「犯行当時、信濃くんは心神喪失状態だった。前回裁判における君の主張は家族が亡くなった事による錯乱状態だった為正確性に欠け、責任能力を問える状況に無かった──として再審を法務大臣と取り合う事にする」
米太の説明を受けさだめが少し考えたあとうなずいた。
「君的には少し引っかかる主張になるだろうが、そうでも言わんと再審は叶わんのよ」
自分が殺したという自認はあるが、確かに健康な精神状態で行ったものでは無かった。米太の言っている心神喪失状態というのは間違いではなく、明らかな事実であるとさだめは自分に言い聞かせる。
「分かりました。ただ今更な話ですが、そうした計画は弁護士も参加すべきだと考えます」
「その通りだ、実はもう手配してあるんだわ。今日は俺達の方が来るのが早かったってだけでね」
「それを聞けて安心しました。検察側からのアプローチですと何か問題が起こるのでは無いかと勘ぐってしまって」
「確かに、検察の不都合を検察側が暴くってのは結構難しいかも知れない。だけど俺、検事総長だから」
そういって笑い飛ばす米太にさだめも笑みをこぼす。
「ともかく、今日は顔合わせ──にしては濃い話をしてしまったが、そのつもりだったのでそろそろ帰るよ」
「大淀指揮官にはお会いになられますか?」
「ああ、久しぶりに妹の顔が見たいかんな!」
そう言ってもらえてさだめは安堵する。家族の絆を大切にできる事は素晴らしい事だと考えているからだ。そして米太の“妹”という言葉を聞いて自分にも妹がいた事を思い出す。
3歳下で天真爛漫な、可愛らしい妹、めぐる。今までは彼女を喪った事に耐え切れず思い出さない様にしていたが、生きると決めた時、ふと家族の事を覚えていようと思ったのだ。その理由をさだめは心の中で言葉にして改める。
(みんなの事、忘れたりなんかしない。全てを受け止めて、私が生きてみんなの生きた証を残していく)
「それじゃあ信濃くん、こちらも必ず結果に繋げてみせるから、生きていこう」
「信濃さん、応援しています」
米太に続いて最後に曙が告げるとさだめは彼女の開口に少し驚きながらもお辞儀する。応接間から2人がいなくなって、ようやく一息ついたさだめは訓練しようとしていた事を思い出し、立ち上がる。
「……」
1人で訓練するのも物足りないと感じたさだめが正義に連絡する。かつて花恋から言われた他者とのコミュニケーション。それも大切だ。
“三隈さん、もし時間があれば訓練をご一緒していただきたいです”
端末でそう伝えると正義からすぐに返信が送られてきた。
“それなら研究室に来い。見てもらいたいものがある”
そのメッセージにさだめは疑問を抱きながらもその謎を解明する為研究室へと向かう事にした。
「失礼します、お待たせしました三隈さん」
「よく来た信濃、これからそこで実験が行われる。信濃にも立ち会ってもらいたくてな」
正義がそこまで言う実験とはなんなのか、興味が湧いたさだめは正義が視線で示すガラスの向こうを見る。
そこにはコンフルエンサーによく似たベルトを巻いた勇太郎が立っていた。
「……火島さん?」
「やぁさだめちゃん、火島君のイートリッジを作るのと同時に新型のライドシステムも試してもらおうと思ってさ」
「それは興味深いですが、なぜ私は呼ばれたんでしょうか」
金剛の説明からふと出たさだめの問いに正義が苦笑いしながら答える。
「訓練の邪魔して悪かったよ、ユニットDの新たな戦力を現場の君が知っておくのは有益だろ?」
「邪魔だとは思っていませんでした、むしろ誘ってくれてありがとうございます……火島さんの新しい力、拝見させていただきます」
研究室からガラスを隔てた実験室にて、勇太郎が目の前にある機械に手を触れる。すると手からレーマ因子が抽出され、機械に蓄えられていく。
蓄積されたレーマ因子は機械内部のブランクイートリッジに流し込まれ、あらかじめ構築されていたデザイン通りに変換されていく。
機械の動作が完了し、完成したバーンイートリッジが機械から排出される。それを受け取った勇太郎はイートリッジをまじまじと見つめる。
「イートリッジってああやって作るんですか」
