仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#14 滾る灼熱

「──!」

 

 勇太郎が気が付くと、そこは薄暗いコンクリート造の建物、その中の狭小な一室であった。

 先程楓に触れていたレーマも、脈を失った楓もそのままに別の場所へ移動したらしい。

 

「テメェ、ここどこだ!」

 

 焦りと怒りで突発的にレーマへと突っかかる勇太郎だが、一瞬で首を絞めつけられた。

 

「ここに生存者が来てしまった事は想定外でしたが……ここで消せば同じでしょう」

 

 宇宙人の様な見た目のレーマはその風体からは予想もつかない腕力で勇太郎の首に力を込めていく。

 呼吸がせき止められうっ血する勇太郎だったが、そこに人が入って来る。

 

「待って、“ウィズドロー”」

 

 その声を聞いてウィズドローと呼ばれたレーマが手を放して勇太郎を解放する。

 

「がっ、かはっ!」

「導師、なぜ止めるのです? 私の失敗を払拭させていただきたいのですが……」

「すまないね、彼と話したくて」

 

 ウィズドローレーマの行動を止めた男は、来ていたローブのフードを下ろすと、勇太郎へと笑いかける。その顔を見て勇太郎は目を見開いた。

 

「……親父」

「!?」

 

 思わず驚愕するウィズドローレーマの肩を叩いて導師は勇太郎を見つめる。

 

「久しぶりだね、ゆう──」

「お前が俺の名前を呼ぶんじゃねぇ!!」

「悪かったね、でも“あまり覚えてない”んだ。(ゆう)から先を考えていた所だった」

 

 導師の発言に勇太郎がさらに憤慨するが、それよりも、と楓の方を見る。

 

「彼は王の元に魂が還った。人の(ことわり)で言えば、もう死んでいる」

 

 瞳に光を写さない楓を見て勇太郎が歯ぎしりする。

 

「お前らが殺したんだろうが……天渡会!!」

「いかにも、レーマ因子さえあれば彼も神に至る新たな命として復活できたのだけど、残念だ」

 

 勇太郎が導師の襟を掴む。

 

「何が目的なんだ人殺し共がよォ!」

 

 その言葉を看過できなかったウィズドローレーマが勇太郎を殴り飛ばす。

 レーマの力で暴力を振るわれ、壁に叩きつけられた勇太郎はその場にうずくまるが、苦悶の表情のまま導師を見つめる。

 

「人がみな神に近しい存在、レーマになる事で世界がより良くなる事、それが目的だ」

「レーマになって暴力に走るコレが神に近しいっていうのかよ……!」

 

 咳き込みながら勇太郎が立ち上がると、導師へと近付いていく。

 

「あなたの様な平凡な人間が導師の思想を理解できる訳ないだろう!」

「落ち着いてくれウィズドロー、我らが王は怒りを哀しむ」

 

 ウィズドローレーマをなだめて導師が笑うと、勇太郎の肩に手を置く。が、すぐさま勇太郎はその手を振り払う。

 

「これはキリスト教の聖書から引用するのだが、人には支配、戦争、飢餓、死という厄災が待つという。無論人に与えられた障壁はそれだけでは無い、多くの苦しみが人に襲いかかるんだ。それを克服する為に人はレーマに覚醒する必要があるんだよ」

 

 まるでそれが正論かの様に諭す導師の言葉を勇太郎は聞いていられなくなった。ウィズドローレーマが導師の弁論に恍惚としている間に一発、鉄拳を頬に食らわせた。

 

「ぐあっ……!」

「ベラベラベラベラと人殺しを正当化してんじゃねーぞハゲ! どんな大義があろうと人の人生を、自由を奪う理由にはならねぇだろうが! ましてや楓の命を!!」

 

 激昂する勇太郎に導師はため息をつくと、その姿を変貌させ、人の手が組み合わさった様な不気味かつ神々しさも感じる異形となる。

 

「やっぱオメーもレーマか……」

「教の二十七、”罰は血族にて下す、血は痛みを分かち合う”──天渡会の正義を理解し得ない君には僕が罰を下す」

「ッ、ふざけ──」

 

 

 勇太郎の胴に穴が空いていた。

 

 

 腹部から大量に滴る血液が自分のものであるのかすらよく理解できず、まるで遠くから傍観している様に感じる。だが、実際に激痛は走る上に体の力も抜けていく。ただ目の前の返り血に塗れた怪物への恨み言を吐いてやりたかったが、そのまま意識が遠くなっていく。

 

「魂が還った……か」

 

 人の姿へと戻った導師が少し寂しそうに呟くと、勇太郎の頬に触れる。

 

