仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#12 疾きこと命の如し

 ユニットD、特殊独居房。

 

 かつてさだめの減刑を求めて活動を行っていた団体がいた。彼らは拘置中のさだめに様々なプレゼントを寄越した。その一つが、今彼女が着ている可愛らしい洋服であった。

 フリルやリボンがアクセントになった白いブラウスと、心地よいサテン生地の赤いロングスカート。少女である事しか知り得なかった団体の人々がせめて良い服をと贈答した物がまさか役に立つとはさだめも考えていなかった。

 本来囚人にこんな服をあげても普段着としては使えず、無用の長物となっていた所だったが、さだめの特別な境遇がそれらに役割を与えたのだ。

 花恋と共に茶を喫する、その為の装いとなったのである。

 

 今までさだめは誰かから施されたその洋服に意味を見出せず、それがより自身の卑屈さを加速させていたが、ようやくその服が日の目を浴びる事になり、若干浮足立つ。

 

「信濃、準備できたか」

「はい……似合うでしょうか」

 

 自分の格好に自信の無いさだめが正義に問うが、女性の服装に疎い彼に聞いた所で意味は無かった。

 

「それは那珂に聞いてくれ」

「……そうですね」

「そろそろ時間だ、今日はサイドゼファーに乗ってもらう段取りになっている」

「すみません、目的地までお願いします」

 

 駐車場に到着した2人は、金剛によって修復されたライドボレアス、そしてそこに取り付けられたサイドカーであるサイドゼファーに乗り込み、駒場を目指す。

 

──────────────────

 

「那珂サン、今日も勉強会やる?」

「いや、今日はお友達と予定があって」

 

 東城大学駒場キャンパス。

 

 講義が終わり勇太郎に話しかけられた花恋は彼の誘いを断ると、忙しそうに筆記用具を片付ける。

 

「友達ってここの大学の人?」

「それが違くって、恥ずかしながら……まだここの方々とはうまく仲良くなれなくて」

「そうか、まぁ那珂サンは結構社交的だからすぐに他の人とも上手くいくだろ、俺達ともすぐ打ち解けられたしな」

 

 確かにね、と花恋が笑う。

 

「それじゃあ私はこのへんで……ところで霧島くんは?」

「勇太郎、また那珂さん誘ってるの?」

「きたきた」

 

 教授から今日の内容について確認していた楓が戻って来ると、花恋に声をかけていた勇太郎を発見し呆れ返っていた。

 

「那珂さんもこんなチャラ男に話しかけられて嫌だったでしょ、もし都合が悪かったら断っても──」

「あ、断ったよ」

「断ったんだ!?」

 

 花恋からの言葉に驚きを隠せない楓が勇太郎を覗くと、少し寂しそうな顔をしていた。

 

「まぁそういう日もあるからさ……ね、勇太郎」

「お、俺はへっちゃらだぜ」

 

 存外へこんでいる様子の勇太郎を見かねて楓が花恋に向かって手を合わせる。

 

「都合のいい日があったらまた会ってあげてね、那珂さん」

「それは勿論! またお勉強会しましょうね、今度はカフェやファミレスでもいいですよ」

 

 花恋の笑顔に勇太郎は元気付けられると、笑顔を返して納得する。

 

「また、だな那珂サン!」

「うん! それじゃ!!」

 

 待ち合わせの為にその場を離れる花恋に楓と勇太郎が手を振る。

 

「しゃーないから俺達で勉強会開くか」

「今日は教授から色々聞いたんで共有できる事たくさんあるよ」

 

 花恋と別れ2人は先進教育棟へ向かう。

 

──────────────────

 

 花恋が待ち合わせ場所のカフェ前で立っていると、彼方から重厚なビジュアルのバイクが走って来た。

 その様相を見るや否やそれが待ち人であると気付き顔がほころぶ。

 

(あんのごっついバイクは……確実に2人じゃんすか)

 

 バイクが花恋の前で止まると、フルフェイスヘルメットのバイザーを上げて正義が待たせた、と一言告げる。

 

「ライドボレアスは駐輪場に止めるから信濃と待っていてくれ」

 

 さだめには発信機が取り付けられており、逃亡の可能性が低い事、そして正義からの信頼が重なって出た発言に彼女はその場に留まる事で応える。

 

「さだめちゃん、何飲む?」

 

 花恋が背を傾けて尋ねると、注文の事を何も考えてなかったさだめがあー、と思いふける様に空を眺める。

 雲の多い空模様にさだめは自分の心情を重ねる。

 

(昔は流行りのメニューに飛びついていた気がするけど、今はあまり興味が無い)

「……花恋さんと同じもので」

「じゃあいちごホイップフラペチーノグランデチョコソーストッピングね」

「流行ってるんですかソレ」

 

 自分で突っ込んでおいて、さだめは笑ってしまう。

 誰かとこんな他愛の無い会話をしたのはいつぶりだろう、と胸の内から感情が湧き上がる。

 嬉しい、こんな時間がまた来るなんて。

 

