部からプロングホーン、マイクロブになると解釈できます」
「ならばそれ以外の人員をレーマ狩りの武装奪取、あとは
導師が問うと、ベルゼノが口を挟む。
「“シャドー”を使うのはどうです? 彼の報告によると近々レーマ狩りの組織に入り込むみたいなので、そこで奴らの基地の場所を掴んでもらいつつ、技術についてもガサ入れしてもらいましょう」
「シャドーの根回しに期待しよう。霞ヶ関襲撃の際はベルゼノも彼に協力してほしい」
「お任せください」
余裕と自信を感じさせれるベルゼノの静かな笑みに導師がうなずく。
「では、霞ヶ関の件まではこれまでと同様にプロフェットの予言していた細かな事象に沿って行動してほしい」
導師の指示に各々が返事する。
「直近では明後日の東城大学進撃があるか、向かわせるのはハンマーで良かったね」
「ええ、鉄鎚の猛者が学び舎を砕く……と」
プロフェットが予言の文章を述べると、メタルがため息をつく。
「壊すのなら俺が行けたらいいんだが……」
「原理はともかく、我が力の予言は絶対ですから。現にシャドーやナイトメアを仲間にできたのは予言によるものですから」
「破壊狂いめ、気持ちは分かるけどな」
プロフェットともう一人、灰色のジャージを着た小麦肌の女性、プロングホーンに諭され、すまない、とメタルが目を閉じながら謝罪する。
「我々の動きは常に一進一退、神世界への道がいつ切り拓かれるかはまだ見えてこない。だが、いつか人々が大いなる力を持ち、王の教えの下に団結し、争いの無い世界が実現するその日まで……戦おう」
「全ては王の為に」
幹部らが斉唱すると、会合が終了し、それぞれが今後の計画に向けて解散する。
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ユニットD本部、研究室。
天渡会幹部、メタルレーマとの激闘を終えたAD2は機能の修復と共にライドボレアスの火力向上に取り組む事になった。
加えて、花恋用のPRSも開発しなければならず、金剛は非常に多忙な状況となっていた。
「いつレーマが襲ってくるか分からないのに虎の子のライドボレアスがオジャンとか聞いてねえよ~」
推測されていた稼働限界を遥かにオーバーしたライドボレアスの起動、発射は本体に大きな損傷を与え、修復と名乗っていてもその実態は丸々交換といった具合であった。
新進気鋭の最新設備が早速使い物にならなくなるという事態に金剛は眉を歪ませ苦悶の表情を見せながら作業をこなしていた。
そこにさだめが現れ、珍しい訪問に金剛が不思議そうに口を尖らせる。
「さだめちゃん? 呼んでないのにここに来るなんて珍しいね」
「その……相談がありまして」
彼女を椅子に座らせると、金剛が作業を継続しながら彼女の話に耳を傾ける。
「単刀直入に申し上げると、私に勉強を教えてほしいんです」
「……ほー、勉強とな」
「花恋さんは今日も大学に通っていて、勉学に励んでいます」
花恋の名を出したさだめに金剛は手を止める。
「東城大学行きたいのかい?」
「……はい」
うつむくさだめに金剛は何度か首を縦に振る。
「那珂さんと同じ大学に通って、彼女と肩を並べたい──といった具合かな」
「突然、すぎますよね」
「学びを得たいって気持ちは突然でもウェルカムだよ、それが誰かと一緒にいたいって理由でもね」
表情が読めないさだめではあるが、彼女から安堵を感じ取った金剛は作業を再開しながらしかし、と話を続ける。
「東城大学は厳しいよ、なんてったって日本最高峰の大学だ」
「承知の上です」
さだめの覚悟を聞いて金剛が笑う。
「君が本気なら僕も本気で勉強を教えよう、世界最高の頭脳を自称する人間としては勉強を教えた子が一年足らずで東大入学した、なんて言ったら鼻が高いからね」
いたずらな笑いを浮かべる金剛にさだめも口角を上げる。
「……ですが、藤村さんも忙しいのにこんな事を頼んでしまって……」
「そこは気にしないでよ、マルチタスクも天才の技能さ。仮面ライダーの強化改修を行いながら勉強を教える事くらいワケないさ!」
胸を手を当てて誇らしげにする金剛を見てさだめが頭を下げる。
「お願いします、藤村さん」
「任せときなよ、まずは君の学力をテストするからそのペーパーを作っとくよ。ほんでさだめちゃんがどんだけ勉強できるか把握しつつ、レベルをどんどん上げてくからね、確か高校は──」
「卒業してます」
「オーケー、高校卒業レベルの問題から始めますわ」
「よろしくお願いします」
(花恋さん……私は、あなたと少しでも、近くなりたい)
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東京都目黒区駒場。
東城大学駒場キャンパス。
1年次の学生が前期課程において教養を学ぶ場であるそこに、花恋も足を運んでいた。
「やっぱり東大っていうだけあって教養科目も難易度が高いべ……天才にでも勉強教えてもらいたいもんですよ」
独りごちる花恋にあの、と同じ学年であろう緑がかった黒髪の青年が話しかけてくる。
「もし分からない事があれば、良かったら聞きますよ?」
ぎこちない笑顔の青年に、花恋は警戒心なくマジすか? と問う。
「あっ、いや……教授に聞いた方が分かりやすいかも知れないけれど──ごめんなさい、お節介でしたかね」
「いえいえ、もし色々教えてくれるなら折角だし聞きたいです……!」