「僕は父という物が分からなかった、君にも何もしてあげられなかった。しかし──だからこそ、僕はここにいる。君を捨てたからこそ僕はレーマになれた……ありがとう、ごめんよ、“勇五郎”」

 

 

 最後まで息子の名前を思い出せなかった畜生の声が聞こえた。

 心臓に火が灯る感覚があった。

 確かに今、彼の命は絶たれたはずだった。

 

「──誰が勇五郎だボケナス」

「!」

 

 導師の腕を死んだはずの勇太郎が掴む。

 握り潰されそうな程の力を感じた時、導師はかすかに口角を上げた。

 

「お前は殺す」

 

 目を開いた勇太郎が告げると、その体を炎に包み、怪物の姿に変貌させる。

 赤いカブト虫の様な風貌のレーマ、それが彼の新たな形であった。

 

「……レーマになった……選ばれたのだね!」

「導師!」

 

 ウィズドローレーマが体当たりをして導師を掴んだままの勇太郎(レーマ)を引き剥がし、自らの能力でその場から一瞬で距離を取る。

 

「ありがとうウィズドロー、この場に僕を残したのもいい判断だ」

「あの男がレーマならば、ここで御力(みちから)をお使いになるのだと」

 

 その通りだよ、と火傷した腕をさすりながら導師が笑うと、その姿を再びレーマへと変える。

 

「君がレーマへと至ったのならば、王のお考えと同調できるはずだ」

 

 意味深な言葉を残すと、導師は手の様な造形に覆われた口の部分を開いて、人と同じ形の口部を出現させる。

 

「これは王の言葉、(から)の洗礼──我らが教導に従え」

 

 導師が詠唱めいた発言をこぼすと、その場に抗いがたい重力が発生する。ウィズドローレーマはそれを受けて導師へと跪き、(あが)める様に彼を見上げる。一方勇太郎(レーマ)は強い力場の発生に耐えられずその場に這いつくばり、怒りを込めた眼差しを導師に向ける。

 

「苦しみはすぐに消える。脳に情報が()みてくるのが分かるだろう、それが僕の見る世界、僕の望むモノだ」

「ぐ、があああ!」

「何も君を傷付ける訳じゃない、仲間に入れたいんだよ。理解できるだろう?」

 

 勇太郎(レーマ)の脳内に溢れる、人間の歴史と醜い争いの運命、幸せと不幸、希望と絶望、導きと服従。

 複雑な映像と言葉の羅列が彼の意識を蝕み、思考を改ざんしていく。

 

「これは……なんだ……!」

「僕と真の家族となる君には教えておこうか。今君に行使している力は僕──『エアレーマ』の能力、一般的には洗脳と呼ばれるが、僕自身はこれを同調と呼んでいる」

「洗脳、だと……!?」

「同調だよ、僕の祈りを聞いたレーマに僕の思想を同調させるんだ」

「じゃあやっぱり洗脳じゃねぇか……ッ!」

 

 流れ続ける情報がさらに勇太郎(レーマ)を苦しめ、これまでの記憶を上書きしていく様に積み重ねられていく。だが、彼はまだ洗脳に屈せず、意識を保ち続ける。が。

 

(俺は……こんな所でやられる訳には……いや、どうして、なんでアイツがあんなに憎かったんだ? ……そこまでしてこの考えを否定する必要は、だって、人がみんな幸せになるもんな)

 

 導師の思考に飲まれていく。今までの天渡会への憎しみが薄れ、理解が彼を包んでいく。

 だが、勇太郎(レーマ)の目の前のそれが洗脳を阻んだ。

 

 

「楓──」

 

 天渡会の侵攻によって命を落とした親友の死体。レーマへの覚醒に至らなかった、選ばれなかった者の姿。これは、残念か? 魂はどこへ行く? 楓の犠牲が本当に人を幸せにするのか?

 

「──違う」

 

 楓は生きるべき人間だった。少なくとも自分には必要だった。この世界で共に生きていく事が大切だった。それが、なぜ、殺されなければならなかったのか。

 

「楓が死んでんだよ」

 

 レーマへの覚醒? 生命の神化(しんか)? その為の選別? 犠牲?

