仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#13 去る命に覚悟を手向け

 それは突然の事だった。

 

 なんの前触れも無く現れたハンマーの形を模した怪物。

 それが巷で言われるレーマである事は誰に言われずとも分かった。

 

「逃げよう勇太郎!」

 

 楓がそう叫び、その名を呼ばれた勇太郎も意を決して逃亡する。

 かつて自分の人生を牛耳り、支配し、壊していった天渡会。そんな連中が生み出したレーマが暴れている事に憤りが隠せないが、今飛び出して楓を危険に晒す事はできない。

 

「コイツ僕らを執拗に追って来るんだけど!?」

 

 焦りながらも走る速度を上げる楓らをハンマーレーマが狙う。と、楓が敵の異様な動きに気付き勇太郎を突き飛ばす。

 次の瞬間には、ハンマーレーマが自らの得物を投擲し、楓の後頭部に直撃させていた。

 

「楓ッ!!」

 

 勇太郎が楓に駆け寄るが、楓は力を振り絞って彼の胸を押す。

 

「逃げて、ゆうたろ……」

「お前を置いて行けるか!」

 

 楓から血液があふれ出る。それを見た勇太郎の動悸が止まらない。

 いつしか目から涙がこぼれ落ちる。

 

 彼に、友に会えたからようやく自分は救われると、自分の人生に光明が差すと思っていたのに。

 なぜ、楓が、自分の手の中で、苦笑いと共に息絶えている?

 

 勇太郎は漏れる嗚咽(おえつ)を隠せないまま、ハンマーレーマの叩撃(こうげき)をかわして楓を引きずる。

 

「お前っ楓っ置いてけるかっ! お前がいないと俺はダメなんだよぉ!!」

 

 バイクの音が近付いてくる。それが花恋の言っていた武装隊である事はすぐ分かった。

 現実離れしたヒロイックな鎧の戦士らのその姿はレーマを倒す為の存在なのだと直感的に理解できるものであった。

 

 自分らを助けてくれた武装隊のうちの一人、赤の戦士の言動に既視感を覚える勇太郎であったが、そんな事を言及している暇もなく、楓を連れて逃げる他なかった。

 だが、眼前に現れたもう一体の怪物が楓の体に触れ、瞬間どこかへと移動してしまった。

 

──────────────────

 

「那珂くん、ちょっといいか」

 

 大淀に呼び出され花恋が指揮官室に連れて来られる。

 

「どうしました、大淀さん?」

「東城大学にて被害にあった人々の身元が全員特定された、その中に君と同じ教育学部の学生がいたから少し聞きたい事があってな」

 

 要件を聞き花恋が目を細める。

 

「単刀直入に聞くが……君の友人がいたんだろう、犠牲者の中に」

「……はい……霧島楓くん、私に勉強を教えてくれた人です」

 

 そうか、とつぶやくと大淀が窓から外を眺める。それは花恋の悲痛に満ちた顔から目を逸らしている様でもあった。

 

「実のところ、通信で君の声は届いていた。霧島くんという青年がその場で息絶えていた事も確認している」

「私の事を詮索してどうしたいんですか」

 

 いつも明るく優しさを忘れなかった花恋とは思えない問いに大淀は奥歯を噛む。

 

「こんな聞き方をしてすまなかった。つまり、私達は君が傷付いている事を分かっている、という事を伝えたかったんだ。だから……辛い時は辛いと言ってもいいんだ、せめてここでぐらい」

「私が悲しんでてもどうにもならないのは、分かってるつもりですから」

「君の心を整理する時間くらいあってもいいだろうに」

 

 眉間にしわを寄せながら大淀が花恋に言い放つ。

 それを受けて花恋は目線を横に、拳を握って口を開いた。

 

「私の友達がレーマにやられたって、さだめちゃんには言わないでもらえますか」

「了解した、君の痛みが彼女に伝わらない様努力する」

 

 ありがとうございます、とだけ言うと花恋は涙を流し始める。

 

「どうして……どうして霧島くんが死ななきゃいけなかったんですか……霧島くんは困ってる私の事を見ててくれて、助けてくれて、自分でもよく分かってない事まで頑張って教えようとしてくれて、なんかずっと人の事を見ているみたいで……誰かの為に動ける人だったんです! それを! どうして!!」

 

 怒りと悲しみが花恋を襲う。天渡会がまた自分から大切なものを奪っていった、その現実が彼女を際限なく痛めつける。ひたすらに辛苦が花恋の心をむごたらしく侵していく。

 

 激情がないまぜになる花恋を大淀が抱きしめる。

 

「辛いだろう、しんどいだろう、君の抱く気持ちは、全てを理解できずとも届いている」

「おおよどさん……」

 

 大丈夫、と優しく声をかける大淀に花恋は感情をぶつけていく。

 悔恨の募る涙が大淀の袖を濡らす。

 

「これからは私も、私達も戦う……だからこんな犠牲はもう出さない」

 

 大淀からの宣言に花恋も落ち着きを取り戻し、大きくうなずく。

 

