それは緑の葉が風に揺れる五月晴れの日だった。
桜の花びらが散るのと時を同じくして、ある少女に人生の散華が告げられた。
「被告人を死刑に処する」
その一言が、少女──
18歳という若さで極刑を言い渡されたその少女に市井はざわつき、可哀想だと抗議する者もいたが、その報が風化するのも早かった。
人々にとっては、もう“どうでもいい”話だったのだ。
来年の夏の終わり、世界が終わる。
その終末論がゆっくりと世界を覆い始めていたのだから。
──────────────────
1年後。桜が満開になり、春の訪れを感じさせる季節。
東京都千代田区丸の内、東京駅。
「ここが……こここそが……
大きなスーツケースを引きずりながら歩みを速める少女が興奮しつつ東京駅の駅舎から出て来る。
彩度の高いピンクのスカジャンを着た、スカジャンと同じピンクの髪をまっすぐ下ろした少女はビル群に囲まれた広場で背を伸ばす。
「今年から憧れの東京でキャンパスライフ! かわいい友達とか出来るかな~? なんか良い出会いとかもあったりして……くふふー!」
1人で浮足立っている花恋に、周囲の人間が一瞬だけ視線を向けて去っていく。
変な目で見られていると気付いた彼女は顔を紅潮させ恥ずかしがる。
「と……とにかくお家を“見つける”までどっか遊びに行こうカナ……」
頬をかきながら花恋が大胆に割れた携帯で近くの行楽地を探す。
しばらく地図アプリを眺めていると、付近にいわゆるオタクの聖地、秋葉原がある事を知る。
「アキバ……ウチの方ではアニメほとんどやってなかったけど知ってるのあるかな……まぁいっか、暇だし行ってみよ」
東京駅の写真を撮ってから携帯をしまうと、再び駅に戻り慣れない電車に乗り込んで秋葉原駅に向かう。
(東京ってホントに電車すぐ来るよね……人もたくさん乗ってるし、私の知ってる電車とは全然違う乗り物ってカンジ)
窓から見える風景を見つめながら、花恋は胸を高鳴らせる。
《次は秋葉原、秋葉原。お出口は左側です。総武線各駅停車、地下鉄日比谷線、つくばエクスプレス線はお乗り換えです》
「おっ次か」
電車が停止し、扉が開いて出ていく人々に巻き込まれる様に降車する。
有名なゲームの広告が大量に張り付けられた構内を迷いながら彼女は改札を出て秋葉原の地に立つ。
「わっ……! なんか凄い……エロい娘っ子に囲まれた街だな」
身も蓋も無い感想を呟いて花恋は秋葉原の街を練り歩く。
大通りで配っているコンセプトカフェのチラシを貰い続けては様々な店がある事に驚く。
幸い平日であるからか観光客は比較的少なく、多くの店が視界に入る。どんな店があるのかと期待を膨らませる花恋だったが、カプセルトイが大量に立ち並ぶ店であるマスコットが目に留まった。
「『死神さんとゾンビちゃん』──」
特段それに対して可愛いだとか面白いといった感想は浮かばなかった。だが、なんだか今の自分を見ている気がして親近感が湧いたのだ。死に追われているのに、死ねない自分。そんな状況をマスコットに重ね合わせてしまう。
試しに2度回してみると、ちょうどアソートにあった死神とゾンビのスイングが手に入った。
「やっぱ可愛いかも」
花恋が笑うと、ショルダーバッグにスイングをしまうと、他にどんな店があるのか散策しに向かう。
と、大通りの広い車道をある車が走行してくる。
白い軽トラックに『
「あれって……こんな所にもいるんだ」