 そんなものは全て、楓の死の前には形骸であった。

 

「楓を殺す教義が正しい訳ないだろ……!」

 

 勇太郎(レーマ)の炎が強くなる。狭い部屋の中でその強い炎は導師らにも届く。

 

「! 火が……導師、ここは退避を」

 

 ウィズドローレーマが提案するが、導師はその場から動かなかった。

 それは目の前で起きている事象が全くの想定外であるからだった。

 

「何が起きているんだ……まさか、君には同調が──」

「ああ、効いてねえ」

 

 炎に包まれた勇太郎(レーマ)が導師へと歩を進めながら告げる。

 

「僕の力が効かないなんて……」

「それだけお前らへの憎しみが強いって事じゃねぇか」

「そんな事が、有り得るのか」

 

 呆然とする導師に、勇太郎(レーマ)が突撃する。

 咄嗟にウィズドローレーマが前に出て導師を守るが、勇太郎(レーマ)の拳が一撃で彼を部屋の壁まで吹き飛ばし、あろうことか壁を破壊する。

 

「ごはァッ!」

「これが俺の力……お前らを焼き尽くす為の力だ」

 

 勇太郎(レーマ)が導師へと視線を向けると、部屋を包み始める炎を見て自らの復讐者としての(あざな)を思い付く。

 

「ファイア、もっと強ぇ言葉がいいよな……『バーン』、お前らを非難しぶち燃やすヤツの名前だ、俺の本名を忘れちまったテメェにはこの名前を覚えてもらうぜ」

「バーン、バーンレーマか……今度こそ覚えておくよ」

 

 導師の返答を聞くとバーンレーマはウィズドローレーマの沈む方とは反対の壁を殴り、出口を確保する。

 外の光が漏れ出て逆光に照らされながらバーンレーマは楓の亡骸を抱えると、壁の外へと歩む。

 

「クソ親父、いや……エアレーマ。ここでお前をブッ潰してもいいが、その前に楓を骨にしちまいそうだからな」

 

 何階にあるかも分からない建物だったが、今の自分なら飛び降りても何ら問題ないと判断し、躊躇いなく外へと飛び出す。

 

「必ず天渡会をブッ潰す、首を洗って待ってろよ!!」

 

 少し西に傾いた陽光が差した部屋で、一人になった導師が人の姿に戻ってうなじを撫でる。

 

「……プロフェットの予言に無い状況だな、困ったものだが……勇──バーンは僕らを侮っている、ね」

 

 部屋に天渡会の構成員が複数人飛び込んでその惨状に唖然とする。

 

「導師! お怪我は!!」

「僕はいい、それよりもウィズドローレーマの手当てと、逃亡したレーマを追ってほしい」

「逃亡……レーマがですが?」

 

 見当もつかないと言った風な構成員を見て導師が眉を落とす。

 

「僕の力が及ばず、敵対するレーマが生まれてしまった。メタルはいるかい?」

「はっ、メタル様なら待機中です」

「ありがとう、彼を中心にして敵対者……バーンの追跡を頼むよ」

 

 構成員らが頭を下げてウィズドローレーマを連れて去っていくと、導師は破壊された壁から外を眺める。

 

 生い茂る森の中に建てられた地上4階建ての屋敷、それが天渡会の幹部らが集う拠点であった。

 破壊されたのは3階であったが、導師は今度から地下階のある拠点を作るべきかと首を傾げる。

 

──────────────────

 

「ったく、アイツら森ン中にアジトを作りやがって……なんとか人の姿に戻れたから木々を燃やして居場所がバレるって事は無さそうだが……」

 

 携帯をそのまま持っていた事が幸いして、森から脱出し町に出た勇太郎は近くの交番で欠伸(あくび)をかいている警察官に話しかける。

 

「すんません、レーマ事件です!!」

 

 警官は椅子からひっくり返りそうな勢いでのけぞり、血相を変えて勇太郎を見る。よく見たら彼は血塗れの男を背負っていた。

 

「まっ、待って! 専門の人らに取り次ぐから」

「できれば武装隊の人達に連絡を!」

 

 勇太郎から武装隊と聞いて何の事かと考えた警官だったが、すぐに数ヶ月前警視庁本部から寄越された資料を思い出した。

 

「武装隊ってのはピンと来ないんですけど、レーマ専門の班があるからその人達に報告しますよ」

「至急お願いします……俺天渡会に狙われてるみたいなんで!」

 

 困惑しながら警官がユニットDへと連絡する。

 

「君、何が起きたか説明してくれる?」

「……レーマに親友を殺されて、俺もレーマになりました」

「……は?」

 

 一瞬硬直する警官だったが、自分の判断する案件では無いと即座に判断し、聞いたままを電話の相手に伝える。

 

「と、とりあえずすぐに担当の人が来てくれるらしいから……」

 

 レーマ関連の事件に関わるのは初めてであろう警官の対応であったが勇太郎は胸を撫で下ろした。

 

 復讐よりも先に楓を眠らせてあげる事が、最も楓の為になる、そう考えながら勇太郎は武装隊の到着を期待した。

 あわよくば、あの赤い戦士が来てくれるのではないかと想像しながら。

 

 

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