「もし君が精神的に耐えられないのなら、仮面ライダーを降りてもいい。ここまで戦ってきた事で多くのデータが集まり常人でもレーマと互角に渡り合える可能性が見えてきた、だからこれからは君が必ず戦わなくても良くなる」

「……いえ、私はまだ戦います! さだめちゃんが戦っているのなら私も一緒に戦ってさだめちゃんを支えたいですし、それにレーマをこの手でぶっ潰したい! 私には戦う理由が2つもあるから……まだやります」

 

 拳を握り込んで覚悟を語る花恋を見て、大淀は彼女の強さに感服する。

 

「君は、あれだけ辛い事があっても誰かの事を考えられる強さを持っている……凄いな」

「でも全部克服できたワケじゃありませんから……霧島くんが亡くなった事、まだ立ち直れないですし。だから、また辛くなったら大淀さんに言いに来ます、甘えさせてくださいね」

 

 冗談めかして笑う花恋に、大淀も微笑んでうなずく。言葉には出さずとも、そのうなずきが(こころよ)い了承であると花恋は理解し、頭を下げる。

 

「では、次の戦いに向けてまた訓練しなくちゃなので、そろそろ失礼します」

 

 純粋な笑顔を取り戻した花恋が告げると、再び礼をして指揮官室を後にする。

 それからしばらくして大淀は大きなため息をつくと、金剛に内線を繋ぐ。

 

「例の“GRS”は進みそうか、藤村くん」

「ええ、PRSの調整、それに優先順位は低いですが上から依頼されていた“ERS”の事もあるので牛歩といった所ですが、なんとか予定通り開発は進行しています」

「助かる、人間側の被験者は私のままで構わんな」

 

 いいですが、と続けながら金剛は少し笑う。

 

「彼女らが心配なんですよね」

「返す言葉も無いな……無論その通りだ、あんな小娘共に世界の未来を託しておけはしないからな」

「またまたそう言って、あんな若い子達を頼りに戦おうなんて、大人としては許せませんからね」

「願わくば彼女らが普通の少女として暮らせる様にしてやりたい……それだけだ」

 

 大淀が遠くを眺めて漏らす様につぶやいた。それが遠い理想であると認識はしているが、どうかそうなってほしいと、そう願う姿勢を感じ金剛も茶化す事なく耳を傾ける。

 

「……とにかく、GRSの完成は急いでほしい。“レーマを人間が倒せる”様に、しなければならないのだ」

「承知しました、急ピッチで仕上げますよ。俺天才なんで」

 

 金剛の自信に助けられていると痛感し大淀は自嘲する様に笑うと、了解した、とだけ伝え内線を切る。

 ユニットDにおける装備の開発状況を把握した次は電話がかかってきた。いつもは暇を持て余して書類作業に取りかかる所であるが、今日はなんとも(せわ)しない。大淀は眉間にしわを寄せてから電話に出る。

 

「ユニットD、大淀です」

「こっちも大淀でっす」

 

 声の主が同じ苗字を語るが、その相手は男性の声色をしていた。

 

「“検事総長”、本日はどうなされたのでしょうか」

「どうせお互い自室でカンヅメだろ、兄妹(けいまい)らしくラフに行こうや」

 

 検事総長と呼ばれた男は、大淀の兄であった。しかしその電話相手に彼女は眉をひそめる。

 

「あのですね、お互いの立場をもう少し考えて……」

「ぶっちゃけ仕事の話でもなきゃ家族で電話もできないんだからいいじゃないか頑真、ハハハ」

「……まぁいいでしょう、兄さん。今日は何の用ですか」

 

 明らかに機嫌を損ねる大淀の声を聞いて検事総長はまたも笑う。そして一通り笑ってから話を続ける。

 

「そちらに内調の人間が来るって話は聞いてるよな? それも法務相側の人間ときた」

「法務相側──ええ、内調(サイロ)の者が調査に入る事は伺っていましたがそちらの人間なんですね。想定はしていましたが実際にそうだと言われると気が滅入りますね」

 

 法務相側。彼らはさだめの死刑執行を強行した法務大臣に賛同しており、さだめに与えられた刑を妥当と考えているレーマ過激派の連中である。

 今後ユニットDに訪問する内閣情報調査室──政府の情報機関の人間はさだめの死刑を是としており、その状況に大淀は胃を痛める。

 

「内調のヤツがどんな失言を浴びせるか戦々恐々だぜホント」

「できれば検察(そちら)から味方の検事を何人か呼んできてほしい所ですが、可能でしょうか」

「俺が直々に出向くよ、信濃くんとも会ってみたいし」

 

 えっ、と思わず大淀が言葉を漏らしてしまう。

 

「不満か?」

「いえ、検事総長が都合を押してこちらに来られる事は可能なんですか?」

「内調が動くならそれに合わせてこちらも出向くくらい訳ないさ、それだけ信濃さだめくんの扱いは慎重にするべきだと私自身も考えているからなぁ」

「分かりました、恐らく調査官が来る日程はこちらに届くと思いますので情報が伝わり次第ご連絡します」

「ありがとね、頑真!」

「ですから……」

 

