仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#16 リベンジャー

 楓の遺体が東京都千代田区、ユニットD本部付近の葬儀社に引き渡され、納棺される。

 

「あの、不謹慎な話なんですけど、葬儀代とかって」

 

 勇太郎が不安に駆られ滝の様な汗を流しているさまを見ながら金剛が説明しようとする。と、彼らの前に大淀が現れる。

 

「私の個人的な資産で全て支払う。喪服も私が手配したので、霧島くんは手厚く弔ってあげよう」

 

 いいんですか、と表情を曇らせながら勇太郎が問う。対して大淀は落ち着いた声色で大丈夫だ、と返す。

 

「私の部下の友人だ、混み入った事情もあるし気にしないでほしい」

「それと、楓のご家族には……」

「連絡はしてある、じきに葬儀場に来てくれるだろう」

 

 安心した勇太郎は椅子に腰かけて前のめりになりながらうつむいていた。

 短い時間で多くの苦しみを味わった彼の悲嘆に励ませる者はいなかった。

 

 

 楓の葬儀が終わり、参列した同級生らの話が花恋の耳に入る。

 

「霧島君ってレーマに殺されたのよね?」

「もう他人事じゃないよね、怪物騒ぎ」

「やっぱオンライン講義の方が安全だよな、楽だし」

「つーかキャンパスが狙われてたんだろ、学校はどうするんだよ」

 

 口々にささやかれる不安、困惑、恐怖。レーマから身を守る手段が少ない事は人々にとっては逃れがたい苦難であった。だからこそ仮面ライダーがレーマを倒し、天渡会の脅威から彼らを守る必要があるのだが、それにも限りがある。カルヴァリア、AD2、ヴィヴレの3人だけで日本中に現れるレーマを対処するのは現実的は無い上に、いつ天渡会が世界を狙うかも分からない状況で、戦力が増えない事はユニットDの中でも深刻な問題と化していた。

 

「私達だけじゃ守りきれない……また霧島楓君の様な犠牲者を出してしまうかもしれないという課題は全く解決されていないし」

 

 さだめが花恋につぶやくが、当の彼女はうん、と身の無い返答をする事しかできなかった。

 

「信濃、那珂。火葬場まで行くぞ、火島勇太郎君に霧島楓君のご家族もぜひ来てほしいと言っていたからな」

「分かりました」

 

 正義に呼ばれ、さだめが了解を示す。 

 

「それでその火島君は?」

「彼は霊柩車を追って火葬場に向かってる、ユニットDで車両で用意しているから俺達も向かうぞ」

 

 

 火葬場に到着し、花恋が勇太郎と合流する。

 

「火島君」

「那珂さんか、昨日はありがとな」

 

 感謝の意を述べる勇太郎であったが、その表情に笑みは無かった。

 

「ジュースとか飲む? 瓶のヤツあるよ」

「……大丈夫だ……それよりも、武装隊の人達を呼んでくれねぇか? 天渡会の導師について分かった事がある」

 

 勇太郎の語気には、先程は無かった強みが感じられた。落ち込んでいるだけではなく、これからに繋げる為立ち上がろうとする勇気が彼の発言から読み取れた。

 その意志を汲んだ花恋はすぐさま大淀、金剛、正義、さだめを招集した。

 

「あ……さっきの」

「大淀だ、警視庁のレーマ部隊の指揮官を務めている。それで君が分かった事とは?」

 

 勇太郎が導師について情報をまとめながら説明する。

 彼がエアレーマであり、レーマに対する洗脳能力を持つ事、自分には効かずなんとか脱出できた事、勇太郎が導師と親子関係であり憎しみもあった事が洗脳に対抗しうる因果関係を持つと考えるられる事。

 それらの情報を受けて金剛が手に顎を乗せる。

 

「導師の能力はエア……空気とかを意味する語だがなぜ洗脳する能力を持つんだ?」

「それは気になりますけど、今俺が気になったのは洗脳能力がレーマに対するモノらしい事です。人間全体に効く訳じゃないから良かったとも言えますが、その洗脳は話に聞いた限り聞くだけでマズい代物だ……俺達がそれに対抗できるか……」

 

「というかなんでそれを先んじて使わないんですかね? 前線に立ってその能力を使えば私達みんな洗脳できちゃうじゃないですか」

 

 花恋の質問に全員が押し黙る。一方の彼女は何か変な事を言ったのかと慌てながら手の位置を右往左往させる。

 

「私なんかスゴい変な事言いましたもしかして?」

「いや……直球の疑問だったからこちらも呆気に取られただけよ。だって本当にその通りなんだから……最初からヤツらの動きは不可解だったんだ、何かの縛りを設けている様だった」

「やろうと思えば幹部をまとめてけしかけてカルヴァリアしか戦力が無い時点で倒す事だってできたはずです、なぜそうしなかったんだ……」

 

