仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#11 力なき者は

 ユニットD本部、特殊独居房。

 

 大学から帰宅した花恋は快活な青年らとの出会いをさだめに語っていた。

 

「いやぁ~中々面白い人達だったんだよぉ~」

「新しい環境でも友達が出来て、良かったね」

 

 友の新たな交友を喜ぶさだめに花恋はそうそう、と返す。

 

「さだめちゃんの事も忘れてないからね? 今度絶対にカフェ行こうね、一緒にね!」

「うん……でもいいのかな」

 

 自分が死刑囚である事実を思い、遠慮するさだめに花恋は首を横に振って笑う。

 

「大丈夫だよ、それに、また大淀さんに聞いてみればいいじゃん、“外出てもいいですかー”って」

「そんなラフな……」

「ラフでいいのよ、考えすぎず突っ走っちゃった方が気持ちよく事が進んだりするでしょ?」

「まぁ……花恋さんがそう言うなら」

 

 押しに弱いさだめに言う事を聞かせた様な形にはなってしまったが、その方が彼女の為になると花恋は考え、自分の言った通り突っ走る事にした。

 

「折角だから駒場の近くで駄弁りたいね~」

「き、気が早いってば……」

 

 戸惑うさだめの姿を見て、花恋はより気持ちを高める。

 

「とりあえずさ、大淀さんに取り合ってみて、さだめちゃん」

「……私が?」

「ちゃんと人と話す練習だと思って、まだまだここの人達とのコミュニケーション足りてないんじゃない?」

 

 そっか、とさだめが呟く。

 花恋や正義から言われた“人とのコミュニケーションを大事にしてほしい”という願いを思い出し、さだめは大淀との対話を積極的に考える。

 金剛に話せた様に、大淀もまた死刑囚である自分を受け入れ、守ってくれている。だからきっと上手く話せるはず。そう念じてさだめは心を決める。

 

「明日話してみる、ありがとう……花恋さん」

 

 さだめの(かす)かな笑みに花恋は満面の笑みを返す。

 

──────────────────

 

 翌日。

 花恋が大学へ出かけている間にさだめは大淀に諸々話す事にした。

 

 ユニットD本部、指揮官室。

 物々しい雰囲気の部屋にさだめが入室する。

 

「信濃くんが一人でここに来るとは……珍しい事もあるものだな」

「大淀さんに話したい事があった、というのもあるのですが……とにかく皆さんとお話がしたいな、と」

「話か、まぁ信濃くんは他者を敬遠しているきらいがあったからな。人との交流はとてもいい経験になるだろう」

 

 まるで親の様にさだめを見て優しく微笑む大淀だったが、本題を忘れている事に気が付いた。

 

「して話とはなんだ?」

「……外出許可が欲しいんです」

「ほう、何か急用か?」

「いえ……」

 

 花恋と茶を飲みたいから外出する、などと死刑囚である自分が言えばなんと言われるだろうか。さだめがそんな不安を巡らせながら視線を泳がせていると、大淀はその空気を感じ取りよし、とつぶやく。

 

「許可しよう、ただし監視は付ける。武蔵くんでよければな」

「武蔵さん……ですか」

「不服か、ふふ」

 

 失笑する指揮官にさだめが呆気に取られていると、笑みをこぼしながら大淀は花恋から聞いていた話を伝える。

 

「かつて那珂くんが君と外でお茶をしたいと話していてね。きっとその事だろう?」

 

 図星をつかれてさだめが一歩下がる。

 

「なに、君が死刑囚だからそんな遊びに行く事を許さないと言うとでも思っていたのか?」

「と、当然です、私は本来拘置所内で生涯を終えなくてはならない立場なのですから」

「君は違うさ、死刑囚でありながら実験的側面を持った特別な監視対象だ。聞こえは悪いが君の行動は死刑囚にどの様な心理変化がみられるか、それを測定する指標となる……噛み砕いて言えば君がお茶を飲みに行くのもある種のテストだし、そこでいちごホイップフラペチーノのグランデチョコソーストッピングを喫するのもある種テストなのだよ」

「いちご、ホイップ……」

 

 大淀の発言が上手く理解できず眉をひそめるさだめだったが、大淀はだが、とつぶやいて話を変える。

 

「あまり時間は残されていないかも知れない、行くなら早い方がいい」

「時間が無い……と言うと、私はもうすぐで──」

「いや、求刑が近いという事では無いのだが、どうやらじきにユニットDに新しい人員が配属される。それが君の処遇を良く思っていない連中らしく、信濃くんが外出しようものなら何を言って来るか分からないのだよ」

 

 先程まで微笑んでいた大淀の顔からは笑みが消え、さだめの身を案じる様に彼女を真剣に見つめていた。

 

「君の幸せが、平穏が、心無い大人によって侵されようとしている……同じ大人として恥ずべき事だが……それを私はどうしようもできない。許してほしい」

「いえ、大淀さんが悪い訳では無いので……」

 

 自分の事を良く思わない人間が来る。

 さだめ自身は社会から疎まれる存在である事を自覚していたが、それが結果的に花恋を悲しませる事になるのは嫌だった。

 早い方がいいなら、とさだめは思案する。

 