「さだめちゃんと三隈君の時はもっと別の機械で手術みたいに取り出してたけど、那珂さんの頃からこういう風に抽出が可能になったんだよ、もちろん僕の発明だけどね。カタルシスでレーマ因子を取り除くのと似た様な要領でレーマ因子を取り出してイートリッジに流し込むってのができる様になった訳だ」
感嘆するさだめに金剛がうなずきつつ、勇太郎へ次の指示を送る。
「火島君、イートリッジが完成したなら『コンフルエンサー・アライン』……そのベルトに装填してくれ」
「ウス」
金剛に言われるまま勇太郎がスロットが片側にしか無いコンフルエンサーの様な見た目のベルト──コンフルエンサー・アラインに装填する。と、
「なんかドキドキしますねこの音楽」
「その音楽が戦いの緊張感を刺激しつつストレスをやわらげているんだってね、そっちの分野はそんな詳しい訳じゃないけど」
「それでも効果は出てる様に感じます……それで次はどうすれば」
勇太郎から指示を仰がれ、そうそう、と金剛が説明を続ける。
「『
「分かりました……」
それを聞いた勇太郎が息を大きく吸って認証コードを叫びダイヤルを回転させる。
「廻纏!!」
《Alone Punisher……Burn──Examride》
その音声と共に勇太郎の体に灰色の鎧が装着され、戦士の姿へと変化する。
機械的な意匠を持ったシンプルな装甲には、バーンをイメージとして取り込んだ痕跡は全くなく、言うなればテスト用に開発されたアーマーをそのまま纏っている様だった。
「藤村さん、まさかアレで完成じゃないですよね、今までのセンスからして」
「ああ、三隈君。これからバーンレーマをモチーフとした新たな装甲を完成させるつもりだ。デザインは完成してるから開発の完了を待つのみだね」
「デザインって、仮面ライダーの姿は藤村さんが作ってたんですか」
さだめの問いに金剛はさも当然であるかの様にうん、と軽くうなずいた。
「あの……あの変身音も……」
「それも私だ」
おどけて言ってみせる金剛にさだめと正義が目を合わせて硬直する。この人の才能は本当に分野を選ばないのだろう。それを痛感させられ2人はただ呆然とするしかなかった。
「火島君、どうだい?」
「……うん、馴染む感じがします! 仮面ライダーってこんな感じなんですね」
「あぁ実はそれ仮面ライダーじゃないんだ」
金剛の言葉にその場の一同が驚きながら彼を見る。
「仮面ライダーの技術を元にした試験型。レーマの性質を複合して運用する機能が無い為に仮面ライダーの定義から外しているんだ……イートリッジとは別の形で装着者の持つレーマの性質を保持すればコンフルエンサー・アラインでも仮面ライダーと遜色ない稼働が可能だと考えているんだけど、その機能を付ける時間も予算もないんだよね」
「なるほど……要はレーマの力を1つしか使えないコイツは仮面ライダーじゃないって事ですよね? なんて呼べばいいんですかー?」
装甲を纏ったままの勇太郎が質問すると、金剛が少しうなずいてからその名を告げる。
「『テルティウス』──それがその戦士の名前だ」
「じゃあ俺のはさしずめ“テルティウスバーン”ってトコっすね」
勇太郎が名前を付け足すと金剛が確かに、と微笑みながらうなずく。
「これでレーマを
「そうだね、バーンレーマよりも出力を安定させて、運動能力も向上させてある。より戦いやすくなっているよ」
廻纏を解除した勇太郎が金剛へ笑顔を向ける。
「ありがとうございます!」
「礼には及ばないよ」
──────────────────
19時半を過ぎた頃、花恋が大学から帰宅した。
「ただいま、さだめちゃん」
早速自室にやって来た花恋は荷物を置きながらさだめへと笑みをこぼす。
「ご機嫌ね、花恋さん」
「さだめちゃんが嬉しそうな顔してるからだよ」
「そう……ですか?」
自分ではそんなつもりはなかったのだが、花恋に言われて彼女の持ってきた三面鏡を見る。
笑顔と言うには口角は上がっておらず花恋の言葉に疑問を覚えるが、顔色はいつもより良い様な気がした。
「嬉しそうな顔に、見えるの?」
「うん、なんか一緒に過ごしてたら分かる様になった……まぁそんな気がしただけだけど!」