 一同が頭を抱えていると、火葬場の職員がやってくる。

 

「お待たせいたしました、故人様の納骨の準備が整いましたのでご案内します」

 

 職員に促されるまま一行が収骨室に集う。そこには楓の家族もおり、暗い面持ちでいた。

 そこに楓の遺骨が用意される。

 若い彼の骨はほとんど焼き残り、綺麗な骨格を成していた。

 楓の母が耐え切れず涙をこぼし続ける。その様子にその場の全員が奥歯を噛み締める。

 

 まだ成人しない楓が、レーマによって命を奪われた。

 そんな事実を承伏できる者はその場に一人とていなかった。

 天渡会は、許されるべきでは無い存在なのだ、そう誰もが再確認し、怒りを募らせた。

 

 

 火葬が済み、ようやく楓は深い眠りについた。レーマの襲撃で混沌としていたが、それでも無事楓を弔えた事を勇太郎は感謝した。

 

「大淀さん、本当にありがとうございました。ここまで楓を連れてこれたのも、楓をしっかりと見届けてあげられたのも、武装隊のみなさんのおかげです」

「何度も言うが気にしないでほしい、霧島くんは私にとっても浅い仲では無いと言えるからな」

「部下の友人ですか」

「だからいいんだ」

「──良くは無いですね」

 

 男が口を挟んだ。

 大淀と勇太郎が声した方へと向くと、喪服ではないスーツ姿で黒い眼鏡の男が嫌味な笑みを帯びて立っていた。

 その男を見て大淀は彼の名をつぶやく。

 

「黒木調査官」

 

 そう呼ばれた眼鏡の男は、勇太郎に目をやると小さくため息をついた。

 

「彼の為に葬儀を?」

「ええ、部下の友人ですから」

「そんな浅はかな関係性の人間の葬儀に班全体で出て、もしもの事があったらどうするというんです」

「その時はここから出動するのみです」

「喪服で、ですか」

 

 そう問うて鼻で笑う黒木の態度に勇太郎が眉をつり上げる。

 

「人の葬儀にわざわざやって来て、何が言いたいンスか」

「なんだ君は、関係者でもないのに話に割り込まないでもらいたい」

「関係者でもないのはそっちだろ、こっちは楓を弔ってるのに、アンタなんなんだよ」

 

 黒木が眼鏡をかけ直すと、大淀へと詰め寄る。

 

「彼は本当に何者なんです? 無礼にも程があるでしょう」

「非礼はお詫びいたします、しかしここが葬儀の場である事は承知していただきたい。彼とてレーマの被害者なのですから」

 

 そう説明する大淀の瞳は確かな怒りを放っていた。その目に気圧された黒木は舌打ちをするとそのまま(きびす)を返す。

 

「本部でお待ちしています。またお会いしましょう」

(もうお会いしたくないがな)

 

 心の声が漏れない様必死にこらえながら大淀が頭を下げる。

 

「大淀さん……あの人は」

「私達の新しい仲間……といった所だ。彼はそう思っていないだろうがな」

「あんな奴が仲間だなんて……大淀さんも願い下げでしょう」

 

 だとしてもだな、と大淀がため息混じりに返す。

 

「ああいった人間ともやっていかなければならないのが社会だ、覚えとくといい。それに──」

 

 思わせぶりに言葉を続ける大淀を勇太郎は見つめる。と、そこに金剛らもやってくる。

 

「君という新たな仲間も増えた訳だし、しょうがないと考えているのだよ」

「俺が……仲間……?」

「正式に決まっては無いけど、君の意向が決まっているのならその様になるさ」

 

 金剛が微笑みながら告げると、勇太郎は少し驚きつつもユニットDの面々を見てから、自分の手の平へと視線を移す。

 

「俺は、レーマを倒す武装隊になれるって事ですか」

「なれるよ、もう霧島君みたいな犠牲者を出さない為に君の力が必要なんだから」

 

 花恋の言葉にそうか、と勇太郎が首を何度か縦に振る。

 

「ただし言っておくがレーマを倒すと言っても殺す事はできない。俺達の権限は無力化と逮捕だ」

 

 正義から補足されると、首を振っていた勇太郎の動きが止まった。

 

「それもそうか」

 

 思わず漏れた言葉にさだめが反応し一歩踏み出す。

 

「だとしたら俺は……やっぱり武装隊に入れないです。だって──」

 

 さだめの鼓動が早まる。目の前で言葉を紡いでいる勇太郎の震える手に見覚えがあったから。

 

 

「いるんです、殺したいヤツが」

 

 

「!」

 

 勇太郎の言葉に一同が驚愕する。が、一人さだめは勇太郎へと近付き、

 頬を叩いていた。

 

「ふざけないで」

「……!」

 

 急に面識の無い女性からぶたれ、勇太郎は困惑した。だが、それは自らの発言に対する激昂から来るものだと痛感していた。

 

