仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#19 さだめと大人たち

 ユニットD本部、地下駐車場。

 金剛から渡された専用の端末に送信された地図情報を当てにしてバイクでやって来た勇太郎が荷物検査、身体検査をクリアしてようやく施設に入場した。

 

(なんか敵として輸送されてくる時よりも厳重な気がすんなぁ……まぁここの場所を知ってるか知らないかで扱いは変わってくるか)

 

 気疲れした状態で勇太郎は端末にて知らされていた応接室へと歩を進める。

 少し緊張しながらその部屋の前に立った勇太郎は息を深く吸い込み、吐き出してからノックした。

 

「どうぞ」

 

 そこから聞こえた男性の声は聞き覚えがあった。以前より世話になっていた正義であった。

 若干聞き慣れた声を聞いて安心した勇太郎は扉を優しく開ける。

 そこには正義と、大淀が座っていた。彼女の姿を見て面食らう勇太郎だったが、今の時代ならば女性が強い立場を得ていても不思議は無いと考えを改めて挨拶を交わす。

 

「お疲れ様です、本日より正式にユニットD所属となった火島勇太郎です」

「改めてようこそだ火島くん、私はここの指揮官、大淀だ」

 

 椅子から立ち上がった大淀が名乗ると、指揮官とは思ってもいなかった勇太郎が背筋を伸ばして頭を下げる。

 

「レーマを退ける戦士として、よろしく頼む」

 

 柔和な表情の大淀が手を差し伸べる。その意を汲んだ勇太郎も手を伸ばし、握手する。

 

「君には今日から試験段階のシステム開発に協力してもらいたいと考えているのだが、開発主任の藤村くんが今立て込んでいて、今しばらく待機していてほしい」

「……集合時間を今にしなくても良かったかもですね」

 

 思わず意見してしまう勇太郎がいえ、すみません、と謝意を示すが、大淀は首を横に振る。

 

「こちらこそすまない。本来ならこの時間には藤村くんがいるはずだったのだが、急に呼び出し、というか付き合わされる事になってしまってね」

「付き合わされる……?」

「信濃くんの新たな力について、内閣情報調査室の黒木調査官が聴取に入ったんだ。だが、彼が信濃くんにどの様な発言をするか分かったものではないから、藤村くんが同行を求めたんだ。黒木調査官は全く間を置かずに聴取を始めるものだから藤村くんも今日の予定を踏み倒して信濃くんと一緒という訳だ」

 

 金剛の事情を聞いて勇太郎が肩を落とす。

 

「まぁ内調の方も勝手な話ッスね」

「それもそうだな」

 

 正義が勇太郎に対し言葉を重ねると、返す言葉もない大淀は目を閉じる。

 

「君らが不満を持とうが、内閣府からの人間であるゆえ無下(むげ)にはできんのだよ……私も正直気に入らないが」

 

 大淀がそう口漏らすと、首を縦に振って心から同意する勇太郎と正義に微笑む。

 

「今のは内緒にしておいてくれ」

 

──────────────────

 

 ユニットD本部、聴取室。

 

「それで君の新しい力はネルガル、死を司る神……その力を自己解釈して人に死の幻覚を見せる性質として発揮した……という事で間違いはないね?」

「はい、私の認識している範囲では」

「認識している範囲では? 随分と抽象的ですね、この様な解答で藤村主任はご納得なんですか?」

 

 さだめへの聴取が進む中、この通りさだめと金剛の会話に割って入る様に黒木が小言を挟んでくるのだ。

 辟易(へきえき)する金剛だったが、怒りを飲み込んで彼の問いに答える。

 

「納得するしかないと思いますよ。こちらで観測できた事象に関してはレポートを作成済みですし、あと調べる事と言ったら彼女の主観に基づいた認識を探る他ありませんから。彼女の認識している範囲で諸々の状況が起きているならばそれが事実であるという事でしょう」

「曖昧な言い方をしますね、つまりは信濃さんの抽象的な物言いをあなたは認めるんですね?」

「はは、そうですね。そうするしかないじゃないですか」

 

 黒木に笑ってみせる金剛に、彼は眉をつり上げながら眼鏡をかけ直す。

 

「国のあらゆる情報を扱う人間として、適当なデータで済ますというのは控えていただきたいのですよ」

「それは理解しているつもりですよ、しかし前例の見られない事態であるゆえ、さだめちゃんの曖昧とも捉えられる意見が重要である可能性があるんですよ。それとこんな事言ってないで他にも聞きたい事もあるんですけど」

「……」

 

 押し黙った黒木を見て金剛がさだめへと視線を移し聴取を再開する。

 