明後日の方向を見ながら言い放つ花恋に、彼女の言葉は信用していいのか、とさだめは
「それより! さだめちゃん何かいい事あったんでしょ!?」
「まぁ……自分の状況に少し進展があったと言うか」
「もっかい裁判ができたり?」
「そこまでは分からないけどそうできる様に動いてくださる……仲間ができた、のかな」
それを聞いて花恋がおお~、と感嘆の声を漏らす。
「ただそれが期待通りに行くかはまだ分からないから、そんなに感動されても……」
「あ、まぁそうだよねえへへ」
頭をかいて苦笑いする花恋だったが、さだめは彼女がいたからこそ生きたいと願い、新しい道を切り拓く事ができたのだ。
だからこそ、彼女に感謝を述べる。
「花恋さん、ありがとう。あなたがいるから、私は生きたいと思えた。自分の運命を変えてみたいと初めて思えたの」
「……」
さだめからの感謝に花恋は喜ぶかと思われたが、彼女は呆気に取られているだけであった。
「花恋さん? もしかして傷付ける様な事を言ってしまった……?」
「ううん、ううん違うよ! そうじゃなくって、えぇと……なんか、こう、言葉が見つからなくて」
「……花恋さんならもっと素直に嬉しがるものかと思っていたのだけれど……」
「私も、さだめちゃんに感謝してるから。それを言葉にするのって、難しいなって思っちゃって」
照れ臭そうに笑う花恋だったが、その表情がじんわりと曇っていく。
「花恋さん?」
「ん、いや、なんでもないよ! 私みたいなフツーの女の子がさだめちゃんみたいなスーパー美少女と一緒にいられるなんてとんでもない奇跡なんじゃないかって! アハハ」
いつもの活発な笑顔を取り戻し、さだめは安堵する。
「そうだ、さだめちゃん少し提案があるんだけどサ」
「どうしたの」
「そのぉ……死神さんとゾンビちゃん、交換しない?」
「やっぱり死神さんの方が好きだった?」
そうじゃなくて、と花恋が肩を落とす。
「さだめちゃんの持ち物をもらって、ずっと近くに感じたいって……いや何言ってんだ私、キモチワルイな!」
花恋は自身の不可思議な言動を戒める為に自分の頬を平手打ちし始めた。さだめが制止しながら理由を問う。
「花恋さん、それはどうして……」
「いやその……さだめちゃんは生きたいと思えたんだよね?」
「うん」
「だから、これからの未来、きっとさだめちゃんはさだめちゃんだけの自由を手に入れられると思う。その時、私達は一緒にいられなくなるんじゃないかって思って……そしたら、寂しくて」
花恋が目を泳がせながら呟くと、さだめも自分が自由になった時の事を考える。
さだめが想像した自由な未来には、花恋もいた。いなければならないと考えた。
「私達は一緒にいる、これから何があっても」
「さだめちゃん……」
「持ってていいよ、死神さん。だからゾンビちゃんをちょうだい」
「えっいいの?」
自分から提案しておきながらわざわざ聞いてしまう花恋にさだめは微笑する。
「私達はずっと一緒。その約束の為に、交換しましょう……いつでもお互いに返せる様に持っておくという事で」
そう言ってさだめが死神さんのスイングを花恋へ差し出す。それを受けて花恋もゾンビちゃんのスイングをさだめに渡す。
「これで私も花恋さんを忘れない」
「さだめちゃんだと思って、ずっと持ってるね」
何の事ない持ち物交換であったが、2人にとってはそれがとても神聖で、重要な事の様な気がしていた。
「花恋さんがゾンビちゃんを似てると言った事に理由はあるの?」
「……雰囲気、かなぁ~」
「本当ですか?」
花恋の笑みに裏を感じたさだめが問うと、彼女は少し目を細めて渋い顔を見せると、また笑ってみせた。
「内緒、って事にしといて。いつか話したいって思ったら話すから」
「私は花恋さんの事をもっと知りたいと思っている。それは忘れないで」
じっと自分を見つめるさだめの瞳に花恋は吸い込まれそう、と感想を抱くと笑みと共に目を閉じて視線を逸らした。
「さだめちゃんには敵わないな、なんでも話しちゃいそう。でも、こんな話をしても……今、私が、辛いから」
「……分かりました、いつか、あなたの気の向いた時に」
ありがとう、と呟く花恋にさだめも