先程まで楽しげにしていた花恋の表情が一変、冷淡な物になり、静かにその車を見つめていた。
「あんなのさえ無ければ──」
思わず口漏らす花恋だったが、我に返って秋葉原行楽に戻ろうとわざとらしく目を逸らしてその場から離れようとする。だが、その場にいた人々は恐れおののいて一目散に逃げていく。
阿鼻叫喚の光景を見て、花恋は天渡会と呼ばれる組織の車が何を意味しているのかを理解した。
(そうか、あいつら──都会を中心にテロをしてるって)
「始めるぞ、王の御言葉の
ローブの男がそう言うと、全身を力ませて体を発光させる。
と、彼の肉体に粒子が纏わりつき、その姿を異形の怪物へと変貌させる。
バッタの死骸と萎びた人間が融合した様なグロテスクな風貌の怪人が現れ、逃げ惑う人々へと歩みを始める。
──『レーマ』。そう呼ばれるその怪人は、新興宗教、天渡会が生み出したとされる異形。人を越え、神の世界へ至る事を教義とする彼らが望んだ、人を超越した生命体である。
1年半程前から殺人を主としたテロ活動を始めた彼らに人々は終末論との関係性を感じ戦慄していた。
バッタの姿のレーマを前に、花恋も逃げようとするが、足が動かない。
「……逃げなきゃ、なのに……」
スーツケースを押してその場から離れようとしている花恋とバッタのレーマの目が合う。
「まずはあなたから王の選別を受けてもらおう」
「ッ……!」
「怖がらないで、痛みは一瞬だ」
バッタのレーマがそう言うが──花恋には恐怖など無かった。
今足が動かないのは恐れに足をすくませている訳では無い。
目の前にいるバケモノを許せないから、力さえあれば今すぐひねり潰してやりたいと考えているからだった。
「怯んで動けなくてなっているのか、好都合だ」
「……!」
バッタのレーマが花恋の首を掴む。そのまま握り潰してしまう算段らしい。
(このままじゃ私がひねり潰される……!)
死を前にして、花恋の脳裏に優しかった両親の顔が浮かぶ。
自分を愛してくれた父母。幸せをくれた大切な家族。
それを奪った目の前の敵が、天渡会が憎い。
だが、花恋がそう思った所で全てが手遅れだった。
「……まずは1人か……我々の信道の為とは言え、人殺しは慣れないな。だが、許せよ」
無惨な死を遂げた花恋の死体を
まるで作業の様に、何人も、彼らの悲鳴が聞こえないかの様に、残酷に、その手で殺し続ける。
騒ぎを聞いて付近の警察署から駆け付けた警官を含めた10人程を手にかけた所で、サイレンの音が近付いて来ている事にレーマが気付く。
警察の応援が到着したのだと察知しつつも、臆さず無差別殺人を続行する。
「今更警察がなんだ、我々は王の言葉だ……誰にも止められない」
サイレンを鳴らしていた警察仕様のバイクとトラックが現場に到着すると、少女がヘルメットを外しながら降りて来た。すると長い水色のロングヘアが露わになり、たなびく。
インカムに絡む髪の毛を払うと、少女が近くに倒れている花恋を見て、レーマを睨む。
「警察……? いや違う──奴か!」
「コードネーム・ホッパーレーマと対敵、これより撃破に移ります」
《了解、爆破装置作動良好、これより君の自由行動を許可するね~》
インカムの奥から聞こえる男性の指示を受けると、バイク後部に取り付けられていたアタッシュケースに緑のランプが灯り、起動音を発する。
(アイツら……噂の“レーマ狩り”か!)