「君は我々の技術なしでイートリッジを構成し、実用した訳だけれど、あれもネルガルの力の一部なのかい?」

 

 金剛の質問を受けてさだめが目を見開き、泳がせる。あの力がどこから来たものなのか、彼女自体も言葉に詰まりつつ、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。

 

「あれは、ネルガル……神の性質が何か凄まじい力に近付いたからできるようになった、“アプスさん”が言うところのオマケだと」

「……今アプスって言った?」

 

 金剛が目の色を変えて食いつく。エアレーマの件があってからメソポタミア神話を調べていた彼にとってはその名前はタイムリーな物であった。

 

「ネルガルに進化した時、信じてもらえるか分からないんですけど、神の世界に私の魂が行って、そこでアプスと名乗る神様に出会ったんです」

「やはりアプスは神の事だったか……バビロニアの創世神話における神々の父、淡水を司る大神だね」

「そうなんですね、アプスさんは自分が神であるという事と名前くらいしか教えてくれなかったのでそこまで詳しい事は知らないのですが……同一人物かもしれません」

 

 金剛が息を呑むが、これ以上は話が逸れてしまうと己を律して話を続ける。

 

「で、そのアプスが言っていた、君が近付いたっていう凄まじい力について他には何か知らない?」

「その力の名前を教えてくれていた気がするんですが、思い出せなくて……すみません」

「それはまた追々思い出そう、それで神の世界というのはネルガルになった瞬間しか行けない場所だった?」

「分かりません、でもアプスさんは“また会おう”と言っていました。もしかしたらまたあの世界に行ける可能性があるかもしれません」

「また抽象的な──」

 

 口を挟もうとする黒木に手を伸ばして言葉を制止した金剛がさだめを見つめる。

 

「今は抽象的であっても、それがこれからの課題をクリアしていくヒントになるかもしれない。どんなにあやふやな事でも、伝わりにくい事でも、なんでも教えてほしい、さだめちゃん。研究者はそういう仕事だから」

「……ありがとうございます」

 

 さだめがお辞儀をすると、黒木がいやらしく長いため息をついた。

 

「黒木調査官?」

「内調としての聴取はこれで終了とします。これ以上話していても曖昧な情報しか得られないと思いますので。もし他に何か事実が分かりましたらレポートを大淀指揮官に提出してください、必ず」

「……いいんですか?」

「確証の無い情報を出されてもこちらが困るだけなんですよ」

 

 明らかに苛立った様子の黒木がでは、と聴取室を後にする。呆気に取られた金剛はしばらくドアの方を見ていたが、黒木が退室した事をようやく理解し、肩の荷が降りた喜びに浸る様に息を吐いた。

 

「はぁ~~~、あの人マジで疲れるな……こっちは大切な話してるのにいちいち確実性を求めてくるし、そういう段階の情報じゃないって分かってないの頭が悪いんじゃねーの? いや頭は悪くないんだけどな」

「不思議な人、ですよね」

 

 さだめの発言に金剛は思わず笑みをこぼす。

 

「そういう感じに見える?」

「はい、ここにいる人全てと距離を置こうとしている様で、情報収集が仕事ならむしろフレンドリーな方が有利だと思うのですが」

「だよなぁ、あの人なんか昔っからそういうとこ堅苦しくてイマイチ実力を発揮しきれてない様な感じがあるんだよな」

「昔から?」

 

 金剛の言葉に疑問を抱いたさだめが思わず問う。それを突かれた金剛はあ、と呟いてから少し笑いながらかつての話をする。

 

「黒木調査官とは大学時代の同期で、学部も違うんでほとんど会う事は無かったんだけど、たまたまあの人が入ってたゼミを通りがかった事があったんだ。自分が認めらていないって教授と揉めてたな、黒木調査官」

「そんな事が……」

「ま、俺がたまたま見ちゃっただけで、見られていた事を知ったら怒られそうだからあんま言い触らさないでほしいな」

「それはもちろん、口外しません」

「ありがと、それじゃ」

 

 微笑みながら金剛も聴取室をから去ろうとドアを開ける。

 

「俺はまだやる事あるからさだめちゃんはいつも通り過ごしてていいよ」

「了解しました、訓練を継続します……それと」

「?」

「また、勉強教えてもらえますか」

「ああ、もちろん!!」

 

 少年の様に活発な声色で答えてみせた金剛に、さだめは笑みを向ける。

 

──────────────────

 

 訓練室に向かおうとするさだめの端末に電話が入る。相手が指揮官であると確認してから電話に出ると、普段より少し声色が柔らかな指揮官からの指令が寄越された。

 