 

 しかし、その幸せは、長くは続かなかった。

 

 携帯に通知される警告。けたたましいサイレンの様な発信音が示すのはレーマの出現であった。

 駐車場からライドボレアスに乗ったまま正義が戻ってくる。

 

「緊急事態、レーマだ!」

「場所は……駒場キャンパス」

 

 花恋が顔を青くする。そこにはまだ勇太郎や楓が残っている。

 そんな場所でレーマが暴れれば彼らにも危険が及ぶだろう。

 

「三隈さんバイク“ニケツ”行けますか!?」

「ああ、ヘルメットの予備がある、急ぐぞ!」

 

 さだめはサイドゼファーへ、花恋は正義の後ろに乗って液晶が案内する敵の地点へと急行する。

 

 コードネーム・ハンマーレーマは学舎を破壊しながら人々を襲っていた。その手に持つハンマーを振るい強力な打撃で大学生や教員らを撲殺せんと動いているのだ。

 

「あそこには私の友達が……! 急がないと……!」

「花恋さん、冷静にいきましょう、今回の敵のパワーと機動力を考えると、あなたが適任になると思う」

 

 さだめの説明を聞いて花恋が歯を食いしばる。

 

 

 駒場キャンパス内道路。

 目的地に到着し正義とさだめがアタッシュケースを持ち出す。

 

「そんで“ヴィヴレ”ってあったり?」

「する」

 

 正義がバイク後部に取り付けられていたもう一つのアタッシュケースを花恋に渡す。

 

「君の回復力と瞬発力でヤツを止めるぞ」

「はい!!」

 

 3人が真っ直ぐ見つめる方向には、血にまみれたハンマーレーマが立ちはだかっていた。

 

《Confluencer Ready》

 

 ベルトを装着した3人がそれぞれのイートリッジを起動させる。

 

《DEATH》

《STEAM》

 

《PANGOLIN》

《ANCHOR》

 

《UNDEAD》

《HOPPER》

 

「変身!」

 

 その認証音声を唱和しバックルのダイヤルを回転させると、粒子が彼女らを包み、戦士としての姿を形成する。

 

《Property Compile……DEATH・STEAM》

《Property Compile……PANGOLIN・ANCHOR》

《Property Compile……UNDEAD・HOPPER》

 

 装甲を纏った仮面ライダーらは、逃亡しようとするハンマーレーマを追う。

 その中で花恋が変身した赤いインナースーツと緑青(ろくしょう)の装甲を有した戦士が誰よりも素早く、敵へと追いつく。

 凄まじいスピードを有したその戦士は、かつて試験的運用をした時の運動能力を遥かに超えていた。

 

「逃げるなんて卑怯だよっ!」

 

 ハンマーレーマが得物のハンマーで赤き戦士を狙うが、瞬時に回避され、回し蹴りを食らう。

 逃亡中だったハンマーレーマの体が蹴りと慣性によって前方へ回転しながら吹き飛び、転がりつつ倒れ込む。

 

「見たか! これが『仮面ライダーヴィヴレ』の本領だい!!」

 

 拳を前に突き出したファイティングポーズを決めた赤き戦士──ヴィヴレが無惨に這いつくばる敵へと啖呵を切る。

 

「さぁどう煮込んでやろうか……」

 

 ヴィヴレがハンマーレーマへと歩を進めると、道路の奥から勇太郎が出てきた。

 

「!? 生存者か……こんな所に!」

 

 AD2が彼らへと駆け寄るが、それよりも速くヴィヴレが勇太郎の元へと駆けていた。

 

 ヴィヴレの姿を目の当たりにして、勇太郎は花恋の言っていた武装隊の事を思い出した。

 

「あ、アンタ例の警察の武装隊、だろ……楓が、友達が……あのバケモノに……殺された!」

 

 今まで俊敏に動いていたヴィヴレの動きが静止する。

 先程まで楽しく会話していた楓が、殺された。その言葉を疑いながら、ヴィヴレは勇太郎の抱いている人の亡骸へとゆっくり視線を移していく。

 

「霧島、くん……?」

「なんでアンタ、楓の苗字知って──」

 

 刹那、勇太郎の脳内に数多の情報が巡る。

 目の前の戦士(ヴィヴレ)が楓の事を知っている、花恋が噂程度にしか知られていなかった武装隊と会った事があるという話、ヴィヴレの声色、抑揚――記憶、口伝、表情、仕草。

 今まで得てきた要素が重なりあい、勇太郎の中で一つの答えに収束していく。

 

「――那珂サン、なのか」

 

 言い当てられたヴィヴレは焦りを仮面に隠し、冷静を装って勇太郎へと視線を合わせる。

 

「今はとにかく逃げて、レーマの暴走は私達が食い止めるから」

「友達の、仇を取ってくれねぇか」

「仇討ちってのはできるか分からない……でも、レーマは必ず倒す」

「倒すって、こんな事した奴らを生かしておくのか──」

「今はとにかく逃げて、ここにいたら危ない」

 