ホッパーレーマと称された怪人が危機を感じて少女に飛びかかるが、トラックの中から飛び出して来た完全防備の警察官らによる一斉発砲を受ける。
「くっ! 豆鉄砲が……!」
と、警察官に気を取られていた内に少女がアタッシュケース内の装置を腰に取り付けていた。
《Confluencer Ready》
「やらせるかっ!」
ホッパーレーマが少女を狙うが、警官らの発砲が続き、歩みを止められる。
《DEATH》
《STEAM》
少女が2つの小型端末を起動させ、それぞれの音声を鳴らすと、腰のベルト型装置、『コンフルエンサー』の左右スロットに装填する。
それと同時にテクノ調の音声が鳴り響く。
「変身」
その言葉と共に少女がベルト中央のダイヤルを回すと、内部で装填された端末が読み込まれ、ベルトから露出する小型端末の液晶に“DEATH”と“STEAM”の表示が現れた。
そしてベルトの動作が進行すると粒子を発生させ、少女の全身を包んでその姿をヒーロー然としたスーツに変えてみせた。
《Property Compile……DEATH・STEAM》
光と共に出現した戦士の姿に、ホッパーレーマが拳を強く握る。
「それが戦闘形態か……レーマ狩りッ!!」
「『仮面ライダーカルヴァリア』……交戦開始します」
白と灰の装甲を纏った黒い瞳の戦士、仮面ライダーカルヴァリア──彼女が驚異的な速度で移動すると、ホッパーレーマと距離を詰め、腹部に拳に打ち付ける。
「ぐぉッ!?」
予想外のダメージを受けたホッパーレーマが膝をつくと、彼の首をカルヴァリアが掴む。
「くっ……」
「弱い」
ホッパーレーマを振り回して放り投げると、大通りの街路樹に激突してへし折ってしまう。
「人を散々殺した気分はどうですか、犯罪者さん」
「なんだと……」
カルヴァリアがホッパーレーマを足蹴にして見下ろす。
《もういいよ、さだめちゃん。仕留めて》
「……了解」
通信を受け、カルヴァリアがベルト右横のスイッチを押下する。
《Arms Transfer》
《Mortalzapper》
その音声と共に彼女の手元に大きな鎌、『モータルザッパー』が出現し、カルヴァリアが大きく振り上げながら構える。
まるで殺意を具現化した様な形状の武装にホッパーレーマは逃亡を決意する。
「逃げないで」
《JET》
カルヴァリアがベルト左側のホルダーから先程変身に使ったものと同様の端末を起動させ、モータルザッパーに端末を挿入する。
《Set Import……JET》
端末から力を得たモータルザッパーは浮遊し始め、それを握るカルヴァリアごと宙を舞う。
一方のホッパーレーマは自慢の脚力で跳躍、その場から退避する。が、飛行を開始したモータルザッパーは高速でホッパーレーマとの距離を詰め、彼の背部に一閃を食らわせる。
大きな裂傷を負ったホッパーレーマは力が抜け、ビルに激突しながら歩道に落下する。
「くっ……どうして我らの、王の言葉を無視する! 王の意志が、人を超越させるのだぞ!?」
「……そういう思い込みがパパを、ママを、めぐるを、シバを……殺したんだ」
モータルザッパーの柄でホッパーレーマの胸を突くと、カルヴァリアはベルトのダイヤルを回す。
《Decisive Boost……DEATH・STEAM》
ベルトから発せられるその音声がカルヴァリアの力を高めている事を告げる。
現に彼女から黒い粒子が立ち込め、先程まで重たそうに持ち上げていたモータルザッパーを軽々しく振り上げている。
「あなたみたいな人が、死ねば──」
モータルザッパーが振り下ろされ、ホッパーレーマの胴が大きく裂かれる。
そのダメージがレーマの体を構成する粒子を膨張させて、赤い大爆発を起こす。
周辺に爆発として飛び散った粒子が霧散すると、カルヴァリアがホルダーから透明な端末を取り出す。
その中に赤い粒子が吸収され、“Hopper”とデザインされた物にラベリングされる。
「『イートリッジ』回収完了、ホッパーレーマに覚醒していた男は現在拘束中……戦闘を終了します」
《オーケー、お疲れ様!》
通信を終え、カルヴァリアが変身を解除し元の少女の姿を見せる。
「助けられなかった人……またこんなに」
少女が呟くと、辺りに散らばる人だったものを見て手を合わせる。
その様子を見て警官隊の1人が彼女に話しかける。
「無理するな、信濃。事後処理はこっちでやるから君は戻れ」
「……ありがとうございます」
「ちょっと待って!」
少女がその場から立ち去ろうとすると、辺りで横たわっていたはずの花恋が彼女の肩を掴み、頬を染めながら話しかけて来たのだ。
「──」
明らかに死亡していたであろう少女が話しかけて来ている。その状況に少女は目を丸くする。
「あなたがレーマを倒したの!? スゴイ! カッコいい!! それと、ありがとう──」
花恋が興奮気味に言葉を投げかけていると、付近の警官隊に銃を向けられていた。
「あゃ?」
何も事情を理解していない花恋が辺りを見回していると、少女が花恋を見つめ、インカムに触れる。
《先程まで死亡を確認していた被害者が蘇生している、レーマ因子の活性も確認……彼女は──》
「はい」
「……?」
鋭い視線を向ける少女が、花恋に告げる。
「あなたは、