「明日、花恋さんと外出します。三隈さんの許可は取れるでしょうか」

「構わんよ、三隈くんには業務として行ってもらうし上司の命令には逆らえんからな」

 

 大淀の顔に笑みが戻る。それを見てさだめも少しだけ顔をほころばせる。

 

「あ、それと……君が話しかけてくれたのは幸運だった、丁度渡せていなかったものがある」

 

 大淀が机の引き出しからある写真を取り出す。

 さだめに手渡されたそれは、信濃家の墓石であった。

 それを見てさだめは複雑な感情に押し潰されそうになる。

 

「……!」

「すまない、君の気を悪くするつもりは無かったのだが、必要な情報だと思ってな。裏を見てみてくれ」

 

 言われるがまま写真を裏返すと、その墓があると思われる霊園の所在地と、墓所番号がメモされていた。

 

「勝手ではあるが、君のご家族は親類の方に許可を取った上でそこで眠っていただいた。外出する許可がまた今回の様に軽々と出せるかは分からないが、いつかそこに行って、供養してくるといいだろう」

 

 その写真を見て、改めて自分の家族はもういない事を突き付けられた様で、さだめは胸が苦しくなった。

 大淀が善意でこれを持っていた事は心の底から理解できるが、まだ家族との別離を飲み込めた訳では無かった事を痛感させられる。

 

「……っ」

 

 胸を押さえてその場にしゃがみ込むさだめを見て大淀が隣に寄り添う。

 

「まだ心の整理が出来ていなかったか、悪かった信濃くん。でも大丈夫だ、君には私達がついている。那珂くんがいる」

 

 那珂花恋。彼女の事を思い出してさだめはようやく呼吸が整っていく。彼女ならこの悲しみを理解してくれるかもしれない、受け止めてくれるかもしれない。そう思うと、次第に気が楽になってきた。

 

「大淀さん、取り乱してすみませんでした」

「いいんだ、家族を失う事が悲しいのは当たり前の事だ。君はもっと人に寄りかかっていいんだ、それだけの悲しみを背負っている。いや、背負っているのはそれだけじゃない、多くのものを背負い過ぎている。だから、もっと私達を頼ってくれ……こんな頼りない私達で良ければな」

「いえ、頼りなくなんてないです。私が皆さんを頼らなすぎた、だけです」

「そうか、ならこれからもっと私達に甘えてくれ、信濃くん」

 

 大淀がさだめの頭を撫でると、彼女は一粒涙をこぼして、それを手で拭う。

 

「……ありがとうございます」

 

 さだめが写真を大事に抱える。

 

──────────────────

 

「那珂さん、今日の範囲全然悩んでなかったみたいだね」

 

 東城大学駒場キャンパス。

 

 難無く講義内容を理解していた花恋の様子を見ていた楓が休憩時間に話しかけてきた。

 花恋はうん、と元気のこもった返事をして楓、そして同行していた勇太郎へと笑顔を向ける。

 

「霧島くんが声をかけてくれたおかげで内容の理解が深まってスッと講義が入ってくる様になったよ!」

「それは勇太郎のおかげじゃないかな」

 

 苦笑する楓が勇太郎を見ると、自慢げに勇太郎が鼻の下をこする。

 

「まー俺にかかればいっちょこんなモンよ」

「ありがとう、火島くん!」

 

 輝く瞳で礼を言う花恋のきらめきに勇太郎は目をくらませる。

 

(まぶしすぎるぜこの子……!)

 

 花恋の純真さは勇太郎の心を簡単にときめかせる。

 

「あまり強い言葉を使うなよ……好きになっちゃうだろ……」

 

 頬を赤らめながら目を見開いて告げる勇太郎に花恋は困惑する。

 が、楓は顔色一つ変えずに説明を加える。

 

「勇太郎ってなんか惚れっぽいというか僕より女子に対する耐性が無いところがあって、気にしなくていいよ。いつもの事だから」

「いつもの事なんだ……」

「ハァ……ハァ……距離感には気を付けな」

 

 苦しそうにほくそ笑む勇太郎に楓も花恋も苦笑いするしか無かった。

 

「それで、次は近現代史だったよね、講義計画だと宗教の話、だったね──」

 

 少し勇太郎の顔が曇った様に見えた楓だったが、すぐに笑顔に戻った彼を見て気に留めず次の講義の準備を進める。

 

「教室移動しないとだ、那珂さんも同じとこだったよね、一緒に受けない?」

「ぜひぜひ!」

 

 同じ講義を受けるよしみで3人がまとまって近くの机に座り、講義を受ける。

 

 その回で議題に上がったのは現代の宗教──すなわち最も世間を賑わせている宗教団体、天渡会に関する話だった。

 沈黙する花恋と勇太郎を見て楓は少し不自然に感じたが、現在進行形の事件に関わる団体の事であるから真剣に講義を聞いているのだろうと考え、彼も教授の説明に集中した。

 