控え目な性格の2人がお互いに距離を図りながらあたふたと会話していると、青年の後ろからもう一人、派手な金髪を跳ねさせた青年が手を振りながら現れ、黒髪の青年と肩を組む。
「またお節介焼きか楓! お姉さん、もし鬱陶しかったら断っても大丈夫だぜ!」
「あ、ですです」
「鬱陶しいだなんて全然、むしろ分からない所を教えてくれるみたいでありがたくって」
「だってさ、良かったな
楓と呼ばれた黒髪の青年は軽い印象の青年に苦笑いしながら彼を指さす。
「うるさくてすみません、彼は
「ゲッ、巻き込んできやがったな……まぁレディーの悩みに乗るくらい訳無いがな!」
「と、とにかく勉強教えてくれるならどちらでも……」
騒がしい青年2人に言われるがまま、花恋は彼らに勉強の相談を任せる事にした。
駒場キャンパス内、先進教育棟、自由教室。
「ここならゆっくり勉強できますね」
「本当はファミレスとかでドリンクバー飲みながらやりたい所だが、なんか“いかがわしい”と思っちまってな」
勇太郎の一言に花恋は天渡会の勧誘手口を思い出す。彼らもファミレスや喫茶店など、開けた店舗で話を持ち寄ったりしていた。そうしたやり方で両親も次第に天渡会にのめり込んでいっていた事を思い出す。
「最近店を使って宗教勧誘する輩が多いみたいだから間違われたくなかったってな、あとナンパだと思わんのもヤだったしな」
「ハイ、そういうの……好きじゃないんで気配り助かります」
思わず花恋が含みのある笑みを見せてしまう。それを目にして勇太郎が先程のはつらつとした表情から口角を下げる。
と、楓が話を続ける。
「それじゃ早速分かんないところを──」
「の前に自己紹介といかねぇか?」
勇太郎の提案に花恋もうなずくと、楓は確かに、と苦笑いする。
楓と行動を共にする火島勇太郎は、自分の能力に挑戦したくて東大の門をくぐったと冗談なのか本気なのか定かではないきっかけを語った。優秀な学力を持った人間がどんな風に人を教える様になるのかという興味本位で教育学部に入った所楓と出会い、意気投合したという。
2人はこの春出会ったばかりであったが、まるで旧知の仲の様に打ち解けて、親友になったのだ。
微笑ましい彼らの話を聞いて花恋も笑みがこぼれる。
「私は、親が東大に入れって言うから来ました。教育学部は、小学生の時の先生に憧れて、あんな先生になれたらなって入りました」
「親御さんに入れって言われて入っちゃうのか、凄いな……僕より頭いいかもじゃないですか」
「それだけで入れる程東大って楽な場所じゃねぇと思うが……他にもきっかけとかあったのか?」
「……特には……父や母の言葉が全てだったので」
ふと花恋が口漏らした言葉に楓と勇太郎が硬直する。花恋の複雑な家庭事情を察し言葉を失ってしまったのだ。
「あっ、変な事言っちゃいましたね……両親の事もそうなんですけど、あと、東京暮らしってのも凄く憧れてて、東京の大学に入りたいって思ってたから折角なら一番いいとこ目指してみようって、就職にも有利ですし」
ごまかす様に述べる花恋にそれ以上は踏み込むまいと勇太郎らは軽くうなずいて教材を取り出す。
「それじゃあ那珂サンは東京じゃないトコから来てんだな、口ぶりからすっと結構遠くから上京して来たンスか?」
「はい、大分から」
「大分っつったら福沢諭吉の出身地じゃねぇか、スゲェな」
「そういうのすぐ出てくる勇太郎もスゴイね……」
談話も程々にして3人が勉強を始める。
花恋の悩んでいた部分は勇太郎の簡潔かつ正確な説明で瞬く間に解決し、そこから付随する諸々の応用問題まで解け、果てには次回講義の予習まで片付けてしまった。
「まさかこんなにサラサラと勉強が進むなんて……こんなに素早く頭に入ってきたのは小学校の時以来です!」
「お、さっき言ってた先生か?」
「そうです、あの時の先生──小林先生だったっけ……本当に凄い先生で」
そう言って思い出す恩師の顔。彼女は児童の持つ能力を見つけ、伸ばしていく事に長けた教師であった。彼女の教育によって花恋は自分の得意な事を見つけ、それをどう活かすかを知り、その後の勉強に対しての意義としていた。彼女がいなければ花恋はこの場所にいなかっただろう。
「いい先生だったんだな」
「僕も、その小林先生みたいに、生徒を導ける先生になりたいなぁ」
憧れに情熱を燃やす楓に勇太郎が優しい笑みを向ける。
「お前のその夢、応援するぜ。絶対叶えてみせようぜ」
「うん!」
「そういえば火島さんは夢とかは無いんですか?」
「俺か? 俺はそうだな……そういう将来の事とか全然考えてねーや、まぁここを出てから考えても遅くないと思うしな、好き勝手やっても上手くいく様な気がしてさ」
要は何も考えていないのだが、それを笑い飛ばせる勇太郎の姿を見ていると、本当にそんな行き当たりばったりな生き方でもなんとかなってしまいそうな気がする。
「火島くんはいつか大物になりそうな器を感じますね」
「那珂サン敬語はいいって! どうせ俺もタメ口なんだから」
「それもそっか……!」
「もし気にするなら敬語のままでも大丈夫ですよ」
「楓も敬語使うなよ~! 女子だから緊張してんのかァ?」
からかう勇太郎に楓はそんなじゃないって、と苦笑いする。
「とにかく那珂さん、同じ教育学部同士よろしくお願いしま──よろしくね!」
楓と勇太郎が笑うと、花恋も笑顔を返す。