 自分の立場に見合わない態度はやめてほしいと言いたい所だったが、久しぶりに兄と会話できた事が満更でもなく、大淀は強く言うのをためらってしまった。それを理解している検事総長――大淀米太(べいた)はできるだけ砕けた言葉で、昔の様に語りかけて家族の絆を感じるのだった。

 

──────────────────

 

 ユニットD本部、休憩室。

 

 金剛から缶ジュースをもらったさだめはその缶を握りながら花恋の事を考えていた。

 同行していた正義もそんな彼女の様子を伺っていた。

 不安を募らせているさだめを見かねて金剛が声をかける。

 

「やっぱり那珂さんの事が気になるかい」

「それは……もちろん」

 

 と、気を揉むさだめの前に花恋が照れくさそうにして現れる。

 

「アイヤー……お待たせしましまぁ……」

「花恋さん」

 

 缶ジュースをテーブルに置いてさだめが立ち上がると、ゆっくり花恋へと近付いていく。

 

「一体何があったの」

「何でもないよ、お茶会潰されたから大淀さんに愚痴ってただけッス」

 

 花恋はそう言って笑うが、それだけでは無いのは誰から見ても明らかだった。

 

「那珂、君は俺達に辛い顔を見せまいと気丈に振る舞ってるんじゃないか?」

「そう見えますかいっ?」

「見える」

 

 金剛、正義、さだめから即答され、花恋がおどけて天井を見上げる。

 

「那珂さんあんまり隠し事とかしない方がいいよ、向いてないって」

「うぐぐ……」

 

 確かに金剛の言う通り、自分に嘘や隠し事ができない事は分かっていた。

 だったらこのままみんなに楓の死を語ってしまおうか。そう葛藤しながら花恋が顔を曇らせる。

 と、さだめが彼女の手を取って目線を会わせる。

 

「そんなに、私達に言いにくい事なの?」

「そうじゃないけど……みんなを心配させたくなくて──」

「もう心配だよ」

 

 さだめからの反論にぐうの音も出ず、花恋は困り果てる。

 ここで黙っていても余計面々を困惑させ、心配させてしまうのは明白だった。

 

「大丈夫、花恋さん。私達は受け止める」

 

 花恋の力が抜けていく。我慢の限界だった。先程大淀に感情を吐露したはずなのに、悲しみがフラッシュバックし、頭を打ち付ける様な衝撃に襲われる。

 

「っ!」

 

 花恋がふらついて椅子に腰かけると、うなだれながら自分の友人の事を話しはじめた。

 大学でようやくできた友人が、レーマに殺され、レーマに拉致された。

 孤立していた自分に話かけてくれた、慈しみ深い人々が、天渡会によって傷付けられた。

 

 

「――まぁそんな所だと思っていた」

 

 正義から告げられ、花恋がえ、と間の抜けた返事をする。

 

「俺も犠牲者の詳細を確認してたから、那珂さんと同じ教育学部の人だって気付いてまさかと思ってたんだよね」

 

 金剛からも事情を教えられ、花恋が開口したまま硬直する。

 

「知ってたんすか、私の事」

「いやまぁ推測程度だけど」

 

 なんだか自分の気持ちが見透かされた様で花恋は釈然としない。

 しかし、容易く自分の痛みを理解し寄り添ってくれた仲間達に感謝の意も覚える。

 

「だから言ったでしょう、受け入れるって」

 

 そういって微笑するさだめに、花恋は少しだけ瞳から溢れたモノを拭ってうなずく。

 

「那珂さんの話を聞いて、行方不明になっている生存者……火島勇太郎くんの捜索が“絶対”ではなく“絶対の絶対、ホンマに絶対”になった。必ず天渡会のアジトを暴いて火島くんを救出するよ」

「その為に俺達ができる事はありますか?」

 

 正義の問いに金剛は首を傾げる。顎に手を当ててしばらく唸ったあと、あぁ、とうなだれる。

 

「無い……かな、今の所は。でも、火島くんの居場所が判明し次第その場所に強襲をかける事になると思う。その時は仮面ライダーの出番だね」

「任せてください」

 

 正義の強い語気と共にさだめ、花恋が気を引き締める。

 

「さだめちゃん、アレ、あの例の約束はしばらくお休みだね」

「あぁ……分かりました」

「えっ、約束ってなんですか!? さだめちゃん隠し事!?」

 

 約束とは、金剛が勉強を教えるという件であったが、さだめの願いで花恋に内緒という事にされており、花恋を困惑させる結果となってしまった。

 

「内緒」

「私はちゃんと自分の事打ち明けたのに……ずるいよさだめちゃあん!!」

 

 わめく花恋に肩を引っ張られながらさだめは頬を緩ませる。

 

「言うべき時が来たらちゃんと話すから」

「そうじゃなくってェ~!」

 

 花恋の前で約束について話してしまう失言をしてしまった金剛だったが、花恋の顔にいつもの明るさが戻ってきている事を感じて、結果オーライとした。

 

 

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