 そう言っている内にもハンマーレーマの攻撃が飛来し、AD2によって防御される。

 

「ここにいたら君まで巻き込まれるから、どこか遠くへ!」

「……頼んだぞ、ホントに」

 

 悔恨か、焦燥か、感情に折り合いをつけられないまま勇太郎は楓を抱えて走っていく。

 

 と、その場に宇宙人の様な姿のレーマが現れ、楓に触れる。

 

(あのレーマ、前に成田空港で死体を回収していた……)

 

 比較的そのレーマに近い場所にいたカルヴァリアが走り出し、彼らを追うが、またも一瞬で消え去られ追跡できなくなってしまう。

 

(また死体を回収して仲間を増やしている……? でも今回は生きている人を巻き込んでいた? いや、とにかく今はあの敵を打ち倒すべきか)

 

 拉致された勇太郎の身を案ずるが、それよりもハンマーレーマを撃破する事を優先して考える。

 

《Decisive Boost……DEATH・STEAM》

 

「三隈さん、花恋さん……これで決める!」

 

 力を解放したカルヴァリアが地面を踏みしめる様に走り抜け、思いきり腰を入れてハンマーレーマへと拳を突き出す。

 その攻撃に反応したハンマーレーマは身をよじらせ胴体への直撃を避け、腕部で受けてみせた。それにより間一髪致命打を防ぎ、弾けた右腕に目もくれず受け身を取って立ち上がる。

 

「……このッ!!」

 

 苛立つカルヴァリアがもう一度必殺技を放とうとするが、肉体にかかる負荷を防ぐ為にロックが働き、ダイヤルを回しても能力を解放できない。

 だが、彼女の代わりにヴィヴレが能力を解放し、必殺技を発動する。

 

《Decisive Boost……UNDEAD・HOPPER》

 

「ここは任せて、さだめちゃん!!」

 

 ダイヤルの回転で真価を発揮するヴィヴレは肉体の限界を完全に無視した運動能力でハンマーレーマに接近し、左腕でハンマーを振るう敵の攻撃をすり抜ける様にかわしながら拳の連撃を食らわしていく。

 

「お前がっ霧島くんを……やったんだなッ!!」

 

 繰り出されるパンチのラッシュは一撃一撃がハンマーレーマに重くのしかかり、体を抉り削いでいく。

 防御を取る筋力すら残らない敵にヴィヴレは最後の殴打を見舞う。

 

「ふざけんなァァァッ!!」

 

 頭部に直撃したその拳はそのまま地面に叩きつけられ、ハンマーレーマの頭を押し潰す様にして赤い粒子を弾け飛ばした。

 

「ふーッ……」

 

 身体の限界を迎えたヴィヴレをカルヴァリアが支え、AD2がイートリッジに残存する粒子を回収する。

 

「イートリッジ回収完了……戦闘を終了します」

 

 AD2が報告すると、通信先の金剛がああ、と答えて現状を報告する。

 

「ハンマーレーマによる犠牲者は比較的少なかったが、その全員が例の宇宙人型レーマによって回収されている。加えて今回は東城大学の学生が生きたまま拉致されている……どうにかしてあのレーマが移動した地点を探し出し、救出しなければならないぞ」

「そうは言いますが、簡単には……」

「分かってる、だけどなんとかするしか、無いんだ……」

 

 喉の奥からひねり出す様な金剛の声色に正義が口をつぐむ。

 

「とにかく、やれる事はやってみる。君達も疲れているだろう、今日は帰還してくれ」

 

 金剛の指示を受け、正義がさだめ、花恋へと金剛からの連絡を共有する。

 

「悪いが帰還指示が出た、カフェはお預けだ」

「そうですか……了解しました」

「……そんな~~~さだめちゃんとのお茶タイムがぁ~~~」

 

 悲壮感たっぷりに嘆く花恋に正義が悪いな、と一言告げる。

 さだめとの時間が無くなった事を残念がる花恋の姿には先程まで身体の限界を超えた攻撃を行っていた面影は無かった。

 

「花恋さん、その、平気なの……?」

「えっと、うん、レーマの力で体はなんかすぐ回復しちゃうらしい! だからまたお茶しに行こうね!」

 

 元気な花恋を見て心配と安堵が混ざるさだめは眉を八の字にしてうなずく。

 

「ホラ、そのきゃわいいお洋服また着てきてね!」

 

 花恋に服を褒められ、さだめは赤面する。

 

 

 彼女らを横目に正義は帰還の準備を整えつつ花恋の様子を伺っていた。

 

(那珂はあの連れ去られた大学生と見知りの様に見えたが……彼女の言っていた友人ってまさかな)

 

 正義は先程目撃したハンマーレーマによって撲殺されたと見られる青年()の遺体の事を思い出した。

 

(……無理をしていないといいが……いや、無理をしているだろうな)

 

 さだめと笑い合う花恋にどこか(かげ)りを感じ、正義は心の中に渦巻く不安感を覆う様にヘルメットを被った。

 

 

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