 活動を始めたのは今より20年以上前になるとされているが、その行動が活発化、過激化し始めたのはここ1年ほどの事であった。

 去年から姿を見せる様になった導師と呼ばれる教祖が今までの教義であった“神世界へと至る”という目標を拡大させる為に神に最も近いと唱えられし生物、レーマを開発。人々をその生物に進化させるとして人々を襲い始めた。レーマの手によって殺害された者に素質があればレーマになれると、それを大義名分にしてテロを開始したのだ。彼らの圧倒的武力に対して人は無力であり、現在でも復興の進まない都市はいくつかあり、外出を自粛する流れも確かにある。実際東城大学でもオンラインと平行しての講義形態を採用しており、キャンパスへの来校も非推奨であった。

 現在、警視庁がレーマ対策の特殊武装隊を設置し対応していると説明しているが、詳細な言及は無く、武装隊の存在すら都市伝説と呼ばれている状態にある。実際に目撃した人も一定数いるが、それは重装備の人間である、レーマと同じ様な生物であったなど、多くの意見が飛び交っており警視庁も回答を控えている為情報が錯綜(さくそう)している。ただし天渡会のレーマに対抗する手段は確実にあるというのが世間一般の考えとなっていた。

 

「──と、天渡会についての概論はそこそこにして、次は周りの学生と天渡会の事について意見を交えてみてください。実際の犯罪と関わりが強い議題なので慎重な考えを持ち、不安を抱えている学生に対しての配慮をしながら話し合ってみましょう」

 

 ディスカッションが開始され、丁度近くにいた楓、勇太郎、花恋は3人組になって天渡会について話し合う事となった。

 神妙な面持ちの花恋と勇太郎に楓は話をしない事を提案する。

 

「もし話しづらいならディスカッションしない様に教授に伝える事もできるけど……」

「いや、この際だから俺は天渡会について思っている事を共有したい」

「火島くんがそう言うならば私も心して聞くよ」

 

 2人の決心に気圧されて楓もうなずく。

 

「俺の両親は天渡会の構成員だったんだ」

 

 勇太郎から繰り出された言葉に楓は目を丸くする。だが花恋はまるでそれを知っていたかの様に落ち着き払って聞いていた。

 

「新興宗教のやる事だ、ここじゃ言えねぇが酷い事を散々されたもんだ。だから俺は天渡会を許せねぇ。レーマとか言ってバケモンけしかけて人を襲っている今のやり方もムカッ腹が立ってしょうがねぇ」

「勇太郎……そんな事があったなんて」

「だけど俺は……あのレーマに対して何もできねぇ、非力だ」

 

 拳を握り締める勇太郎に楓は何を言えず閉口する。

 

「確かに非力かも知れないけど……その思いを託す事は、できるかも知れない」

 

 花恋の言葉に勇太郎が顔を上げる。

 

「さっき教授が警視庁に武装隊がいるって言ってたけど、それは……多分ホント。私も見た事があるから」

「マジか!? どんなんだった!?」

「えっと……うーん……カッコ良かった」

 

 金剛らからユニットDについての守秘義務については聞いていなかったが、花恋は敢えて言葉を濁した。ユニットDの存在が明るみに出るのが面倒、厄介であるからこそ警視庁はそれを黙秘し言及を控えているのだと判断し、花恋も何も言わない事に徹したのだ。恐らくユニットDの面々も自分がそう言うと思ってわざわざ指摘しなかったのだろう。

 だが、勇太郎の姿を目にしていたら、ついユニットDの事について口漏らしてしまった。“見た事がある”と。

 

「俺も努力すればそこに入れるのかな……そうすりゃレーマを一網打尽に……」

「勇太郎……あんまり危険な事に首を突っ込んでほしくないんだけど」

 

 楓が心配そうに勇太郎へ告げると、それを受けた勇太郎は視線を落とす。

 

「お前にそう言われると弱いな……実際にレーマが起こした被害を見てると、人が立ち向かえる訳無いってすぐ分かるもんな……それでも俺は……許せないんだ」

「その気持ちはきっと、武装隊の人が晴らしてくれるよ」

 

 花恋が勇太郎の肩を叩いて微笑む。

 

「私もレーマに出くわして、死んだ──死ぬかと思ったんだけど、そこを助けられたの。それでその人達のおかげでレーマも倒されて、私はこうして元気で生きてる。私もレーマが怖いし憎いけれど、その気持ちは武装隊の人達に託した」

 

 少し嘘をついた。花恋はわずかな罪悪感を覚えながらも勇太郎を説得する為と割り切り、レーマへの怒りを他者に委ねる必要を説く。

 レーマ因子を持たないただの人がレーマに太刀打ちするのは正直に言って自殺行為だ。そんな事を勇太郎にはさせる訳にはいくまいと花恋が睨む様な強い眼差しで訴えかける。

 

「……確かに、俺一人にできる事は限られてるし、ましてやバケモン相手に戦おうなんてのは冗談にならねぇな。もしその武装隊の人らに会えたら“頑張れ”って伝えたいな」

 

 なんとか納得した勇太郎が願いを口にすると、花恋は何度かうなずく。

 

 

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