「信濃くん、検察の客人が君に会いたいそうだ、今から第3応接室に向かってほしい」

「了解しました、少しお待ちください」

「あまり待たせる訳にはいかないが、君のタイミングでいい。君の死刑判決について色々と情報を知りたがっている……といか言ってしまえば君の味方だから安心して話してくれて問題ない」

 

 指揮官の口調からして検察の人間というのは相当信頼のできる人物であると考えたさだめが少し肩の力を抜いてはい、とつぶやいて連絡が終了する。

 

「訓練は後回し……」

 

 

 ユニットD本部、応接室。

 ノックをしてさだめが入室すると、そこには恰幅(かっぷく)のいい中年の男性、そして彼の補佐と思しき女性が座っていた。

 

「や、君が信濃さだめくんだね!」

 

 元気よく自分の名を呼ぶ彼は、笑顔で彼女を迎えると対面に座る様促し補佐の女性に言って何枚かの書類を取り出した。

 

「あの……検察の方が私に話とは」

「率直に話すと、君の再審をしたいんだ」

 

 笑顔から一転し、真剣な表情で告げた男性に、さだめが息を呑んだ。

 

「っと、その前に自己紹介をしとこうか──俺は大淀 米太(べいた)、検事総長をやってるモンだ!」

「大淀……まさか大淀指揮官の」

「お兄ちゃんだわな、妹が世話になってるね。俺の事は米太さんでいいから」

「……検事総長と呼ばせていただきます」

「そうかいそうかい、それはそれでいいや。で、俺の隣にいるのが検事総長秘書官の(あけぼの) さやかくん。俺に聞きづらい事があれば彼女に言って大丈夫」

 

 紹介を受けた女性──曙が無表情のまま軽く礼をし、さだめもそれに応える様に会釈した。

 軽い雰囲気を感じさせる米太にさだめは少し気圧される部分はあったが、彼の言っていた“再審”という言葉が心に残った。

 

「よろしくお願いします、検事総長、秘書官。それで……再審をしたいと先程おっしゃっていましたが……それが可能な目処(めど)が立ったんですか?」

「まぁ実はあまり目処は立ってないんだが……計画をするとしないとでは話は違うだろうし、君の意思を知っておきたかったんだ」

 

 通常、裁判の再審(やり直し)は真犯人の証拠や法的な見落としなど決定的な変化があった際に可能とされるが、現状さだめの罪状に対してそれを覆す程の情報はなく、再審の請求が通る見込みは薄かった。

 それでも、もしさだめが再審してほしいと願うならば、彼らは新たな裁判の機会を設けられる様に尽力してくれるというのだ。

 

 その申し出を受けてさだめはこれまでの自分の事を思い出す。

 死刑となるに値すると思っていた自己否定的な感情を花恋や、出会ってきた人々が変えてくれた。

 死ぬだけだと思っていたさだめの人生に仮面ライダーとしてみんなを守る意味が生まれた。

 例え罪を持っていても償う事ができる、償えばまたちゃんとした人として生きられる事を実感した。

 いつか花恋と肩を並べられる様な人間になりたいという目標ができた。

 

 だから、さだめは、ここで死ぬ訳にはいかなかった。

 

「再審したいです……私が死刑にならない様に、もう一度裁判をしてほしいです」

「ほー、そうか。君はこれまで死刑を受け入れていたから、そう言ってくれるとは思わなかった」

 

 驚いた様子の米太だったが、すぐに笑顔を見せ、さだめを見つめる。

 

「私としても君は生きていいと思っている、再審したいと言ってくれて嬉しいよ」

「以前までは私は死刑でも構わないと思っていましたが……今は……生きたい理由ができたんです」

 

 さだめの決心を聞いて、米太はよし、と膝を叩く。

 

「目処は立ってないと言ったが、再審に繋がるか分からないだけでやろうと考えていた事は決めていたんだ」

「私が殺害した天渡会構成員の身元と、当時裁判を行った裁判官と検事の調査ですよね」

「えっ、そこまで分かってたのか……」

 

 さだめが伝えた2つのやる事は米太の計画していた行動と完全に一致しており、見透かされていた様で彼は驚く。がそれと同時にさだめですら簡単に予想がつく部分に疑念が残っているほど、執り行われた裁判は不可解な要素が多かったという事を痛感させられた。

 

「それと一度棄却されたし、君自身も否定していた事だが、心神喪失状態にあったんじゃないか? 本当は」

「いいえ、私の意思です。私が殺してやると願い、考え、行動しました」

「それでもその突発的な衝動は心神喪失状態と言えるよ。だって今、平時の状態で人を殺したいと思う?」

「……いいえ」

「なら、再審──やりようあるかも知れんな」

 

 そう言って不敵に笑う米太に、さだめは大淀の面影を感じ取った。

 

 

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