「アンタは……」

 

 勇太郎の反応でようやく自分が彼と面識が無い事に気付いたさだめは慌てながら手を引っ込めて、頭を強く下げた。

 

「きゅ、急にごめんなさい」

「いやいいんすけど……こんなとこで言う事じゃなかったし……えっと」

「武装隊のレーマ、とだけ……」

 

 簡素な自己紹介を終えたさだめは視線を逸らして申し訳なさそうな表情をしてその場から下がる。

 冷静さを取り戻した勇太郎は痛む頬に触れながら自分の発言を思い返す。

 

「……それでも、俺は、俺の意志は変わらない……」

「火島君、ダメだよ、命を奪うのは」

 

 今度は花恋が反論する。

 

「火島君がやろうとしてるのはつまり復讐って事でしょ」

「……そうなる」

「そんな事したって結果は良くなる訳じゃない。むしろ自分をもっと苦しめたりするんだよ」

「どうしてそんな事が分かるんだよ」

 

 悲しげな勇太郎の問いに花恋は思わずさだめの方を見てしまった。

 それがさだめにとって気持ちのいい事ではないと考えた花恋は咄嗟に目をつむった。

 

「さっきの人……もしかして何かあるんすか」

 

 (いぶか)しむ勇太郎に花恋は慌てるが、意を決したさだめが再び勇太郎の前に出る。

 

「私は家族もろとも天渡会に殺され、レーマになり、怒りのまま天渡会の人間を殺しました。家族がいた人もです」

 

 目が据わっているさだめの気迫に勇太郎が息を吞む。

 

「一度血に染まった手は、拭えません」

 

 それでも、と勇太郎が言いかけたところでさだめが彼の襟を掴んだ。

 

「それでも止まらないというのなら私と戦ってください」

「さだめちゃん!」

 

 (いさか)いを治めようと花恋が割って入るが、彼女を押しのけてさだめが勇太郎を睨む。

 

「あなたを人殺しにはさせません、その為なら戦う事もいとわない」

「いいぜ、それだけ言うなら俺を止めてみせろ……だがアンタが負けたら俺を止めるな」

 

 強い視線を交わす2人に、金剛がちょっと待った、と割り込む。

 

「さだめちゃん、火島君、発想が極端すぎるよ。俺達ならレーマを人間に戻す手段がある、だから君の殺したいと言っている相手を正当に法で裁く事だってできる。なにも命を奪うだけが報復じゃない。それが分かるなら戦う必要なんて無いじゃないか」

「いいやアイツは、アイツだけは生かしちゃおけねぇ。俺がこの手で殺す!」

 

 思いの丈を叫びに乗せた勇太郎にさだめは苦虫を噛み潰した様な表情を向ける。

 

「どうしてそこまでして誰かを殺そうと思うんですか」

「アイツは多くの人を殺した、俺も、みんなも、楓も! だから罰を与えなくちゃいけないんだよ」

「罰……」

 

 言い淀むさだめに勇太郎は尚も言葉をけしかける。

 

「大量に人を(あや)めたアイツは……導師は、必ず同じ死をもって罰せられなければならないんだ!」

「でもあなたが殺してしまえば……あなたも相手と同じ人殺しになります」

「……覚悟の上だ」

「絶対にさせません」

 

 さだめが告げると、金剛にある提案をする。

 

「彼の相手は私にさせてください、私が彼に伝えなければならない事だと思うんです」

「……那珂さんと三隈君も待機させた状態なら了承しよう。無茶はしない様に」

 

 金剛の出した条件を聞いたさだめはコンフルエンサーとイートリッジの手配を要求する。

 

「それじゃあ火島君にもついてきてもらおうかな、流石に人の目が無い所で戦ってほしいし」

 

 ため息と共に肩を下げながら金剛が頼むと、勇太郎も黙ってうなずく。

 一同を乗せた車はユニットD本部へ向かい、喪服から着替えた後に地下に造られた広大な空間へと案内される。

 

「ユニットDにこんな所があったなんて……」

 

 感嘆する花恋に金剛が全員に伝わる様声を大きくしながら説明する。

 

「本来は協力するレーマが増えて訓練する際に使用しようと考えていた場所なんだけどね、その力を発揮しても破壊されない様なスペースを確保したくて」

「私とさだめちゃんの特訓の時も結局使わなかったけど」

「それはまぁ色々事情があるから」

 

 説明を終えると金剛がじゃ、と大淀を連れて上階のモニターへと向かう。

 残されたライダー達にはコンフルエンサーが支給され、勇太郎と対峙する。

 

「火島さん、手加減はしません。あなたの殺意を打ち砕いてみせます」

「どんと来い……えーと……」

「カルヴァリア」

 

 さだめは“敵”を見据え、自らの名を告げる。

 

「仮面ライダーカルヴァリア。そう呼んでください」

 

 

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